IKEDA ELAIZA
池田エライザ
Interview
エライザの目に映る『ジョジョ』
独自の色彩感覚や空気感で唯一無二の世界観を構築する池田エライザ。
モデル、俳優、歌手、そして映画監督と幅広く活躍する彼女は、実は『ジョジョ』ファンでもある。
若者世代から厚い支持を受ける彼女が『ジョジョ』をどう読み、どんな刺激を受けてきたのか、直撃した。
――エライザさんが初めて『ジョジョの奇妙な冒険』に触れたきっかけを教えてください。
初めて読んだのはもうずいぶん前ですね。たぶん小学生の頃じゃないかな? うちは兄2人、弟1人というきょうだい構成だったので、家にある漫画も少女漫画より少年漫画のほうが多くて、その中で『ジョジョ』にも触れていました。ただ、途中から読み始めたからそもそもスタンドとは何かがわからなかったこともあって、当時はあまりハマらなかったんです。たぶん、あの頃は自分もまだ子どもすぎたんでしょうね。
――ハマったきっかけはなんだったんですか?
どっぷりとハマったのはコロナ禍でした。「あれ、女性主人公がいるぞ」と『ストーンオーシャン』に興味を持って。まずは『ジョジョ』がなんたるかを知るために最初から読み返してみたんです。そうしたら、幼少期に抱いた印象と全然違って感じられて。“バトル漫画”や“一風変わった漫画”という印象から、すごく自分に身近な作品なんだと思えました。特に私はファッションを生業としているぶん、「第5部、ヤバッ!!」って(笑)。そしてそのまま『ストーンオーシャン』にもハマり、『STEEL BALL RUN』にもハマり、『ジョジョ』という作品そのものが大好きになっていったという感じですね。骨密度の高い印象がある波紋の時代も面白いけど、特に『黄金の風』以降がより自分の感覚と近い気がしています。
――ファッション性という部分にご自身との共通点を感じられたんですね。
そうですね。あとはコマ割りに関しても、自分が映画を撮るときにカット割りについてすごく考えるのですが、『ジョジョ』のコマ割りからは荒木さんの細かい配慮や意図が感じられるんです。「このコマ割りで、この立ち位置にいるこの人をこういうアングルから見せることで、こういうことが伝わってくるんだ」みたいな。そういった部分へのこだわりや知識がエネルギーとしてドッと伝わってきて、どんどん引き込まれていきました。
仲間を思う気持ちや血族の繋がりといったものに触れられる熱い物語は読み始めたら目が離せなくなる魔力がありますし、一方で、フラットに読んだときと、「何か吸収できるところがないか」という視点で読み直したときの違いも面白いんです。今お話ししたコマ割りについてもそうですけど、一つの絵の中で誰がどこにいて、その瞬間にその位置関係に在ることがどういう意図を持っているのかが、かなり明確に、かつユニークに表現されている。実写映画ってカラコレ(カラーコレククション:映像の色彩を補正する作業のこと)などの技術や手法はあっても、基本的にはリアルしか映らないし、奥行きを表現するときに難しいことはできないんです。だからこそ、荒木さんが描く人の位置関係やコマ割りに対しては嫉妬するものがありますね。
――縦のコマで高さを見せたり、横に長いコマでスピード感を表現したり、ページを大きく使ってインパクトを出したり、逆に小さなコマで独特の間を表現したり……というのは、まさに漫画ならではの演出方法ですよね。
『ジョジョ』は特にそれがものすごく効果的に使われているなと思います。魚眼レンズのようにうにょーんと伸びたコマがあったり、人がたくさん映っているカットでも注目するべき人がちゃんと前に いるような感覚に陥る表現がなされていたり。その主張の仕方は本当にすごいですね。
特にずるいなと思ったのは、『ジョジョリオン』のスキー場のくだり。リフトの高さと狭さを使ってああいうふうに遠近感を表現されたら、映画人はたまったもんじゃないですよ! 「実写でこの迫力は出せないなぁ……どうしたらいいんだろう?」と考えてしまいました。『ジョジョリオン』は特にアングルが面白かった印象がありますね。
――実写映画のクリエイターであるエライザさんならではの視点ですね。ちなみに、エライザさんは特にどのキャラクターがお好きなんですか? お気に入りの部などもあれば教えてください。
