Toh EnJoe x Hirohiko Araki (October 2012)

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Published October 5, 2012
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An interview between Hirohiko Araki and Toh EnJoe in the JOJOmenon mook, published on October 5, 2012. It begins on page 58 and ends on page 65.

Interview

小説家とマンガ家、物語を語る。

円城 塔・荒木飛呂彦
「スタンドは、書くことができない」

かたや小説、かたやマンガ。それぞれのフィールドで奇妙な物語を紡ぎ続けるふたりの頭の中。


ふたりは何を読んでいる?

――今回の対談に際して、おふたりにはそれぞれ影響を受けた本をお持ちいただきました。まずはその本をセレクトした理由から伺っていきたいと思います。

荒木 僕は、スティーヴン・キングの『ミザリー』を持ってきました。ある作家が熱狂的な女性ファンに監禁され、小説を書かされるという話なんですが、そこには極限の狂気を描いたホラーがあり、男と女の歪んだラブストーリーがあり、書かせる人と書く人の不思議な人間関係があって、その3つが合わさってひとつのシンプルな話になっているところがすごいと思います。主人公の作家がどんどん追い詰められていく過程はとても面白いし、ファンの女性の異常なキャラ造型も強烈で、僕が思うサスペンスの完璧な形ですね。『ジョジョ』を描くうえで勉強になるので、今でも読み返しています。

――一方の円城さんは、スティーヴ・エリクソンの『黒い時計の旅』ですか。

円城 この本の粗筋はすごく説明しづらいんですよ。簡単にいうと、ヒトラーのためにポルノグラフィーを書かされる男の話です。イギリスのどこか片田舎みたいなところで育って、戦争が始まるとナチスらしい部隊に拉致されて、それまではとくに小説を書いてなかったんだけど、ちょっと書いたものがどうもヒトラーに気に入られているらしいというので監禁されて、ヒトラーのためだけにポルノグラフィーを書かされるというのがひとつの筋になってます。

荒木 何だか『ミザリー』と似ていますね(笑)。

円城 監禁して書かされるところはたしかに似てますね(笑)。大学生の頃に初めて読んで、そのときは「わからん。いったい何の話なの?」という状態でしたが、最近はだんだんと筋がわかってきたような、こないような。とにかく幻想と現実がいろいろとごった煮になっている話です。まぁ、あまり筋を追いかけるような話ではないです。

荒木 そういうごった煮のストーリーが好きなんですか?

円城 それよりもまず、文章が好きなんですよ。自分自身が小説を書き出すたびにこの本の最初の一文とか二文を読んで、こういう感じでいこうと思うんですけど、実際はまったく違うものになってしまいますね(笑)。元ネタにしているつもりなのに、元ネタになっていないというか。荒木さんは何か描くうえで元ネタになっているものってありますか?

荒木 もちろん『ミザリー』みたいに恐怖描写の参考にしているものはあります。ただ、セリフに関していえば、僕の場合、すべて天然なんですよ。こういうことを喋らせようとか、考えたことがないんです。

円城 その場で出てくるということですか?

荒木 そうですね。自動筆記状態というか、キャラクターが勝手に喋り出す感じです。だから、「あのセリフはどういう意味なんですか?」とか聞かれても、まったく覚えてないことがあります(笑)。

マンガはそこに絵もある

円城 僕は本当に機械が小説を書いてくれればいいなって思っているんですけど、現実はそんな都合のいい話があるわけもなくて(笑)。だから、荒木さんのように言葉が勝手に出てくる感覚は僕にはないんですよ。とても羨ましい。

荒木 マンガの場合はそこに絵もあるけど、小説家って文章だけでいろいろなイメージを伝えようとする作業だから、大変ですよね。とくにマンガはキャラクターの力が大きいので、こいつをどう動かそうか考えていると、自然とセリフも出てくるんですよ。

円城 キャラクターという点に関しては、僕はかなり思い入れが薄いほうだと思います。実際、小説だと、彼とか彼女とか私とかで済んでしまう場合もある。だから、主人公の名前すらつけていないときもあります。名前もないぐらいなので、ディテールを考えることもなく、あとになって「髪は何色?」「背はどれくらい?」とか聞かれると、困ったりする。

荒木 そうですか。僕は反対に、身長、体重、血液型まで決めた身上調査書をつくってからでないと描けないですね。

円城 絵は一度描いたらイメージが固まってしまうから、事前に緻密な設定が必要ですよね。小説だと、詳細は決めなきゃいけなくなったときに決めればよくて、その隙間を利用できるものなんです。

荒木 そうですよね。以前、小説の挿絵を描かせてもらったときに、「腕にケガをしている」という描写があって、実際にそういう絵を描いていたのに、最後のほうで「左手」と書いてあるんです。右手がケガしているパターンで描いていたから、その時点ですべて描き直し。先に言ってよって話ですよね(笑)。

世界文学全集と木彫りのクマ

――おふたりとも幼少期はどんな本に触れていたんですか?

