Junjo Shindo (March 2022)
Interview Archive
A 3-hour meeting between Hirohiko Araki and Ryosuke Kabashima that was originally published in the Spring 2022 issue of JOJO magazine, released on March 19, 2022.
Interview
Basket Case (1982)
Kabashima: The story centers around two conjoined twin brothers who get separated, and the older brother becomes a monster. Come to think of it, this might've been where the concept of Stands originated from. The idea that the two brothers personalities are linked, even though their bodies are separated--which is like a Stand.
Araki: Oh, I think you may be right.
[...]
Kabashima: On the cover of "B.T." there's a squirrel.
Araki: Oh, that's right.
Kabashima: What was that about?
Araki: Huh?
Kabashima: There wasn't a squirrel in B.T., was there?
Araki: No, there wasn't. I wonder why I drew that back then. (Laughs) Sometimes when I'm drawing, I think about wanting to show multiple characters on the cover at once. If it were only the main character, it would become very bleak and lonely... I guess that's why I did it.
Kabashima: That makes sense, but why did you choose a squirrel?
Araki: I'm not that fond of squirrels, but I guess I thought they had a pet-like quality to them... Or, maybe I was planning on revealing the squirrel later. Maybe it would've lightened the tone had I introduced a mascot or sidekick of sorts.
Kabashima: I see. Speaking of pets, you drew the story of "Dolce" about a cat. This was because I got a cat and I couldn't stop telling you about how much I loved cats back then, isn't that right?
Araki: Yes. And what a story it turned out to be. (Laughs)
[Translated by Morganstedmanms (JoJo's Bizarre Encyclopedia)]
打合せ
荒木飛呂彦×椛島良介(ジョジョ初代担当)
2021年10月某日 天候:晴れ 気温20度 場所:都内某所
作品は、作家と編集者の打合せから生み出されると言っても過言ではない。荒木飛呂彦先生と初代担当・椛島良介氏も当然ながら毎週、この「打合せ」をしていたが、その内容は「ほぼ雑談だったよね」と語るお二人。だが、その「雑談」では何について、どう語り合っていたのか、作品の誕生にどう繋がっていったのか? ファンなら気になるところだ。そこで今回「JOJO magazine」の巻末スペシャル企画として、お二人共通の趣味である「映画」をテーマに、当時の「打合せ(=雑談)」を再現していただく運びとなった。当時はファミレスメニュー、今回は荒木先生お手製のスープと椛島氏持参の美味しいワインを傍らに、晴れた秋の日の15時過ぎ、久しぶりの打合せがスタート…!!
※お二人の打合せトーク内では、映画のネタバレも含んでいます。ご注意ください。
After eleven thousand days
15:00 START
椛島 今日は荒木さんがお手製のスープをご馳走してくれるとのことなので、私は家からワインを持ってきたんですよ。頂き物なんだけど、たまたま『ジョジョ』が始まった1987年のブルゴーニュ産赤ワイン。
荒木 おお、美味しそう! 僕は野菜とチキンの煮込みスープを作ってみたんだけど。これはとにかく野菜を細かく刻むんですよ。今日は玉ねぎ、人参、セロリ、キノコ、それと豆かな。旨味を抽出するだけだから野菜は何でも良い。具は全部煮込んでいるわけじゃなくてチキンは先に焼き付けてて、ジャガイモは素揚げしてて、それで味付けは最後に塩コショウだけっていう。
椛島 さすが! 荒木さん、漫画家を辞めたらお店を出せるよね。
荒木 え? いや、無理だよ~(笑)。僕はお客さん相手の仕事は多分無理かな。それに日によってスープの味が違うんだよね、気分でハーブをどっさり入れるときもあるから。
椛島 ハーブは何を使ったの?
