Interview:CNET Japan (November 2018)

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Interview

 同日には、少人数のグループインタビューという形で、荒木氏に話を聞く機会を得た。ここからは、同氏への一問一答の内容を“たっぷり!”お届けする。

——漫画家を本気で目指すきっかけを与えてくれた、ゆでたまご先生の「キン肉マン」に登場するさまざまな超人は、ジョジョのキャラにも影響を与えていますか。また、同い年ということで、ライバルとして意識されていますか。

 そうですね。バトルの作り方とか……そういう世界観ですよね。キャラクターがたくさん出てきて、読者にそれぞれのファンが付いて。(キン肉マンは)リングの上ではありますけど、戦っていく構図とか。あと、(ゆでたまご氏は)同世代ということで、すごく目標というか励みになっている。それって漫画家として幸運だなって。目標がないまま漫画を描いていないという意味で、幸せなことだと思います。


——「ジョジョの奇妙な冒険」が世の中に浸透したなと感じることはありますか。

 少年ジャンプで描いていた頃は理解されていないかなっていう、ちょっと孤独感みたいなものがあって、それでも頑張って描こうと思ってましたけど。それから時間が経って、例えばお医者さんで胃カメラとかやられながら、「先生のファンです」とか言われると、「ああ、胃を見られながらファンなんだぁ」って思ったりするのが嬉しいですね(笑)。そういう時は、浸透してるのかなって思いますね。

——ジョジョのキャラクターはそのファッションも魅力の1つですが、衣装を描く上で参考にしているものはありますか。

 いろんなところにデザインがあるので、それを持ってきたいなって思います。特定のアーティストというのはないですけど、男性女性区別なくとり入れているというか、男だけど花柄にしたりとか、そういうのが楽しいので。あと、機械の一部分だけデザインがいいなって思ったりすると、(キャラクターの衣装などに)描いてみたりしますね。

——「美意識」について、荒木先生が刺激を受けるものは何でしょうか。

 音楽ですね。音楽って時代があるじゃないですか。70年代だなとか、今だなとか、病んでるなとか、森の中で聴いたら良いなとか。あとダンスの新しいビートの形とか。そういうものは刺激になりますよね。

——スタンド名にも数多くのバンド名や曲名が登場しますが、荒木先生が特に好きなアーティストをあえて挙げるとするなら……?

 そこいきますか(笑)。ほとんど好きだから描いているんですけど……例えばキング・クリムゾンとか好きですし、ピストルズもいいですよね。

——ジョジョに登場する数多くのスタンドのヴィジュアルやネーミング、能力はどのような順番で決めているのでしょう。

 スタンドによって、その時々なんですよ。前回はバトルシーンが多かったから、今回の動きはちょっと遅めでジワジワくるやつ。感覚的にいうと“鉛が溶ける”ようなイメージとか。そういうふうに決めていくので、順番はいろいろです。あと、それにあわせたネーミングを引っ張ってきたりとか。

——スタンドによって、当初イメージされた展開から後々変化することもありますか。

 それはしょっちゅうというか、それが全てかもしれないですね。(物語の展開は)実は計画していなくて、こうなるだろうなっていう最後だけ決めておいて、あとは流れですね。だから、4部の吉良吉影のキラークイーンのときは、強すぎて……ちょっと主人公が勝てるのかなって思いましたね(笑)。本当にこのままだと連載自体が非常にマズいっていうか、将棋をしていて詰まれている感じがすごくあって、自分で追い込んでしまったところがありました。

——荒木先生は、紙や手描きにこだわりを持たれていると思いますが、改めてその想いを聞かせてください。また、近年はデジタルツールを使った漫画も増えていますが、こちらについてはどう思いますか。

まず、絵って何を描いてもいいと思うんですよね。すごく自由で。よく、ペン線は何とか、ペンの先にGペンなんだとか、カブラペンだとか、いろいろあるんですけど、僕はその作家の好きな線が出れば、デジタルだろうがただの鉛筆で描こうが、いいと思うんですよ。

 その中で僕は手で描いているんですが、色を塗ったときにね……例えば料理をしているときに「この味なんだろう」っていう、驚きがあったりするじゃないですか。あれが絵の中にあるんですよ。手で描いてるとね、「おお~!」って思う時があって、あれが好きなんですよ。その連続というのが手描きの魅力で、いまのところ僕は、あまり(フォーマットが)決められているデジタルデータでそれを味わうと、ちょっと楽しみがなくなってしまうので使っていないんだと思います。

