Billboard Japan (August 2021)

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Published August 25, 2021
Incomplete translation
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An interview with Hirohiko Araki and Akihiro Watanabe from Billboard Japan discussing about Prince and JoJo's Bizarre Adventure.

Interview

Five years have passed since Prince suddenly passed away. Even now, the lone genius captivates artists and listeners all over the world. Originally recorded in 2010 but locked away for 11 years, the 'phantom' album, "Welcome 2 America" has been released. The album contains messages about the control of information by mass media, racism, and prejudice, all of which had been bothering Prince for many years. The album gives us the opportunity to re-examine the problems that we are facing today.

One man who loves Prince and incorporates his influences into his own works is the manga artist of JoJo's Bizarre Adventure, Hirohiko Araki. Known to be one of Prince's biggest fans, Araki began the 8th part of JoJo, "JoJolion", in the June 2011 issue of Ultra Jump and ended it this August. Now, even as "JoJo loss" is spreading throughout the entire country, he responded to our offer for an interview by saying "If it's for Prince." and allowed us some of his time. We present to you this rare interview where he talks about his love for Prince hidden within JoJo, and the music which supports his work.

—Congratulations on concluding JoJolion's serialization. How are you feeling right now?

Hirohiko Araki: Since I was able to properly conclude the story, instead of leaving it kind of vague, I'm feeling creatively satisfied. When you work like this every day, it takes a toll on you physically ... So right now I'm trying to "reset" that.

—This story arc was serialized over a period of 10 years, making it the longest in the series. Since it began in 2011, the story was deeply influenced by the Tohoku earthquake and tsunami, which you yourself commented on in the manga. And in terms of approaching the "Dilemma," there are depictions that bring to mind the coronavirus pandemic as well. It seems like it's been a rough 10 years.

Araki: These 10 years were rough, and it also felt like a decade of climbing upwards. As if I was headed toward a singular goal. The previous series (Part 7), "Steel Ball Run", was also a story about a hero who charged forward toward his goal. It feels like the end of an era, like I was able to bring the story to its proper conclusion.

- In addition to Prince, there are many other artists' works scattered throughout JoJo, such as Queen, the Rolling Stones, and the Beatles. Are there any artists that you currently love listening to?

Araki: I listen to just about everything, but not as much as I used to. That includes stuff like Aphex Twin and ambient music.

—They make an appearance in JoJolion as the "A. Phex Brothers", right?

Araki: I may not reference them in Stand names very often, but I do enjoy that type of music. I listen to Pharrell Williams' group as well.

—You mean N.E.R.D?

Araki: Yes. Bruno Mars and Mark Ronson's “Uptown Funk” is similar to Prince, too. It has a weird 80's beat, and it reminds me of Prince in that it's not together all the time, and has irregularity to it.

—Billie Eilish's second album "Happier Than Ever" came out the other day. Have you listened to it?

Araki: Not yet. I listened to her previous album, though. She also has some Prince-like vibes.

—She's kind of the leading star of today's youth.

Araki: She is. But I also feel like music these days has a “mentally unwell” aspect to some extent (laughs). Most of it comes from a place of pain, which is used to create sounds that strike a nerve in the listener. That's essentially what youth are like nowadays, right?

- Including Jotaro Kujo, the Joestar group in Part 3 is made up of people from various races, right?

Araki: That's right. But I wasn't able to include any women. It didn't feel right to have pretty girls in life-or-death fistfights or scenes where they would have to take a punch from an Ora Ora barrage. That wasn't an issue when it came to Jolyne Cujoh in Stone Ocean.

—Because the times changed?

Araki: It could have been the times. Shonen Jump readers stopped caring if we used female characters. Before, they would have outright rejected them and if a character got rejected, the series was basically over. That type of thing was still prevalent in 1980s Japan, but now Shonen manga is starting to reflect the current social climate and how we view gender. In Part 3, I really wanted to include a girl. And I did for a bit...

—You mean Anne, the runaway girl?