荒木 今日はオレガノ、パセリ、それとタイムを入れましたよ。
荒木 今日の対談は、椛島さんが担当だった頃の打合せを再現しようっていう企画なんですよ。
椛島 あの当時、漫画の打合せは30分くらいで終わってたよね。でも、終わってからが長かった。いつもファミレスに3時間ぐらいいたんじゃないかな…。
荒木 いたよね。ニュースやゴシップに対して他愛もない感想を言い合ったり。ホラー映画の話も多かったかな。ホラー映画って、時代を投影しているようなところがあって面白いんですよね。それと表現の可能性に挑戦している作品がすごく多くないですか? 低予算だし主演の俳優も大スターは使わないんだけど。
椛島 新人映画監督の登竜門だよね。人間の精神の根底にある「恐怖」をゆさぶるものだから、低予算でも創意工夫すれば傑作が作れる。ただ、猫も杓子もホラーを撮るから駄作も多いんだけど。でも、そのくだらない駄作を荒木さんはよく観てるよね。
荒木 うん、観てるね (笑)。
椛島 そうやって映画に限らず傑作も駄作もたくさん観てきたからこそ様々な作品が荒木さんのなかで消化されて、新しいアイデアになっていくんじゃないかな。
荒木 それと何でも観てきたからホラーというジャンルが発展し続けてきたこともわかるっていうか。例えば古い作品のお約束で「キャンプ場で調子に乗った若者が殺人鬼に殺される」ってあるじゃないですか。そういうパターンが昔はあったんだけど今回、僕が椛島さんに推薦して観てもらった『ザ・ハン
椛島 観ましたよ。クレイグ・ゾベル監
荒木 『ザ・ハント』はネットの誹謗中傷がテーマになっているところがこの手の映画としては斬新だったかな。殺人の動機がSNSっていうのは思いもしなかったし、世の中の流れを上手く組み入れて、しかも「皮肉っているな」って思いましたね。
椛島 普通この手の映画の犯人側はどちらかと言えば保守な人物だったりするのが定石なんだけれど、本作の犯人はむしろリベラル系。犯人側がジェンダーや人種差別、環境問題に妙に理解があるけど、そういう人たちが裏では人間をハントしているというのが個人的には面白かった。
荒木 セオリーにとらわれず挑戦しているところも「ロックンロールしてるな!」って思いましたよ。
椛島 この『ザ・ハント』は大作とか話題作ではないけど、観ると「お!!」となる。そんなふうにB級の佳作が見つかったときって嬉しいよね。
荒木 嬉しいですね〜。特にこの映画はB級に徹しているところが良いっていうか。ただ、すごく計算して作っているところもあって、例えば冒頭では主役っぽい登場人物が次々と登場して、誰が主人公か判らないようにしていたり。ここはかなり計算されてるかな。
椛島 そうだね。「主人公かな?」と思った人物があっさり死んじゃったりして観客を煙に巻くというか。もちろん冒頭から主人公はちゃんと映ってるんだけど…。
荒木 主人公っぽくない映し方をしてて、あれだと主人公だと思わないよね。
椛島 敵を殺るときの問答無用感も良いね。普通は観客に敵味方が判るように演出するけど、この映画はそれをしない。主人公が突然誰かを蹴っ飛ばして観客に「敵だったのか!」と判らせたりと、演出がすごくスピーディー、次々とたたみかけてくる感じが爽快ですね。主人公の決断の速さが観ていてスカッとする。
荒木 そう、主人公がモタモタしてないのが良い。同じような話でも日本のホラー映画は「間」を取りたがるけど、僕はそれがダメで。ゾンビがすぐ後ろにいてヤバいときに振り返らせるだけで何秒もかけちゃってて、僕は「早く振り向いて逃げろよーッ!」って思ってしまって映画に集中できない(笑)。
椛島 主人公がマヌケに見えたらダメなんだよ。昔のホラー映画だと「入るなと言われた場所にわざわざ入って襲われる」が定番だけど、そういう安易な展開は今ではうっとおしく感じちゃうね。主人公は常に最善の選択をして、それでも勝てないぐらい相手が強くないと面白くない。この映画では冒頭で売店の老夫婦が出てくるけど、荒木さんは老夫婦がグルだって見抜けた?
荒木 ああ、僕は最初からグルだと思ってましたよ。あの老夫婦の妻役を演じた俳優さんはそういう役が多いですから。
椛島 お、さすが。私はこの映画は始まって3分の2までは100点満点だったな。ただ、ラスト近くで敵ボスが自分たちの主張をベラベラと語り出したのが残念だったな。
荒木 でもラスボスは動機を語らないといけないからじゃない?
