Hirohiko Araki x Ryosuke Kabashima (December 2022)

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Published December 19, 2022
Missing translation
Hirohiko Araki x Ryosuke Kabashima (December 2022)
Interview Archive
JOJO magazine 2022 WINTER Araki x Kabashima.png

Another 3-hour meeting between Hirohiko Araki and Ryosuke Kabashima, published in the Winter 2022 issue of JOJO magazine, released on December 19, 2022.

Interview

打合せ
荒木飛呂彦×椛島良介(ジョジョ初代担当)

2022年9月某日 天候:曇り 気温24度 場所:都内某所

今回の打合せのテーマは「イラスト」。荒木先生は自身もデビュー前後によく見ていたというフランク・フラゼッタについて語り、椛島良介氏はイタリアで購入したという古い版画を自宅から持ってきてのトークとなった。もちろん料理は荒木先生のお手製で、その傍らには今回も椛島氏が用意した白ワインのボトルが1本。軽い酔いも手伝ったのか、「絵」についてのトークはやがて映画の話へとシフト。さらに荒木先生の初めてのイタリア体験、そして二人で一緒に旅して作品に大きな影響を与えたエジプト旅行の秘話へと拡がっていく。

After eleven thousand days
14:07 START


14:08 「料理」
今回の料理のテーマは「シンプル」。左がイタリア風マグロのタルタルと、軽くトーストされたパン。

左下がブロッコリーだけのパスタで、いずれも荒木先生のお手製。

右下は椛島氏が持ってきた白ワインで、ミシェル・ブズローというフランスの名門ドメーヌ(生産者)の品。特に打ち合わせたわけでもないが料理にぴったりの味で、さすがは初代担当。まさに阿吽の呼吸。

椛島 今回のこれも美味しいね。

荒木 今日はイタリア風マグロのタルタル。それとブロッコリーだけのスパゲッティ。シンプルです。

椛島 パスタはしっかりアルデンテですね。

荒木 そう。パスタに入ってるブロッコリーは、先っぽの部分だけをわざとクタクタになるまで煮ました。そっちのほうが合うかなと思って。これは茹で方がさっぱりしてると堅くてダメなんですよ。ブロッコリーはフランス風のクタクタが好きなんだよね。それでニンニクとアンチョビをあえて、あとはレモンをちょっとかけて。

椛島 マグロのタルタルは?

荒木 ほとんど赤身のサクを買ってきて、刻んで混ぜ合わせですね。入っているのは黒オリーブ、ペッパー、マスタード、パセリ、あとは大葉、ニンニクをすったやつ、そして軽く塩。シンプルです、うん。で、パンはその辺で買ったやつ(笑)。あってもなくてもいいかなーと思ったんで。

椛島 食材も自分で選んだんですか?

荒木 昨日、スーパーに行って自分で買ってきましたよ。マグロは中トロに行くとダメというか、あまり健康的でないっていうか。脂が少ない方が料理には向いてるんだよね。

椛島 もしかして塩分とか気にしてる?

荒木 塩分と脂分はしてますね。パスタも茹でるときに塩を入れるけど、入れすぎには気を付けてる。美味いものって結構ヤバイですよ、悪魔の味覚なんだよ(笑)。だから控えめに料理は作ったほうがいいですね。世の中で人気がありすぎるものって危険なものかもって思うんですよ。漫画も同じで、だから『ジョジョ』はほどよい感じで(笑)。世の中のために漫画を描いているから、経済を追求しすぎちゃいけないですね。

椛島 人気の一番を目指すと全力疾走になるから消耗しちゃう。だから長く続けにくいけど、人気が無いと終わっちゃうしね。なかなか塩梅が難しいところ、今回の料理と同じですね。