Araki: I included her, but then I retired her. At the time, I really liked the idea of having a girl around, but it simply wasn't meant to be. With the long and difficult journey ahead of them, I had to change it back to being all men.

—That kid wasn't a Stand user, though.

Araki: I could have let her develop one. That's not really a problem at this point. Even the smallest person can have a powerful Stand.

—The Joestar group even recruited Iggy, a dog, into the group.

Araki: That's true. I really wanted there to be all sorts of people within the Joestar group. I constructed it with the time period and the film “Seven Samurai” in mind, and wanted to include members to reflect that.


[Translated by MetallicKaiser (JoJo's Bizarre Encyclopedia)]

プリンスが急逝してから早5年――今もなお、世界中のアーティストやリスナーを虜にしている孤高の天才が、2010年にレコーディングしたものの、お蔵入りにしていた“幻のアルバム”『ウェルカム・2・アメリカ』が、11年の時を経てリリースされた。そこには、彼が長年頭を悩ませてきたマスメディアによる情報のコントロールや人種差別、偏見に対するメッセージが込められており、今私たちが直面している問題を再度見つめ直すきっかけを与えている。

 プリンスを愛し、彼から受けた影響を自身の作品に色濃く投影させているのが、『ジョジョの奇妙な冒険』の漫画家・荒木飛呂彦だ。プリンスの大ファンで知られる荒木は『ウルトラジャンプ』で2011年6月号から連載が始まった第8部『ジョジョリオン』の歴史に幕を下ろしたばかり。現在『ジョジョ』ロスが全国で広がっているが、そんな彼にプリンス愛を語ってもらおうと取材をオファーしたところ、「プリンスのためなら」と時間を割いてくれた。『ジョジョ』シリーズに隠されたプリンス愛や自身の活動の支えとなっている音楽について語る貴重なインタビューをお届けする。

――『ジョジョリオン』の連載お疲れ様でした。今のお気持ちはいかがですか?

荒木飛呂彦:なんとなくの完結ではなく、ちゃんと完結したので創作的には満足しています。仕事を毎日続けていると、身体へのダメージがありますので……。今はその辺をリセットしているかな。

――連載はシリーズ最長の10年ということになります。連載開始が2011年ということで物語には震災が色濃く描かれていて、コミックスで荒木先生もコメントされていますが、「ジレンマ」への接近という意味ではコロナ禍を連想させる描写もあります。激動の10年だったのかなと思いますが。

荒木:激動だし、上ってきている10年でもある気がしていました。一つの目的に向かうというか。その前の(第7部)『スティール・ボール・ラン』も目的に向かって主人公が突き進む話ですけど。時代というか、終わるべくして完結できたっていう感じがありますね。

――一方でこの10年の間には、2016年にプリンスの死がありました。

荒木:そうですね。衝撃的で、自分も体調が悪くなりましたね……。虚無感というか、信じられなかったです。マイケル・ジャクソンもそうですけど、若すぎるというか。作品が途絶えてないし、過去の人という感じがしないんですよね。僕は音楽をかけながら仕事をするんですけど、音楽をかけるのはミュージシャンの考えやファッション、時代に対する姿勢だとかを隣において、感じるためでもあるんです。(プリンスと)一緒に歩んできたので、そこが途切れるのかと思うと「どうしたらいいんだよ?」って思いましたね。ミュージシャンやアーティストたちが、苦しさとかトラブルを抱えながら創作した音楽を届けてくれているんだと思うと、励みになるんですよ。

――それこそ、プリンスという名前を捨てて、ラブ・シンボルとしてマークになった時期もあったわけで、にわかには信じられないファンもいたのではないかと思います。

荒木:ファンタジーの中にいるようなミュージシャンでもあるので、信じられない気持ちも確かにあるんですよね。

――そもそも荒木先生とプリンスの出会いはいつだったんですか?

