Hirosegawa (February 2011)

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Published February 14, 2011
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Interview with Hirohiko Araki on the website hirosegawa.net. One part of the interview was published every day from February 14 until February 23, 2011.

Interview

第1回 「杜王町」と仙台市との関係は? 2011.2.14

聞き手: この「私の広瀬川インタビュー」では、 仙台や広瀬川にゆかりのある著名人に出演いただくことで、 多くの方に広瀬川をはじめとする仙台の魅力を 知っていただきたいと考えています。 今日は、仙台市出身のマンガ家で 「ジョジョの奇妙な冒険」(以下「ジョジョ」)の 作者・荒木飛呂彦さんに出演いただきました。 どうぞよろしくお願いします。

荒木さん: こちらこそ、よろしくお願いします。

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聞き手: 早速ですが、先生の作品にはデビュー当時から 仙台に縁のある地名や人名などが数多く登場しており、 私たち仙台市民は大変嬉しく思っています。 特に「ジョジョ」第四部「ダイヤモンドは砕けない」編では、 「杜王町」という日本の架空都市が舞台となっていますが、 実際に仙台にある地名やお店なども登場しており、 ファンの皆さんから、仙台市が「ジョジョ」作品の 「聖地」の一つとも思われているようです。 そこでまずは杜王町と仙台との関連について 教えていただけますか。

荒木さん: 仙台は自分が生まれ育った街なので、 なじみ深いというか、描きやすいんですね。 作品上の架空の街とはいえ、 自分の体験を下敷きにして作品に描くことは基本ですし、 何よりリアリティが出るので。

聞き手: 第四部の主要人物の一人として登場するマンガ家の 「岸辺露伴」は、読者から先生と 同一視されるむきもあるようですが、 やはり作品でもリアリティを重視していることが窺えます。

荒木さん: 露伴は僕自身ではないですよ(笑)。 ただ、リアリティは欲しいですが、 あいにく第四部では殺人鬼が出てきますので、 仙台をその舞台とするのはさすがにどうかなと思い、 市民の皆さんになるべくご迷惑がかからないように 「杜王町」という架空の街を作らせていただいた、 という次第です。

聞き手: 最近では、仙台市も物騒になりまして、 映画化もされた仙台市在住の作家・伊坂幸太郎さんの 「ゴールデンスランバー」の作中で、 仙台出身の首相が暗殺される時代です。 ちなみに暗殺シーン撮影時には、 エキストラとしてたくさんの市民の皆さんから 協力いただいたので、 今だったらそうしたご心配をされなくても 大丈夫かもしれませんが。

荒木さん: 連載時(注:第四部の連載は1992年~1995年)は S市というのが仙台市で、 杜王町はその郊外の街という設定で、 仙台市そのものが舞台ではなかったんです。

聞き手: 近年では、その杜王町も人口が増えて、 S市「杜王区」に昇格したそうですね。

荒木さん: ええ、S市内に取り込まれる形で合併したようです(笑)。

聞き手: 杜王町の地形的なモデルとしては、 岩手県の宮古市ではないか、という話がファンの間で されているそうです。

荒木さん: 地理的にイメージしたのは、宮城県の松島の北、 東松島市のあたりです。 ただ、ベッドタウンとしての街のイメージは、 当時開発が進んでいた泉市(注:昭和63年より仙台市泉区) や宮城野区鶴ヶ谷ニュータウンなどを参考にしていました。

聞き手: なるほど。 そうした当時のニュータウン開発の様子が 作品に反映されているんですね。

荒木さん: 当時は東北学院高校榴ヶ岡校舎に通学していましたが、 毎日のように風景が変わっていくんですよ。 もう道路が急にバーン!とできたりして、 その変化がショッキングでしたね。 そんな体験がいくらかは反映されているかもしれない。

聞き手: 先生が仙台にお住いだった頃の仙台は、 日本の経済成長に合わせて街も 大きく姿を変えていく時代の真っ只中だったと思いますが、 その一方で、まだ戦後の面影を残したような ミステリアスなところがあったと伺いました。

荒木さん: ありましたね。あの、広瀬川には関係ないですけど(笑)、 子供の頃に小松島や与平衛沼のあたりで よく遊んでいたんです。 そこには防空壕跡みたいな所があって、 住み付いていた方がいました。 その方は、実は浮浪者ではなく、 昔大金持ちで、その財産が隠されているという 埋蔵金の噂があったんですよ。

聞き手: 先生ご自身も探しに行かれたのですか?

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荒木さん: 当然行きましたよ! まあ、噂話だったと思いますが(笑)、 それが妙なリアリティがあって、子供心に 実際に何かあるのではないかと感じさせられるんです、 本当に。 その方にも知的な雰囲気があって、 英語でしゃべったりして、一体何者なんだ?みたいな(笑)。

聞き手: 「ジョジョ」の作中に出てきたりするような…

荒木さん: そうそう。世捨て人だけど、過去に何かあったんだろうな、 という雰囲気があって、埋蔵金の話も、 まんざら噂でもないって思わせられる…

第2回 初めて覚えた言葉は「どざえもん」!? 子供時代の思い出 2011.2.15

聞き手: そんなミステリアスな雰囲気が漂っていた一方で、 どんどん宅地開発が進むという ちょうど時代の変わり目だったのかもしれません。 子供の頃に広瀬川で遊ばれたことはありましたか。

荒木さん: 父が若林の生まれで、幼少の頃は若林区に住んでいました。 宮城刑務所の傍で、 その刑務所がまたミステリアスなんですけど(笑)。 ずっと、塀の向こうはどうなっているんだろう? と思いながら育ちました。

聞き手: そうした生い立ちから「ジョジョ」は 生まれるべくして生まれたような気がします。 ちなみに宮城刑務所は、 政宗公が隠居後に過ごした若林城跡に建てられており、 堀には広瀬川から取水した水が流れています。

荒木さん: 広瀬川は当時住んでいたところからも近かったので、 よく遊びに行っていましたよ。 毎年7月1日にアユ釣りの解禁日には、 父に連れられて一緒に胴長をはいて釣りにいっていましたし。

聞き手: 先生が胴長をはいて川に入っているところは、 想像し難いですが、広瀬川は幼い頃から 身近な存在だったんですね。

荒木さん: 実は子供の時に、最初に覚えた言葉が 「どざえもん」なんです(笑)。 今は広瀬川に対して、 皆さんきれいなイメージしかないと思いますが、 当時は犬の死体とか流れてくることもあって、 周りの大人たちから 「どざえもんになるから、川に行く時は気ぃつけなよ」 と言い聞かせられていたみたい。 昔はそうした危険に対して、 地域のお年寄りたちの目配りもあったんですね。