——手描きならではの感動が得られる瞬間について、もう少し詳しく聞かせてください。

(大阪展のキービジュアルであるディオのイラストの背景を指差しながら)例えばここで、黄色やオレンジを組み合わせようって頭の中では思ってるんですけど、実はここにちょっと緑とかが入ってるんですよ。そうするとね、「あ、何かいいなぁ」というか。あとこの朱色(しゅいろ)は、歴史を感じる朱色なんですよね。何だか、平安時代の神社にあるような色っていうんですか(笑)。

 そういうちょっと神がかった絵になった時が好きというか、それは予想ができない。塗ってみて「ああ!」ってくるものなんですよ。料理で「もう少しオリーブオイルを足しておこうかな」みたいな。塩いくか、レモン汁いくかみたいなそういう世界ですよね。絶妙な、二度と作れないものがあるんですよね。

——ちなみに荒木先生は、過去にデジタルツールを使われたことはありますか。

 そうですね。ただ、下手なせいか時間がすごくかかるんですよね。手で描いたほうが速いというか。でも、自分はこれがダメとかそういうことを言うつもりはなくて。何年か前に漫画術(2015年に発行された「荒木飛呂彦の漫画術」)という本を書いたことがあるんですけど、そこにも何ペンを使えとかは書かなかったんですよ。漫画はこう描くんだってことは。それは何をしようが、その作家先生が思うことだし、絵も上手いとか下手っていうのは、何を基準に言ってるんだろうなというのもあるし。その先生の思い入れがあればいいんです。だから、デジタルとかコンピューターはアイテムですね。ペンと同じだと思ってます。

——荒木先生は作品内で多彩な色使いをされていますが、色同士が喧嘩してしまうことはあるのでしょうか。

 あ~、そこを何とかするんですよね、ギリギリのところで喧嘩しないように。で、もし喧嘩したら、ちょっと塗り直したりもすると思います。何か気持ち悪いなぁとか、あとダサさが出てきたりとか。そうすると変えたりしますね。

——2012年頃から、ジョジョのキービジュアルに「承太郎×富士山」の組み合わせが増えています(雑誌「JOJOmenon」の表紙や、2012年、2018年の原画展のキービジュアルなど)が、その理由を教えてください。

 2012年に絵画展をやらせていただくことになった時に、日本をテーマにキービジュアルを描くことになりました(ジョジョのキャラクターたちと、日本を感じられる風景を組み合わせた8枚のカラー原画を描き下ろした「ジョジョ日本八景」)。それで、富士山を当然入れるってなった時に、承太郎に合うというか、イメージが富士山と承太郎で気に入ったというか。何て言うんだろう……日本最高峰と最強のパワーっていうんですかね。それで何枚か連作してるんだと思います。何か頼まれると、あの組み合わせがいいなって。それとは別に、桜とジョルノっていう連作もあるんですけどね。

——以前、先生は富士山について「普遍的なもの」と表現されていましたね。

 そうですね。絵画の世界でも富士山というのはありがたいものという存在でもありますし、気に入っているんです、あのモチーフが。

——今回の原画展のために描き下ろした、2メートルの大型原画を12枚並べた新作「裏切り者は常にいる」の製作期間や、使用した画材などについて教えてください。

 製作期間はギュッとしたら1カ月ちょっと。ただ下書きしたり、(現在連載中の)ジョジョリオンの連載に戻ったりしながら、その合間に描きました。制作場所は自分の仕事場と、(サイズが)大きいので集英社の秘密の倉庫みたいなところで。画材は、ケント紙を貼ってもらったのかな。漫画用の原稿用紙にもいろいろ種類があって、何種類か大型にできる紙があって、そこから選びました。絵の具は「リキテックス」というものと、普通のカラーインクですね。

——大型原画の制作で最も苦労したことは何でしょう。

 やっぱり、地球に重力があるんだなってことがすごく分かって。というのは、絵の具が垂れたり、水たまりができたりするんですよ。(キャンバスのサイズが)小さいとできないんですけど、どんどん寄ってくるっていうんですかね、乾く前に。そういう、重力がこの地球にあるっていうところが、大型の圧倒的なところですね。あと、画材屋さんの絵の具を全部買っても(量が)足りないんですよ。

——大型原画は荒木先生にとってもチャレンジだったと思いますが、次に挑戦してみたいことはありますか。

 いや~、もしかしたらまた大型原画を描かなきゃ許されないかもしれないですね(笑)。でも、彫刻とかにはいかないと思います。やっぱり漫画家なので、あくまでも漫画で。これを発展させていけたらいいですよね。

——もし、世界中のどこにでも絵を描いていいとしたら、どこに描きたいですか。

 やっぱり紙がいいですね。壁とかはあまり好きじゃないんです。やはり、紙とかキャンバスみたいなところがいいです。

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