荒木:プリンスは、だんだんと好きになってきたアーティストなんです。「Soft and Wet」(アルバム『For You』(1978)収録)やアルバム『Dirty Mind』(1980)を時々聞いていた程度だったんですけど、アルバムを重ねる毎にいいなと思いはじめて。『1999』(1982)までも全部いいアルバムで、『Purple Rain』(1984)で衝撃的な盛り上がりがありました。この人は急に売れた人じゃないんだっていうか。芸術的には裏切ってくるんですけど、ミュージシャンとかアーティストとしては確かなアーティストで、作品が出たら絶対に買うっていう、そういう人になったんです。「代表作は何?」って聞かれると困るくらい、どれもいいんです。

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――「Soft and Wet」を聞いていたということは、デビューからチェックされていたということですか?

荒木:そうですね。R&Bのアーティストなのに音や楽器の使い方が奇妙な感じがありました。その時代を生きてるんだけど、新しい文化やファッションを見せてくれていたし、衝撃的なジャケットもあって、自分のヌードを使った『Lovesexy』(1988)は下手したら変態と紙一重だし、ビキニのパンツを履いた『Dirty Mind』も、普通の人だったら完全にアウトだけど、プリンスがすると、そうでもない気もして。「何を考えてるんだろう?」っていう謎めいた部分がプリンスですよね。  アルバムそのもので言うと、曲の順番があるんですよ。いろんなアーティストがいるけど、昔だとレッド・ツェッペリンの2枚目(『Led Zeppelin II』(1969))の「Heartbreaker」と「Livin' Lovin' Maid (She's Just A Woman)」の2曲はペアなんですよ。曲が終わって次の曲に入っていく感じが重要で、その位置にいなきゃダメなんですけど、プリンスもそういうのが多いんです。例えば『Purple Rain』だったら「Let's Go Crazy」からの「Take Me With U」。終盤だと「I Would Die 4 U」と「Baby I'm A Star」と「Purple Rain」。この3曲は絶対に切り離しちゃいけない、組曲的な曲で、繋ぎ目や入り方もすごくいいんですよ。動かせない運命の流れみたいなものがアルバムの中にあって、それがたまんないんですよね。圧倒的なんですよ。

――『The Gold Experience』(1995)も1枚で1曲の組曲のようなアルバムですよね。

荒木:そうですね。その順番じゃなきゃダメなんですよ。ヒットしたからといって(そのシングルを)1曲目に持ってきちゃダメなんです。そういう作り方というか姿勢が、どのアルバムにもあって、すごくいいんですよね。聞いていて完璧な世界に浸れるというか。

――事前にお聞きしたアンケートでは、荒木先生がお好きなプリンスの作品は「強いて言わなければならないとすれば「Purple Rain」」でした。

荒木:それが最高峰かなって。でもたくさんあります。「Mountains」も好きだし、「Lovesexy」もいいです。

――『Purple Rain』はアルバムとしてはもちろん、映画もあって、そこら辺も付随して一つのセットというか。

荒木:そうですね。MTVがあったからヒットしたというのもあるけど、流れから曲順、イメージがどれも完璧なアルバムです。

――映画自体についてはいかがですか?

荒木:ファッションの異様さというか、ある種の気持ち悪さがあるんですけど、観ると面白いですね。何回も観てます。紫色のイメージがすごく強い映画で、どこの国なんだろうとも思うし。

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――『Purple Rain』のリリースが1984年で、荒木先生はその後の1987年に『ジョジョの奇妙な冒険』の連載を開始するわけですが、シリーズ全体でもプリンスからの影響、プリンス愛が多く見られます。先ほど「紫色のイメージ」とおっしゃっていましたけど、コミックスの背表紙やキャラクターのカラーリングが紫を基調としていて、『ジョジョ』のタイトルロゴも映画『Purple Rain』のロゴを彷彿とさせるデザインです。これらは意識されていたんですか?

