Comickers (November 2001)
THRILL (September 2001)
Interview Archive
An interview with Hirohiko Araki found in the November 2001 issue of the Comickers Autumn Magazine.
Interview
―今回はテーマが「快感」なんですが、「ジョジョの奇妙な冒険」というと謎解きや敵を倒す時の爽快感があって、そこには物語も描写も含めて面白い!という快感があると思うんです。お描きになってる立場として意識してらっしゃいますか?
やっぱりね、善とか悪ってあいまいじゃないですか。ある視点から見れば、悪も良い人かも知れないし。それは青年誌にいくとあいまいなんだけど、少年誌だとハッキリ分けないとダメなんですよ。例えば殺人鬼にも、生い立ちとか生活があったりして、その人を知れば知るほど味方したくなってきたりする。そうすると可哀想な人に思えてくるんですけど、そこを少年誌で描いちゃダメなんです。その人が敵じゃなくなってくるから。キャラは「主人公と比べたら完全に悪い人だ」っていう確実な線引きがあるから快感になるんじゃないかと思うんですよね。
―でも作品中にはそういう生い立ち的な部分も多く描かれてませんか?
だから、そういう部分を描くと快感みたいなものはなくなるかなと思うんですけど、大人の味わいとして「哀しいな」みたいなのは出てくると思うんです。でも最初はとにかく悪いヤツだっていう風に決めつけて描いていかないとダメなんですよ。で、戦いが終わってから味方にしたりとか、バックボーンを描いたり、いろいろしますけど。
―そういう意味では少年誌で悪役の人生を描くと、物語のスピードが止まっちゃうところがある、と。
そうでしょうね。大人のマンガと子供のマンガの区別っていうのは多分そこだと思うんですけど。善と悪がわかりやすいというか。
―子供にはこう、善と悪がハッキリして、たたみかけるようなのが。
でも、「あんまりいつまでも子供でいちゃいけないよ」とか思うんですけど。単純なもんじゃないよ、あとあとの人生は、と(笑)。
―それから画面描写!特に肉体の破壊される描写がすごくて、快感に繋がっていると思うんですよ。
あれはただ、グロく見せようとかそういうものじゃなく、肉体を破壊するってことを絵の楽しさとして描いてるんですよ。例えば、大友克洋先生の破壊って、コップがパズルのように壊れるじゃないですか。部品がハッキリと描かれてますよね。それを人間の体で描くのが面白いんですよ。古い人ですけど、レオナルド・ダ・ヴィンチは人間を描きたいために、「体の中はどうなっているんだろう」って解剖して筋肉のつき方まで見たっていいますけど、そういう気持ちなんじゃないかなと思うんですよね。
―なるほど・・・・・・。でもたまに、重力に反した曲がり方も描きますよね・・・・・・。
(笑)。そこがまた面白いんですけど。
―逆にわざとそういのを描くことが面白い?
そうですね。そういうところ快感かも知れない。絵を描かない人は、大変なんじゃないかとか、一体何時間かかるんだろうなとか考えるんでしょうけど、描いてる人はそういうことをあんまり恐れなくてもいいと思うんです。やってると楽しいですから。実は絵を描いてるところでそういうパズル的な面白さがあって、その辺は気持ちいいという感じがありますけど。
―確かにマンガ全体で感じるんですが、キャラが写実的に立ってるというより、変な格好でこう・・・・・・(と「ジョジョ」ポーズを取る)。
それもね、イタリア美術の影響がすごくあると思うんだよね。彫刻とかを見るのが好きなんですけど、ねじってたりするんですよ。妙なドラマチックなポーズっていうのかな?あれなんですね。こうね、腕の片方が上がるともう片方がグッと入るとか(と体をねじる)、一つのキマリ、流れがあるんですよ。なんか見てると分かるんですけど、そういうのが面白いんだよ。ねじるとさらに面白くなってくるというか。
―きちんと立つものじゃなく、ねじったりする方に魅力を感じるという。
普通じゃないっていうんですかね。普通に描いてたら普通の絵だけど、絵ってちょっと変な感じを取り入れるともっと面白くなると思うんですよ。ちょっと気持ち悪いとかね。まるっきり美しいよりちょっとケガしてるとか。
―純粋な造形美よりも、そこになんらかのドラマ性だとか、別な何かがある方がいいという感じですか?
