Araki x Kinoshita (07/2018)

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Published July 5, 2018
Ekin, Painting the Darkness

Interview with the Japanese novelist Masaki Kinoshita and Hirohiko Araki on July 5, 2018 in commemoration of the publication of Kinoshita's novel, Ekin, Painting the Darkness.

Interview

木下昌輝さんは『絵金、闇を塗る』を執筆しながら、主人公の絵金に、ある漫画家の姿を重ねていることに気がついた。その漫画家とは、荒木飛呂彦さん。 大人気漫画『ジョジョの奇妙な冒険』で革新的な世界観を展開し、アートやファッションの世界でも大きな存在となっている。今回、荒木さんに『絵金、闇を塗る』と絵金の画集をお渡しして、対談を申し込み、OKのお返事をいただいた。 荒木さんも惹かれた絵金の絵と、その人物像の魅力とは?

流血はリアルか構図か

──今回の対談は木下さんが、ぜひ荒木さんと絵金についてお話ししたいということで実現しました。

荒木 ありがとうございます。

木下 こちらこそありがとうございます。絵金について取材したところ、小さい頃に絵金の絵を見てトラウマになったという方が多かったんです。トラウマになりつつも、愛される。自分にとってそういう創作物は何かなと考えると、それが荒木先生の『ジョジョの奇妙な冒険』でした。僕が中一ぐらいのときに第1部(『ファントムブラッド』)が始まったんですけど、あまりに怖くてトラウマになりました。とくにディオに吸血鬼にされたお母さんが自分の赤ちゃんを殺す、という場面を読んだときには悪夢にうなされました。でも、同時にすごく面白くて夢中になって読んできました。絵金が描く人物たちのポージングに、荒木先生の絵と共通するものを感じたこともあって、ぜひ対談をお願いしたいと思ったんです。

荒木 僕の絵がトラウマになるっていうのは……光栄です(笑)。絵金の資料をいただいて、なんとなくそういうことをお話しになりたいのかなと思いました。

木下絵金のことはご存じでしたか。

荒木初めて知りました。幕末の頃、四国の土佐にこういう画家がおられて、いまだに人気を集めているというのがすごいなと思いますね。絵の内容はグロいというか、みんなが嫌がるような絵を描いている。でも、それをお祭りで使っている。その感覚が興味深い。

木下言い伝えでは、絵金の絵で海から来る魔物を追い払うという意味があるそうです。

荒木魔除けなんですね。

木下そうです。だから魔物よりも怖いものを描こうとしていたみたいです。

荒木日本の絵には昔から怖い絵がよくありますよね。

木下ありますね。とくに、幕末は政情不安だったせいか、幽霊画や化け物の絵が流行ったらしいです。絵金もその一環で描いたんじゃないかとも言われていますね。

荒木絵金はスプラッターな絵が印象的ですけど、実際に死体を見ているのかな。僕なんか、映画とか小説にヒントを得た想像でしかないし、グロく描こうとは思っていないんです。

木下そうなんですか。

荒木絵の構図を成り立たせるために血を噴き出させてるところがある。血の飛ぶ方向とかを絵の中に線として入れたいんですよ。

木下なるほど。研究者によっては、絵金が描く血はリアルな流れ方をしていると言う人もいてるんですよ。絵金はもともと貧しい髪結いの家の子供だったんですけど、仁尾という大商人がパトロンになって江戸の狩野派に学びました。土佐に帰ってから、林という藩医の株を買っていて、もしかしたら解剖に立ち会ったり実際の血の流れ方を見ているんじゃないかという説もあります。

荒木どちらか判断に迷いますね。血が垂直に落ちている絵がありますけど、重力に従っているからリアルだと捉えるのか、あくまで絵の構図のためだと捉えるのか。塗料にも特色がありますね。この赤なんかすごいですよ。

