Globe-Trotter Travel Guidebook (July 2022)

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Published July 14, 2022
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Globe-Trotter Travel Guidebook (July 2022)
Interview Archive
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An interview with Hirohiko Araki about his various experiences while traveling. It was published in the JoJo's Bizarre Adventure: Globe-Trotter Travel Guidebook, released on July 14, 2022.

Interview

HIROHIKO ARAKI INTERVIEW
荒木飛呂彦

『ジョジョ』をめぐる冒険の旅

世界中の国々を舞台に、さまざまな形の「人間讃歌」の物語を描いてきた荒木飛呂彦。そんな彼に、作品に影響を与えた場所や旅の魅力などを直撃取材。「旅」というテーマから『ジョジョ』の裏側に迫る!


荒木飛呂彦の「旅」の流儀
パラヴィツィーニ庭園
Villa Durazzo Pallavicini
パラヴィツィーニ侯爵が造らせた北イタリアの港湾都市ジェノヴァにある庭園。1840~1846年にかけて建てられ、彫刻が配された湖やメルヘンチックな建造物などがある。
URL www.villadurazzopallavicini.it

――荒木先生はこれまでに取材旅行でどんな国々を訪問されましたか?

 『ジョジョ』に出てくるところくらいですよ。実際に道順をたどっているわけではないですが、第3部なら香港、シンガポール、インド、アラブ首長国連邦、そしてエジプト……。あ、パキスタンとサウジアラビアは行っていないです。それからアメリカ。ヨーロッパは休暇も兼ねた旅行も多いですよね。イギリス、イタリア、フランス……サンモリッツへは行ってないけど、スイスを越えてフランスに入ったりもしました。

――メキシコのアステカ遺跡はいかがですか?

 メキシコは実は行っていないんですよ。当時の図鑑とかで情報を得て描いていました。あの頃は今ほど便利なところではなかったんですよね。

――それは少し意外でした。石仮面のルーツにメキシコを選ばれたのはどういった理由があったんでしょうか?

 「正体不明のモンスター」じゃなくて、「人類の英知としてのモンスター」を描きたかったんですよね。あのあたりは生贄の儀式があったと聞いていますので、それをルーツにしようかなと。あとは、文明が滅んでしまった理由も知りたいという気持ちがありました。なんでこんなにすばらしい文化があるのに人間には盛衰があるのかな、という。
 昔、NHKで『未来への遺産』という世界の遺跡を紹介する番組をやっていたんですよ。ジャングルの奥に埋もれている遺跡にまで実際に撮影に行く、当時としてはすごい番組でした。そのなかで、まだ観光地化されていないメキシコのピラミッドが取り上げられていたんです。僕は10代の頃にそれを観たんですが、植物と遺跡がせめぎ合うような佇まいがもう圧倒的で。そこから世界の失われた文化に憧れを抱くようになったんです。

――そうだったんですね。取材に行かれる国はどうやって決めるんでしょう? エジプトへは担当編集の方からの提案で訪問されたそうですね。

怪物庭園
Parco dei Mostri
ローマから北へ約100kmのボーマルツォにある。16世紀の地方貴族が富と権力の証として造成した園内には、大口を開けたモンスターなど奇妙な石像が満載。
URL www.sacrobosco.it

 あれはエジプト好きの編集さんの趣味なんですよ。「会社のお金でエジプトへ取材に行こうよ。漫画家として行ったほうがいいんじゃないの?」って誘われて。僕としては砂漠を歩くのは嫌だったので「えー⁉」って感じでしたけど(笑)。いざ行ったらやっぱり感動しましたね。そこから「じゃあ次の作品は、強敵がエジプトにいて、主人公がそこへ向かっていく物語にしようか」というアイデアが生まれたんです。

――物語を先に考えて、それを描くための材料を探しにいく、というわけではないんですね。

 逆ですね。「面白そうだな」というロマンの匂いだけで行ってみて、文化に触れて、「そこを舞台にしようか」と。そういうふうに考えます。最初に取材旅行に行ったのはイギリスのロンドンでした。「有名な都市だから」という理由で。『シャーロック・ホームズ』の文化や当時の時代背景、町並み、幽霊の話だとかに触れて、新作はロンドンの切り裂きジャックなんかをテーマにしようかな、と考えたのが『ジョジョ』なんですよね。イギリスのあのムードとか、産業革命時代からまた人間が盛り上がってきてる感じとかね。