荒木:そうですね。意識しましたけど、危険な色でもあるんです。高貴すぎるんですよ。偉い人が使う色と言われていて、使いすぎるとあまりウケないというか。だけど、プリンスって自分の身体のヌードを撮ったりして、ウケとか関係ない感じがあるんですよね。自分のヌードをジャケットにしたアーティストって、なかなかいないと思うんですよ。下手したらファン減らしますよね。でも、冒険心というのかな。使命みたいなのがあって、そのためにやってる雰囲気があるんです。

――自分が『ジョジョ』の中でプリンス愛が溢れていると思う部分が第3部『スターダストクルセイダース』のある1話にあって。モハメド・アヴドゥルが餌をまくシーンに「マイケル」「プリンス」「ライオネル」と名前がつけられた鶏が登場し、さらにジャッジメントがジャン・ピエール・ポルナレフに「Hail 2 U!」とプリンスの暗号的な英語表記を使うんですよね。

荒木:懐かしいですね。「2 U」とか「4 U」とか、そういうのも衝撃的ですよね。こう書くんだと。シンボルマークとか、世界の暗号って感じがしますよね。

――その後も『ジョジョ』には「D4C」「ワンダー・オブ・U」と遊び的な英語表記が続いています。

荒木:遊びもありますけど、イメージとしてバンッと目に入ってくるデザインというか、文字のデザインみたいな、そういうイメージもあります。

――第4部『ダイヤモンドは砕けない』では、東方仗助の学ランの襟元にプリンスのシンボルマークがデザインされています。

荒木:ダン・ブラウンの「ラングドン・シリーズ」もありますけど、プリンスの人間を超越しているようなシンボルマークから影響を受けていて、いろんなマークを意識してます。『ジョジョの奇妙な冒険』って本当にマークが多いんですよ。

――杜王町のマークもそうですよね。仗助の趣味には“「プリンス」のCDを聞くこと”とあります。

荒木:ヤンキーだけど、そういう音楽を好んで聞いているところとか、イタリア料理を食べる人だっていう、そういうキャラクター作りですよね。

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――第5部『黄金の風』ではジョルノ・ジョバァーナのスタンドに「ゴールド・エクスペリエンス」が名付けられました。ここで初めてスタンド名としてプリンスの作品が出てきます。

荒木:なるべく避けてたんですけど、『ジョジョの奇妙な冒険』ってダイヤモンドとか、ストーンだとか鉱物に凝っていて、「金だったら何かな?」って考えたら『The Gold Experience』があるなと。

――避けてたというのは?

荒木:プリンスばかりだと、あざといと言いますか(笑)。ほかのアーティストもいるし。

――楽曲のメッセージが作品に影響することはあるんですか?

荒木:僕は歌詞カードを読まないとあんまり分からないんですけど、ありますね。いつも聞いてるので、考え方から影響を受けています。プリンスにはセクシーさを出している曲がありますけど、「前向きに生きていこう」っていう生命力のメッセージがあるんですよね。ちょっとしたゲスさも入ったりもするけど、それがまたいいんです。

――アルバム『The Gold Experience』自体は愛聴されている作品ですか?

荒木:そうですね。あの辺が到達点であるような気もします。

――「P. Control」なんかは、もうヒップホップですよね。

荒木:ヒップホップが台頭してきましたからね。下手したら古い音楽になるところを乗り越えたように感じました。その後の3枚組の『Emancipation』(1996)もいいんですよね。長いけど、全曲いいんだよな。

――『ジョジョリオン』では、東方定助のスタンドに「ソフト&ウェット」、広瀬康穂のスタンドに「ペイズリー・パーク」と、それぞれプリンスの作品から名付けられています。

荒木:「ソフト&ウェット」は原点に帰った感じがあるのと、シャボン玉に合う言葉からスタンド名を考えたんです。康穂は交通表記のデザインにしようと思っていたので、「P」とか「パーキング」とか場所のイメージを考えていって「ペイズリー・パーク」にしまして、プリンスで統一しました。もう一個、『ジョジョリオン』だと東方家のスタンド名は「キング」で統一してるんですよ。あんまりプリンスには関係ないトリビアですけど(笑)。

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――確かにそうですね。「Soft and Wet」という楽曲についてはいかがですか?