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聞き手: 子供が初めて覚える言葉としては、 かなりショッキングな言葉ですが。

荒木さん: 川でどうやって遊ぶかを教えてくれていたのだと思います。 川遊びは自己責任だから、自分自身で気を付けないと ダメなんだよ、ということで。

聞き手: 当時はまだ水難事故で亡くなる方が少なくない時代ですよね。

荒木さん: 何か事故があると今だとすぐ行政が責められがちですが、 当時の川遊びなどは自己責任でしたね。 あと、南蒲生浄化センターができる前には あの辺や河口の閖上のあたりで泳いだり、 キャンプをしたりしました。 それと秋にはもっと上流で芋煮会が定番でしたね。

聞き手: 杜王町編には出てきませんが、 先生も芋煮会はよくされていましたか。

荒木さん: もちろんですよ!やはり父に連れられて二口渓谷や 奥新川などへ行ってやっていました。

父はアユ釣りだけでなく、 雉撃ちやきのこ狩りなどもやっていましたので。

聞き手: 広瀬川の近くにお住まいの方は、 狩猟民族の血が流れているかもしれないですね。 この広瀬川ホームページで今年取材させていただいた 大年寺山のふもとでハチミツつくりをされている方も 冬になると狩りに行くそうですし、 以前奥新川で芋煮会の企画でお世話になった方も 渓流釣りやきのこに通暁されていましたし。

荒木さん: きのこは難しいですよね。 同じ種類でも宮城県で食べられるのに、 お隣の福島県では毒を持っているものもあるそうですね。 あと、仙台の人は東京に行っても、 芋煮会の話題で盛り上がりますよね。 「芋煮会してた?」 「河原でやるんだよね」って。 でも、東京の人と話すと「それってバーベキューのこと?」 と聞かれますが、 「いや違う違う、芋煮会では煮るんだよ、 河原で肉は焼かないよね~」みたいな(笑)。

聞き手: 仙台出身者同士だと芋煮会って言うだけで すぐ分かり合えたりしますよね。

荒木さん: そうなんですよ。いや~芋煮会はいいですよね。 いろんな人とコミュニケーションできたり、 河原で家族の輪とか確認できたりして。

聞き手:「芋煮会」と聞くともうそれだけで仙台のことを 思い出したり、故郷に帰ってきたな、 と実感できたりしますよね。

荒木さん: そうそう。今頃もまだやっていますか。

聞き手: 牛越橋の上流が広瀬川での芋煮会の聖地となっていて、 学生さんが中心ですが、天気の良い日は 朝から場所とりしたりしているそうです。 そろそろ寒くなってきたので、 もう下火になってきているようですが、 つい先日もここから見えるあの米ヶ袋の河原で やっていました。

荒木さん: そうなんですか。今の学生さんはバーベキューですか?

聞き手: メインはやはり芋煮だと思います。

荒木さん: ですよね。よかった(笑)。

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第3回 広瀬康一君の由来は? 2011.2.16

聞き手: 「ジョジョ」第四部には、語り部として「広瀬康一」君 というキャラクターが重要人物として登場します。 こうしたキャラクターに「広瀬」と名付けられた 先生の意図は、広瀬川を仙台のシンボルとして 考えられてのことなのでしょうか?

荒木さん: やっぱり「広瀬川」を出さないわけには いかないじゃないですか! 杜王町は仙台市ではないですが。 さとう宗幸さんの大ヒット曲もありますし、 広瀬康一君は仙台のシンボル・広瀬川から、 それしかないですよ。

聞き手: ありがとうございます。 仙台市に住む「ジョジョ」ファンにとって、 とても嬉しい話です。 以前広瀬川沿いに「河童」の銅像を市民の寄付で建立しよう という企画があったようですが、 「ジョジョ」ファンだったら広瀬康一君の銅像を 建てたいと思うでしょうね。 では、仙台を離れた今、懐かしく思う場所や、 今でもよく立ち寄る場所などはありますか?

荒木さん: 少年時代に遊んだ小松島の方には今でも行きますよ。 昔からあんまり変わっていないですよね。 与兵衛沼周辺も公園区域として自然が残されていたりして、 いいですね。 あと台原森林公園や東北薬科大学側の瞑想の松とか。

聞き手: 懐かしい場所を訪ねて足を運ばれるのでしょうか?

荒木さん: 本当によくあの辺で遊んでいたので。 そうですね、いいことも悪いことも いろんな思い出があります。

聞き手: 「動物の足跡を追っていろいろ訪ね歩くのが 好きな少年時代だった」というお話も伺いました。

荒木さん: 先程の埋蔵金探しではないのですが、 いろんなものを追跡するのが好きで、今でも動物の足跡とか、 すごく興味があります。

聞き手: 今年は熊の餌となるナラの実が不作で、 人里までよく熊が降りてくるそうですが、熊の足跡なども…

荒木さん: 仙台でも熊が降りて来るんですか? 水溜りのそばとかに爪で引っ掻いた跡があると、 背筋がぞっとしますよ。 「ほんとに、ここに居るんだ、通ったんだ」って。

聞き手: ところで、今年(注:2011年)でデビューから30周年と伺っています。 1987年の「ジョジョ」連載開始からは24年が経ち、 その間に日本を取り巻く社会情勢も 大きく変化したと思います。 連載で仙台を離れられてから、 昔と比べて現在の仙台をどうご覧になりますか。

荒木さん: そうですね、昔の御屋敷のような建物が 無くなっちゃいましたね。 それと、いい喫茶店も無くなってしまって ちょっと寂しいです。 街自体はきれいになって、住みやすくなったとは思いますが。

聞き手: 戦後の面影を残したミステリアスな雰囲気は、 市街地整備が進んでなくなってしまったかもしれません。

荒木さん: でも、さっきタクシーの運転手さんが話されていましたが、 昨日雪が降る前に現れるというユキムシが 舞っていたそうですよ。 それも市内で出ていたそうですが、 そうした自然が身近に感じられることは 素晴らしいなと思います。

聞き手: 子供の頃の「どざえもん」が流れて来ていた時代や 高度経済成長期の公害問題などを経て、 自然環境を大切にしなければという意識の高まりから、 自然との共生が回復しつつあるという感じでしょうか。