14:32 「フランク・フラゼッタ」
フラゼッタが描いた1点。その筋肉の描写は、本文中で荒木先生が語っている「柔らかい」「まろやか」という表現がピッタリだ。

Frank Frazetta
A PEACOCK PRESS/BANTAM BOOK
FRANK FRAZETTA:BOOK TWO
1977

荒木 フランク・フラゼッタ[a]の画集か、懐かしいですね。1980年代にデビューした漫画家や編集さんは一度は見ているんじゃないかな、これ。

椛島 当時、みんな買ってましたよね。

荒木 フラゼッタって、海外のペーパーバックの挿絵や表紙イラストとか映画のポスターとか、そういうものを描いていたイラストレーターなんですけど。僕的には、この人の筋肉と世界観がいいんですよ。あと週刊少年ジャンプ編集部の都市伝説みたいなのがあって、椛島さんが「この画集を見た漫画家は売れるぞ」って言ってましたよね。

椛島 言ったかなあ(笑)。

荒木 この柔らかい筋肉の感じがフラゼッタだけなんですよ。とにかく筋肉がまろやかで。例えば少し腕をねじっているポーズとか、蛇が巻き付いているときの一体感とかピーンと伸ばして剣を握っている感じとか、そういうのがすごく好き。それと背筋とかお尻の感じもいいんだよね。

椛島 筋肉が柔らかいというのは、なるほどと思いますね。

荒木 あと、構図もいいんですよ。正面を向いて、何かに向かっていくような構図が多いんです。

椛島 動きがあるし、絵に物語性もありますよね。そういった部分は漫画家のイラストに近いかもしれないですね。

荒木 美術界の人ではなくて、こっち側の人という感じがしますね。

椛島 フラゼッタはもともとは1960年代にデビューして漫画も描いていたらしいですからね。日本では1980年代にブレイクしたけど、ちょうどギーガー[b]やシド・ミード[c]も日本に紹介され始めた頃でしたね。

荒木 なんでブレイクしたんだろ?

椛島 映画じゃないかな。フラゼッタは『コナン・ザ・グレート』[d]の原作小説の挿絵を描いていたし、ギーガーは『エイリアン』[e]のデザイナー、シド・ミードも『ブレードランナー』[f]のデザインをしていましたからね。映画を介して日本に入ってきたわけだけど、リドリー・スコット監督[g]の存在は大きいですね。当時は特殊メイクやSFX、CGの技術も始まった頃で、すごくインパクトがあった。映画のビジュアル革命の影響で漫画も大きく変わったし。

荒木 ギーガーに影響を受けた人は多かったですよね。

椛島 新しいリアルだったね。『ブレードランナー』にはスピナーという空飛ぶ車が出てくるけどシド・ミードは、50年代にはアメ車のカタログのイラストも描いている。車のことをきちんと判っている人がデザインしているから説得力があるし、それを見てみんな驚くわけ。空想ではなくリアリティなんだよね、現実味が感じられるというか。荒木さんもよく言うじゃない、「ルールが大事」って。それは確かにあって、どんなに破天荒に見える漫画でも「これはやっていいけど、これは駄目」という部分が必ずある。

荒木 そうね。

椛島 作家同士でそういう話はしなかった?

荒木 しなかったなぁ。ただ、漫画を読むと「この先生はフラゼッタの画集を買ったな!」ってのは明らかに判った(笑)。

椛島 ギーガーやシド・ミードの画集もみなさん持っていましたよね。

荒木 やはりリドリー・スコットの影響でしょうね。エイリアンのデザインは生命と機械の融合というか。新しかったですよ。

椛島 ギーガーは映画『エイリアン』の前は一般の人にはほぼ無名だったと思うから、やはり当時のリドリー・スコットのセンスは凄かったね。リドリー・スコットはいい映画もあるけど、私は最近のはあまり好きじゃないかな。

荒木 そう? 駄目なのはあんまりなくて、だいたい面白いと思うよ。『エイリアン:コヴェナント』とか『最後の決闘裁判』とかも面白かったし。そりゃ『ブレードランナー』とかと比べたら…ってのはあるけど。

14:43 「イタリアで買った版画」
日本に持ち帰ってから専門店で額装。購入後、ずっと椛島家の壁に飾られている。
版画を購入した際のスナップ。中央に座るのが荒木先生。椛島氏による撮影。
1987年のイタリア旅行後に発表されたイラスト。身につけた小物類もカラフルで、イタリアのファッションの影響が見てとれる。
イタリアは第5部の舞台! 北イタリアの都市フィレンツェでは荒木先生の原画展が開催されたことも。

椛島 映画の話になっちゃったね(笑)。話を版画に戻すと私が今日、自宅から持ってきたのは18世紀イタリアのピラネージ[h]という作家の版画です。版画連作の1枚で、『牢獄』っていうタイトル通り牢獄を描いているけど、現実のものではなくて空想上の牢獄ですね。

荒木 一緒にイタリアに行ったときに買ったやつ?