木下水銀朱を使っているらしくて。四国は水銀がいっぱいとれたらしいんです。

荒木技術的にもすごく進んだ時代なのかもしれませんね。

木下そうですね。ちょうどこの頃、西洋顔料が入ってきたんです。絵金のライバルに河田小龍という画家がいるんですが、その人は西洋顔料のウルトラマリンブルーを使って描いていますね。 江戸時代の絵画ってあんまり写実的じゃないという先入観があったんですけど、当時の絵師の手記を読むと、自分の描いた絵馬が笑われたと。馬が草を食む様子を描いたらしいんですけど、その馬は目を開けたまま草を食んでいた。馬は目を怪我しないように、草を食むときは絶対に目を閉じるらしいんですよ。こいつ、そんなこともわからずに描いてるって大笑いされて恥をかいたそうです。

荒木ちゃんと観察しろと。

木下そうなんです。写実的に描けと。

ホラー映画と絵画


荒木絵金はこういう怖い絵をなぜ描きたがったんでしょうね。

木下なぜでしょうね。荒木先生もホラー映画をめっちゃよく観てはるじゃないですか。ご著書があるくらい。なぜでしょう。

荒木癒やされるんですよね、簡単に言うと。最初はちょっと「うっ」となるけど、きれいなだけのものよりも安心できるというか。でも、本物の暗黒部分はちょっとダメかもしれないな。

木下本物の暗黒部分っていうのは、どういうところですか。

荒木本当に人が死んでいるところをリアルに描いているような部分ですね。ちょっとフィクションが欲しい。ファンタジーというか。 絵金が描いているのも一種のファンタジーかもしれない。歌舞伎の場面ですよね。お芝居だからこういう残酷な絵が描けたのかな。でも、江戸時代だからリアルな感じもしますよね。武士が刀を持って歩いていた時代だから。だから、パワーがすごいのかもしれないし。

木下さらし首とか、普通にあったと思いますね。

荒木絵金はよく生首を描いていますね。

木下僕は人物のポージングが面白いなと思うんですけど。荒木先生の漫画でも「ジョジョ立ち」と言われるように、ポージングが特徴的ですよね。

荒木絵金のはたぶん役者さんが演じているときのポーズなんでしょうね。「おおっ」て驚いたり、劇的なところを描くとこうなると思います。「何してる、おのれ」みたいな。

木下それをさらにぎゅっと凝縮していますよね。

荒木絵描きは構図にこだわるんですよ。たとえば画面のここに人を入れるか入れないかで絵がまったく違ってくるんです。あと、手の方向が対角線上に伸びていたりとか。画面のある部分に重量があったら、空いたところをどうするかと考える。

木下単に余白が寂しいから入れてるだけじゃなくて。

荒木色にも重さがあって、赤い色があると、もう一方にはもうちょっと抑えた色でバランスをとったり。それと絵金の場合は、土佐っていう土地柄もありますよね。坂本龍馬を輩出したような独特の熱気を感じます。

木下そうですね。熱狂みたいなものがありますね。

荒木黒船が来た時代。時代の変わり目が来ている感じがしますね。

木下絵金は幕末の画家ですが、その後、注目を浴びた時期があって、それは学生運動の時代なんですよ。

荒木六〇年代とか七〇年代ですか。

木下その頃ですね。ちょっと人々がクレイジーになった時代というんですかね。僕自身は、絵金の絵はちょっとアクが強過ぎて家には飾りたくないんですけど。自分にパワーがないときに見たら、病気になりそうな気がして。

荒木夢に見ちゃう。僕も家に置くなら血が出ていない絵のほうがいいですね(笑)。

木下ですよね。だからお祭りでたまに見るくらいがいいのかなと。

ろうそくの灯りで見る絵金


荒木絵金の絵はお祭りでどんなふうに使われているんですか。

木下高知県香南市赤岡町の「絵金祭り」という祭りが有名ですが、他にも毎年七月十四、十五日には須留田八幡宮の神祭があります。不思議なお祭りなんですよ。その晩は赤岡の町の電気を全部消すんです。街灯とか自動販売機、家の電灯まで。ゴーストタウンみたいな感じになります。