荒木さん: そう考えると仙台はこの街の規模がいいんですよね。

聞き手: コンパクトでちょうど良い街のサイズなのかもしれません。

荒木さん: そうですね。歩いて回るにしても、 電車やバスを使うにしても、ちょうど良い距離で どこへ行くにしても移動しやすい。

聞き手: 車は運転なさらないのですか。

荒木さん: なぜか・・・しなかったですね。

聞き手: やはり、歩いて追跡したりするのがお好きということで。

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荒木さん 荒木さん: 追跡は楽しいですね~(笑) でも本当に仙台は住みやすい都市規模だと思いますよ。 東京だと広すぎて。

聞き手: コミックスの折り返しのコメントで拝見したのですが、 先生が仙台で連載を始めた頃は、 コピーが一枚40円するなど、仙台に住みながら 連載するには大変だということで 東京に引越しされたそうですが。

荒木さん: 当時はまだ東北新幹線が開通していなくて、 東京まで電車で4時間はかかったんです。 宅配システムもやっとクロネコヤマトの宅急便が できたくらいの時期で 週刊誌で連載するのは大変だったんで、 もう行かざるをえない状況でした。

聞き手: 今ではインターネットなど通信技術も普及し、 またこうした自然環境も身近にあり住みやすくなって、 逆に、今だったら仙台に住みながら連載してもいいな、 と思うこともありますか?

荒木さん: ありますね。仙台に住みながら連載できたらいいですよね。

聞き手: 先ほどの伊坂幸太郎さんを始め、仙台にお住まいの 人気作家の方も多いようです。

荒木さん: 小説家の方はほぼ問題ないと思いますよ。 マンガもデジタルで描いていればインターネットがあれば 送れますけど、僕はそうではないので…。 誰かが生原稿を確実に編集部に届けないといけないんです。

聞き手: 「岸辺露伴」は杜王町で連載できても、先生が連載中に 仙台に住むことはやはり厳しいのでしょうか…

荒木さん: 仕事関係や友人関係といった生活基盤が今は東京にあるので、 難しいでしょうね…。 アシスタントさんたちも、東京に住んでますから。

第4回 街と自然とが共存する仙台の魅力 2011.2.17

聞き手: 先生は各地を旅されて、いろいろな街を ご覧になっていると思いますが、 今の仙台の街の魅力はどのように感じられますか。

荒木さん: こういう、街と自然が共存している感じはいいですよね。 建物と樹木とか。 実はそういう都市ってあんまりないと思いますよ。 関東だと箱根などにはそのような雰囲気が あるかもしれないですが、別荘地的な要素もあって また違います。 日常生活の中に溶け込んだ自然という意味では、 青葉通や定禅寺通のケヤキ並木の風景などは、 まさに仙台を象徴する魅力的なところだと思います。

聞き手: 仙台駅に降り立って青葉通りのケヤキ並木を見ると、 仙台に帰ってきたなという感じがしたり。

荒木さん: そうそう。それと、仙台には、 オーディオや自転車、古本とか、趣味というより もっとマニアックにこだわっている人が実は結構いて、 すごいお店がありますよ。 オーディオだと「のだや」さんとか、 自転車だと「シクロヤマグチ」さんとか。 普通の街中に、すごくこだわった商品を扱っている お店があるんですよ。 一つの街に、そうしたいろいろなこだわりのお店が ある街というのは、東京でもあまり見かけないかもしれない。

聞き手: 自転車の話がでましたが、 広瀬川は先生が遊んでいらした若林区からは、 川沿いを自転車で河口の閖上まで行けるようになっています。 以前その取材で「シクロヤマグチ」の山口さんに お世話になりました。

荒木さん: 僕が仙台にいた時からずっとあるっていうのは、 すごいですね。 あと貞山運河沿いにもサイクリングロードがありますよね?

聞き手: ええ。2010年には、海岸公園にセンターハウスもできて、 そこで自転車の貸し出しも行っています。 周辺も整備され、多くの人たちが 楽しめるようになっています。

荒木さん: 生活圏内にこうした海水浴場やスキー場がある街って、 すごいですよ、本当に。 東京だと、スキーに行くにしても一泊が前提だったりして、 もうそれだけで面倒で… 映画に行くにも、場所によっては 1~2時間かかったりしますから。

聞き手: 仙台市内中心部から泉が岳のスキー場、 深沼の海水浴場、広瀬川上流の芋煮会や温泉、 だいたいどこへも30分圏内で行けますよね。

荒木さん: そうなんですよ。 あと、最近は街を歩いている人も ずいぶんファッショナブルになったような気が…。

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聞き手: 先生が仙台にいらした頃は、 あまりファッショナブルなイメージが…?

荒木さん: いやなんか、昔は女の子があんまかわいくないとか… 言われてましたよね(笑)。 今では全然そんなことないですが。

聞き手: 先生の学生時代には、私服の学校が流行った時だったと 思いますが、当時はガクランを着られていましたか。

荒木さん: 僕はガクラン派でしたね。高校では私服OKでしたが、 服を選ぶのがそのうち面倒になって みんなガクランになってくる(笑)。

聞き手: 「ジョジョ」の登場人物は、みなさんガクランが ユニフォームみたいになっていて、先生のガクランに対する 思い入れが相当あるのではと思っていました。

荒木さん: ガクラン、やっぱり格好いいですよ。 実は、マンガのファッションとして一番格好いいのは ガクランで、「クローズ」とかがヒットしたのは 絶対ガクランだったからですよ。 それでガクランにビニール傘をさす、っていうのがまた 格好いいんですよね。 もう、男の美学としてのマンガの黄金方程式というか。 多分、高倉健さんの影響からだと思いますけど。

第5回 マンガと現実世界との関わり 2011.2.18

聞き手: 近年では、「ジョジョ芸人」といわれるタレントさんや 熱心なファンによる「ジョジョ立ち」などのムーヴメントが 話題になっています。 マンガというフィクションから 今までと違った形で現実への影響が及んでいると思いますが、 そうしたファンが先生の作品を解釈して盛り上がっている 状況についてはどうご覧になっていますか?

