HILLS LIFE DAILY (August 2017)
Manganimation.net (April 2018)
Interview Archive
Excerpts from an article written by Tomu Kawada discussing Weekly Shonen Jump. It was posted on the "HILLS LIFE DAILY" website in three parts to coincide with the three part 50th anniversary exhibition. Part one was posted on August 18, 2017[1], part two on March 21, 2018[2], and part three on September 22, 2018.[3]
Interview
Part 1
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フランス代表の主将まで務めたサッカー選手、ジダンは『キャプテン翼』の影響でサッカーを始めたとインタビューに答えたことがある。千原ジュニアの芸名の由来は『キャプテン』で、スピードワゴンのコンビ名の由来は『ジョジョの奇妙な冒険』、メイプル超合金のカズレーザーは『コブラ』の影響で金髪+赤い服というスタイルを貫く。
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やがてスタンドの時代を迎えるジャンプ
ここですでに1938文字を使ってしまった。いまの僕は現実を拡張する開発者を生業としているが、大人になってからの仕事の影響まで書くことができなかった。『ウイングマン』のドリムノートはコンパイル前のソースコードみたい。AR三兄弟のデビュー作は『ど根性ガエル』と同じTシャツネタだったことを前置きして、『ジョジョの奇妙な冒険』でスタンドが本格的に登場する1990年代に話題が及ぶ前に、この連載の筆をいったん置くことにする。先生の次回作にご期待ください。
Part 2
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幽波紋と書いてスタンド、拡張を続けた『ジョジョの奇妙な冒険』
いちばん影響を受けた作品といえば、間違いなく『ジョジョの奇妙な冒険』である。如実だったのは、第三部からのスタンドという概念の登場。連載に登場した当時は、まるで意味が分からなかった。一部から登場していた波紋という技術は、まだ少年漫画の範疇で説明できるものだった。スタンドは、それらとは大きく次元が異なるものだった。作者の荒木飛呂彦先生は、「ベン・E・キングのスタンド・バイ・ミーから名付けた」と後に明かすのだが、それもよく分からない。後にも先にもよく分からないことが、この物語の最大の魅力であると言える。
第四部からの横展開も、ぞくぞくした。強さのインフレが少年ジャンプを席巻していた時代に、杜王町の連中は強さ以外の個性を武器にしていた。キャラクターがもつ脆さは、もれなくスタンド能力に潜む危うさに変換された。どこで生まれて、どんな環境で育ったのか。設定資料を読み込むように、事件の鍵を探すように、読者はページを読み進める。
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やがてゼロ年代を迎えるジャンプ
「週刊少年ジャンプ」という名前である以上、メインターゲットは少年である。もはや中年である僕と「少年ジャンプ」には、自ずと距離が生まれている。『HUNTER×HUNTER』や『ONE PIECE』、『暗殺教室』や『ボボボーボ・ボーボボ』など。気になるタイトルは山ほどある。18年間のブランクを埋めるべく、まずは新世代の物語を読み込む時間をいただきたい。それともうひとつ。2000年代に入ると、いよいよ拡張現実をひっさげて、荒木飛呂彦先生と直接会話を始めることになる。これについては次回、触れることにしよう。
Part 3
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これから3522字ほどのボリュームで、スルーしてしまっていた『ボボボーボ・ボーボボ』や『魔人探偵脳噛ネウロ』など気になっていた2000年代以降のジャンプ漫画タイトルを一読し、そして前回から予告していた荒木飛呂彦先生との直接対話について触れることで、全3回にわたる「週刊少年ジャンプ」に関する連載を締めくくりたい。
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『ジョジョの奇妙な冒険』が2000年代以降に拡張したもの、そして直接対話
『ジョジョ』の2000年代は、第6部の『ストーンオーシャン』から始まる。女性が主人公となる初めてのシリーズ。記憶をディスク化して奪われてしまうと、記憶を無くしてしまう。この設定も、2000年代初頭ならではのリアリティがある。特筆すべきはこのシリーズの宿敵、エンリコ・プッチ神父の能力である。時を操るDIOよりも壮大なテーマとは何か。作者の荒木飛呂彦は重力にたどり着く。時間も距離も速度も、重力を司る者には敵わない。このあと、第7部『スティール・ボール・ラン』で神の存在について扱うことになるのだが、ちょうどこのシリーズの連載が終了する前夜に、荒木飛呂彦先生と初めて会話する機会を得た。
時は2011年、AR三兄弟がはじめてNHKで冠番組を持つというタイミング。誰と会いたいか?とプロデューサーO氏に聞かれて、真っ先に挙げたのが荒木飛呂彦先生のお名前だった。まだ駆け出しの時期、まさか会えるとは思っていない。ダメ元だったにも関わらず、意外にもあっさりとお会いできることになった。夢のようだった。ジョジョの奇妙な物語はなぜおもしろいのか、どこに影響を受けて拡張現実を扱うようになったのか、スタンドを僕が拡張したらどうなるのか、など。具体的な企画書とAR三兄弟の持ちネタを携えて、荒木飛呂彦先生の事務所にお邪魔した。
影響を受けた人物から「つまらない」と言われてまで表現を続けられるほど、僕はタフではない。一世一代のプレゼンテーションだった。当時のネタといえば、鳩のマーカーから鳩が飛び出してきたり、可視化されたやまびこが時間差で返ってきたり。今から考えると初歩的な拡張現実に過ぎなかったが、荒木先生は「おもしろい!」と、興味を持ってくれた。
にこやかに始まった対談、僕がネタを見せるたびに荒木先生は少しずつ真顔になっていった。そして堰を切ったようにこう言った。「あのさ、僕たちミステリー作家というのは、時代ごとに生まれる制約から物語を考えるわけ。これだけいろんなことができてしまうと、困るよ。明らかに営業妨害だ」
無粋なこと、言っちゃったかな……。真顔から一変、険しい表情になった。現場に緊張が走る。それも束の間、「そうか。電話のトリックが携帯電話になって新しくなったように、拡張現実を使ったトリックを編み出せばいいのか!」
すぐに天使のようないつもの表情に戻った。対談は1時間30分ほどで終了。荒木先生は最後に「つまらなかったら、すぐつまらないって伝えて早々に対談を切り上げようと思っていた」と、岸辺露伴のような意地悪な表情で伝えてくれた。終始、本音で付き合って頂いたのだと思う。本音で、僕が考えたネタを、これから開発しようと思っている拡張現実を、おもしろいと言ってくれた。かつて「週刊少年ジャンプ」を読んで勇気をもらったように、活動の根拠となる自信を手にすることができた。この対談のあと、新シリーズとして始まった第8部『ジョジョリオン』では、拡張現実的な演出が随所に見られる。その中には、あのときに話してくれた新しいトリックも含まれている。読者冥利に尽きる。僕は拡張現実という名のスタンドで、作者に存在と感謝を伝えることができたのだった。
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