そうでしょうね。写真とかでも完全な美人よりちょっとニキビがある方が面白いと思うんですよね。どうしちゃったんだろう?みたいな(笑)。だから、ちょっと変なものがやっぱ面白いと思うんですよ。その辺はまだ子供には分からないところもあるかも知れないんで、ツライとこではある(笑)。でも、中学とか高校になってきたら分かるんじゃないかな、って思うし。今のうちから教育しておけば(笑)。
―それから、コマ割りについてお聞きしたいんですけど、あの・・・・・・昔より変型ゴマ増えてますよね?ナナメに切ったりしてて、自在に操れるようになってるというか。
そうですか?まっすぐのコマもあると思うんですけど(笑)。ナナメになってたりするのはね、指が切れたりするからなんですよ。まっすぐにしてると小指が入んなかったりするので、コマの方を動かしてる、というか。
―じゃあ、重要な絵のためにコマの形を変えるという?
そうですね。あと、フキダシが入んないから、フキダシを作るためにずらすっていう(笑)。
―でもそれだけじゃないような気が・・・・・・。たまに丸いのとかありますよね。
ありますね。あれはほとんど表情ですね。目の動きとか。ただそれだけですね。
―それはご自分でパターンみたいなものがあるんですか?
そうですね。ちょっと欲しいと思うんですよ。主人公が何を考えてるかわかんないなと思ったときとか、ネームの後で足りないなと思ったときとか。で、丸いからどこにでも入るんですよ、アレ。
―ああ、逆に四角いコマ入れると一コマ割り直すことになっちゃうからですか。じゃあ、変形ゴマを使った見開きで迷宮的な空間を創ろう、ということではないんですね。
そういうのはないですね。構図のためですね、あくまでも。あとやっぱりアクションの時はナナメになっちゃいますね。意識は全くしてないです。でもあんまり重要じゃないと思うんですけど。
―でもあれは一ページ単位でバランスを考えてやってるのではないんですか?
一ページ単位というか全体で見たりはしますけど、ちょっと暗くしてから明るくとか。黒っぽいコマにしてからちょっと明るい広めの構図取ったりとか、そういうのは前後見てかないと分かんないので。
―だから読者としては結構ビックリするコマ割り・ページ割りが多いんですよ。それはどこをポイントにして描いてるのかなと。
つまり、「ここは」っていう見せたいコマが絶対あるんですよ。ストーリーはそれに付属してるじゃないですか。だからだと思うんですよ。最初にネームの段階でそのコマがあって、説明的な人物のセリフなんかは次の重要度だから小さくして、というか。だから、絵で見てる人はここだけ見ればだいたいの話は分かる、細かいところはそこのセリフを読んでくれ、と。
―じゃあ、パッと見てもストーリーが分かるという構造になってる、と。
そうですね。絵を描いてる仕事なんだから絵を見て面白くなきゃマンガじゃないと思うんですね。ネームも重要ですけど、絵に魅力がないと。基本は絵描きじゃないですかね。作家とか、映画監督とかよりも自分的には重要だと思うんですけど。
―では、キャラクター造形でいうとどんなところを一番重視してます?
まず動機ですね。何で闘ってるのか、何で銀行強盗するのか、とか。そういうところをきちっと決めてくというのが大切だと思うんですよ。だから、ロボットマンガ描きたいな、と思ったら、何でロボットに乗ってるのかが一番。いきなり乗ってて闘うのは、なんだかわけわかんないですから。
―なるほど。背景が読めないと物語に信憑性がなくなりますからね。
そう。だから、そこが一番大切じゃないかと思うんですよ。で、動機が決まるとね、いろんなものが決まってくるんですよ。関連して決まってくる。こういう性格で、ちょっと勝ち気で、でも虫には弱くて、弱点はこうだとかね。どんどん面白くなってくるんですよ。だから、動機が基本で、徐倫とか、ジョルノとか仗助とかジョセフもそうだったんじゃないですかね。そうしていくと、その動機は親だったり、先祖からの因縁だったりするんですよ(笑)。「ジョジョ」の場合はそういうところですね。あと社会の圧力だったりとか、そういうのが多いじゃないですか。それに対して自分はどういう風に思ってるのか、という風に決定されていくと思うんです。
―確かに「ジョジョ」では闘う動機とか性格などを血として受け継いでいってますよね。
そうですね。やっぱり、因縁というのはあるんじゃないかと。あとね、マンガを描いてると哲学的な境地にまで考えが及んだりすることがあるんです。そもそも主人公は何でここにいるんだろうな、と思うわけ。描いてると、どうしてこの人は生まれてきたのかなという所まで考えちゃうんですよね。そうすると人間って何でいるんだろうなというところまでいくんですよ(笑)。神様っているのかなとか、何で人間は地球にいっぱいいるのかな、みたいなさ。そういうとこまでつい考えてしまうんですよね。描けば描くほどそういう風になってくるんですよ。で、動機にに戻りますけど、マンガ描く人はまず動機を決めるべきだと思うんですね。そうするといろんなものがとにかく不思議にできてくると思うんですよね。拡がってくるというか。あと、人とちょっと違ったものにしようという意識が必要というか。なんか見たことあるヤツだな、っていうのはちょっとやめたり。
―じゃあ、キャラデザインも生き方や動機の設定という部分とリンクさせた方がいいんですか?