とにかく惚れて仕方がないと思うのは、スタンドなんですけど、「スパイス・ガール」です。『黄金の風』はすごくハマって読んでいたのですが、男性が主人公ということもあって最初のうちはどこか心の距離を感じていました。でも、飛行機の中で「スパイス・ガール」が出てきた瞬間、彼女のビジュアル、立ち振る舞い、いで立ち……そのすべてがあまりにもかっこよすぎて、一目惚れしてしまいました。すぐに「このフィギュアってあるのかな!?」と調べて、買っちゃいましたね(笑)。ピンクの色合いもかわいいし、私の推しスタンドです。
部でいうと、やっぱり“女性讃歌”を感じられた『ストーンオーシャン』が好きです。私はいわゆる“世に好まれるモデル体型”よりはグラマーな方だし、筋肉質でもあるのですが、普段いろいろな漫画を読んでいると華奢な女性キャラクターが多いので、なんだか非現実的に感じられて寂しく思うときもあるんです。でも、『ストーンオーシャン』を読んだときに、空条徐倫が自分と身長・体重がほぼ一緒なことに気がついて、その肉感にめちゃくちゃ親近感が湧きました。私って実は『ジョジョ』体型なんじゃない? って。『ストーンオーシャン』が描かれたのはもう20年以上も前ですが、当時主流だった華奢な体型の女性キャラクターではなく、今の時代にようやく当たり前に描かれるようになってきたリアルなボディラインをした女性キャラクターを、その時代から描いていたのはすごいことだと思います。
ほかにも「キング・クリムソン」もなんだか意地悪で好きですし、「D4C」もうさぎみたいな耳がかわいくて好きだし……挙げるとキリがないですね。
――改めて、エライザさんが考える『ジョジョ』という作品の魅力を教えてください。
多角的に見られることだと思います。自分のマインドに合わせて違う見方を楽しめるのがありがたいと思っていて。熱血な漫画でありながら、ファッションという点でもトレンドとは違う荒木さん独自のセンスを感じられるし、ラインの美しさも楽しめるし、自分が映像的なマインドのときはカット割りや画面の見せ方の表現から刺激を受けられる。そして何よりやっぱりセリフが素敵だと思っていて。……こういう話をすると、好きなセリフを聞かれますよね?(笑)
――まさに聞こうとしていました(笑)。
たくさんあるのですが……徐倫がウェザー・リポートを想って言った「もう一度話がしたい あなたと そよ風の中で話がしたい」というセリフを見たときは涙が止まりませんでした。この劇画的な世界の中で、「そよ風」という言葉がこんなにも優しく聞こえるんだな、と。セリフの緩急といいますか、『ジョジョ』のセリフには力強い名言だけではなく、すごく優しい瞬間もあって、それに触れたときにグッとくるものを感じます。
吉良吉影の「自分で常に思うんだが 強運で守られてるような気がする……そして細やかな『気配り』と大胆な『行動力』で対処すれば…けっこう幸せな人生をおくれるような気がする……」というセリフも印象的でした。本人の“癖”は怖いですけど、言っていることを文字として読むとまともそうに見えるのが面白いですよね。
――主人公たちだけでなく、敵キャラクターたちのセリフからもそれぞれ独自の哲学や信念を感じられますよね。
そうですね、それも『ジョジョ』の魅力だと思います。あとは、予想ができないことも面白さの一つではないでしょうか。『STEEL BALL RUN』で宗教的な要素が出てきたときは驚きましたし、そこから『ジョジョリオン』の物語に繋がっていくこともまったく予想していなくて。「次はこういう展開が来るんだろう」と考えることもせずに待てる、こちらが知ったかぶりをできない感じが圧倒的だな、と。でも、「こう感じてほしいんだ」という押し付けがましい圧を感じないので、こちらも好きに受け取っていいのかなと思うことができる。だから私も、私の気分で見方を変えられるんだろうと思います。ただ、女性キャラクターがマジでかっこいいという印象は、いつ読んでも変わらないですね。
それから、アニメという媒体で楽しめるのもいいですよね。私は漫画を読んだあとにアニメを観始めたのですが、漫画から入った作品をアニメで観るのって怖いじゃないですか。でも、『ストーンオーシャン』のアニメを観たときに、一本取られたと思いました。漫画をそのままパチッと貼り付けたようなカットや、画用紙に描いたような硬いタッチの映像に、「こんなの漫画もアニメもどっちもおいしいじゃん!」と。あと、主題歌が絶対にがっつりとアニソンなのも素敵ですね。私は歌もやっているから、いつか『ジョジョ』の主題歌を歌ってみたいと思う気持ちも正直ありますけど、いちタレントが介入できる隙がまったくない、あの感じが大好きです(笑)。
――作中のセリフやキャラクターの行動・生き方から、ご自身の生き方や俳優やモデルとしての在り方に影響や刺激を受けることはありますか?