荒木さん: 「ジョジョ立ち」については、自分でもびっくりしていて、 世の中のほうが変わったんだなと思いました(笑)。 もともと「ジョジョ」の登場人物のポーズは、 ファンタジー性を出すためにあえて 現実にはありえないポーズを取り入れて演出しているんです。 実際の人間の関節の可動範囲はここまでというところを、 さらに限界を超えたところまで捻って表現していますが、 それを実際にやっているんですから… 写真でみると、ちゃんと再現しているんですよ! 人間の体が進化したのかな?

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聞き手: 全くの予想外だったのでしょうか。

荒木さん: 予想外というか真似して欲しくないというよりも、 そもそも真似しようがない表現にしているのに、 そこに現実に踏み込んでくるという… なんか、その発想からして驚きですよ。

聞き手: 驚かれたとも思いますが、先生にとってはそれも 嬉しいことだったのでしょうか。

荒木さん: 嬉しい…というか(笑)。 もう、好きなように楽しんでもらえれば… と思ってますね(笑)。

聞き手: 最近では先生も巻き込まれて、一緒にポージングされる こともあるようですが。

荒木さん: だってやってくださいって言われるから(笑)。

聞き手: 今日はわれわれもぜひ先生と一緒に 「ジョジョ立ち」をしたいと思っていました。

荒木さん: わかりました…って、現実にはできないんだから(笑)。

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聞き手: 私が中学生時代に先生の作品に触れたときは、 もっと直接的に、特徴的なセリフなどを 友達同士で真似したりとした記憶がありますが、 近年のこうした盛り上がりは、 インターネットによる影響も大きいのではとも思います。

荒木さん: 確かにそうかもしれないですね。

聞き手: インターネットを通じて見知らぬ人同士が結びついて 共有される、共感されるという時代なのではと思いますが、 そうした変化を実際に感じられることはありますか?

荒木さん: 昔は口コミといっても範囲は限定的でしたが、 現代だと、インターネットによる予想のできない 展開があると思います。だから逆に怖いですね… その、作品には人間の本心が無意識にでますから。 例えば卑怯な描き方をしていると、たぶん読者の方は 見抜くと思いますが、それがネットだと 増幅されたりするのかもしれないですよね。

聞き手: こうした時代だからこそ、より誠実さを求められる ということなのでしょうか。

荒木さん: そうですね。一見損かもしれないけど、誠実に描いてないと それがあとになって確実に効いてくる…

聞き手: 以前先生が東北大学で「売れるマンガ」というテーマで 講演されたそうですが、そのときも、 「売れる」ためにそれだけを狙って描くというのではなくて、 どんなに良い作品でも結果的に売れないと、読者に 届かないからだめなんだという話をされていたそうですね。

荒木さん: そうですね。「売れる」ことだけを狙った作品と、 読者に届けるために結果的に「売れる」作品との違いは、 読者の方は見抜くでしょう。 また、それとは別に、ネットでの発言などでそういう精神は よりはっきりと見抜かれてしまうのではないでしょうか。 インターネットの書き込みの内容から、 「この人ずるいな」と感じたり。

聞き手: 先生自身はよくインターネットでチェックされますか。

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荒木さん: 怖いから、なんかね、あまりやらないです(笑)。

聞き手: なるべく避けられたい、とか。

荒木さん: 一線を画しておきたいというよりも、「岸辺露伴」 ではないですが、図に乗ったことを言いそうなので 自重のために(笑)。

聞き手: 岸辺露伴は、マンガに関しては善悪の判断基準を 超えたものすごい執着心から、ちょっとやりすぎな面が 見受けられますが、やはりそうした面には 先生の想い入れが反映されているように感じてしまいます。

荒木さん: そういう部分もありますが、露伴は憧れですね。 スーパーマンガ家としての。 ただ少しだけ、作品とか芸術に対して 真摯でないことへの怒りなどを表現していますが。

聞き手: あくまでも極端な形での表現だと思いますが、 短編「岸辺露伴は動かない」では、露伴が取材で イタリアに行き、教会の懺悔室に潜入してみて 体験の重要性を語るシーンもありました。 ファンとしては、そうしたところに実際の先生の姿を 重ねたくなると思います。

荒木さん: その辺は確かに実感を反映しているかもしれません。 今だとネットで調べればほとんど あらゆるものの情報は分かる時代だと思いますが、 僕自身はやはり実際に体験した上で描きたいですね。 例えばイタリア料理の絵を描く時、 別に食べなくても写真を見たりして描けますが、 でも、僕だったらその料理の匂いを嗅いだり、 実際に味わいを確かめた上で描きたいです。 その辺は、露伴にも反映されているかな。

第6回 海外のマンガ事情 2011.2.19

聞き手: 京都国際マンガミュージアムでは、「マンガ・ミーツ・ ルーヴル―美術館に迷い込んだ5人の作家たち―」 という特別展で、「岸辺露伴 ルーヴルに行く」という 展示が公開されていました。 (注:2010年11月5日~12月3日まで開催) また、2009年にルーヴル美術館の企画展で、 日本のマンガ家としてルーヴル史上初となる 作品展示がされたと伺っています。 ちなみに今回同行しているスタッフでそれを 鑑賞するためにルーヴル美術館に行った者もおります。

荒木さん: 本当ですか?ありがとうございます。

聞き手: その時はフランスでも大変好評であったと 伺っていますが、今やマンガが日本の誇る 現代アートとして海外で評価される時代だと思います。 私たちが学生時代は、どちらかというと マンガに対するイメージは良くなくて、 学校の先生や両親などからは 「マンガばかり見ていないで勉強しなさい」 というような時代だったと思いますが、 その時代に先生がマンガ家を志そうと思われた 動機は何だったのでしょうか?