荒木写真で見ても面白そうですね。ちょっとわくわくする。

木下家のガレージなんかを使って絵を展示するんですが、ろうそくの灯りだけで絵を見るんです。だから原画が煤でくすんでいる。

荒木意外とカジュアルに扱っているんですね。

木下そうなんですよね。雨が降っても、のんびり片づけていましたね。

荒木展示する絵は誰の所有なんですか。

木下飾っている家の人のものが多いと思います。「絵金蔵」という絵金の資料館が保管しているのもありますけど。朝倉神社という神社では絵金の絵を参道に掲げてその下を通れたりもします。美術品の扱いとしてはどうなのかなと思うんですけど、生活の中にある感じですね。夏のお祭りなのでビールを飲みながら見る感じです。

荒木絵金はろうそくの灯りで見るという設定で描いていたんでしょうか。芝居の看板だったり、舞台の絵だったりしますから、提灯で見ることは想定していたような気がしますね。だとするとホラー的な内容とも相性がいい。その反対にマリア様がいるような聖なる絵もいいと思うんですよね。カラヴァッジョ的な絵もろうそくで見てみたい。

木下イタリアの画家ですね。絵金に通じるものがありますか。

荒木絵金を見てちょっとカラヴァッジョを思い出したんです。カラヴァッジョの絵にも生首や剣が出てきたりするんですよ。

木下そうなんですか。

荒木実際、カラヴァッジョはケンカで人を殺したこともあったみたいです。とにかく心がすごく激しい人だったらしい。絵も本当にすごいんですよ。 あと、タランティーノとか思い出しますよね。絵金を見たせいか、タランティーノの映画を見返しました。『キル・ビル』とか(笑)。やっぱり面白いなと思って。

木下『キル・ビル』もビビッドな色彩だし。

荒木タランティーノ、好きそうですよ。

木下タランティーノにも対談をお願いしたいですね(笑)。

絵金を主人公にした理由


荒木先生の小説(『絵金、闇を塗る』)では、絵金は関わった人たちに影響を与えていきますね。人斬り以蔵のような闇に落ちていく人もいれば、武市半平太のように自身を見つめるきっかけをつかむ人もいる。

木下絵金には人を狂わせる力があったような気がするんです。調べてもどんな人間かよくわからない。だったらもう、わからないまま書くのがいいのかなと思って──ということは、荒木先生、読んでくれたんですか、僕の小説。

荒木もちろん読みました。面白かったですよ。

木下ありがとうございます。感激です。もう、今日、命が終わってもいい。

荒木いや、そんな(笑)。

木下本当に嬉しいです。僕、荒木先生のように各話ごとにスタンドっぽいムチャをしたいなと思ったくらいなんです。絵金の師匠の前村洞和が絵金祭りの世界に行ったりとか。ストーリーを創作する人間として。

荒木今まで埋もれていたというんですか、僕はとにかく存じ上げなかったので、絵金という人物に興味を惹かれましたね。どこか横溝正史的な世界でもあるし。調べてもわからないということは、絵金には謎が多いんですか。

木下そうなんですよ。記録が残っていないんです。噂では、お金が大好きだったとか、一日六十枚ぐらい描いていたとか。

荒木描くのは速そうですね。

木下あ、やっぱりわかるんですか。それは筆遣いで?

荒木そうですね。ぐおーって描いてる感じがするんですよね。

木下それって絵描きとして良いことなんですか、悪いことなんですか。

荒木個性じゃないですか。良いとか悪いとかはないと思いますけど。(絵を見ながら)でも、この辺は丁寧に描いていますね。看板の絵はすごく速そう。一日六十枚って松本零士先生級です。永井豪先生とか。

木下弟子がたくさんいたから、どこまで絵金が描いていたかは、実際わからないらしいですけどね。

荒木でも、人物は描いてそうですね。

木下統一性はありますもんね。

荒木ええ。でも、筆遣いがわかる白描の絵とか、墨一色だけの線画もすごくいいですよね。ふぁっふぁっふぁっふぁって描いてますよ、一気に。

時代とオリジナリティ


木下絵金は贋作騒動を起こして狩野派を破門されるんです。はっきりとした理由はわからないんですけど、贋作をつくったことで土佐藩家老のお抱え絵師の座を追われる。作風もその後、大きく変わっていくんですよね。