『ジョジョ』の洋服って、『ジョジョ』の世界では成り立つじゃないですか。一歩引いて考えると「空条承太郎の帽子は後ろ側が毛なの!? いったいどうなってるの?」みたいに思うはずなのに(笑)、立ち姿を見たときに即「ワオ!?」とはまったく感じない。それって“その人がその服を着ているから”だと思うんですよね。その人のそのお顔立ちがあって、その体格があって、その服があるからこそしっくりくるんだろうな、と。
映画の仕事では、撮影の前に衣装合わせという工程があるのですが、それは“その人のクローゼットを作る作業”なのですごく大事な工程なんです。なぜその人がその価格帯のそのデザインの服を選んで、その日に着たのか――そこには全部意図があって、それを考えることがその人を掘り下げるうえでも重要になってきますから。
一方で、モデルの仕事の場合は、身に着けるのは自分の服ではないし、“そのブランドの意図”を背負わないといけないからこそ、“私だから成り立つ”ということに集中しなくてはいけなくて。でも私は、なんでも似合うタイプの体型でも顔立ちでもない。そんな中で私がモデルとしてできることってどういう関わり合い方なんだろう? なんで私に声がかかったんだろう? そういうことを常に考えるようにしています。
――自分がモデルとしてできる関わり方、自分に声がかかった理由、ですか。
特にここ2年ほどはBURBERRYのブランドアンバサダーを務めていまして。それは「若くして監督もやっているマルチな女性」という部分を気に入っていただけての起用だったのですが、それを表現するとはどういうことか、どんな顔をしてカメラ前に立てばいいのか、最初は少し悩んでいたんです。でも、“その人だからその服が成り立って見える”という『ジョジョ』のキャラクターたちを通して、「私がカメラ前で何をするか」ではなくて、「カメラ外で何をしているか」が大切なんだろうと思うことができました。そういうところに影響を受けるし、共感する部分でもありますね。
――ビジュアルだけでなく、その人自身の行動・考え方が服とマッチすることが大切なんですね。
その人と服が一体となっていたら、それだけで説明的なセリフがいらなくなるといいますか。だから、自分のオタクタイムとしては、その人の特性や能力がファッションに組み込まれているのを探す作業も楽しいんです。
あと、私はもともと色彩感覚がバグっているんですけど(笑)、『ジョジョ』に描かれる色への制限のなさ、他人の感覚に囚われない自由さからも、すごく勇気をもらっている気がします。
――では、俳優として「このキャラクターを演じてみたい」と思うのは?
徐倫です!
――即答ですね!(笑)
徐倫のためなら、英語も覚えるし、腹筋も割るし、なんでもやります! それくらい絶対に誰にも渡したくないんです。顔立ち的にも、私はたれ目で鼻っ柱も太いから、きっとメイクをすれば寄せられるんじゃないかなと思うんですよね。もしくはスタンド枠で、ほとんどのスタンドを私がやる、というのも面白そうです(笑)。
――キャラクターの立ち姿やポージングでかっこいいなと思うものはありますか?
あまりそういう見方をしたことがないかもしれないです。だって、私たちは仕事でいつもああいうポーズをしていますから。洋服のディテールや質感、ライティングを見つつ、ブランドのコンセプトに合わせていこうと考えると、人智を超えた動きになることは実際に多々あるんですよ。特に「SPUR」や「Numéro TOKYO」あたりは普通よりもエッジのきいた写真を求められることが多いので、割と見慣れているのかもしれませんね。
どちらかというと、いつか参考にしてもらえたらうれしいなと思います。もし荒木さんの資料の中に自分の写真が1枚紛れ込んでいたら、それほど幸せなことはありません。
――今回のJOJO magazineでは「世代別ジョジョ」という特集を組んでいるのですが、エライザさんは1996年生まれなので『ジョジョ』のキャラクターの中では東方大弥とほぼ同世代ですね。
そうなんですね! 年齢も近いし髪型も似ているし、大弥ちゃんと一緒すぎるな、私(笑)。
――(笑)。普段、作品をご覧になるときに、キャラクターの年齢や世代を意識することはありますか?