荒木さん: 70年代という「時代の風」でしょうか。もう、本当に いろんなマンガが出てきた時代だったんです。 SFもあれば時代劇もあるし、 「ゲゲゲの鬼太郎」みたいな妖怪マンガや 楳図かずお先生のような怪奇マンガとか、 とにかくいろいろな作品が一気に出てきた時期で、 そのエネルギーがとにかくすごかった。

聞き手: 一つのメディアとしてのエネルギーが マックスだったのでしょうか。

荒木さん: というよりも、新しい時代の始まりという感じ かもしれない。芸術でいうとルネサンスというか、 一つの黄金時代の始まりというか、 今から思えばそんな感じがします。

聞き手: そこに当てられてしまって。

荒木さん: そう、当てられて、もう…ほんと、 マンガ家になりたくてしょうがなかったですよ。

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聞き手: マンガ家になられただけでなく、今ではアーティスト としてルーヴル美術館に展示されるまでになられました。

荒木さん: いや、まだまだですけど(笑)…でもね、 当時は「キン肉マン」を描いたゆでたまご先生が、 僕と同い年なのに高校生でもうプロになっているという 時代でした。僕なんか普通に学校通っていた時で、 「えっ、同い年でもうプロのマンガ家なんだ!」って。 その時は焦りましたね、 「もう学校に行っている場合じゃあない!」と(笑)。 それから僕もマンガ描いて、早く投稿とかしないと プロになれない、と思いました。

聞き手: そこから独学でスタートされて…

荒木さん: そうですね。本当はアシスタントとかきちっと やりたかったですが、その前に独り立ちしてしまって… 二十歳のときにデビューさせていただいたんです。

聞き手: 先ほど申し上げましたように、今ではマンガが海外でも 評価される時代ですが、デビューされてから これまでのマンガを取り巻く環境の変化は どのように感じられますか?

荒木さん: マンガには、例えばストーリーが面白いとか、 画がうまいとか、デザインが素晴らしいといった、 いろいろな要素から成り立つ総合芸術的な魅力も あると思います。 でも、そのうちのどれか一つだけでも成立すると 思うんです。話が面白くなくても、画がうまいと それでプロとして成り立ったりするんですね。 普通だったらこのストーリーだと幼稚だな、 というものでも売れちゃうんです。 売れるというか、芸術として成り立つんですね。 逆に、画がこれは子供が描いたの?という作品でも、 とにかくストーリーが面白かったり。 いろんな魅力があるんですよ。 でも、僕には理解できないものもありますが(笑)。

聞き手: これはすごいと感銘を受けるものは今でもありますか?

荒木さん: それはもうたくさんあります。 若い人たちはすごいですよ。 でも逆に、画もうまくないし、ストーリーも面白さが わからないけど売れる、という作品もありますね。

聞き手: 東北大学での講演時にもストーリーは 起承転結が非常に大事という話もされていたそうですね。

荒木さん: そこから完全に外れているマンガでも、 かなりファンがいたりとか… それはそれで、すごいですけどね。

聞き手: そうした懐の広さというのもマンガの持つ 魅力かもしれませんね。一方で、海外では マンガはどのように受け止められているのでしょうか。

荒木さん: フランスのマンガは「バンド・デシネ」というのですが、 その描き方はこちらとは明らかに違います。 例えば、日本ではまず表紙に主人公を描くんですよ。 メインのキャラクターをバーン!と。 それを、ルーヴルのスタッフは表紙にキャラクターを 描いてくれるなというんです。 ルーヴル美術館は人物の背景として描いているのに、 背景のルーヴルをメインで描いてくれって。 確かにフランスのバンド・デシネを見ていると、 表紙のメインが背景なんですよ。

聞き手: 主人公はどうなってしまうのですか?

荒木さん: 主人公は背景のどこかに、 よ~く見ると小さく写っていたりとか、 建物の上を飛んでいる飛行機に ちょっと乗っていたりとか、 運転している車の操縦席からちらっと 見えていたりとか(笑)。 そういう画を描いてくれって言われました。 逆に、日本の場合は絶対にファッション雑誌の 表紙の様に主人公が前にガーン!と出ている。 そこはまるで違いますね。

聞き手: 正反対の価値観なのですね。

荒木さん: ええ。だから、「日本はこういうやり方なんです」って 説明して描いたんですよ(笑)。 なかなか分かってもらえなかったですが、 「日本人のマンガ家に依頼したんだから、 日本のマンガの方法論でやらせて下さい」と 説得しました。

聞き手: 先生がデビューされた当時の週刊少年ジャンプでは、 10m離れても見ても誰が作者なのか分かる画を描く、 というのが基本だったそうですね。

荒木さん: ええ、そうです。

聞き手: でもそれとは逆で、向うの人は一目で誰が描いたのか 分からなくても、いいと。

荒木さん: まず全体的なムードを描いてくれ、という感じですね。 あなたならルーヴル美術館をどう描きますか、みたいな。 あくまでもルーヴルがメインという考え方ですね。

聞き手: 「ジョジョ」の作者というよりも、アーティストという 位置づけだったのかもしれませんね。

第7回 今後の仙台市とジョジョ作品との関わりは? 2011.2.20

聞き手: 確かに欧米では、マンガやアニメは子供のもので、 大人が見るものではないという区分けが はっきりなされているようですね。 我々ファンは、荒木先生が遂に世界に認められて ルーヴル美術館に展示された、ということで 嬉しく思っていますが、先生にとっては、 マンガ家の立場とアーティストの立場で 葛藤があったのでしょうか。

荒木さん: 葛藤というか、そうした違いをはっきりと感じましたね。

聞き手: 京都の展覧会では、ヨーロッパの作家さんと 一緒に展示されていますが、その作家さんたちとの 交流はありますか?

荒木さん: その時来日されていた、ニコラ・ド・グレシーさんには お会いしました。

聞き手: 日本語訳が出版された際に推薦の帯を 書かれたそうですね。 先生の作品と相通じるところはあるのでしょうか?

荒木さん: いや、違いますね。読み味とか全然違うんですよ。

聞き手: ファンの方が運営されているサイトで 紹介されていましたが、先生のファンならば、 これはこれでひとつの完成された奇妙な世界のように みえるそうですが。

荒木さん: そうですね。画がものすごく上手いです。

聞き手: それはマンガというよりも絵画として。

荒木さん: ええ、なんかねこう、大人がお茶とか お酒を飲みながらゆっくり鑑賞するようなイメージで、 日本のマンガみたいに電車の中とかでバーッと読む 感じではないですね。

聞き手: アートとして鑑賞するようなイメージですか。

荒木さん: ワイン片手に鑑賞しながら、「ンー」みたいな(笑)。 あるいは週末の午後はこれを観ながら ゆっくり過ごそうかな、みたいな感じで。

聞き手: 日本でもそんなマンガ文化があれば面白いですね。 先生の画集などは、おそらくそういう楽しみ方も できると思います。

荒木さん: そうした要素も少しずつ取り入れたいとは思いますが、 でも、電車の中で読むっていうシチュエーションも また大切なんだよね。

聞き手: 家に帰るまで待ちきれない楽しみというのも ありますから。

荒木さん: そうそう。「来週どうなるんだろなあ~」って。 僕が子供のときは、少年ジャンプは本当は 火曜日発売なのに、仙台駅だけは月曜の夕方に 買えたんですよ!もう一刻も早く読みたくて 駅まで買いに行ってました。 そういうのは必要ですよね。