――旅が『ジョジョ』を生み出すきっかけになっていたんですね。

 イタリアに初めて行ったのも、また別の編集さんから、理由もなく「イタリアに行こう」と誘われたのがきっかけでした。80年代のことですけど、当時は食文化から何から本当に衝撃的で。「この黒いスパゲッティー、味と見た目が一致していないなぁ!」と思いましたね(笑)。すごくすてきな場所だったので、その後も取材関係なく何度も行っていて。それで第5部の物語を考えていたときに、「イタリアを回る話にしよう」ということになったんですよ。ファッションとキャラクターを一体化させるというか、そういう発想ですね。

――取材旅行ではどういうところに着目するのでしょう?

 僕は地形の違いとか、デザインの違いとかに興味があるんですよね。川がどう流れているかとか、柵がどう設置されているかとか、植物の植え方はどうなっているかとか。図鑑やネットの情報だけではわからないので、そういう部分を見にいきます。あと、その土地の名産品を知るのもいいですよね。海産物なら、それがどんな味かはもちろん、港ができた理由とか海流とか。それらは全部つながっていると思うので、実際に見たり食べたりして背景を知りたいんですよね。

――なんだか岸辺露伴の『リアリティ』に関する考え方と通じるものを感じます。

 あれは漫画だからちょっと大げさですけどね(笑)。でも、一理あるんですよ。やっぱり、自分で体感しないとわからないことってありますから。

ボルゲーゼ美術館
Museo e Galleria Borghese
ベルニーニ作の「アポロンとダフネ」をはじめ、貴族出身のボルゲーゼ枢機卿が集めたイタリア屈指のプライベートコレクションを展示。訪問の際は要予約。

――旅先で必ず立ち寄るスポットはありますか?

 僕は旅行って「散歩して、食べること」だと思うんですよ。だから、歩いて地形を見たり、おいしいものを食べたりする以外のことはあんまりしないです。ただ、いい絵や彫刻は見たいので、名画や名彫刻、名建築がある場所はよく行くかな。最近は庭に興味がありますね。貴族が造ったちょっと変な庭園とか、独特の哲学があって面白いですよ。

――では、旅に必ず持っていくものは?

 音楽です。昔ならウォークマン®、今だったらiPod。徒歩で山を歩くときとか、本当はなるべく荷物を軽くしたいんですけど、ウォークマン®だけは置いていきたくないんです。やっぱり、心が救われるんだよね。遺跡とか山奥とかの僻地で聴くピンク・フロイドやサンタナはいいですよ。

インスピレーションを受けた場所

――先ほど庭園のお話がありましたが、特に印象に残っている庭園はどこですか?

 イタリア・ジェノヴァの「パラヴィツィーニ庭園」は、奇妙な文化の研究をされている荒俣宏さんの本で知った場所なんですが、すごくよかったです。貴族の館の庭の中に洞窟や八角形の建物があったり、階段を上ってると思ったら下ってた、みたいな変なところでね。アミューズメントパークにいるような気持ちになりました。でも、観光客は僕のほかにはひとりくらいしかいなかったです(笑)。同じくイタリア、ローマ近郊の「怪物庭園」もよかったですね。金髪の小さな子どもが遊んでいたりするだけで、まるで妖精みたいで、この世のものとは思えない光景でした。

――では、絵画や彫刻などの美術作品で特にインパクトを受けたものは?

 ローマの彫刻は実際に見ると立体感をすごく感じられますよね。なかでもボルゲーゼ美術館にある「アポロンとダフネ」(→P.92)は印象に残っています。モチーフになっている神話は、男の子(アポロン)に追いかけられた女の子(ダフネ)が木に変化しちゃうというお話なんですよ。それってなんだか、スタンドみたいですよね。

――第7部の「シュガー・マウンテンの泉」を思い起こします。八角形の建物というと、第8部の大年寺山愛唱の家を連想しますし、旅先で見た作品や庭園からもインスピレーションを得ているんですね。

雲崗石窟
Yungang Grottoes
中国の山西省大同市にある5~6世紀に造られた仏教石窟。2001年に世界遺産に登録されており、約1kmにわたる石崖に数多の美しい仏像が彫られている。
URL www.yungang.org