椛島 そうなんだけど、あのラスト近くでさらに作品がパワーアップするアイデアを持ってきたら、もっと良かったなと思うんだよ。漫画の打合せでこのラストみたいなプロット案が出たら、私は「もうひと押し」って言うかな。
荒木 あと、僕は『ザ・ハント』はちょっとコメディも入っているかなって思ったんだけど。
椛島 主人公の表情にコメディ作品っぽいところはあるね。しかめっ面をしたりとか。普通のホラー映画やこういったアクション映画だと、ああいう表情は使わないでしょう。私にとって『ザ・ハント』は今年の大きな収穫の一つだったね。この監督の次回作は観たいと思いますよ。
荒木 良かった。椛島さんと気楽に話せるぞと思って選んだ作品だから。
椛島 私のおすすめは『隻眼の
荒木 僕は初見は黒澤映画みたいだなと思ったかな。
椛島 この監督は作品ごとに撮るジャンルが全く違って、いろんなものを研究しているんだよ。私は冒頭に出てくる雪山のシーンが好きでね。竹藪とか雪とかが繊細に描かれていて、いかにも大虎が生息しているという壮大な山の絵は最高だった。あの舞台になった山が実際に存在するなら、行って写真を撮りたい。こういう景色に浸りたいって思ったね。
荒木 僕は観てて疑問があって、主人公の猟師の子供で中学生くらいの男の子がいたじゃない。あの子、どうして過酷な環境の村から出ていこうとか思わないのかなってなんか謎でしたね。
椛島 出ていこうとはしていたんだけどね。時代が大きく変わっていくなかで、結局は大虎も猟師も日本軍も…全員が勝てないまま滅んで消えていく。その滅びの感じがまた良くて、そこにグッとくるものがあった。
荒木 この映画での死の描き方のリアルさはすごかった。虎に襲われて日本軍の兵隊が死んでいくでしょ。あの描写がすごく生々しくて本当に怖かった。血しぶきとか死んだ人間の表現が日本映画とは全く違ってて。日本映画の場合は「スタッフが血ノリを散らしました」みたいな感じが多いんだけど。
椛島 この映画に一つ注文をつけるとしたら、それは虎がやたらと強すぎちゃったところかな。
荒木 そうそう。銃で武装した人間側が何度も討伐に行ってるのに倒せないくらい強かった。
椛島 何か虎の方から罠を仕掛けるとか、高い場所から岩を落として一網打尽を計るとか、もう少し人間たちを倒すためのアイデアは欲しかったね。
椛島 あの頃の打合せは私も荒木さんも、漫画のネタを探していたというよりも単純に面白い映画を見つけてお互い嬉しがっていた、という感じだったよね。映画を通じて当時の読者が求めているものを感じることもできたし。でも大ヒットした映画についてはあまり語ってなかったよね?
荒木 語ってないね。マイナーな、特にホラー映画ばっかり(笑)。そんな新しいマイナー作品を見つけてくるのが椛島さんで。よくレンタルのビデオを見せてもらったりしましたよね。一緒に映画館で観た『バスケット・ケー
椛島 渋谷のミニシアターで観たよね。あれは「新しいホラー映画を観た!」という感じがして、すごく満足して帰った記憶がある。
荒木 わけがわからない世界観だったけど当時は衝撃を受けたな。映画として異様なオーラを放っていて。
椛島 結合双生児の兄弟が主人公で、切り離された兄がモンスター化する話なんだけど。じつは私は「スタンド」の原点って、この兄じゃないかなと思っているんだよね。人格はくっついているけど体は離れている感じが「スタンド」っぽいというか。
荒木 ああ、そうかもしれないですね。
荒木 『オクトパスの神
椛島 観たよ。このタコの映画は、ある意味で今日一番の作品かもしれないね。長編ドキュメンタリー部門でアカデミー賞を取っているんだよね。
荒木 僕もとにかく面白くて、感動もしたし。タコは寿命がわずか1~2年くらいらしいんだけど、その間に海で戦う方法まで身につけてて「その戦い方は誰が教えているんだろう?」って不思議に思ったな。あれって本能なのかな?
椛島 タコとか野生の動物は生まれたときからかなりの程度、プログラムが出来上がっている。いわゆる本能ですね。動物って人間みたいに育つ過程で親から子に引き継ぐことってできないからね。
荒木 僕は映画を観て、タコは海の環境から学んでいく部分も少しはあるんじゃないかと思ったけど。たまたま落ちていた貝殻を見つけて、それをまとって敵から身を守るシーンとかあったじゃない。そういう本能の部分についてスズメで似た実話があって。『ある小さなスズメの記
椛島 それ、すごいね。生物って未知な部分も多くてダーウィンの進化論だけじゃ説明のつかないことがたくさんある。人間は全部わかったような気になってるけど。
荒木 全然わかってないよね。
椛島 映画のなかで、タコが魚と遊ぶシーンがあるじゃない? あそこを観ているとタコが本当に美しく見えてきて、主人公がタコに恋していくのが理解できる。もう、あれはデートだよね。
荒木 映画の内容は監督の主観が入ってて、これを「ドキュメンタリー映画だ」と言われると僕個人は疑問に思うけど、映画としてはアリかな。主人公とタコとの別れのシーンでは泣いちゃいましたよ。タコと主人公が抱き合うシーンはすごく切ない気分になったし。
椛島 自然は人間が考えているよりも遙かに奥深いってことが感じられて、この映画はみんなが観た方が良いと思うよ。あと、面白い映画だとおすすめは『ザ・コー
荒木 その『ザ・コール』は観られなかったな。あとで観てみます。というか時間は大丈夫? そろそろ暗くなってきましたよ。
椛島 ああ、そうだね。じゃあ今日はこれまでにして、話の続きはまた近いうちに。
荒木 そうしましょう!