そうそう。それも一致するというのが基本ですよ。で、動機というのはやっぱりね、その作家のものの考え方、一人一人の見てきたもの、経験なんじゃないかと思うんですよね。
―なるほど。それから、すごく巧妙な物語のトリックについてお聞きしたいんですが。
それはまず、何を描くかを一個決めて、それに合わせていくっていう感じです。先週からの続きっていうのもありますけど。例えば、岸辺露伴だったらマンガのためならクモでも喰う、みたいなことを決めて、その週は彼がどういうヤツかっていうのだけ描く。だから、二個も三個もあるのは絶対ダメです。二個も三個もある時は次の回にまわして、一つだけでいいんですよね。
―その一つを展開させるためにエピソードを作るという感じで?
ええ。クモまで喰うのは面白いなと思ったら、その前から何か変なヤツだなって風に展開させていって、「あ、やっぱり変なヤツだったよ」っていう流れにするんです。で、「こいつが敵かよ?ちょっとやばいんじゃないの?」って思わせたりとか。主人公としてもどうしていいかわかんなくて、「どうやって闘うんだよ?」って思うじゃないですか。
―確かに!そういうのはすごくスリリングで怖いですよね。
あと、物語の進行の基本がサスペンスにあるっていうのかな。そこが人と違うのかなといつも思ってるんですけど。ナゾとかが基本というか。サスペンス映画が好きだから、始まって何分後にナゾが出てきたとか、人が死んだとか、そういう風な起承転結やテクニックをすごい勉強しましたね。とにかく起承転結が好きなんですよ。やっぱ四コママンガ的な基本というか。食事とかも前菜、スープ、メイン、デザートみたいなのが好きなんで(笑)。
―最後に、少年誌っていうのは人が初めて見る物語の媒体の一つだと思うんですけど、それに関して意識してることはあります?
いや、それはほとんどないですね。でも、例えば子供を殴っちゃいけないとか、最近ちょっと規制が増えたので、逆に描きづらいかも知れないですね。でも、少年誌という意識は自分では全然してないです。だってそれを意識してたら、外人を主人公にしちゃダメだよとか、主人公殺しちゃダメだよとか(笑)、さんざん言われてきたことをやってるわけで。でもそういうのは打ち破っていかないと。意識してたら逆にダメかも知れない。「やるな」っていうことをやるのは人間好きだから(笑)。でも、タバコを吸うシーンとかは描かないようにしてますね。直接クスリやったりするシーンとか。
―そういう状況があっても、シーンとしては描かない、と。
そう。暴力シーンやエッチなシーンとかはあんまり意識してないと思いますけど。
―そうすると今までわりと自由に描いてきた、っていう感じですか?