 そうですね。エジプトの遺跡や貴族の庭園もそうですけど、「なんでこういうものを造るんだろう?」と造られたときの物語を考えたりするのも好きなんです。人間の営みを感じるというか、「人間って不思議だな」と思わせられるというか。『ジョジョ』には登場していませんが、中国・大同にある、石窟に仏さまが彫られているところ(雲崗石窟)もすごかったです。「昔の人って、なんでこうすごいことをするんだろうな」と思いました。
 アメリカだと、ツーソンにある飛行機の墓場みたいなところ(デビス・モンサン空軍基地)も感動しました。砂漠のなかに古い戦闘機が太陽に照りつけられて見渡す限り置いてあるんですよ。「本当にこの世のものなのかな?」と思うような光景で、UFOを想像したりね……。あとはデスバレー。そこでは風か何かで岩が動いたりするらしくて、そういうエピソードからインスピレーションをもらっています。

――第7部に出てきた「悪魔の手のひら」そのものという感じですね。作中には架空の町も多く登場しますが、そういった町にもモデルはあるんでしょうか?

 モデルはあるけど、あんまり取材をしていなかったり、ふたつの町を一緒にしたりしています。あとは悪い人が住む場所にするときもフィクションの町にしますね。地元・仙台をモデルにした杜王町は、殺人鬼がいる町だからということで気を使って架空の町にしたんですけど、仙台の人は喜んでくれたみたいですね(笑)。

――キャラクターの名前で仙台の地名が出てくるのも、地元の方にはうれしいポイントかもしれないですね。町のシンボルの「広瀬川」や温泉地として有名な「作並」だけでなく、「岩切」や「苦竹」といったちょっとコアな地名も出てきていて。

 あのあたりは僕の遊び場だったんですよね。サイクリングでよく苦竹や岩切を通って松島のほうに行くんですよ。仙台は海と山が近いので、ウインタースポーツもマリンスポーツもできるのがいいですね。僕は22歳まで仙台に住んでいたんですが、僕自身が育つと同時に町自体も成長している時代で。よく遊んでいた海辺が今は石油コンビナートになっていたり、そういうノスタルジーもあったりします。

――では、『ジョジョ』を描くうえでいちばん影響を受けた国はどこですか?

 やっぱりイタリアだと思います。美術やファッション、食べ物……どれも影響を受けましたけど、それらは全部一体化していると思うので。
 イタリアには本当に何回も行きましたね。多いときは、第4部、第5部の連載をやりながら、合併号の休暇を利用して、年3回とか。昔は「飛行機で寝ればいいや」と、寝ないで行ったりもしていましたけど、今だったら間違いなく体調が悪くなりそうです(笑)。

デビス・モンサン空軍基地
Davis Monthan-Tucson Air Force Base
アメリカのアリゾナ州ツーソンにある空軍基地。退役した機体の保管所でもあり「飛行機の墓場」として知られる。300機以上の航空機を展示するピマ航空宇宙博物館が隣接する。
奇妙な旅のエピソード

――『ジョジョ』にちなんで旅先での“奇妙な体験”があれば教えてください。

 おばけを見たことはありますよ。僕はあんまり幽霊とか怖くないんですけどね。イギリスのエディンバラでは、ホテルの部屋に女の人がいました。ドレスを着た人がウロウロしていて、僕がベッドに横になると乗ってきたりするんですよ。こっちも疲れているから「めんどくさいなぁ」って感じで(笑)。

――すごいですね。どう対処されたんですか?

 いや、もう(振り払う動作をしながら)えぇーい!って(笑)。
 日本でも、中高生くらいの頃に父親とキャンプをしていたら、夜、テントの周りを誰かがぐるぐる回る気配がして。最初はひとりなんだけど、だんだんと増えていくんです。ヤンキーかとも思ったんですが、テントの入口を開けたらなんだかヤバそうだと感じて、朝まで「すみません、すみません」と祈っていました。
 イタリアではね、写真を撮ると映るんですよね。水面が髑髏になっていたりとか……。やっぱり、歴史があるところは何かがあるのかなと思います。敬意は払うけど、あんまり触れないようにしますね。

――作中ではひったくりや置き引きのシーンもありますが、そういったトラブルは?

