安藤敬而先生
Interview
――はじめに『ジョジョ』という作品を知ったきっかけを教えてください。
安藤:きっかけは吉良吉影です。当時買った「週刊少年ジャンプ」で川尻浩作に扮した吉良吉影がドンと載ったリミックス(※注)の広告を目にしたんです。「サラリーマン風の男がラスボス!?」と吉良の存在がとても気になり、コミックスを1巻から買ったのが最初です。そこから一気に読んでいきました。
――本作のオファーを受けられた経緯は?
安藤:編集部から「第5部の敵陣営にスポットを当てた短編を書いてみませんか」とオファーをいただきました。その時は嬉しさと同時に、畏れ多い気持ちも大きかったのですが、大好きな作品ですので、ぜひ挑戦させていただきたいとお受けしました。
――『ギャング側の証人』はディアボロの親衛隊、スクアーロとティッツァーノのスピンオフですね。この二人を選ばれた理由は?
安藤:本作の執筆にあたり、改めてコミックスで第5部を読み返しました。そこでどのキャラクターにスポットを当てようかなと考えた時にスクアーロとティッツァーノが気になったんです。これは初めて第5部を読んだ時にも感じたのですが、親衛隊の中では二人は異質な存在だ、と。二人のスタンド能力は単独でパワー勝負できるものではないにも関わらず、作中では得体のしれない強敵として描かれていたのがとても印象に残っていたんです。なおかつ、キャラクターのバックグラウンドも原作ではあまり描かれていなかったので、ここは想像の余地があると思い、選ばせていただきました。スクアーロとティッツァーノはバディがいないと活躍できないという点も面白く、バディとしての二人を書きたいという気持ちもありました。
――コンビの敵は珍しいですよね。
安藤:「1+1」が「2」ではなく、合わさると何倍にもなるコンビ性が、この二人の魅力だと思うんです。どちらか一人が欠けても成り立たない、お互いを補完し合っている唯一無二の存在。だから、どちらか一人だけにスポットを当てることはできず、二人が主役となりました。
――本作では2体のスタンドが登場します。
安藤:ティッツァーノの「トーキング・ヘッド」は、相手の舌にとりつき発言を“嘘”に変える、という単一能力のスタンドで、1体だけだと動くことすらできないんです。一方スクアーロの「クラッシュ」は、魚型スタンドでサメのように人間の身体を食いちぎる恐ろしいスタンドですが、水があるところじゃないと移動できず、密閉空間にも入れない。でもこの2体が連携すると不気味なほど強くなるんです。力業ではない、彼らの異質な恐ろしさを小説でも前面に出しました。
――スタンドを表現する上で、気を遣われた点はありますか?
安藤:自分なりの解釈はせず、原作で描かれている能力から逸脱しないよう心がけました。特に「トーキング・ヘッド」は相手に嘘を話させる単一能力こそが魅力だと思っているので、万能になりすぎないように注意しました。
――本作のテーマは「ギャングの裁判」ですね。
安藤:現実のイタリアでギャングの裁判が行われていたというニュースを耳にして、「パッショーネ」が大きくなる過程でも、スクアーロたちはいろいろと暗躍してきたんじゃないかと思い、“裁判”を舞台にしました。「トーキング・ヘッド」の活躍の場としても都合がよく、題材は本当にすんなりと決まりました。
――執筆にあたりどんな下準備を?
安藤:私自身、裁判ものを書くのが初めてだったので、イタリアの裁判の雰囲気がわかる資料を取り寄せてとにかく読みあさりました。その中で実在のギャングの裁判を担当した検事の手記が興味深く、本作のモチーフに使わせていただきました。
――『ジョジョ』の世界を執筆する際に心がけられた点は?
安藤:「黄金の精神」が根底にあるということを常に意識して執筆していました。また、ページをめくるごとに攻守が入れ替わるスリリングな展開が、『ジョジョ』の魅力のひとつだと思っており、そのような小説になるよう心がけたつもりです。
――最後に読者へメッセージをお願いします。
安藤:本作はスクアーロとティッツァーノのあり得たかもしれない過去を書いています。このような事件があったかもしれないと想像して、楽しんでいただけたら嬉しいです。ぜひ、ご一読ください。
※注 「集英社ジャンプリミックス」のこと。週刊少年ジャンプの名作を再編集したコンビニ売りの廉価版コミックス。
PROFILE 安藤敬而 あんどう・けいじ
2015年、ジャンプ小説新人賞において特別賞を受賞。『荒野のコトブキ飛行隊』(原作:荒野のコトブキ飛行隊)、『天穂のサクナヒメ ココロワ稲作日誌』(原作:えーでるわいす)のノベライズを担当。近年では『怪獣8号 密着!第3部隊』(原作:松本直也)、を上梓。本誌にて『ジョジョの奇妙な冒険』ノベライズに初参加した。
★好きなキャラクター:吉良吉影(第4部)
★好きなスタンド:「セックス・ピストルズ」(第5部)