荒木絵が変わったのは注文主が変わったからかなとも思いますけど、それとは別に、やはり新しい時代に新しい絵を描こうとしたような気がしますね。狩野派に収まる絵だけではいたくなかったんだと僕は思います。絵金が生きた十九世紀は、世界中がそういう時代だと思うんですよね。

木下荒木先生もご自身の絵を変えようと思われたことはあるんですか。『ジョジョ』の一巻を読み返していたんですけど、今とは絵がだいぶ変わられていますね。

荒木時代によって目指すものが違うとちょっと変わってくるということはあると思いますね。一巻あたりは筋肉にこだわっていました。シュワルツェネッガーのような肉体を目指していたんですよ。その後、女性が主人公になったり、少年のような身体つきのほうがリアリティーが出てきたりしました。それで、絵柄もちょっと変わっていきましたね。それに、僕の子供の頃は、主人公の眉は絶対太くなきゃいけないというイメージがあって。

木下ああ、そうですよね。

荒木男性の眉を細く描けるようになるまで時間がかかりましたね。感覚的に気持ち悪くてダメなんですよ。描いても悪役になってしまうんです。

木下僕らの子供の頃の漫画は、細い眉は悪役というイメージでした、たしかに。

荒木そうそう。それが、あるとき、細くてもいい感じになった。そういうことがあるんです。主人公の眉が細くなったのは第4部(『ダイヤモンドは砕けない』)の東方助からですね。第3部(『スターダストクルセイダース』)に出てくる花京院典明は眉が細いんですが、あの時代では脇役でしかない。細い眉を描いたら、こいつは主人公じゃないな、気持ち悪いなっていう感じなんですよ。

木下花京院は女性っぽい容姿をしているのは覚えているんですけど、眉が細めだったんですね。

荒木あれでも細めなんです。時代なんです。自分が求めていたのか、世の中が求めたのか。時代の要請で言えば、絵金の色のどぎつさもそうですね。特徴的な赤もそうだし、着物に使っている緑も普通はあまり使わない緑ですね。

木下荒木先生も信じられないような色遣いをされますよね。空の色をピンクとか。もちろん調和はしているんですけど。何で空がこんな色をしているのかなって。

荒木それは、また違う概念があるんです。

木下どんな概念なんですか。

荒木砂浜をピンクに塗ったりする西洋画家がいるんですよ。ゴーギャンとか。それを見て、ああ、砂浜がピンクでもいいんだって。でも、ゴーギャンの絵では、ピンクでもちゃんと海岸の砂浜に見えるんですよ。

木下初期の頃はそういうことはされていなかったような気がするんですけど。

荒木最初はやはりみんながやっているような感じでいくけれど、たぶん競争ですね。漫画家って、同じもの描いたらけなされる。誰々に似てるよねって言われるんですよ。だから、そうじゃないところをいくとこうなってくる。みんなそうです。漫画家もすごいキャラクターがそろっているというか。『キャプテン翼』もあれば、『ジョジョ』もあれば、『SLAM DUNK』もある。

木下オリジナルじゃないとダメなんですね。この人の絵だってわからないといけない。

荒木そうですね。昔、電車で漫画雑誌がよく読まれていましたが、オリジナリティのある絵柄の作品は遠くからでも何の漫画を読んでいるかがわかったんですよ。

木下遠くからでもわかるんですか。オリジナリティはどうやって出そうとしはったんですか。

荒木頑張っていればそのうち出てくるんですけど。でも、何か似せないように描こうと意識したり、新しいことを考えようとしたりはしますね。空をピンクに塗ってみようというのもその一つです。あとは、書店に本が平積みで並んだときに、隣に負けてる感じが嫌なんです。いろんな雑誌、文庫本とかも並んでいるじゃないですか。その中でぐわーんって来るにはどうするか。それが構図だったり、誰も使っていない色だったりするんですよ。 絵金の場合、残酷だったり、ドラマチックな絵っていうのは、最初、「うっ」となるけど、やっぱり引きつける何かがあるんでしょうね。色遣いを計算していることもわかります。適当だったら、目立つ赤をばんばん置くじゃないですか。あえて一カ所だけに止めているし、緑も置いている。あと、首が飛ぶときも、ぐあーっと前に、前に飛ばしている。あれは3Dですよ。

