Asahi Shimbun (June 2012)

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Published June 3, 2012
Missing translation

Tamaki Saito's review of JoJo's Bizarre Words that was published in the Asahi Shimbun newspaper on June 3, 2012.[1] It was also posted on the "BOOK asahi" website on the same day.[2]

Interview

現代人の「基礎教養」に

ネット上で「無駄無駄無駄ア!」とか「おまえは今まで食ったパンの枚数を……」といった奇妙なフレーズを目にしたことはないだろうか。荒木飛呂彦の、もはやライフワークと化した傑作サーガ『ジョジョの奇妙な冒険』からのセリフだ。シリーズは累計7500万部以上を売り、連載はすでに四半世紀に及ぶ。  漫画界における数少ない天才の一人として、熟年世代から青少年まで幅広い人気を誇る荒木。その影響を受けたと自認する漫画家、作家、アーティストは枚挙に遑(いとま)がない。ルーブル美術館で作品展が開かれたその画力もさることながら、荒木作品の大きな魅力の一つが、作中で繰り出される魅力的なセリフの数々である。過剰な形容詞、執拗(しつよう)な反復、聞いたこともない擬音、などなど。  漫画はおろか、小説、映画、演劇といった全表現領域中、これほどセリフが引用され続けている作品をほかに知らない。本書に収められた名言は、いわば現代人の基礎教養なのである。  私がお気に入りのセリフのひとつが、荒木自身の分身とおぼしい天才漫画家・岸辺露伴による「だが断る」だ。このセリフはこう続く。「この岸辺露伴が最も好きな事のひとつは、自分で強いと思ってるやつに『NO』と断ってやる事」と。  ここにあるのは、自己犠牲をもいとわないナルシシズムの格好良さだ。自分自身のためだけに貫かれる規範なき正義。究極のナルシシストだけが獲得できる純粋な公共性。個と血脈、意志と覚悟、美と倫理とは、この次元においてのみ完全に一致する。  そう、荒木作品は私たちに教えてくれる。まず自分を愛し、そこから自前の倫理を確立せよ、と。時に猟奇的な様相すら呈するこの作品が、きわめつけの「人間賛歌」と呼ばれるゆえんである。


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