聞き手: ワクワク感といいますか、続きがどうなるんだろう、 という楽しみが生活の中にあるのは大事ですよね。 その意味でマンガの役割は、大きいと思います。

荒木さん: そうだと嬉しいですけどね。

聞き手: こうして話を伺っていると、先生のアイデンティティは かなり仙台で生まれ育ったことに起因する部分も かなりあるように感じますが、そのご活躍や 「ジョジョ」作品を知っている仙台市民は多くても、 実際にご出身が仙台だということは、あまり 知られていないような気がします。

荒木さん: そうかもしれないですね、僕自身あまり仙台を アピールしていなかったかも(笑)。

聞き手: たまたまあまりその機会が無かったからでしょうか。

荒木さん: 主人公が旅をするストーリーが多いので、 僕自身がどこかに定住しているイメージが ないのかもしれない… 「ジョジョ」で日本を舞台としているのは、 第四部の杜王町シリーズだけだし。

聞き手: ですが第四部で大きくファン層が広がったと思います。

荒木さん: 今度はもっとその辺をアピールしますか、 杜王町を舞台にしているのは、「ジョジョ」の作者が 仙台市出身だからだよ!って(笑)。

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聞き手: ぜひお願いします。

荒木さん: でもね、殺人鬼とか出てくる話ですから、 仙台市民の方が怒るのではないかという心配が 強いんです。本当に仙台の人たちに ご迷惑をおかけしたくないから。

聞き手: 今年(※注2010年)は市内でも事件があり、 仙台が全国的に注目された時期もありましたが、 裁判員制度も始まり自分の住んでいるところでも、 そうした事件が身近に感じる時代に残念ながら なりつつあるかもしれません。

荒木さん: 「こちら葛飾区亀有公園前派出所」のように 街にとって良いイメージがあるような作品であれば 良いのでしょうが、僕の作品のイメージだと、 ちょっと…(笑)。 あんまり大々的に仙台をそうした舞台とするのは 気が引けます。

聞き手: ところで、以前先生にエコバッグのデザインを お願いしたことがありましたが、先生に描いて いただいたものは大人気で あっという間になくなってしまいまして。

荒木さん: 嬉しいですね、エコバッグで少しは仙台市に 貢献できたのかな。

聞き手: 大変話題となったのですが、エコバックの制作枚数 自体がそれほど多くはなくて、あっという間に コレクターアイテムになってしまったみたいです。

荒木さん: 市民の皆さんに喜んでいただけるなら、 今後も頑張ります。

聞き手: 「ジョジョ」ファンの皆さんは、仙台を 聖地巡礼として訪れる方がいらっしゃるようですし、 また仙台市での「ジョジョ立ち」も大変盛り上がったと 伺っておりますので、ぜひ、仙台で「ジョジョ」を リアルに感じてもらえたらと思います。 ちなみに仙台市では「彫刻のあるまちづくり事業」を 行っていて、市のシンボルである定禅寺通りの ケヤキ並木の下などにも、ファンには「ジョジョ」の 世界観を感じさせる彫刻もありますし。

荒木さん: ああ、ありますね(笑)。

聞き手: 熱心なファンの方でしたら、「ジョジョ」とは 全く関係がなくても「捻り」が入った彫刻を見て 喜ばれると思いますが、実際に「ジョジョ」を モチーフとした作品を仙台市で鑑賞できたら、全国から ファンの方がたくさん仙台市を訪れてくれると思います。 ちなみに、仙台市役所にも「ジョジョ」の熱心な ファンがいて、 作品に登場するエピソードや 名所などを巡るルートを設定して、仙台市としても セールスポイントをつくろうという企画がありました。

荒木さん: いやそんな、恐れ多い(笑)。でも夢のような話としては、 なんだか、楽しそうですね。

聞き手: 実際に青葉区花京院にある郵便局などをファンの方が 訪れて、「郵便局なのにやっぱり緑色だ!」という話も あったそうです。普通の郵便局だけでなく、 街のいろんなところに「ジョジョ」ワールドを 見出す熱心なファンの方がいるようです。

第8回 仙台出身者はいつまでも若い?! 2011.2.21

聞き手: 「ジョジョ立ち」もそうですが、フィクションの世界に とどまらず、作品の魅力が現実世界に侵食してきて いるということだと思います。 また、2010年のNHK朝のテレビドラマ小説で 「ゲゲゲの女房」が大ヒットして、 モデルとなった水木しげる先生の故郷に たくさんの観光客が押し寄せるようになったそうです。 テレビ放映前は、ファンの方が訪れるくらいだったのが、 放映後には人口の数倍の一般の観光客が訪れるように なったそうで、経済効果としても大きな効果があったと。

荒木さん: 水木先生ご自身がもう素晴らしいですからね。

聞き手: せっかくですから、今後は何か仙台市でも、 「『ジョジョ』の作者・荒木飛呂彦のルーツはここにあり」 みたいな企画などできたらと思います。

荒木さん: いや、非常に光栄なんですが…恐縮してしまいます。

聞き手: ご存じかと思いますが、仙台市は自然環境に恵まれて いるものの、正直なところ全国からどっと人が 押し寄せる観光地というよりも、どちらかといえば 実際に暮らしてみて、 いいなぁと思う土地柄だと思います。

荒木さん: そうですね。

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聞き手: ですから、仙台の良さをPRする上でやはり 「人」がカギになると思います。 仙台の良さを知っていただき、 実際に住んでみていただいて、 ああ、本当に素晴らしいですね、 と思っていただくためには、そこで暮らす人たち自身が いいところだと実感していることは前提ですが、 その上で人と人とのつながりによって 魅力を発信していくことが大切だと思います。 「ジョジョ」ファン同士には非常に固い絆があると 思いますから、仙台市の地域振興、魅力の発信という 観点からもぜひ先生のご協力をいただければ、 と思っております。 「水木しげるロード」ならぬ 「荒木飛呂彦『ジョジョ』ロード」ですとか。

荒木さん: 本当に夢みたいな話ですね。 仙台市のために協力できることがあったら これからも何かできればと思っています。

聞き手: ありがとうございます。 生命科学研究者の瀬藤光利さんが、 アメリカの医学生物学誌「cell」の表紙用イラストを 先生にリクエストされたように、 リアルタイムで「ジョジョ」を読んで育った世代が、 作品から受けた影響をマンガ以外のフィールドでも どんどん現す時代になってきたと感じます。 また、新たな若い読者も増えているようですし。