荒木 小学生の頃は、江戸川乱歩の怪奇短編集とか横溝正史が好きで、こういう物語をマンガで描いてみたいと思ってました。

円城 僕は、子どもの頃はほとんど本に触れた記憶がないんですよ。ウチの親があんまり本を読まなかったからなのか、本に囲まれる生活ではなかったです。ただ、なぜか『海底二万マイル』と『西遊記』はあって、それは読んでいましたね。そういえば、あの頃の流行りで、世界文学全集は棚に置いてあったんですけど、手に取ったことはないです(笑)。

荒木 世界文学全集はウチにもありました。

円城 読むというよりかは、たんなるインテリアの一部みたいなものだから、その前にこけしとか赤べことかが置いてあって。

荒木 あと、木彫りのクマも。どこのウチも同じなんですね(笑)。

円城 「中学生の頃にドストエフスキーを読んで……」とか、そういう人のインタビューを見るたびに、「ああ、ウチにもたしかにあったよ」って思います。でも、あの棚の中から取り出して読んでみようという発想はなかったですね。

荒木 UFOとか雪男とかの本はどうでした? 僕はあの手のものにすごくロマンを感じてましたね。

円城 好きなんですけど、怪奇になると怖いんですよ。お化けや心霊写真の本は怖くて絶対に見られなかったですね。子どもの頃には『ゲゲゲの鬼太郎』の放送が始まると、椅子の陰に隠れていたらしいです。それぐらい怖がりなんですよ。

荒木 えっ、『ゲゲゲの鬼太郎』で。じゃあ、『エコエコアザラク』とか、そういうのは絶対にダメですね。

円城 ダメですね。妖怪図鑑とかが机に置かれると近寄れないくらいの怖がりでしたから。荒木さんは怖くないんですか?

荒木 怖いですよ。でも、見たいんですよ。中岡俊哉という超常現象の研究家がいて、その人の本はよく読んでいましたね。

円城 僕はそういう本が家にあるだけで怖かった。

荒木 当時、円城さんみたいな怖がりの友達がいて、彼に心霊写真の本を貸したら燃やされたことがありましたよ(笑)。

円城 その気持ちはすごくよくわかります。もう家の中に置いておきたくなかったんですよ。

スタンドを文字で表現できないか

荒木 しかし、それでよく『屍者の帝国』を書きましたね。あれはゾンビでしょ。

円城 ゾンビは本当は苦手なんですけど、書く以上はゾンビ映画を観ないといけないと思って頑張って観ました。そしたら平気だったんですよ。いつの間にか嫌いなものが食べられるようになっていたみたいな。

荒木 案外そういうものだったりするんですよね。今回の『屍者の帝国』は、伊藤計劃さんの未完の絶筆を、円城さんが書き継いで完成させたんですよね。

円城 そういう形です。

荒木 知らない難しい歴史ばかりが語られると入りにくいけど、事実がうまく並べてあって、新たな歴史と世界をつくり上げているところが面白いと思いました。

円城 ありがとうございます。これまでは実際に見たことのないものは書けなかったんですが、初めて想像して書いてみたという感じです。

荒木 そうなんですか。逆に僕は何でも描きたいタイプなんですよ。世界のあらゆるものを、それこそ見えない空気みたいなものまで描きたい。波紋やスタンドはその表れですね。

円城 実は、スタンドを文字で書こうとしたらどうなるのかってことを、たまに考えるんですよ。

荒木 へぇー。でも、それってかなり難しいんじゃないですか。

円城 スタンドの姿を文章として表現することはできるんです。「背後に人の形をしたものが立っている」みたいな描写は簡単にできます。でも、それじゃないんですよね。かといって、文字を二重に描くとか、そういうことでもない。文章を生業にしている以上、ビジュアルに頼ったら負けな気もするので、何か文字で表現できないか考えているんですけど、わからないんです。

荒木 スタンドはマンガでしか描けないような気がしますね。映画なんかでもたぶん無理でしょう。

円城 リアルタイムで動かないといけないけど、どんな動きかとか。

荒木 CGとかを使うと、途端に嘘くさくなると思うんですよね。だから逆に見せないっていうのもありかもしれません。

円城 見せても脚だけとか(笑)。

奇妙な話を描いている意識はない

――マンガと小説という違いはありますが、“奇妙な物語をつくる”という点ではおふたりとも共通している部分があると思いますが、そのあたりはいかがでしょう?