椛島 そう。荒木さんも含めて4人でイタリアに行ったけど、版画屋の前に着いたときはみんな疲れ切ってて(上段の写真参照)、私ひとりで店に入ったんだよね。だから荒木さんは、この版画を見るのは始めてでしょ。

荒木 見てないね。ただ椛島さんが版画屋に入ったところは覚えてるよ。

椛島 ピラネージという人は建築家志望だっただけあって、空想ではあっても説得力があるんですよ。こんな建物は実際にはあり得ないけど、あってもおかしくないと思わせてしまうくらいの説得力がある。この版画のほかにもローマの景観を描いたものとか、沢山描いている人でね。18世紀当時は写真がない時代だから、こういった版画で世界に広めていくという需要はあったんだけど、その版画のローマの遺跡がね、これがまた実物よりもいいわけ(笑)。遠近法が強調されて描かれていて、より巨大に見えて迫力が出ているんですよ。テーマパークに作られたお城と同じだよね、あれも上のほうを小さく作って実際より高く大きく見えるように設計されている。話を漫画にこじつけると、漫画は説得力、リアリティが大事。それも、ただ現実をそのまま描けばいいのではなくて、加速させていく、誇張させていくのが面白いんですよ。私はピラネージの絵のそういう所が気に入ってイタリアで買って以来、ずっと部屋に飾ってある。

15:00 「ブラウン管」
『ジョジョ』で「ブラウン管」と言えば、このシーンを思い出す読者も多いのでは?

椛島 前回話してくれたスズメの本[i]、あれ読みましたよ。面白いけど、よくああいうものを見つけるよね。

荒木 本屋さんで平積みになってて偶然出会ったの。

椛島 忙しいのに、よく時間を見つけてるなぁと感心しました。本屋に行くのも買って読むのも当たり前のことではあるけど、忙しいとなかなかできないはずなのに。インプットがすごいですね。

荒木 アナログなところで、そういうのを見つけるのが好きなんですよ。出会っちゃうのが好きって言うか。ネットだと音楽でもランキングで見ちゃったりするから、ああいうのは出会いがないですね。ネットではオークションもしないし、買い物もしない。CDもお店で自分で手に取らないと買わないし。スマホは前から持ってるけど、それでお金を払うとか買い物とかはしないなぁ。

椛島 テレビもブラウン管のやつを結構長く使ってましたよね。そういうところはわりと保守的?

荒木 そうかもしれませんね。音楽も配信では聴かないし。音楽はCDをセットして選曲をして聴くのが「聴いている」って気がするんですよ。

椛島 超アナログですね。それは音へのこだわり?

荒木 音がいいとか悪いとかではなくてセットするのが儀式ですね。あと、ジャケットに書いてある小さな文字の情報がいいんですよ。プロデューサーは誰々とかっていうクレジットが。

椛島 世の中のほぼ全てが液晶テレビの時代にブラウン管っていうのも味わいがあっていいね。

荒木 イタリア人が「古いことをずっとやっていると新しくなる」って言ってたんだけど、僕もその考えはいいなって思いますよ。我慢していると新しくなるの(笑)。

椛島 たしか「『ジョーズ』はブラウン管で見ると迫力がある」って言ってたよね。

荒木 ノスタルジーがあるっていうか。

椛島 でも液晶テレビに換えたときに「どう?」って聞いたら「液晶いいっすね!」って言わなかった?