荒木:弾ける電子音楽というか、変なリズム感があるというか。後にM.C.ハマーがサンプリングした曲(「She's Soft and Wet」)も良くて、そこでまた好きになりました。『Dirty Mind』辺りまでは、ドラムも打ち込みじゃないですよね。プリンスってずっと生でやるから、それが不思議です。その辺りを実際に聞いてみたいというか、知りたいです。プリンスだったら全部打ち込んでいくだろうと予測するんだけど、彼はそうしないんですよね。

――「Paisley Park」はアルバム『Around the World in a Day』(1985)に収録された楽曲です。

荒木:『Purple Rain』と違う方向に行ったのでびっくりしました。そういうところもいいんだよね。雲のジャケットも衝撃だったんです。水色に雲の柄のジャケットを着て、演奏するんですよ。当時の80年代のぶっ飛んでるファッションというか。『Purple Rain』の首の辺りにひらひらが付いた王子様のようなのも良かったけど、「こんなの着るんだ!」って。

――そういったファッションの影響は『ジョジョ』のキャラクターにも活かされているんですか?

荒木:(ブローノ・)ブチャラティの服はそういうところから影響があるのかな。模様ですね。ジッパーとまだらみたいなマークにしたんですよ。アニメ制作側から「(まだらの)個数を減らしてもいいですか?」って言われました(笑)。

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――『ジョジョ』にはプリンス以外にも、クイーンやザ・ローリング・ストーンズ、ビートルズなど多くのアーティストの作品名が散りばめられていますが、荒木先生が最近愛聴しているアーティストや作品はありますか?

荒木:大抵なんでも聞くけど、昔ほどではないですね。エイフェックス・ツインとかアンビエントまで聞きます。

――『ジョジョリオン』に、エイ・フェックス兄弟として出てきますよね。

荒木:スタンドの名前にはあんまり使っていないかもしれないけど、一応そういうのも聞いてますよ。あとは、ファレル(・ウィリアムス)のグループとかも聞いてました。

――N.E.R.Dですか?

荒木:そうですね。ブルーノ・マーズとマーク・ロンソンの「Uptown Funk」も、プリンスっぽいよね。概念は80年代の変なビートで、ずっと一緒じゃなくて変則的に入ってくる辺りがプリンスを思わせるんだよね。

――先日、ビリー・アイリッシュの2ndアルバム『Happier Than Ever』が出ましたがお聞きになられましたか?

荒木:それはまだですけど、前作(『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』)は聞きました。ビリー・アイリッシュもプリンスっぽい部分はありますよね。

――今の若者を先導しているスターと言いますか。

荒木:そうですね。でも新しい音楽はある程度、病んでるんだよね(笑)。その辺が今だなって思います。どこか心に傷ついてる部分があって、神経を逆なでするような部分を音として持ってくる。その辺は若い人ですよね。

――『AERA』で掲載されたKing Gnuの井口理さんとの対談は大きな話題になりました。日本のアーティストで愛聴されている作品はありますか?

荒木:日本のアーティストはあんまり聞かないんですよ。King Gnuみたいに「この人たち、何だろう?」とか「違うな」とか、他とは違う感じの音楽に惹きつけられます。King Gnuはびっくりしました。あとは、ヒゲダン(Official髭男dism)。ちょっと付いていけないようなリズムとか、あり得ないようなメロディーを作られますよね。

――「Pretender」とか実は複雑なメロディーですもんね。

荒木:複雑ですよね。そういうのが一つの作品にまとまるのがすごいです。僕の感覚からするとあり得ないというか。

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――冒頭で、音楽を聞くことで「ミュージシャンの考え方やファッション、時代に対する姿勢だとかを隣にしている」とおっしゃっていましたが、荒木先生についての音楽というものをもう少し詳しく聞かせてください。

荒木:音楽って考え方や時代を象徴してるんですよね。僕は病んでる部分やマイナスな部分をあまり出したくなくて、前向きに行こうっていう思いがあるんですよ。『ジョジョ』もそうなんですけど、そうでもない作品があるのも、僕にとっては新しい感覚で、そういうのも学んでいかなきゃいけないって思っています。今、僕が興味あるのはダメな人間。そういう人たちがいいんですよね。崩れていくような人たちに興味があるんですよ。

――ダメな人間というのは?

