Issey Takahashi x Marie Iitoyo (December 2022)
Ultra Jump (December 2022)
Interview Archive
An interview with Issey Takahashi and Marie Iitoyo, actors for the Thus Spoke Kishibe Rohan TV Drama. It was published in the Winter 2022 issue of JOJO magazine, released on December 19, 2022.
Interview
岸辺露伴は動かない
3年目の露伴と京香意識するのは「凝り固まらないこと」
ワガママで偏屈な天才漫画家・岸辺露伴と、天真爛漫かつマイペースな編集者・泉京香。ふたりが織り成す軽妙な掛け合いは、ドラマ『岸辺露伴は動かない』の見どころのひとつになっている。そんな凸凹バディを演じる高橋一生さんと飯豊まりえさんに、それぞれが演じる役柄や撮影現場の裏側について話を聞いた。
――第3期でドラマ化されるエピソードが「ホットサマー・マーサ」「ジャンケン小僧がやって来る!」と知ったときの感想をお聞かせください。
高橋 「ジャンケン小僧がやって来る!」は『岸辺露伴は動かない』の独立したエピソードではなく、第4部『ダイヤモンドは砕けない』のエピソードなので、それをどうまとめるんだろうと思っていましたが、台本を読んだら、そこはやはり(脚本の小林)靖子さんがうまく繋げてくださっていました。第2期では物語を一本に繋ぐ怪異として六壁という坂が出てきましたが、今回はまた違った形で整合性をつけて作ってくれたことに、なんと完成された作品なんだろうと感じました。
飯豊 「ホットサマー・マーサ」は原作で読んだときに、これまで「富豪村」にしか登場していなかった泉くんがまた露伴先生の担当編集者として戻ってきてくれたことが個人的にとてもうれしかったんです。そんなエピソードを早速ドラマでやれることがとても楽しみでした。
高橋 もしかしたら荒木先生がドラマを観てくださって泉編集が戻ってきたのだろうかと、僭越ながら思いまして。僕はちょっとニヤリとしてしまったんです。
飯豊 私もそう感じました。「富豪村」で初めて出てきたときの泉くんらしさは残りつつも、なんだかどことなくドラマの雰囲気や口調も取り入れられている気がして。
高橋 荒木先生のチームも編集の方をはじめとしていろいろな人がいて成り立っているのだと思うんですが、そちらのチームとこちら側のドラマチームとで漫画とお芝居を通した往復書簡のようなことができているような感覚がありました。第1期をやったときはまさかそんなことができるとは思ってもいなかったので、とてもうれしく思っています。勝手ながら。
――今作の台本を読まれて、露伴や京香の新しい一面を感じたポイントはありましたか?
高橋 僕は、露伴には毎回新しい一面を見ているような気がします。特に「ホットサマー・マーサ」は露伴の弱い部分にフォーカスが当たっていて。これまでこんなにも心の弱った露伴を見たことがなかったので、非常に新鮮でした。それはさらに新作の「ドリッピング画法」を読んだときも感じたことです。今まで僕は、露伴が泣くなんてありえないことだと思っていたんです。こんなこと聞いたら露伴は怒ると思いますが、キャラクターの丸が4つに描きかえられただけで涙目のような表情になるなんて、まったく想像がつかなくて。そういうふうにキャラクターの更新が行われることは、本来だとあまり読者の方には受け入れられないことなんじゃないかと思うんです。まだ完成されていないキャラクターならば「こんな一面もあるんだ」で許容できることも、露伴は生まれてから20年以上経っていますから「こんなの露伴じゃない」と感じる読者もいるのではないかな、と。けれど、荒木先生はそこを優に飛び越えてくる。それがとても面白かったですし、凝り固まっていったかもしれない“露伴像”を砕いてくれるエピソードだったと感じました。ただ、もし仮に今後またドラマの続編が作られるとしたら、バキンの所在はどうなるのだろうというのが今は気になっています。
飯豊 確かに! どうなるんでしょう? これからもずっと一緒にいるんですかね?