荒木 そりゃ、いいよー(笑)。でもブラウン管には昔のロマンみたいなのもちょっとあるんだよね。

15:12 「旅-イタリア-」

荒木 イタリアに行ったのは1987年だっけ。あれは衝撃が多かった旅行でしたよー。

椛島 フランスのパリに入ってからイタリアに移動でしたっけ。イタリアではヴェネツィア、フィレンツェ、ローマと3都市を回ったよね。

荒木 あの旅はもう、食べ物もファッションも全て衝撃を受けたんですよ。あとは美術品。実際に見ると、やっぱり違う! ダビデ像は実物を見て「こんなにデカいのか!」って思ったし。

椛島 荒木さんはあのときからイタリアにハマりましたよね。そういえば荒木さん、あのときの旅行でエンキ・ビラル[j]のポスターも買ったよね。

荒木 買ったね。今も持ってますよ。バンド・デシネ[k]も衝撃だったな。絵画みたいなタッチで漫画を描いてて日本じゃ考えられないって言うか。オールカラーだし。ああいうのはびっくりしたね。食べ物も衝撃だった。イカスミの真っ黒なパスタとかが出てきて。

椛島 ヴェネツィアのお店だったね。

荒木 美味しいだけではなくて運河が見えるロケーションっていう。あと、塩が入ってる瓶の形とか、そういうものの美意識まで全然違ってて、生活に幸せがあふれてる感じで。空間の様式というものにすごく衝撃を受けましたね。

椛島 編集者から見てもイタリア旅行以降、描く作品の世界観がバッと拡がった感じはありましたよ。

荒木 そのあともイタリアに行きましたからね。最初の衝撃は薄れたけど、今度は深く深く。

椛島 あそこで基本ができましたよね。

荒木 今でも「イタリアに行ってから絵が変わった」と言われます。エル・グレコ[l]の絵に似ているとかも言われますね、ちょっと身体が「ニュッ」と伸びている所とか。僕の絵もグニュッと伸びているんだよね。エル・グレコも含めて宗教画を数多く見ているから、無意識に影響はあったと思う。

椛島 美的に打たれた?

荒木 打たれましたね。最初のイタリアでは、もう何を見ていいのか判らないくらい、衝撃だらけだった。ローマのオベリスク[m]も、たしか見られるものは全部回りましたよね。写真も撮ったのを覚えていますよ。オベリスクは高さが20メートル以上もある石柱なのに一枚岩で作ってあるというところもビックリしたなー。

15:30 「映画館」

椛島 相変わらず映画はよく観てますよね。

荒木 まあね。映画館は最近は行ってないけど好きなんだよね。

椛島 一番前の席で観るんだよね。

荒木 そうですね。字幕が右側に出ることが多いんで、対角線で観られるように最前列のやや左側に座るのが好き。最前列は没頭できる感じがいいんですよ。

椛島 ジョジョ席だね。映画館に行ってそこをチェックすると荒木飛呂彦がいるわけか(笑)。

荒木 いやいや、若い頃の話ですよ(笑)。あの当時は娯楽が映画しか無かったんだよね。

椛島 1日に3本は観てたって話してたよね。

荒木 うん。高校生の頃とか、金曜日に終わる映画があるとすると「授業を受けてる場合じゃねえな!」って思ってた。3本立てで旧作を上映する名画座があって、よく通ってましたね。あれはかなり勉強になったよ。『猿の惑星』とかは第1作から5本続けて観て「こういう流れになってるんだ」って判ったりとかしてね。1日1本を目安にしていたので年間で300本以上は観ましたね。

15:44「旅-エジプト-」
エジプトの首都カイロは、承太郎とDIOの最終決戦の場所として描かれた。
ハードカバーのこの画集、その寸法はおおよそ縦60センチ、横42センチ。一般的な規格でいうとA2サイズに相当する大きさで、本を開けば当然その倍の大きさに。ページ数も360ページ以上と極厚!