荒木:人って生活を良くしようとか、上に行こうとするじゃないですか? ある程度偉くなりたいとか、お金持ちになりたいとか。僕はそうではない、破滅に向かっていたり、世間や家族に迷惑をかけたりする人に興味あるんです。

――本当の悪というか。

荒木:悪ではないんですよね。なにか理由があるんです。『ジョジョリオン』には(東方)常秀っていう次男がいるんですけど、ダメなやつというか、愛すべきやつなんですよ。彼を主人公にした話を一回描きましたけど、また描きたいなって思うんですよね。金とかそういう欲望に走っていくところがすごく好きなんですよね。

――どんどん所持金が増え続ける呪いのスタンド「ミラグロマン」ですね。自分は第6部『ストーンオーシャン』に登場するサンダー・マックイイーンが一番の悪というか、ダメな人間だと思っています。道連れにしたいと思った相手を一緒に自殺に追い込むスタンド「ハイウェイ・トゥ・ヘル」が、敵意もなければ悪気もない、真の邪悪とも言える能力なので。

荒木:そうかもしれないですね。ただ基本的にはマイナスに行くキャラクターを『ジョジョ』では避けてるんです。自殺だとか、自分をマイナスのほうへと持って行こうとするキャラクターは若い頃にやめようと思って、それからは前向きな悪とかそういう人しか描かないようにしたのが、(変わってきたのが)あの辺からですかね。

――普段、音楽はどのように聞かれているんですか?

荒木:ダウンロードしてから聞くのもありますけど、基本CDで欲しいんですよね。いちいち買いに行きます。情報がちっちゃい文字で載っているのを読みたいんですよ。あと、ジャケットが欲しいんですね、何よりも。どんな変な絵のジャケットでも欲しいんですよ。家にCDの戸棚があるんですけど、そこを眺めているのもすごく好きです。曲の順番が重要なのに対して、アルバムの順番も重要で、僕は発売順に並べています。「『The Black Album』(1994)をどこに入れよう、ここだろうな」って考えたり。ずれると嫌なんですよね。

――本来は1987年に発売を予定していて、それから7年経ってから発売されたアルバムですからね。実際にお店に行って見るのは楽しいですよね。意外な出会いとかもありますし。

荒木:ネットじゃなくて買いに行きたいんですよね。ドサッと買いますよ。知らない情報を教えてくれるし。最初は「なんだこれ? 俺、ダメだ……」みたいな作品も、何か月か経って聞いてみるとよかったりして、違う感覚が得られるんですよね。

――CANは、数十年経って衝撃の出会いを果たしたバンドだとコミックスに書かれていましたよね。

荒木:そうですね。あの当時は、ソフト・マシーンとかも僕にとってはワケの分からない音楽だったんですけど、20~30年してCANを聞いたら「え! あの時代にこんなのがあったんだ。しかも、日本人がバンドメンバーに入ってる」って。すごいなって思います。

――ダモ鈴木さんですよね。プリンスの話に戻しますが、『Welcome 2 America』を聞かれていかがでしたか?

荒木:まず、新しい作品が出るんだっていう喜びと同時に、作品のストックはあると思ってたんですけど、果たしてこれが完成形なのかどうかの疑問もありました。「プリンスがもう一回ぐらい手を加えたりしないのかな?」って。あとはプリンスが決めた曲順なのかも聞く前に気になったんですよね。絶対、完璧な何かがあるはずなので。でも、聞いてみるとどの曲も必ず心に響いてくるフレーズがちゃんとあって、音も落ち着いているし、いいですね。これまでとはまた違った癒しの雰囲気があります。