それはそうですね。描き直しも何回かはありましたけど。でもやっぱりマンガ家になる人はそういうことをちょっと考えてからやらないと。表現としてはどうなのかな、と思うことはありますから、自分で基準みたいの決めた方がいいと思いますよね。
イラストラフスケッチ
つねに時代のムードを反映させている「ジョジョ」の世界、荒木さんとしては、映画やテレビ、小説などで今流行ってるということは、もう古いということだから描かないようにしているとか。「仗助とか承太郎にピアス入れるとき勇気いったよね。あの時代は一般的じゃなかったから、マンガの主人公がやっていいのか?って思って」。また、最近は入れ墨やタトゥーの模様、グラフィティなどに関心があり、写真集を見ているという。「グラフィティはストリート技術というんですかね。描いてみるとなかなか描けないんですよ。アシスタントにやらせても何か違うんだよね。抽象画っぽいというか、このかっこよさ、悪そうな感じが出なくて。環境が出てくんのかもしれないですね」。
少年誌には珍しくピンクや水色などカラフルな色を使う荒木さん。色味に関しては、聞いてみたところゴーギャンの影響があるとか。「ゴーギャンって、浜辺をピンク色に塗ってバカにされたっていう画家なんですよ。でも、そこがいいなと思うんです。その水色とピンクの対比というか。色の組み合わせにはパワーがあると信じてます。この色とこの色が並んだときに出すパワーとか。力のある組み合わせがあると思うんですよ。地味なヤツもいいですけど。色は古典的なところから学んでたりしてますね」。ちなみにキャラ造形についてはこんな逸話が。「誕生日や血液型、好きな映画を決めるのはプロフィール考えるときの基本で、やらないとダメだと思うんですよ。あと、前は相性占いまで調べてたんですけど、当たってないな、と思ってやめたんです(笑)。動物占いが流行ったらそれもかな、と考えてたんですけどね(笑)」。
これがカラー原稿用のラフ案。左二つは扉ベージの試案で、右は隣のイラストのラフ。ラフ案に関しては机の周りに置かれた『イタリアン・ヴォーグ』などの海外ファッション誌を見ながら、流線で構図のアタリを取っていくという荒木さん。なんと男性を描くときも女性のファッション写真を参考にしているという。「男性の写真って普通に立ってるのが多いから、面白くないんです。例えばスティーブン・マイゼルの写真とかって、体のどの部分なんだコレ?みたいなのあって面白いと思うんですよね。それに印象に残るのはこっちの方じゃないですか」。扉のラフに関しては、このままだとお尻が入らないからずらし、肩や首の角度も直したそうだ。また、注意して描いてる部分は「肩のボリューム、ウエストライン、あと膝下が長い人が好きだね。膝下長いっていうのはカッコイイ条件だから厚底サンダル履く気持ちが分かる(笑)」とのこと。
プロット
肉体派キャラのルーツについて聞いたところ、キリシャなどの古典西洋絵画の伝統にあるという。「昔は肉体美に生命力というかそういう意味を感じてて。シュワルツェネガーとかの全盛期で、面白い作品いっぱいあったから。でも今は女性の方がバキバキになってるから、男性よりそっちの方に変わってきてるかもしれないですね」。ただ、キャラを描くときの意識としては、「女性とか男性の区別はなくて、人間として捉えてます。これからのマンガだとは特に区別しない方がいいかも知れないですね」とアドバイスをしてくれた。
「ジョジョ」においては男女問わずキャラがセクシーなのは有名だが、そのヒミツが分かるワンショット。F・F(エフ・エフ)の目元、眉毛に注目。目の縁取りはペンで描かれたものだが、外側、いわゆる化粧でいうアイラインを黒のマーカーで太めに描いているのだ! ちなみに男性キャラの眉毛についてはこんな逸話が。「少年マンガには、絶対眉が太くなければいけないっていうキマリみたいなのがあってね、私もそれを克服するのに何年かかったことか(笑)。それは川崎のぼるさんの「巨人の星」の呪縛で、それがとれてきたのが仗助の頃です」。
上は画集用に描き下ろされたイラストからスタンドが集合している一枚。左はスタンドのラフ案など。スタント造形に関してもデザイン的に奇妙で印象に残る方を重要視するという。「テーマがあるんですよ。闘う形とかね。肉体派でパンチを繰り出すな、と思ったらそうするし。例えばザ・グレイトフル・デッド(カラー図版右端の緑のスタンド)、あれはパンチがいらなから手をとって全部足にしたんです。要するに彼は機能を100%どう活かすかという、機能性のために形ができてる代表選手かもしれないですね」。ちなみに、第三部に出てくるマジシャンズレッドはエンキ・ビラル「ニコポル三部作」のホルスからとったんですと笑顔で教えてくれた。