高橋 原作は読み切り作品として続いているので、期間が空くことによって「もしかしたらこれまでとは別の世界線の露伴なのかもしれない」という捉え方ができると思うのですが、ドラマでは一応世界線が続いていくので。まだ続編が決まっているわけでもないのに、そんな取らぬ狸の皮算用をしたりしています。
――飯豊さんはいかがですか?
飯豊 露伴先生が外へ取材しに行くことを制限されている「ホットサマー・マーサ」では、泉くんはそんな露伴先生をどうにかフォローしようという立ち位置に回っていて。いつもだと露伴先生が言うこととはまったく違うことを提案したり、引っ張っていったりと、露伴先生を動かすことが多い彼女が、今回は常に露伴先生のことを気にかけてサポートしているのが、これまでとは違うなと感じましたね。そういう新たな一面がこの第3期で出てきたことで、自分の中の泉くんに対する愛がよりいっそう増した気がします。
――演じるうえで心がけていることは?
高橋 やっぱり「凝り固まらないこと」なのかもしれないです。荒木先生がこれだけ柔軟にいてくださることが救いになっているといいますか。それくらい、いつもは窮地に追い詰められても堂々としている露伴がマスクや世の中の風潮に参ってしまっているという、この現実ともリンクした姿を見られたことは、僕にとってとてもうれしいことでした。ですから僕自身も露伴像をあまり決めこみすぎないようにしようと思っています。「ホットサマー・マーサ」で露伴が寝室でイブと対面したときの行動も、当初台本では冷静さを失わない大人の露伴として描かれていたのですが、僕から「漫画通りに、取り乱して叫ぶようにしたい」と(演出の渡辺)一貴さんにお願いさせていただきました。それが皆さんの目にどう映るかはわかりませんが、もし「そんなの露伴じゃない」と言われても、僕も柔軟に「いや、これも露伴なんです」と言いたいなと思って。荒木先生が示してくださった柔軟さは、自戒にもなっているような気がします。
――ときには台本に書かれた内容を飛び越えるほどに、フレキシブルに露伴を捉えてらっしゃるんですね。そういった高橋さんの柔軟さは、バディを演じる飯豊さんも感じていますか?
飯豊 そうですね。私がリハーサルでセリフを読み間違えちゃったときも、一生さんはすぐに臨機応変に返してくださるんです。それが本番で採用されることもけっこうあって。例えば第2期でも、京香の「罪とか罰とか」というセリフがありましたが、あれはもともとは「罪と罰」というセリフを私が言い間違えてしまったものなんですよ。それを一生さんが拾ってくれ、一貴さんが「それ、採用しましょう」と言い、実際にああいうセリフになりました。個人的には「本当にいいのかな……?」とちょっと戸惑っています(笑)。
――それだけ自然に露伴や京香のやり取りがおふたりから生まれるんですね。
飯豊 そういえば私、先日スタッフの方に「どことなく京香ちゃんぽいところあるよね」って言われたんですよ。
高橋 それは……どう捉えたらいいんだろう……?
――ちなみに、どんなときに言われたんですか?