椛島 そして、その翌年の1988年には一緒にエジプトに行ったんだよね。荒木さんは当時、週刊連載を休まないでちゃんとエジプト旅行にも行きましたよね。3ゕ月間、毎週1日ずつ早めて、2週間前後の余裕を作って海外旅行に行った。

荒木 やっぱり、海外を見たい気持ちが強かったですからね。

椛島 当時から〆切にはきちんとしてたし、基本的に仕事が好きだよね?(笑)

荒木 うん、嫌いではないね。仕事が好きってのもあるし海外にも行って、とにかくいろいろと見たかったんですよ。

椛島 行きたかったのは、もしかして好きだった推理小説の影響がある?

荒木 大きいね。『シャーロック・ホームズ』のシリーズ[n]とか、ああいった作品のイメージっていうか。読んでて「現地を見たい!」って思うようになってましたね。

椛島 それで初めての海外旅行がイギリスだったわけね。

荒木 ですね。海外に興味があってひとりでロンドンに行きましたね。『ビーティー』のあとくらいです。

椛島 エジプトは第3部の舞台にもなったけど、あれはエジプト旅行に行っていなければ別の場所が舞台だったかもしれないですね。私が行きたかったからエジプトを取材先にしたっていうのも事実だけど(笑)。

荒木 エジプトでデヴィッド・ロバーツ[o]の画集を買ったんですけど、これなんですよ。大きいでしょう?

椛島 大きいなぁ(笑)。よくエジプトから持って帰ってこれたよね。

荒木 抱えて帰ってきましたよ。当時は海外の宅配便もなかったから送れなかったの(笑)。エジプトから出国するときは税関がうるさかったんだよねー。「本だよ」って言っても信用してくれなくて「中を見せろ」「開けろ」って。大きいから空港のエックス線の検査も大変だったし他の荷物もあったし。

椛島 さっきも遠近感を加速させるって話をしたけど、この画集の絵もそうだね。実際に描いている場所に行くと、ここまでじゃない。でもそこがまたいいんですよね。

荒木 そうなんですよ。横山光輝先生の『バビル2世』[p]の世界なんだよね。

椛島 しかし大きいな。見るのには覚悟が必要だね。1ページをめくるのに大人が二人がかりだもんな(笑)。

荒木 この画集だとアブ・シンベル神殿も砂に埋もれて描かれているけど、僕らが行ったときは砂がなくなって露出してたよね。『ナイル殺人事件』[q]に出てきた、石を落として人を殺そうとする神殿も描かれてる。そこはすごく憧れていた場所で。

椛島 この画集はいくらくらいだっけ。

荒木 これは復刻本なんだけど、当時で10万円くらいだったかな。

椛島 多少重かったり値が張っても、こういうのは一期一会ですからね。

荒木 そうですね。エジプトはね、行くと人生観が変わる場所だと思いますね。川をはさんで東側と西側で概念が違うとかあって。

椛島 東側が生きている者の土地で西側が死者の土地ってやつだね。

荒木 人間って「そう考えるのか!」って思った。エジプトは、椛島さんと行ったあともプライベートで2回くらい行ってるんだよね。

椛島 えっ、そうなの?

荒木 行ってるんですよ。取材とかじゃなくて、単なる観光で(笑)。カイロとか、ほぼ同じようなところを回ったんだけど。『ジョジョ』でも描いたし、「もう1回見ておきたい」っていう気持ちがあって。その足でトルコとかアラブの国も回ってみたけど、より深くわかった感じがあった。バザールなんてスタンド使いが出てきそうな雰囲気でさ(笑)。

椛島 バザールは観光地ではなくて現地の人ばかりなので、ああいうところに行くと私は「来たな」という気持ちになれる。荒木さんもエジプトはカルチャーショックがあったんじゃないですか?

荒木 ありましたねー。最初のエジプトではさ、何かを買おうとしたら店員が「他にも裏にあるから来い」って言うんですよ。それが何かヤバい感じがしてさー。店の奥は真っ暗だし(笑)。

椛島 ガイドも付けないで二人でブラブラしていたしね。今、行きたい国はありますか?