――前半は少しジャジーでもありますし、「Hot Summer」はすごくポップに仕上がっています。

荒木:ヨーロッパの独特な空気感があって、ヨーロッパの人が作ったんじゃないかなって思ったくらいです。あとは、最初の4曲の並びがいいですし、タイトルの「2」がまたいいよね。これ、プリンスだよ。「Born 2 Die」とか、「1010 (Rin Tin Tin)」から「Yes」に続く感じがプリンスらしい。嬉しいですよ。

――表題曲の「Welcome 2 America」では、プリンスが初期から歌詞に綴ってきている社会情勢や人種間の対立、ジェンダーを歌っています。

荒木:アメリカに住んでいるとそういう考えになるんですかね。僕はできるだけ、政治メッセージは排除しようと思っています。『ジョジョ』では余計なことは言わないようにしようと。

――第3部の空条承太郎を始めとするジョースター一行は、様々な人種が集まった集団でもありますよね。

荒木:そうですね。でもね、女性は入れられなかったんですよ。生死に関わる殴り合いとか、下手したらオラオラのパンチを食らわなきゃいけない場面に、可愛い女の子は出せないって思ったんです。(空条)徐倫の辺り(『ストーンオーシャン』)から、そういうのがなくなったんですよね。

――時代的にというか。

荒木:時代なのかな。『ジャンプ』の読者も(女性を)描いても全然気にしなくなりました。昔だったら(読者から)拒否されるんですよ。拒否されたら連載が終わってしまいますからね。そういうのが80年代の日本にはまだありました。少年漫画でも、ジェンダーだとか社会情勢とか、そういうものに対する見方が変わってきてると思います。第3部は、本当はあそこに女の子を入れたかったんですよね。ちょっといたんだけど……。

――家出少女のアンがいましたよね。

荒木:いたんだけどリタイアするんですよ。あの辺で(女の子も一緒に)行けるかなって思ったんだけど、ダメだった。入れたいんだけど長旅には過酷だろうなと思って、やっぱり男だけで行くかって。

――あの子はスタンド使いではなかったですが。

荒木:成長させるっていう手もありました。今はそういうのはないから。スタンドはどんなちっぽけなやつでも強くなれるので。

――ジョースター一行にはイギーという犬も参加するわけで。

荒木:そうですね。実はいろんな人が揃った感じにしたかったんですよ。時代とか『七人の侍』の流れを意識して作ったので、そういうメンバーがほしかったんです。

――荒木先生はプリンスのライブ映像作品も数多く観られているんですよね。

荒木:実際に何本かブルーレイを持ってます。『Sign O' The Times』(1987)のライブが好きで、あれは何回観ても面白いですね。

――プリンスのライブの魅力はどこにあると思いますか?

荒木:パーティーみたいに盛り上げようっていうところですかね。惹きつけるアイデアがいっぱいあって、それに毎回新曲をやるんですよ。過去の作品にあんまりこだわってないんですよね。たまにドラムを叩いたりするところも好きです。僕は『Batman』(1989)の頃とか『Diamonds And Pearls』(1991)の時の来日コンサートを見に行きました。日本武道館とか東京ドームとか、3回ぐらい行きましたね。

――生で観られていかがでしたか?

荒木:いいですよ。すごく記憶に残ってます。盛り上げ方とか、ジェームス・ブラウンからの影響もあるのか、過去のソウル・ミュージックのライブの感じを踏襲していて、ちゃんと演奏も歌も聞かせるライブでした。

――最後になりますが、荒木先生にとってプリンスはどのような存在ですか?

荒木:いつも創作に勇気を与えてくれる人です。心強いですよ。過去の作品を聞くと、いつも迷った時に「プリンスだったら、つまんないことにこだわらないだろうな」とか「そこを突破していくだろうな」っていうことを思い出すんですよね。コンスタントに作品が出ていたところからも、勇気をもらいました。目標としていてくれて、ありがとうございますっていう存在ですね。

――今後も荒木先生の作品にはプリンスの魂が息づいていくと。

荒木:今後の作品も、もちろんです。


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