飯豊 リハーサル中に、まだ露伴先生ひとりのシーンが残っていたにもかかわらず私が一生さんの近くへ行ってしまい、「飯豊さん! まだ終わってないから席に戻ってください!」と言われちゃったことがあったんです。私的には、一生さんがすごく神妙な顔をされていたので、「あれ、さっきの私の芝居がダメだったかな?」と思ってお話を聞きに行こうと思ったんですが(笑)。「ごめんなさい!」と謝りたおしました。そのときに「そういうちょっと抜けているところ、なんだか京香みたいだね」って。
高橋 こう言われると僕が、飯豊くんのお芝居がダメだと不機嫌になる偉そうなヤツみたいに思われそうですが、決してそんなことはないですから(笑)。
飯豊 そうですよね。普段の一生さんは全然そんなことはないんですけど、そのときはたまたまシーンの雰囲気もあって、なんだかいつもと違う顔をされていたので、さっきのシーンを考え直そうとしているのかなと思ってしまったんです(笑)。ほかにも、私が惜しい感じでセリフを言い間違えちゃったときに言われたこともあって。自分としてはあまり意識をしていないし、どちらかというとパーソナルなものは出さないようにしていたんですけどね。一貴さんからは「もっとそれを入れてほしい」と言われるので、どうしようかなと少し思ってもいたのですが、原作の「ホットサマー・マーサ」にドラマの雰囲気が加わっているように感じられたことで、ひとつ安心することができました。
――飯豊さんが京香を演じるうえで心がけていることも教えてください。
飯豊 荒木先生が「富豪村」のあとがきで泉くんのことを「ムカつきながら描きました」とおっしゃっていたので、そういうウザさは意識しつつ、でも嫌われすぎないギリギリのところを調整したいということは、第1期のときから考えています。露伴先生の顔色も意識しながら、そのバランスを探るようにしていました。泉くんが露伴先生にウザがられてドアから追い出されるという毎回恒例のやり取りは、今回も健在です。あのシーンは台本だとほとんどセリフがないんですが、アドリブもしっかりと一貴さんが使ってくださるのでうれしいですね。
――「泉京香」という漫画のキャラクターを生身の人間であるご自身が演じるという点で意識していることはありますか?
飯豊 口調などはなんとなく原作の雰囲気を押さえているのですが、やっぱり生の人間が演じたときにオーバーにやり過ぎてしまうと「空気が読めなさすぎる人」になってしまうので、視線などにも気を配って、嫌われないようにしたいなと思っています。あとは、なるべく露伴先生との時間や目の前で起きていることに対して楽しむようにすること。泉くんはセリフだと相手をムカッとさせるようなことを言っているんですが、本人としては決して悪気はないですし、何かを計算しているというわけでもないと思うので、その雰囲気を出せたらと思っています。一貴さんからは「いつものテンション50倍でしゃべってください」と言われているので、それも意識していますね。でも、今はあまりいろんなことに気を張らず、のびのびとやらせていただいています。
――お芝居について、第3期までシリーズを積み重ねてきたからこその変化を感じることはありますか?
高橋 チームワークという意味ではあるかもしれないのですが、お芝居に関しては最初から完成されていたような気がします。各話にゲストとして来てくださる方々も本当に自然と入られていて。“いつも通りのことをやっている”というのがこの3年間続いている感覚です。
飯豊 実際は前回の撮影から1年ぐらい期間が空いているんですが、気持ちとしては1~2ゕ月お休みして再開したような感じがします。今回のクランクインもすごく自然だったし、きっと撮影が終わるときも、まだ来年があるとは決まっていないけど「また来年」と言ってお別れするんじゃないかなと思いますね。
高橋 これだけ自然に入れる作品って、なかなかないですね。僕にとっては初めての経験かもしれません。
飯豊 私も同じです。レギュラーキャストが一生さんと私、そして(第1期では泥棒役、第2期では不動産屋役で出演していた中村)まことさんと増田(朋弥)さんの4人だけしかいないというのもあるのかなと思います。その4人以外は毎回新たなゲストの方をお迎えしてやるというスタイルが面白いですよね。
高橋 作品の根底は変わらないですから。今回、第1期ぶりに『露伴』の現場に戻ってきてくださったスタッフの方から「もうお家芸ですね」と言われました。例えば石坂浩二さんの『金田一耕助』シリーズでもあったんです、「前回の村で刑事役だったキャストの方が、今回の村では駐在さんになっている。けれど、誰も突っ込まない」という“お約束”が。その(『金田一耕助』シリーズの監督である)市川崑さんの突飛さと同じようなことを『岸辺露伴は動かない』でもやろうとしていると知ったときは、面白いなと思いました。
飯豊 『ジョジョ』ファンの方は「一度でいいからヘブンズ・ドアーをかけられてみたい」という憧れがあると思うんですが、おふたりは一度どころか3回目になりますからね(笑)。
高橋 そしてその都度ひどい目に遭って帰っていく、という。そんなお約束の始まり方は今回も健在ですので、どうぞお楽しみに。
――今回はどういう経緯でふたりがヘブンズ・ドアーをかけられることになるのか、気になります。