荒木 今は特にないかな。もともと「旅行に行きたい!」というよりは、好奇心から「知らない国を見てみたい」という気持ちが強かったと思うので、旅行好きというわけではないかも。じつは行くまでは結構面倒だったりすることもあるし(笑)。行けば面白いって判ってるんだけど。

15:58 「旅-USA-」
下は2007年の荒木先生の年賀状イラスト。当時、雑誌連載中だった第7部『スティール・ボール・ラン』の主人公ジョニィ・ジョースターと、舞台である「USA」の文字が描かれている。

椛島 アメリカは? そんなに行ってないよね。

荒木 あまり行ってないですね。『スティール・ボール・ラン』のときの取材旅行も含めて、何回かにわけてアメリカ大陸を横断しましたけど、そんなに行きたい国ではないかな。でもアメリカで驚いたのは飛行機の墓場、あれはすごかった。アリゾナ州のトゥーソン[r]っていう場所なんだけど、数キロ先までずーっと廃棄されたジェット旅客機や戦闘機が並んでるんですよ。

椛島 面白そうですね。行きたいな。

荒木 デスバレー[s]も行ったけど砂漠地帯で気温も50度を超しているんですよ。暑すぎてデジカメも出しておくと壊れちゃうから、服の下に隠してて撮るときだけサッと出したりとか。刑務所の外を写真に撮ってるときも、公共の場所なのに銃を持った警備員が四駆車でブワーッと来て「何をやってるんだ!」って。こっちは「いや、その、ちょっと観光で」とか言って(笑)。警備員も映画とまるで同じ格好をしてるんですよ、ミラーのサングラスとかしてて。漫画に出てきそうなんだけど、それがリアルに存在してて「アメリカすげーな」って思った。

椛島 でも、そういうちょっと怖い感じは好きでしょ。

荒木 映画では「誇張して撮ってるのかな」くらいに思ってたけど、そうじゃなくて本当だったから。「こういうことがあるんだ!」っていうのが、ちょっと怖いけど面白かったですね。

椛島 ちょっと絵の話に戻すけど、イタリアの版画屋でさ、結局荒木さんは店に入って来なかったよね。

荒木 椛島さんが版画屋に入ったとき、僕は「よく入れるなー」って思ってたんですよ。本物か偽物かもわからないし、あと、何かぼったくりに遭うかもしんないしさー。

椛島 荒木さんは慎重だよね。

荒木 あと「よく買えるなぁ」って思ってた。お金があるとかじゃなくて、ものの値段をよく知っているなって思ったんですよ。僕は疑惑があると買えないからさ、信用できないと。

椛島 この版画は、初刷りではないから200年以上前の版画としては安いほうだと思いますよ。初刷りだったら当時でも4-5倍はしているんじゃないかな。版画はこの現物を見れば判るけど印刷とは違う味わいがあるよね。だから今日、わざわざ家から持ってきたんですよ。

荒木 印刷ではない感じはたしかにある。

椛島 こういう昔の絵や版画からインスピレーションを得て荒木さんが『ジョジョ』を描いて、それが今や最先端のエンターティンメントになっている。そう考えると、流行だけを追いかけてもダメなんだよね。そもそも何が流行るか判らない中で、どこから刺激を受けるかといったら、大昔のものにもヒントがあるかもしれない。エジプトも意識して行ったわけではないけど、いろんな刺激を受けたわけだし、だからインプットは大事ですね。ダメなホラー映画とかでも(笑)。

荒木 ダメなホラー映画はアートだから、そういう目で見ないとダメですよ(笑)。

16:22 「ゾンビ」
ゾンビを愛する荒木先生。ゾンビは当然、劇中にも多数登場!!