 あります。イタリア・ミラノの置き引きはすごかったですよ。車のトランクに荷物を積んで、ドライバーがロックをかけるまでのちょっとした間に盗むんです。あまりのすばやさに「どうりでサッカーが強いわけだよなぁ!」と思いました(笑)。入っていたのはパジャマくらいだったのでまだよかったですけど、でもパジャマがないのもけっこうつらいんですよね。ほかにも、カメラのフィルムを盗まれたこともありました。取材で撮影したフィルムを10本くらい入れていた鞄をまるごと。もう、何しに来たんだって感じでしたよね。

――それはつらいですね。ほかに動物による被害などはありますか?

 日本ではヒルに吸われることが多いです。群馬県と長野県の県境あたりをトレッキングしていると、足元から這って登ってくるんですけど、けっこうなスピードなのでビックリしますね。足を吸えないと最終的にはここに(首元を指しながら)引っつくんですよ。

――そんな頻繁にヒルに……(吸血鬼を引き寄せてる⁉)。それにしても『地球の歩き方』の読者も多く経験する旅のトラブルは、荒木先生も体験されているんですね。

デスバレー国立公園
Death Valley National Park
カリフォルニア州とネバダ州にまたがる広大な国立公園。北米で最も低い土地にあり、中心部は海抜-86m。特殊な気候条件が重なったとき、大きな石が動く、不思議な現象が起こる。
URL www.nps.gov/deva

 そうですね。動物はなめちゃいけないですよ。意外なところから来ますからね(笑)。スリは、にぎわっている観光地で体を押してくる人がいると「あ、来たな」とわかりますね。

――ちなみに旅に『地球の歩き方』を持って行かれたことはありますか?

 ありますよ!特に地図が正確で助かっています。ヴェネツィアの迷路のような道も、ちゃんと書いてあって。よく、必要な町のページを切り取って持っていったりしています。

――ありがとうございます!新型コロナウイルスで世界が激変してしまいましたが、コロナ禍前に行かれた最後の旅行はどちらでしたか?

 2019年の秋に仕事で行ったイタリアです。あの頃はよかったよねぇ。好きなものを食べて飲んで(笑)。みんなまた旅に行きたいですよね。

――荒木先生が今旅したい場所はどこでしょう?

 今はトレッキングに興味があるので、アメリカのイエローストーン国立公園とかを歩いてみたいです。あとは、イギリスのスコットランドとか、北のほうもいいですね。ネス湖とか。少し寂しそうで神秘的で、ロマンがあります。日本なら金沢に興味があるかな。原画展もありますしね(※)[a]。福井の恐竜博物館や四国にも行ってみたいです。

――最後に、荒木先生の考える「旅」の魅力を教えてください。

 「おいしいものを食べて、散歩する」、それに尽きると思います。散歩しながら何かを見たり、感じたり、文化に触れたりして、心の成長や癒やしを見つけていくこと。それが、僕の考える「旅」の魅力ですね。


秘蔵 ― おみやげコレクション

バステトの置物
エジプト旅行の際に2000円くらいで購入したという。小ぶりながらずっしりとした重さ。

バステトは人の罪を見ている神様なんですよね。今も玄関に招き猫的な感じで飾っています(荒木)

ヴェネツィアンマスク
手のひらサイズの精巧なヴェネツィアンマスク。

おみやげは資料になりそうだと思ったときとか、インテリアにいいなと感じたときとか、そのときの気分で買うことが多いですね(荒木)

ARAKI’S EYE
取材旅行フォトギャラリー

荒木先生が取材旅行で撮影した貴重な写真を一部公開!
いったいどんなところに着目しながら取材しているのか?
そのまなざしの先を覗いてみよう。


アメリカ・シカゴのユニオン駅
全米約500の駅とつながるシカゴの中心駅。待合室のグレートホールは聖堂を思わせる荘厳な佇まい。ここではベンチや天井、柱やライトなどを撮影。

アメリカ・シカゴ郊外の森
「木の生え方とか、一見何でもない柵がどうなっているのかとかも大切なんですよ」と見せてくれた写真。シカゴ郊外の牧場のそばにある森の風景だという。

イタリア・ヴェネツィアのサン・ジョルジョ・マジョーレ教会
「取材ではなるべく高いところから見下ろした写真を撮りたいんです」と語る荒木先生。左の写真は教会の鐘楼からの景色を切り取ったものだ。ブチャラティとトリッシュがボスの元へ行くシーンで描かれた像(右)など多数撮影。


Gallery

Notes

  1. ※本インタビューは金沢会場の原画展開催前に行っています

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