飯豊 メインキャストが少ないと言えば、「ジャンケン小僧」では3人だけでドラマが展開するというのもいいですよね。年末のスペシャルドラマといったら普通、すごくたくさんのキャストが出るものなのに。
高橋 「いろいろな人を出して視聴率を稼ぐ」という意図を微塵も感じさせないところが、出演者の多い年末年始番組が当たり前な風潮を疑問に思っている僕の気持ちと非常に合っていると思います(笑)。
――世間の当たり前とは逆を行きながらも作りたいものを作る感じが、なんだか岸辺露伴らしいです。
高橋 それがいいんです。ミニマムな世界観の中で、非常に濃密なことが行われているということが。もちろん人がたくさん出る作品もそれはそれで群像としての楽しさがあると思いますが、気心の知れたキャラクターが繰り広げる物語だからこそ、ご覧になる方も安心して観られるんじゃないかなと思います。ある意味で、「ザ・ドリフターズ」のような存在といいますか。そもそも夏ではなく年末に怪異を描くというのも挑戦的だと思いますし、そういう「冒険すぎること」をやり続けることがこの作品らしさなのではないかなと思っています。『ジョジョ』を知らなかった方がドラマをきっかけに漫画を読んでみたり、もともと漫画を読んでいた方がドラマを観て面白がってくれたり、もしかしたら「漫画のイメージが強すぎるからドラマは観られない」と思っていた人も3年目ともなると「ちょっと観てもいいかな」と思えるようになるかもしれない。そのときに、露伴と泉くんが変わらない関係性を貫いていることが皆さんにどう見えるのか、気になるところです。
――高橋さんから見た京香、飯豊さんから見た露伴の印象も教えてください。
高橋 靖子さんがそう書いてくださっているのもあるのですが、時間の流れに準じて人として成長してきているといいますか、「露伴はこういう人間だからここはあしらうけど、ここは真面目に受け止める」という緩急が泉くんの中でどんどん成立してきている気がします。ある意味で本当のバディになってきている印象を、回を追うごとに感じます。それは漫画のほうでも受けてくださっている気がしていて、「ホットサマー・マーサ」を読んだときは「もしかして露伴が、一度担当が代わった泉編集を呼び戻したのかな?」と思ったぐらいです。そういう関係性を荒木先生が描いてくださったことがとても心強いなと勝手ながら思っていました。
飯豊 第1期のときはかなり凸凹感が目立っていましたし、露伴先生から拒絶されている部分も感じていたんです。でも、担当になったばかりでどう接していいかわからなかった当時に比べ、第3期になった今回は信頼してくれているのを感じますし、ツーカーの仲になってきているような気がしていますね。露伴先生の頑固なところもだんだんとマイルドになってきていますし、泉くんも露伴先生を守ってあげたくなると思っているようなところも垣間見えて。
高橋 これだけ関係性ができあがってくると、そろそろ泉くんが「お家芸をさせてあげている」というところも見えてくるんです。「露伴を元気づけるために、ドアの外に追い出されてあげている」というような。あのやりとりはドラマ内のふたりにとってもお家芸になりつつあるのかなと思いました。
飯豊 「ほらほら、ドアに追い出しなさい」と言わんばかりに挑発して、追い出されてから「もう!」と言いながらも「ま、いっか」と呟いていて(笑)。その関係性が面白いなと感じますね。きっと泉くんは、編集部内でもすごいと思われているだろうなと思いますよ。あの露伴先生と関係性を築けているし、しかも志士十五先生まで担当していますから。
――個性派ばかりを担当していますね(笑)。
高橋 いつの間にかすっかり敏腕の編集者になっていて。「あいつはいったいどういう対応をしているんだ?」「実は先生の前ではものすごく怖いんじゃないか?」と、同僚からいろいろと噂されているんじゃないかと思っています。服装も、フリフリのシフォンやフワフワのリボンという第1期のイメージから、第2期あたりから少しずつ調子に乗ってきたのか、貫いているのか、何も考えていないのか、今回ではまるで編集長みたいな「マダム」めいた格好もしていますよね。
飯豊 (笑)。バッグの容量もどんどん小さくなっています。衣装合わせをするたびに、一生さんに見せるのが楽しみなんですよ。「見てください、今回のバッグはこんなにちっちゃくなりました!」って。(人物デザイン監修の)柘植(伊佐夫)さんは今回も素敵な衣装を用意してくださっていて、「ジャンケン小僧」の衣装ではシフォン生地にぬいぐるみのようなフワフワ生地を合わせているんです。「人の目を引きつけるような違和感のあるモードさを表現した」とおっしゃっていて。普通だと考えられない衣装なのですごいなと思いました。
高橋 そういうこだわりが降りてくるんでしょうね。「ジャンケン小僧」は露伴の衣装も面白くて、第1期のときの衣装の色を反転したものになっているんです。柘植さんは、まさにこの『岸辺露伴は動かない』の立役者だと思います。
飯豊 衣装の中に次の作品への伏線が張ってあったりもして、ディティールへのこだわりに毎回驚かされます。ぜひそういう部分も探して楽しんでいただきたいですね。
――撮影現場の雰囲気はいかがですか?