木下3Dですか! たしかに飛び出してくる感じがしますね。絵金は白目のところにろうを塗っているそうです。目力を出そうとしたんですかね。

荒木生き生きさせようとしたんでしょうね。面白いですね、そういう工夫が。

何が一番怖いか


木下なぜ絵金を主人公にした小説を書こうと思ったかなんですけど、僕の母親が高知出身で、「絵金さんって知ってる?」って言われて、まずその名前にびっくりしたんですよ。そのどぎつさに。聞くと、幕末の天才絵師。けど贋作騒動を起こして、一説には罰として顔に入れ墨を入れられた。まず生き方が面白いなと思いました。しかも血みどろの絵を描いている。

荒木ロマンがありますよね。いいキャラクターだと思いますよ。

木下絵金は狩野派から離脱しましたが、荒木先生にとってチャレンジだったことはありますか。『ジョジョ』が第1部から第2部(『戦闘潮流』)に変わるときに、編集者から反対されたと聞いたことがあるんですが。人気があるんだから同じ主人公で続けろ、と。

荒木チャレンジというほどではなかったですね。僕はもともと異端扱い。「少年ジャンプ」の中では変わってるって言われながらデビューしているので。むしろ編集者からは、「少年ジャンプ」はメジャー誌だから、逆にマイナーなことやったほうがいいんじゃない? って言われましたね。編集者が澁澤龍彥とか、怪奇幻想が大好きだったということもありましたし。

木下そうだったんですか。荒木先生もホラー映画が好きだから、好みが合ったんでしょうか。

荒木たぶん。だから、僕、その編集者に認められたんだと思うんですけど。それに、当時、一九七〇年代後半とかから急にホラー映画がブームになったんですよ。『ハロウィン』(一九七八)のあたりから。ちょうど良かったですよね、時代が。

木下荒木先生が『ジョジョ』の第1部、第2部でやっていらっしゃる怖がらせ方は、ゾンビ映画の怖がらせ方に近いような気がします。でも、第3部でスタンドが出てきてから怖がらせ方が変わったような気がします。お化けの怖さではなく、スタンドの正体がわからないという怖さ。怖さの興味が変わったりとかはありますか。

荒木ホラー映画はおそらくもともとはサスペンス映画からの影響でつくられていて、怖がらせ方も視覚的な効果や、音を使ったりするだけでなく、ストーリー構成で怖がらせたりもするんですよ。いろいろな方法がある。僕はその辺をすごく研究していたので、いろいろな手法を使ってみたくなる。怖がらせ方の大本をたどるとヒッチコック映画に行き着くんですけどね。

木下そうなんですか。

荒木ヒッチコックはいろいろな実験をしながらつくっているすごい映画作家なんです。その精神を受け継ごうとすると、人が描いたことのない構図とかが描きたくなってくる。真上から俯瞰して見ようとか。

木下第7部(『スティール・ボール・ラン』)から平行世界に突入して、この世界がほんとにあるのか、みたいな怖さを僕は感じるんですけど、平行世界にされたのはどうしてですか。

荒木どういうのが一番怖いのかってことを考えていった結果ですね。子供ってゴジラとキングコングが戦ったらどっちが強いかとか、スーパーマンとスパイダーマンはどっちが強いとか考えるじゃないですか。それと一緒で何が一番怖いのか。『ジョジョ』ってそういう打ち合わせをずっとしているんですよ。

木下すごい打ち合わせですね(笑)。

荒木ご飯を食べながらそういう話をしているんですよ。先祖からの因縁が怖いねとか、時間を止めるやつは強いよねとか。そういう話を子供の頃の延長線でやっているんです。

木下それは編集の方と。

荒木そうですね。何が怖いかって。そうすると、重力や時間とか、物理的法則を無視しているものは怖い。平行世界もその一つ。その上でどう描くかを考えて、ストーリー構成やキャラクターを決めていくわけです。