椛島 『ビーティ
荒木 ああ、はい。
椛島 あのリスって、何だったの?
荒木 え?
椛島 『ビーティー』の劇中にリスは出ていないよね。
荒木 …出ていないね。なんで描いたんだろう?(笑) 絵を描く際、「一人だけじゃなくて何かと一緒に描きたいな」というときがあるんですよ。主人公だけだと寂しかったり殺伐とした絵になるというか…。それかな。
椛島 それはわかるけど、どうしてリスだったのかなと思って。
荒木 リスが好きって訳じゃないけど、ペットの象徴として「いいかな」と思ったんじゃないかな…。あるいは連載当時、リスを出すつもりだったのかもしれない。マスコットというか相棒みたいものがいると漫画として柔らかくなるので。
椛島 なるほど。ペットっていうと『ドル
荒木 そう。あんな話になっちゃいましたけど(笑)。
18:00 FINISH
Gallery
Notes
- ↑ ★ザ・ハント
2020年製作/アメリカ。監督/クレイグ・ゾベル。広大な森林のなかで繰り広げられる、富裕層による「人間狩り」を題材としたアクションスリラー映画。 - ↑ ★クレイグ・ゾベル監督
映画監督。代表作は、権威に服従して残酷行為を行ってしまう人間の姿を実話を基に描く心理スリラー『コンプライアンス 服従の心理』(2012)など。 - ↑ ★隻眼の虎
2015年製作/韓国。監督/パク・フンジョン。日本統治時代、1925年の韓国を舞台に、山の神と恐れられた大虎と人間の死闘を描く。 - ↑ ★パク・フンジョン監督
映画監督。代表作は、最強の暗殺者として育てられた少女の死闘を描くバイオレンスアクション『The Witch/魔女』(2018)など。 - ↑ ★バスケット・ケース
1982年製作/アメリカ。監督/フランク・ヘネンロッター。手術で切り離された結合双生児の兄が、バスケット・ケースに潜んで人を襲うホラームービー。 - ↑ ★オクトパスの神秘
2020年製作/南アフリカ。監督/ピッパ・エアリック、ジェームズ・リード。正式タイトルは『オクトパスの神秘:海の賢者は語る』。南アフリカの美しい海を背景に、映像作家とタコとの交流を記録したドキュメンタリー映画。 - ↑ ★ある小さなスズメの記録
正式な書名は『ある小さなスズメの記録 人を慰め、愛し、叱った、誇り高きクラレンスの生涯』。文藝春秋社・刊。クレア・キップス/著、梨木香歩/訳。第二次大戦下のロンドンで、老婦人と小スズメの12年にわたる交流を記したノンフィクション。 - ↑ ★ザ・コール
2020年製作/韓国。監督/イ・チュンヒョン。過去と現在、時を超えて電話で繋がった二人の女性がたどる、恐るべき運命を描いたサスペンススリラー。 - ↑ ★パク・シネ
1990年生まれの韓国の女優。2003年に韓国TVドラマ『天国の階段』で子役としてデビュー。その演技力が認められ、その後も多くの話題作に出演、人気を獲得する。 - ↑ ★ビーティー
荒木先生の初連載作で正式タイトルは『魔少年ビーティー』。1983年に発表。手品やトリックを得意とする不思議な転校生ビーティーと、その友人・公一少年が怪事件に挑むサスペンス作。 - ↑ ★ドルチ
荒木先生の短編で正式タイトルは『ドルチ〜ダイ・ハード・ザ・キャット〜』。1996年に発表。漂流するヨットを舞台に、飢えに苦しむ極限状況下でドルチという名の猫と人間のサバイバルが繰り広げられる。