高橋 最前線にいるスタッフの皆さんが楽しくやっているのがわかるんです。スケジュール的にはタイトではあるんですが、その中でも皆さんの気力が失せていかないのがこの現場の素晴らしさだなと思っています。「背中の正面」のときに、僕が乙雅三としゃべるシーンで、(撮影の)山本(周平)さんがファインダー越しにニヤついていたことがあって。気になってしょうがなくて「もう笑わないでくれよ!」と思っていたんですが、同時に、この現場を楽しみながら撮ってくださっていることが感じられてうれしくもありました。今回も、山本さんがニヤついているのを見ることができて、「また始まった」と思いつつも、楽しんでいただけていることが誇らしかったです。
飯豊 そういうときって心の中で小さくガッツポーズしたくなりますよね。それで言うと、一貴さんもマスクの下でずっと笑っていますよ。自分が現場に入っちゃうとあんまりスタッフさんの顔も見られないですが、リハーサル中は露伴先生ひとりのシーンだと私もスタッフの皆さんと一緒にモニターのそばで見学できる時間があるんです。そのときに一貴さんの表情を覗いてみると、一生さんが声を上げれば上げるほどどんどん笑顔になっていくんですよ。今日のリハーサルでも、すごく頷きながらモニターを見ていて。一番楽しんでいたと思います。
高橋 僕はモニターチェックしないのでわからなかったけれど、そういう風景はこうして聞くととてもうれしいものですね。誤解を恐れずに言わせてもらうと、僕は一貴さんを喜ばせるためだけにお芝居をしているんです。そうでないとお芝居は成立しないと思っていて。スタッフの皆さんがなんの忖度も馴れ合いもなくやっているということは大前提として、顔の見えない不特定多数ではなく、その場の最初のお客さんである人たちから生まれるリアクションには心が動かされます。
――スタッフの皆さんが楽しみながらドラマを作っていることは、映像からも伝わってくるような気がします。
高橋 この間も日をまたいでひとつの長いシーンを撮るロケがあったのですが、後半にいけばいくほど、スタッフの皆さんのギアがどんどん上がっていくのを肌で感じるんです。みんながみんな、この作品を作品たらしめようとしてくれている感じが、なんだか感動的でした。ほかの現場だと「次のクール、何をやるの?」みたいな話をする人って少なくないんです。そういう話をされると僕はなんだかやる気がなくなるんです。結局ルーティンなんだなと思ってしまって。今の時代に、ドラマや映画が作品として残らなくなった一番の要因はそれだと思っています。
飯豊 確かに、作業みたいなっていると感じると悲しいですよね。それでいうと、今回、新しく参加されるキャストの皆さんから「露伴の現場って楽しいって聞いていた」と言われたときはドキッとしました。
高橋 言われました、「楽しいって聞いていた“のに”って。そのあとには「こんなにきつい現場だと思ってなかった……」という言葉が続くんですが。
――そんなことが……!? 『岸辺露伴は動かない』の撮影はそんなにも過酷なんですか?