兄がいることもあって、感覚的には徐倫のほうが世代が近いように感じています。私自身、Z世代の特集で取り上げていただくこともあるのですが、自分としては実はあまりZ世代という感じはしていないんですよね。高校生のときに「SNSの達人」だなんだと言われていましたけど、それって単に公式の人間としてSNSを始めるのが少し早かっただけで、私を応援してくれる方々のほうが先に始めていましたし、スマホ世代と言われつつスマホがない時代も経験していますし。ウィルコムやガラケーも使っていましたよ。アンテナを立てて電波を探したり(笑)。
――世代の分け方はあくまで「この年から明確に切り替わる」というものではなく、変化のグラデーションがありますからね。
そうなんです、私世代でもWindowsが立ち上がるのが遅かった記憶もあるし、お母さんとフィルムカメラを現像しに行ったこともあるし、ニコニコ動画が出始めた頃にお兄ちゃんとゲーム実況を観たりもしていましたから。最近はInstagramを更新しなさすぎて焦るときもありますし。かと思えば、10歳も違わない子が子どもの頃にはもうiPhoneで動画を撮るのが当たり前だったりもしていて。まさに大きく世の中が変わった時期ですよね。
よく「ゆとり」「さとり」と言われますけど、「ゆとりだから発言を斜に構えられる」「さとりだと思われているから発言を面白がられる」だったものが、単純に最近では「Z世代」という言い方に変わっただけなんじゃないかなという気がしています。
――ちなみに、身近には同世代の『ジョジョ』ファンもいらっしゃいますか?
たくさんいますよ。芸能界は『ジョジョ』好きが多いんじゃないですかね。特にモデルたちはだいたい話ができる気がします。私の家には金沢のジョジョ展で購入した絵が飾ってあるんですけど、遊びに来た友達がよく「あ、『ジョジョ』だ!」と言ってくれますし、現場でも『ジョジョ』が仲良くなるきっかけになることもけっこうあります。
ジョジョ展に行っても、見に来ている人の年齢層が広いですよね。金沢ってデートスポットという印象が強かったけど、ジョジョ展の期間だけは本気の『ジョジョ』ファンや文化的な人がたくさんいて、なんだかちょっと特殊な空気になっていた気がしました(笑)。特に最近は、『ストーンオーシャン』がアニメ化されて女の子のファンもより増えたのではないでしょうか?
――エライザさんご自身もまさに女性主人公という部分に親近感を覚えたお一人ですしね。
改めて考えても、20年以上前に描かれた『ストーンオーシャン』が今観てもまったく時代錯誤じゃないことにビックリします。昔のアニメや漫画の女性キャラクターって、どちらかというと消費されがちな立ち位置だったじゃないですか。でも、『ジョジョ』はそれがまったくない気がするんです。“女性讃歌”という部分がブレずにあって、女性の美しさも“人から求められる美しさ”ではなく、“その人個人が持つ美しさ”として描かれている。そしてやっぱりどのセリフも“荒木さんのご自身の言葉”なんですよね。だからこそ性別が変わっても成り立つし、今の時代に多すぎる忖度を感じることなく、「こういうことを言いたいんだ」と素直に受け取ることができるんだろうと思います。
今は「多様性」という言葉が浸透して、一人ひとりのまったく違う考え方や自認について説明しなくても受け入れられる時代になりつつありますけど、私から見たらお父さん世代である荒木さんが、そこに触れ続けてくれているというのはすごくかっこいいことだと思うんです。今、我々世代が発信しようと頑張っていることを、それよりもずっと早い段階からご自分のアンテナで、ご自分の感性で捉えている。それって決して簡単なことではないですよね。本当に、荒木さんはいろいろな意味でおしゃれな方だと思います。
――濃密なお話をありがとうございました。それでは最後に、読者へメッセージを!
あくまで私の感想であることをご承知いただきつつ、優しい目で読んでいただけたらうれしいです(笑)。
私にとって『ジョジョ』ほど終わってほしくないと思う漫画はなくて。これまではアーカイブがある状態で作品に触れられたことがラッキーだったなと思いますし、これからは私も皆さんと同じ速度で『The JOJOLands』に触れ、同じ速度で儚さも感じていくんだと思います。その時点で同志だと思っておりますので、これからもお互いに『ジョジョ』という作品を楽しんでいきましょう。
★いけだ・えらいざ
1996年4月16日生まれ。福岡県出身。エヴァーグリーン・エンタテイメント所属。2009年に「ニコラモデルオーディション」でグランプリを獲得し、同年「ニコラ」の専属モデルに、その後、活動のフィールドを広げ、モデル、俳優、歌手、映画監督とマルチに活躍している。近年の主な出演作品は、映画『おまえの罪を自白しろ』(23)、CX土曜プレミアム『世にも奇妙な物語’23夏の特別編』(23)ほか。監督作品には、映画『MIRRORLIAR FILMS』(22)、『夏、至るころ』(20)がある。2024年2月18日放送開始のNHKプレミアムドラマ『舟を編む~私、辞書つくります』に主演する。