Hitchcock-Truffaut (December 2016)

Published December 10, 2016
Missing translation

Commentary from Hirohiko Araki discussing and praising Alfred Hitchcock. It was included in the pamphlet sold at theaters for the Japanese release of the documentary Hitchcock/Truffaut.[1]

Interview

『ヒッチコック/トリュフォー』。このドキュメンタリー映画が公開されることを聞き、とても嬉しく、そして驚きました。この映画は、35年前1981年に邦訳が出版された「映画術 ヒッチコック/トリュフォー」という映画製作解説本の映画化だからです。

私、荒木飛呂彦は昨年、2015年に「荒木飛呂彦の漫画術」という漫画の描き方が内容の本を集英社新書から出させて頂きました。その前書きで、若い頃に読んだ「映画術ヒッチコック/トリュフォー」を基本として、漫画の作り方を学び、考えてきたことを述べました。それにより、本映画のコメント依頼が来たのだろうと、名誉な事に理解しております。

私はこの「本」を当時、ハリウッドで新進気鋭だった若い映画監督たちが、ヒッチコックのサスペンス映画から様々な影響を受け名作を作っているという噂を聞いた事で読み始めました。その若い映画監督たちというのは例えば、「マーティン・スコセッシ」や「ブライアン・デ・パルマ」、「スティーヴン・スピルバーグ」といった凄い監督たちです。当時の私は20歳くらいで漫画家として、とりあえずデビューできたばかりで、「デビューはしたけれど、プロとしてどうしたものかなあ?」と何を目標に考えていいのかさえもわからない時期でした。

そんな時に、この「本」が書店の店頭に現れたのです。思い返すと何年も何年もこの本をずっと読み続けていたように記憶しています。漫画を描いていて迷うと読み返し、「そうかァ! そういう風に考えるのか」というように。

この「本」は、ただ作った映画を解説したり、映画哲学を語ったりするだけではないという所に圧倒的な価値があります。

私はこの「本」を、まるで科学者の実験レポートのような「本」だと思いました。

①誰も考えた事の無い理論があり、②その製作する過程が本当に細かく解説され、③完成した作品はそれを証明するものとして、手に入れることが出来る。そして、映画作品として成功した事も失敗した事も、冷静にきちんと分析されて描かれている。

私はこうした部分に、「ゆるぎないもの」を感じ、漫画を描く時の「道しるべ」にしようと、教科書として読みました。それまでも映画は大好きで大ファンでしたが、「映画ってこんな風に観るのか……」と違った別の視点を提示され、 その視点が漫画も絵画も文学も、またファッションでさえも、新しく違ったモノの見え方を与えてくれた事を覚えています。

それにしても、「ヒッチコック」という映画監督は一貫して、ずっとずっと、映画という映像に「どうすれば人々を引き付けられるか?」という事を考え続け、そのために観客も気づかない深層の心理まで計算し、新しい映画の世界を独自に切り開いていて、こういうものを「芸術」と呼ぶのだなと改めて思います。

それを理解して鋭くわかりやすく解説する、当時の次世代の映画監督であった「フランソワ・トリュフォー」。

この映画を観て、私は本当に良い時期に良いタイミングで、こんな素晴らしい「本」に出会えた事を感謝しています。

荒木飛呂彦 (漫画家)



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