椛島 あ、韓国の『今、私たちの学校は…』[t]ってドラマは観た? 学校が舞台でゾンビが出てくるやつ。

荒木 観たよ、ゾンビ役者の演技が嘘くさくなくていいですね。日本では、ああいうゾンビの演技とか演出の映画はあんまりないよね。

椛島 ゾンビが走ってきて勢い余って壁に激突するとか、制御の効かない感じの描写が新しくてリアルですね。

荒木 そもそも1970年代では、ゾンビは新しい概念だったしね。

椛島 ゾンビ映画の元祖ロメロ[u]は新しいことを次々とやっているよね。ゾンビが子供を作ったらどうなるとか、動物がゾンビになったらどうなるのかとか。それだけと言えばそれだけなんだけど。

荒木 発展してるんだよね。日本映画で面白いゾンビ映画が少ないというのは、文化的に大丈夫かなと心配にはなるかな。例えば演技でも、ゾンビは人間の感情を表現しないで演技をしなきゃいけない。そこにリアリティがないといけないけど、日本のゾンビ映画は嘘くさい感じが多い気がする。

椛島 リアリティっていうのは現実の模倣でもないしね。このピラネージの版画も妄想を描いているんだが、その妄想をリアルに感じさせる演出がある。日本のゾンビ映画は、そこが足りないのかもね。

荒木 ゾンビ映画は有名俳優もお金も使わないで「才能だけで行くぞ」っていうジャンルですからね。それがなかなか作れないっていうのは、文化的に枯れてきているところがあるのかもって思うこともあるかな。日本のゾンビ映画は頑張ってほしい(笑)。

椛島 ユベール・ロベール[v]という架空の遺跡などを描く風景画の画家がいて、ルーヴル美術館が廃墟になった想像の絵を描いているけど、これがいいんですよね。荒木さんは前に「ゾンビ映画に癒やされる」って言ってたけど、私は廃墟に癒やされるところがある。荒木さんは今でもゾンビに囲まれて暮らしたいの?(笑)

荒木 まあね、安全であればね。あと、食糧も確保されてれば。だからスーパーマーケットはいいんですよ。特に無人だと一番嬉しいですね。廃墟はお化けがいそうだけど、お化けはそんなに怖くないしさ。

椛島 だけど本当にロメロの映画みたいにスーパーにひとりだけ残されても大丈夫なの?