円城 荒木さんは奇妙な話を描いているという自覚はありますか? 僕はあまりないんです。

荒木 ないですよね。

円城 あれ、奇妙だっけみたいな。

荒木 タイトルに「奇妙」って入っていますけど、僕自身は奇妙な話を描いているという意識はなくて、ただほかの人とは違う話を描きたいだけ。『週刊少年ジャンプ』は王道中の王道ですから、そこからハズれることを考えていたらこうなった。

円城 異端だったはずの『ジョジョ』が第8部まで続いているのがすごいですよね。ここまでのシリーズになることは想像していたのですか?

荒木 いや、まったくしてないです。ただ、漫画の場合、一回立ち上げると今度は終わらせるのが難しくなるんですよ。

円城 終わらせ方の問題はたしかにありますよね。僕は第6部の『ストーンオーシャン』の終わり方が好きです。何かいろいろなことがわからなくなっていく感じが(笑)。でも、『ストーンオーシャン』が終わってから、ちょっと広がりが増えましたよね。多世界方向に。

荒木 そうですね。仕切り直したというか、違うことをやろうと思ったので、あの終わり方にしたというのはあります。

円城 違う方向に行くためには、違う宇宙が必要だったということですよね。今の『ジョジョリオン』もすごく面白いと思います。だけど、ここからどう広がっていくのかはまったくわからない(笑)。

その先入観を一度何とかしたい

――おふたりは創作の悩みってあるのですか?

円城 僕はわりと毎回違う方向のものを書きたいと思うんですね。ただ、それにはいろいろ調べたり考えたりしなきゃいけないので、そうしているうちに「そんなに違う方向ってあったっけ?」という具合に、だんだんわからなくなってくるのがちょっと悩みではあります。あと、ヘンなものを書く人だと思われているので、その先入観を一度何とかしたいんですけど、何ともできないのが今の悩みですね。

荒木 じゃあ、純愛ラブストーリーみたいなものを書くってこと?

円城 わからないですけど、とりあえずウチの親が「息子が書いたんですよ」と言って配れるぐらいのものが書ければと思うんですけど。

荒木 筒井康隆先生の『時をかける少女』みたいな。

円城 あぁ、筒井先生の中の立ち位置としては近いかもしれないですね。そういう作品が書きたいことは書きたいんですけど、書き方が全然わからない。荒木さんは、描いたものがほとんど『ジョジョ』ものですよね。

荒木 そうですね。昔、違うものを描いてくださいと言われたときに、「えっ、『ジョジョ』しか描けませんよ」と言ったことがあります。

円城 何かほかのものを描きたいという欲求もないわけですよね。

荒木 ないですね。仮にあったとしても、やっちゃいけないと思っちゃう。やるなら『ジョジョ』の中で描くくらいでいいかなと。でも、ウチのおふくろは『サザエさん』級のものを描かないと読めないだろうな。

円城 ウチも“桃太郎”級じゃないとダメ。だけど、いわゆる普通の話ってやり尽くされているし、そもそもの出発点が違うから、たどり着けないくらい遠くて難しいんですよ。

ジャズの即興演奏だと思えばいい

円城 あと、小説を書く人は週刊連載とかで鍛えたほうがいいのかなって、たまに思うんですよね。つらいだろうけど。

荒木 漫画家の場合は、持ち込んだら「来月から連載ができる」と言われる感じですよ。そうしたらやらざるを得ない。

円城 そうなんです。今の文芸の中で一番不足しているのは、その鍛え方なのではという気分にだんだんなってきているんですよ。

荒木 かもしれないですね。

円城 ただ、小説って、粗く書くことにあんまり対応してない気がするんですよ。締め切りの拘束も強くない。少なくとも僕はそう思っていて。

荒木 ジャズの即興演奏だと思えばいいんじゃないですか。即興だからちょっとのズレも味だし、直せないものはしょうがない。僕はそういう気持ちでやっていましたよ。

円城 それがすごい能力だと思うんです。僕は「この先続かない」と思ったら戻れるところまで戻って直すし、場合によってはそれまで書いた原稿をすべて捨てることだってありますから。

荒木 そうですか。そこはいろいろですよね。円城さんのようなやり方もあれば勢いで書くやり方もありますし。ちなみに、『ジョジョリオン』は月刊誌で連載していますけど、今も変わらず週刊ペースで仕事してますよ。

円城 えっ⁉ 信じられないです。僕にとって一番奇妙なのは、荒木さん自身なのかもしれません(笑)。


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