荒木さん: すごく嬉しいですね。 これからも幅広い世代に渡って読んでいただけたら いいですね・・・水木先生のように。

聞き手: やはり長く連載されているからこそ、 そうした意味でも広くアピールできると思いますので 今後も末永いご活躍を願っております。

荒木さん: 水木先生はもうすぐ90歳になられますが、 それでもなお素晴らしいですよね。

聞き手: 以前先生は、週刊誌連載では非常に体力を消耗するので、 連載は50歳くらいが限界、というようなことを おっしゃっていました。現在は月刊誌での連載となり、 週刊誌よりはいくらかご負担が減ったと思いますが、 今後はどのくらいまででしたら大丈夫と 感じられていますか。

荒木さん: いや…こればっかりは、本当に分からないですね。 でも、あと10年は最低でもやりたいですね。

聞き手: 先生は1960年生まれと伺っていますが、 こうしてお話を伺っていながら、 正直に申し上げますがとてもそうは見えません。 噂では「ジョジョ」の登場人物たちと同じく 「波紋使い」ですとか、 奥様が波紋の使い手で、ご自宅で「波紋」を 浴びているとか…

荒木さん: いや歳相応ですよ(笑)。 「波紋」じゃなくて…仙台の人は、 皆さん若いからだと思いますよ(笑)。

聞き手: 先生に限らず仙台出身者は若く見える人が多いと。

荒木さん: こうした自然環境や気候とか、お米や食べ物とか… そうした要素があるかも。

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聞き手: では先生もこのまま変わらず、あと私たち仙台市民も、 いつまでも若々しく「ジョジョ」を楽しむことが できますね。

荒木さん: でも、この仕事は本当に危ないんですよ。 油断できませんから。 手塚先生は60歳で亡くなられていますし。

聞き手: 創作にエネルギーを注ぎ込んでしまうから なのでしょうか。

荒木さん: どうしても無理してしまうのかもしれないですね。 若い時とは違ってもう徹夜できないのに、 描いているとやれると思ってしまうとか。

聞き手: 描いているとアドレナリンが出て 疲れを感じられなくなってしまったりするのでしょうか。

荒木さん: 集中していたら、あっという間に時間が飛びますから。 気づいたら何時間も同じ姿勢で描き続けていて、 腰がもう…(苦笑)。

聞き手: まるでディアボロのスタンド「キングクリムゾン」 の攻撃にあったみたいに、時間が消し飛び、 腰の痛みだけが残る。 私たちも「波紋」が使えるのでしたら、 先生に生命エネルギーを送りたいですが(笑)。

荒木さん: ありがとうございます。 いつでもエネルギーは欲しいですので(笑)。 でも今日は、皆さんから元気のエネルギーを たくさんいただいた気がしますよ。

第9回 荒木先生からのメッセージ 2011.2.22

聞き手: では最新作の話をお伺いします。 先日(2010年11月)、第7部「SBR」の第22巻が 発売されました。その中で、 我々行政機関で働く職員にとって 非常に印象的なエピソードがありました。 この世の不幸をどこか自分たちの住む地域とは 別の世界へ追いやるという絶大な能力を得た アメリカ大統領が、世界中のすべての人間が 幸せになることはありえないので、 自分は愛国心に基づいて、この能力を使って 正しい行いをしていると主張するシーンがあります。 行政職員としては、より多くの市民が幸せを 感じられるような施策を行うことを考えながら、 一方ですべての市民にとって満足のいく施策は 難しいというジレンマがあり、 やはりこの大統領の主張にも 肯かされるところもあるように感じてしまいました。

荒木さん: 予め断っておいた方がいいと思いますけど、 このヴァレンタイン大統領は、悪役ですからね(笑)。 参考にしないで(笑)。でも、実はある意味では その主張が正しいという悪役にしたかったんです。

聞き手: そうですよね、実際、ストーリー上では主人公が そのシーンで「あれ?間違っていたのは僕?」 みたいな感じで…

荒木さん: そうそう、揺れています。

聞き手: 先生が「悪役」と言われるのでそのセリフを 真に受けてしまってはダメなんでしょうが、 リーダーシップとしてはありなのかな、とも思えますが。

荒木さん: いや、現実世界ではありだと思いますよ。 僕自身もこの大統領のようなリーダーシップの方が、 本当は好きです。

聞き手: 上に立つものとしては、やはりそうした覚悟を 背負う必要があると。

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荒木さん: そう。全員にとっての幸せが無理なら、やはりどこかに 視点を置いて考えなければいけないでしょうから。 結局物事において絶対的に正しいとか悪いことって そんなにないと思います。だからこそ、 もうここだという線引きが重要だし、 政治はそのための仕事でしょうから。 それで、覚悟を持って決めたからにはもう、 突き進んでいくべきだと思います。 ちょっと何か言われたくらいで心が折れたり、 前言撤回したりすることは良くないなと思います。

聞き手: そういう意味では、ヴァレンタイン大統領は、 政治家としてはOKですよね。 もうこのまま行くしかない。

荒木さん: 悪役ですけどね(笑)。

聞き手: 一方で現実世界は、いろいろな価値観がぶつかり合う 本当に難しい時代です。 今の政治にヴァレンタイン大統領のような精神を 求めることも厳しいかもしれませんが、 それでも寄って立つべき信念は必要ではないか と思います。大統領は「愛国心だ」と言っていますが、 私たち一市民として持っておくべき信念としては、 先生の作品のテーマにつながる話かと思いますが、 改めてお聞かせいただけませんか。

荒木さん: 愛国心とまではいかなくても、 やはり家族を守ろうという感情や、 あるいは自分が生まれた故郷や今暮らしている地域 への想いなどに繋がる部分だと思います。