木下怖いものがものすごく好きなんですね。

荒木人間は恐怖が基本なんですよ。恐怖が幸せでもあるし。

木下幸せは恐怖の裏返しにあるっていうことですか。

荒木そうですね。絵金さんもたぶんそういう部分があるんじゃないですか。それを一枚の絵でやろうとしていますよね。

木下そうですね。絵金の時代は明治維新によって今までの価値観が崩れてしまう時代なので、ある意味でそれって恐怖ですよね。

荒木でも、それまでの価値観も捨ててはいないですよ。背景部分を見ると、狩野派の影響があるから。

木下そうなんですよ。狩野派の技法も融合させながら描いているって研究者が言っていました。絵金は浮世絵プラス狩野派だって。

荒木ファッションもいいですよね。江戸時代の。

木下ほんまですか。ちょっと『ジョジョ』の登場人物に着せてみたいような着物がありますね。

荒木そうですね。和服って描くのが難しいんですよ。骨格を消しているようで実は消していない。着物にも重力がかかってくるので、どういう肉体がどう着ているかがわかっていないと描けない。ぴったりした洋服なら、普通の肉体にただ着せていけばいいけれど、袴とか羽織とか、隙間がある服をちゃんと着ているように描くって難しいんです。絵金だけじゃないですけど、日本画を見るといつもそう思いますね。

"岸辺露伴"対"絵金"!?


木下荒木先生にお会いしたら絶対聞きたかったことがあるんですけど。僕は岸辺露伴(第4部『ダイヤモンドは砕けない』に登場する人気漫画家)がめっちゃ好きなんです。もし岸辺露伴が絵金と対決するとしたらどうなると思いますか。

荒木いいですね。僕、それちょっと考えたけど、これ、もらったらダメだろうなって(笑)。

木下いや、ぜひ。絵金はどんなスタンドを使うんだろうとか、どうやって攻撃するのかなとか考えちゃいますね。

荒木『絵金、闇を塗る』は絵金が周囲の人に影響して人生を狂わせる。その発想はいいですよね。僕が描くとしても、周りの人に影響していくとか。

木下自分が攻撃するんじゃなくて周りに影響を与えていくスタンド。

荒木肉体のほうがとっくに死んでいながらもね。露伴もそれでちょっとハマってしまって、いかんいかんみたいな(笑)。負けてしまいそうになる、みたいな。

木下スタンドになって岸辺露伴と戦ってほしいですね。

荒木時代はいつでもいいですか。

木下いつでもどうぞ(笑)。

荒木ぜひ岸辺露伴を送り込みたいですね。

木下そんなことになったら、僕、小便ちびりますよ(笑)。ぜひ描いてください。

荒木でも、その前に土佐に取材にも行きたいと思いました。絵金の生涯や考え方にも興味があるので。

木下絵師の生き方は絵にあらわれますか。

荒木あらわれるんじゃないですか。狩野派を逸脱しているということもあるし、時代の変化や、高知の地形も関係があると思います。

木下たしかにそうですね、地形的に高知は半分が山でもう半分が海という特徴があるので。

荒木あと、ろうそくや提灯で絵を照らすお祭りの様子にも想像力がかき立てられますね。

木下荒木先生が絵金祭りで絵を飾るとしたらどんな絵をイメージされますか。『ジョジョ』の場面の一つでしょうか。

荒木新しいのを描くかもしれないです。絵金風にするわけではないですが、お祭りの雰囲気に合わせて。『ジョジョ』の第2部に出てくるワムウとか、あの辺のキャラクターを持ってきたいですね。

木下謎の生命体の「柱の男」ですね。ちょっとシャーマンチックというか、鬼とか悪魔とかと関わりがありそうな。

荒木そうですね。あと、究極生物を送り込みます(笑)。でも、お祭りのムードに合うと思いますね。

木下なるほど。たしかに、絵金祭りにはちょっとシャーマニズムな雰囲気もありますから、きっと合うと思いますね。

荒木ぜひ行ってみて、この目で見たいですね。

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