飯豊 その方はたまたま初日からエピソードのメインとなる山場のシーンの撮影だったんですよ。あれは本当にハードだったから仕方なかった。「聞いていた話と違っててごめんなさい!」って思っていました(笑)。
高橋 また、一貴さんはさまざまなアングルから撮る方で、同じシーンを頭からお尻まで一連通して何回かやるんです。もちろんビジョンがあったうえでのことなのですが、初めて参加される方は驚かれるみたいで。僕は少しずつ小間切れにやるよりも一連の流れでやるほうが好きなので、そう思わない人もいるのかと少し意外でした。人によって感じ方が違うということは改めてよくわかりました。
飯豊 私も頭からお尻まで一連でやるほうが楽しいです。毎回違う感覚で、新しい気づきがありますよね。
――改めて、今回のエピソードの見どころを教えてください。
飯豊 「ジャンケン小僧」はやっぱりジャンケン対決が楽しみです。あんなにも本気で子どもとジャンケンする大人、露伴先生のほかにいないと思いますよ。
高橋 漫画の表現だと飛びながらジャンケンしたりして派手さが出ますが、ドラマではあくまで「いい大人が子どもとジャンケンをしている」というだけですから。原作を読んだ(大柳賢役の)柊木(陽太)くんから「本当に飛ぶんですか?」と一貴さんが聞かれていました。
飯豊 (笑)。私、露伴先生がグーを出してそのまま殴るシーンをドラマでもやるのかって気になっています。
高橋 それは観てからのお楽しみにしておきましょう。
飯豊 そうなんですね! 露伴先生の、相手が子どもだからといっても決して容赦しないところ、いいですよね。
高橋 そのスタンスは「富豪村」から変わっていないですから。「ジャンケン小僧」では、子どもを相手にすることに対する露伴の印象的なセリフがあるんですが、僕はそれに心から賛同しています。ひとりの人間として対等に接するのはいいんですけれど、子どもとして甘えられるとカッチーンとくるんです。ですから、僕は子役さんには厳しいです。柊木くんや(「富豪村」で一究役を務めた柴崎) 楓雅くんとも、あくまで対等な人間として会話をしていました。甘えのようなものは挟まず、いい距離感を保てているんじゃないかなと思います。
――「ホットサマー・マーサ」についてはいかがですか?
飯豊 「ホットサマー・マーサ」は露伴先生がマスクをつけているのがまずすごく新鮮ですよね。あと、イブちゃんのあるものに露伴先生がサインをあげていて、そのファンサービスのよさがかわいいなと思いました。
高橋 僕は原作を読んだときに、イブちゃんの、人が話しているのに「先生超大好きッ♡」って返してくるあの感じがとてもリアルだと思ったんです。自分の思いを伝えたいという気持ちだけが先行している人と対峙することは、こちらとしてはものすごく怖いんです。それがあまりにも絶妙に、写実的に描かれていてドキッとして。実は当初、ドラマの台本ではそのセリフがなかったのですが、そこも「漫画のやり取りをぜひ入れたい」と言って追加してもらいました。また、なんとなく中途半端になってしまっているこのコロナ禍に対する荒木先生のフラストレーションも、この「ホットサマー・マーサ」では感じていて。露伴の世界に現実を落とし込んでしまう思い切りのよさを、どこまで表現できるだろうかとは思っています。露伴が言う「いつまでするんだ、こんなもの。」というセリフは僕も共感するところがあるので、そのセリフを言えてうれしかったです。
――ちなみに、高橋さんは『ジョジョ』がもともとお好きとのことでしたが、飯豊さんはもともと作品をご存知だったんですか?