聞き手: 「ジョジョ」が「人間賛歌」をテーマとしている といわれる由縁ですね。やはり先生の仙台への想いも そこから来ているんですね。

荒木さん: そこの辺を…自分としては、おろそかにして 欲しくないですし、おろそかにするような人には 上に立って欲しくないと思いますね。

聞き手: 仙台市役所職員は自分の住む街を思う気持ちは もちろん持っていると思いますが、その上でさらに 覚悟を持って仕事に臨まなければいけませんね。

荒木さん: そうですね。厳しい時代ですから、 風当たりは強くなるかもしれませんが。

聞き手: そこはやはり、「ジョジョ」を愛する市職員としては、 作品で描かれているような「『正義』の輝きの中にある 『黄金の精神』」を参考にしたいと思います。

荒木さん: 「ジョジョ」作品の中での戦いだと、 最後まで勝ち残るのは、 多分一人二人くらいしかいない世界ですし、 また現実も相当厳しい時代ですが、頑張ってください。

聞き手: ありがとうございます。

聞き手: さて、広瀬川ではNPO団体が約20年振りに 貸しボートを復活させたり、 市民団体が中心となって企業や大学などと 流域一斉清掃活動などを行ったりと、 市民の皆さんがいろいろな活動を行っています。 最後に、先生から広瀬川に関わる活動を行っている 皆さんへ応援のメッセージをいただけますか。

荒木さん: 広瀬川だけでなく、こうした自然環境を守っていく上で、 これからの時代は行政だけで何もかもやっていくことは 不可能だと思います。 昔は、例えば神社の落ち葉掃除などを 近隣に住む人たちが自然にやっていましたよね。 先ほど愛国心の話もありましたが、 そこまでいかなくても 市民が自分の住む街を大切に思う気持ちから、 ボランティア活動などを行うことは とても大切なことだと思います。 そうした活動をされている方が広瀬川に たくさんいらっしゃることは、 素晴らしいことだと思います。

聞き手: 市民一人ひとりがそうした地域を愛する気持ちを持って、 連携していければ広瀬川だけでなく仙台市も さらに素晴らしい街になりますよね。

荒木さん: そうですね。 誰か一人の力で何とかなるものではないと思いますから。 そのためにも、みんなで芋煮会をしたりして 仲良くなったり、付き合いが広がっていけば いいですよね。何よりも楽しいし(笑)。

聞き手: 芋煮会はコミュニケーションを深められるだけでなく、 広瀬川をこれからも守っていくことにつながりますね。

荒木さん: そういった活動がさらに広がっていくことを 願っています。僕もそのために何かできることが ありましたら協力したいと思います。

聞き手: ありがとうございます。 先生の広瀬康一君にこめられた想いに負けないように、 私たちもこれから頑張りたいと思います。 今日はお忙しいところ本当にありがとうございました。

第10回 こぼれ話 2011.2.23

聞き手: 今回は、ここイタリアンレストラン「アル フィオーレ」 をインタビュー会場としてお借りしました。 こちらのお店からは、ご覧いただいているように、 広瀬川と仙台市街地を見下ろす 素晴らしい景色が望めます。

荒木さん:そうですね。 この場所にこんな素敵なイタリアンレストランが あるなんて、僕が仙台にいた頃には 考えられなかったことすね。

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聞き手: このロケーションも素晴らしいのですが、 こちらのお店に伺った理由はもう一つあります。 「ジョジョ」第四部、「杜王町」という日本の架空都市を 舞台とした「ダイヤモンドは砕けない」編で、 主人公「東方仗助」と親友の「虹村億泰」が、 イタリア料理店「トラサルディー」を訪れるという エピソードがあります。

荒木さん: スタンド使いのシェフ・トニオさんが、スタンドで 料理を食べた人を健康な状態に直してしまうというお店。

聞き手: 私も大好きなエピソードで、「ジョジョ」ファンならば そんなお店が現実にあった絶対行きたい、 というお店ですが、実はこのお店のシェフ目黒さんも、 スタンド使いではありませんが、様々な食材も 手づくりされていて、こちらに吊るされている ハムなどもシェフ自らが作られているんです。

荒木さん: トニオさんみたいに料理にスタンド「パール・ジャム」 が入っているかも。

聞き手: 先生、肩こりや眼精疲労などの症状はありませんか。 でも今日は、食事を召し上がっていただく時間がなくて 大変残念ですが・・・ ところで、「ジョジョ」第五部「黄金の風」編で イタリアを舞台とした作品を描かれていることもあり、 先生はイタリアが大変お好きなのではないかと 思っておりました。

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荒木さん: 実は東京に行っていちばん衝撃を受けたのは、 パスタなんです。 こんなに美味しい食べ物があったのかー!って、 本当に圧倒的な衝撃でした。 僕が仙台にいた頃は、 今のようなイタリアンレストランはなかったんですよ。 こんな素敵なイタリアンレストランがあるというのは、 当時から考えたら夢みたいです。

聞き手: こちらの目黒シェフは先日TBS「情熱大陸」に出演され、 仙台のイタリア料理界では注目のお店で、わざわざ 東京から足を運ばれるお客さんもいるくらいです。 ちなみに、お店のメニューも、お客さんの好みに応じて シェフと相談して決めるというのが基本です。

荒木さん: 同じじゃないですか。 まさか、「ジョジョ」の方が後からだったりして…

聞き手: お店は開店して間もなく6周年、 現在の場所に移転されてからは、4年周年とのことです。

荒木さん: よかった、「トラサルディー」のオープンが先ですね(笑)。 ところでこのタルト、香りが素晴らしいですね。 僕は食材の香りを活かしている料理が好きなんですよ。

目黒シェフ: 紅イモのアイスクリームピュレを添えた 洋ナシのタルトです。 その上にパルミジャーノ・レッジャーノを 振りかけています。

荒木さん: 本当にパルミジャーノ・レッジャーノの香が・・・すごい。 あとこの紅イモの甘みが・・・美味しいですね~。

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聞き手: ぜひ今度仙台にお越しになる際にはこちらで食事を 召し上がっていただければと思います。 シーズンになったらジビエ(野獣)料理もお勧めです。

荒木さん: ジビエといっても、例えば海側でとれる雉と野山で 獲れる雉とでは、潮風とか食べる餌の違いらしいですが、 味が違うらしいですよ。 そんな話を聞くと、その違いを探ってみたいですね。

聞き手: では今度、こちらのお店のシェフに 海側の雉と山側の雉を取り寄せていただいて…

荒木さん: 二種類出していただいて、今度ぜひ 食べ比べしたいですね(笑)。 でもこちらのデザートをいただいたら 何だか元気が出てきましたよ!

聞き手: シェフ、先生がデザートを召し上がって 元気が出たそうです! やっぱりスタンド使いだったんですね(笑)。

目黒シェフ: ありがとうございます(笑)。

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