荒木 けっこう大丈夫な気がするよ。しゃべる相手がいなくても、意外と癒やされるんじゃないかな。うん。

椛島 皆さん、荒木さんはそういう人です(笑)。やっぱりユニークだよね。

打合せ終了
16:52 FINISH

Gallery

Notes

  1. ★フランク・フラゼッタ
    米国出身のイラストレーター。コミック作家として活動したのち、1960年頃から『ターザン』シリーズなどのファンタジー小説、SF小説のイラストを手がけるようになり人気を博す。
  2. ★ギーガー
    H・R・ギーガー。1970年代から活躍したスイス出身の画家、造形家。強い陰影とグロテスクな独特の絵柄で有名。脊髄や骨、生殖器といった人体のパーツと、チューブなどの機械的なパーツを融合させた作品が多い。
  3. ★シド・ミード
    米国出身の工業デザイナー、イラストレーター。1960年代から活躍。フォード社のカーデザインにはじまり、幅広いジャンルの工業デザインを手がける。その後、映画のビジュアルデザインにも進出した。
  4. ★『コナン・ザ・グレート』
    1982年公開。監督/ジョン・ミリアス。主演はアーノルド・シュワルツェネッガー。有史以前を舞台に、剣と魔法の世界で繰り広げられる勇者コナンの冒険を描くヒロイック・ファンタジー。原作はロバート・E・ハワードの小説。
  5. ★『エイリアン』
    1979年公開。監督/リドリー・スコット。地球に向かう宇宙貨物船内で、人間に寄生して生まれる未知の生命体「エイリアン」が次々と船員を襲う…。唯一生き残った女性クルーと、この未知の生命体の対決を描いたSFホラーの金字塔。
  6. ★『ブレードランナー』
    1982年公開。監督/リドリー・スコット。殺人を犯した人造人間捕獲のため、賞金稼ぎ(ブレードランナー)のデッカードが単独追跡を開始する…。リドリー・スコット監督の映像センスが絶賛されたSFアクション。
  7. ★リドリー・スコット
    英国の映画監督、映画プロデューサー。『エイリアン』が世界的に大ヒットした以降はアメリカを拠点に活動。代表作は『ブラック・レイン』『プロメテウス』など多数。
  8. ★ピラネージ
    ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージは18世紀イタリアを代表する版画家。椛島氏が購入した版画連作の『牢獄』は、ピラネージの最も有名な作品のひとつ。迷宮にも見える空想上の牢獄での、様々な情景を描く。
  9. ★スズメの本
    『ある小さなスズメの記録 人を慰め、愛し、叱った、誇り高きクラレンスの生涯』(文藝春秋・刊)のこと。詳細は「JOJO magazine 2022 SPRING」の「打合せ」を参照。
  10. ★エンキ・ビラル
    フランスで活躍するバンド・デシネ作家。メビウスと並んでシーンを代表する作家のひとり。SF的でスタイリッシュなビジュアルと政治的なテーマを融合させた独自の世界観が特徴。
  11. ★バンド・デシネ
    フランス、ベルギーなどの欧州フランス語圏の漫画のこと。1940年代頃に発祥、B.D.(ベデ)という略称で呼ばれることも。美しい絵と高尚なストーリー展開の作品が多い。日本の漫画、米国のアメコミと並んで世界3大コミックとも言われている。
  12. ★エル・グレコ
    16世紀スペインを代表する画家で、宗教画を多く手がけている。人体を引き延ばしたり歪ませるなど誇張して描く「マニエリスム」を代表する画家でもある。暗い色調も特徴。
  13. ★オベリスク
    古代エジプト期に作られ、当時の神殿の入り口などに立てられた四角柱の記念碑。高さは20メートル以上あるものが多く、花崗岩から掘り出されており、巨大な一枚岩でできた柱である。
  14. ★『シャーロック・ホームズ』のシリーズ
    19世紀後半に活躍した英国の作家アーサー・コナン・ドイルによる推理小説シリーズ。ロンドンを舞台に、天才的な推理力と観察眼を持った名探偵ホームズの活躍を描く。
  15. ★デヴィッド・ロバーツ
    19世紀に活躍した英国の画家。ヨーロッパや中東の風景を数多く描いたことで知られる。1840年頃のエジプト各地の美しい風景を絵画で残しており、現地のホテルなどに絵が飾られていることも多い。
  16. ★横山光輝先生の『バビル2世』
    横山光輝は戦前の貸本時代から活躍していた漫画家。『バビル2世』はその代表作で、砂漠にそびえ立つ「バビルの塔」に住む超能力少年・バビル2世の活躍を描く。横山光輝作品は、荒木先生に大きな影響を与えている。
  17. ★『ナイル殺人事件』
    1978年公開。監督/ジョン・ギラーミン。ナイル川をさかのぼる豪華遊覧船で起きた連続殺人事件を描いたミステリー。アガサ・クリスティーの原作推理小説を映画化。
  18. ★トゥーソン
    アメリカ合衆国アリゾナ州の都市。荒木先生のいう「飛行機の墓場」はデビスモンサン空軍基地にあり、東京ドーム230個分もの広大な敷地に4500機以上の航空機が並んでいる。役目を終えた機体はパーツ取り用の予備として再利用されることも多い。
  19. ★デスバレー
    アメリカのカリフォルニア州にある乾燥した盆地。乾燥した大地が広がり、日中は50度を超すこともある。世界最高の気温(56.7C)を観測した場所としても知られる。
  20. ★『今、私たちの学校は…』
    2022年に配信が始まったNetflixオリジナルドラマで、韓国の地方都市の高校を舞台としたスリラー。ゾンビウイルスが蔓延した学園で、逃げ場を失い、死に直面した生徒達のサバイバルを描く。
  21. ★ロメロ
    映画監督であるジョージ・A・ロメロのこと。ゾンビ映画の始祖にして第一人者でもある。1978年公開の『ゾンビ』が世界中で大ヒットし、「ゾンビ映画」という新ジャンルを確立させた。
  22. ★ユベール・ロベール
    18世紀フランスの画家。架空の遺跡・廃墟の風景画を描き、「廃墟のロベール」と呼ばれ人気を博した。また、実在の建物や古代遺跡も多く描いている。

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