飯豊 もちろん知ってはいたのですが、しっかりと読み始めたのはこの役をいただいてからでした。運命が決められていてもそれに従うのではなく突き進んでいく姿や、一瞬ひるんでしまいそうなシチュエーションにも自ら立ち向かっていく様子が、とてもリアリティあって。かっこいいし、とても面白い作品だと感じました。露伴先生が出てくる『ダイヤモンドは砕けない』はアニメも観たのですが、ジャンケン小僧役を私がもともと知っていた(声優の)坂本千夏さんが演じられていて、なんだか御縁を感じましたね。この役をいただいたからこそ、新しい世界と出合うことができてうれしかったです。
――ファンの方の中にも、このドラマがきっかけで『ジョジョ』の世界を知った人は少なくないと思います。
飯豊 でもやっぱり怖さもありました。これだけたくさんの方に愛されている作品のドラマに、あまり作品に詳しくない私が参加しても大丈夫だろうか、って。一生さんが露伴先生を大好きだということも聞いていたので、最初は不安も大きかったですね。
高橋 ただ、作品について知っている人がやるというのも、それはそれできついかもしれません。僕も今さらではありますが、「露伴が好きです」と言わなければよかったと思っているんです。そう言うことによって何かバイアスがかかってしまったような気がして。僕としては作品への臨み方はこれまで通りですし、自分の中でハードルを上げるのはまったく問題ないんですが、単純に皆さんが「高橋一生は露伴が好きなんだ」という視点で観てしまうのかな、と。もちろん、だからと言って何かを変えるわけではないんですが。
飯豊 第1期のときには、ファンの方の中にドラマとアニメの「富豪村」を並べて観て、声の感じやテンションのシンクロを楽しんでいた方もいたと聞いて。「とてもよく見られているんだな!」とちょっと緊張しました。
高橋 そこから意図的に少しずつ離していって、それでも成立するというものを目指したいなとは思います。最初はできる限り原作に沿う形でやってきましたが、これだけ相互関係ができあがったら――僕は勝手にドラマと漫画の相互関係ができていると思っているんですが――最終的には「原作と違う部分はありつつも、ドラマ『岸辺露伴は動かない』として成り立っている」という形が理想だなと思うんです。
飯豊 なんだか実際にそれが叶ってきているような気がしますよね。原作から離れすぎず、でもドラマならではのものも生まれてきているような。私は普段あまりご覧になった方の反響を目にしてはいないんですが、それでも知り合いを通して「『岸辺露伴は動かない』を観ている」というお声を聞く機会がすごく増えているんです。
高橋 増えましたよね。僕なんか、初対面のある芸人の方に開口一番「露伴先生だ」と言われました。
飯豊 先日お邪魔した場所でも、とある方から「『岸辺露伴は動かない』が一番好きです」って声をかけていただきました(笑)。なんだか私にとっての代表作みたいになっていて、それはきっと私だけじゃなく、このドラマ『岸辺露伴は動かない』チームに参加している人みんなにとってそうなっているんじゃないかなと思います。こんなに居心地がよくて、長く続く作品ってそうないので、大切にしていきたいですね。私、この現場が本当に楽しいです。
――ありがとうございました。それでは最後に、放送を楽しみにしている読者へ向けてメッセージを。
高橋 ドラマを楽しみにしてくださっている方々は第1期、第2期ももちろん観てくださっている方が多いと思いますが、これまで観たことがなくて気になっているという方も、気が向いたら観て楽しんでいただけたら。
飯豊 本当にそれに尽きますね。『岸辺露伴は動かない』が放送されるのは、きっと皆さんがおうちでゆっくりしている時間帯だと思います。今回もどうぞ楽しんでいただけたらうれしいです。
高橋一生 TAKAHASHI ISSEY
1980年12月9日生まれ。東京都出身。ドラマ、映画、舞台など幅広く活躍。近年の出演作に、演出の渡辺一貴と再びタッグを組んだドラマ『雪国-SNOW COUNTRY-』(22)のほか、ドラマ『恋せぬふたり』(22)、舞台『2020(ニーゼロニーゼロ)』(22)などがある。
飯豊まりえ IITOYO MARIE
1998年1月5日生まれ。千葉県出身。女優、ファッションモデルとしても活躍。近年の出演作にドラマ『オクトー~感情捜査官 心野朱梨~』主演(22)、『ちむどんどん』(22)などがある。アニメ映画『夏へのトンネル、さよならの出口』(22)では主演声優も務めた。