UOMO Magazine (May 2023)
Interview Archive
An interview conducted with Issey Takahashi, actor for the "Thus Spoke Kishibe Rohan" TV Drama and film, published on Real Sound.[1]
Interview
取材部屋に入ってきたとき、インタビューでの受け答えをしているとき、スチール撮影をしているとき、まさにそこには「岸辺露伴」がいた。
熱狂的な多くのファンを抱える漫画『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズ。そのスピンオフ作品『岸辺露伴は動かない』が実写化されると聞いたとき、楽しみで仕方なかったと同時に、「大丈夫か?」という不安もよぎった。なぜなら、岸辺露伴というキャラクターはクレイジーでカッコよく、現実を超越したような存在だからだ。しかし、そんな不安を軽々とはねのけたのが、岸辺露伴を演じた高橋一生であり、監督を務めた渡辺一貴であり、脚本を手がけた小林靖子をはじめとした、キャスト・スタッフたちだ。
そんな熱狂を巻き起こしたドラマシリーズを3期まで終えたあとにやってきたのが、同じキャスト・スタッフが再集結した映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』。2009年にルーヴル美術館のバンド・デシネプロジェクトのために描き下ろされた123ページによる荒木飛呂彦初のフルカラーコミックが原作となる。
文字通りスケールアップした『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』に高橋一生はどう挑んだのか。渡辺監督との絆から、溢れ出る岸辺露伴愛まで、じっくりと話を聞いた。
「露伴邸」によって形作られた高橋一生の岸辺露伴
――『岸辺露伴』シリーズは当サイトでも第1期から多くのインタビューをしてきました。高橋さんと渡辺監督の絆が本作の熱狂を生み出してきたと感じています。渡辺監督とは、ドラマシリーズはもちろん、NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』でも一緒に仕事をされていますが、高橋さんはどんな監督と捉えていますか?
高橋一生(以下、高橋):長くお芝居をさせていただいていますが、(渡辺)一貴さんは最も信頼している監督の一人です。一貴さんは、演じるキャラクターの心の動きや、感情的な部分をすべて役者に任せてくださる方。どう見えているか、どう見せたいかといった形式的なことはリクエストしてはこない。俳優を信頼してくださっているのがすごく伝わる方なんです。監督によっては、AポイントからBポイントまで動かないといけないというシーンがあるときに、「こんなふうに身振り手振りをつけて、こんなふうに表情を作って」と非常に細かい指示を出される方もいます。
ーーその点、渡辺監督は「AポイントからBポイントまで動いてください」のみになると。
高橋:そうなんです。まず役者に委ねてくださるので、僕自身も最初のお客さんとして、一貴さんにお芝居を見せたいと思えるんです。俳優が何をできるかを理解して、信じてくださる。そして、最初の観客として、俳優の芝居を楽しんでくださる。その上で、一貴さん自身の中にあるさまざまな引き出しや、瞬発的に湧いたアイデアを現場で演出して、画を作っていく。各々の役割を明確に理解した上で、監督として何をしなくてはいけないのか、それができる方なんだと感じています。
――以前、渡辺監督がインタビューの中で、高橋さんの露伴を「凄みが増した」と毎年の変化を語っていました。高橋さん自身としては、毎年“更新していこう”という意識はあったのでしょうか?
高橋:僕の中では、お芝居として同じところをずっと叩き続けているような気がするんです。ですが、シリーズごとに物語は違いますし、共演者の方も変わる。それに対応していくのに自分が今まで通りのことをやったとしても、体現していく物事はきっと変わっていくので。それが一貴さんにとって、今まで観たことがない一面だったということはあるのかもしれません。この役だったらこうするだろうという感覚を僕はもともとあまり持っていません。それよりも、このときこの場面でこの人だったらどのような感じが一番僕の中に腑に落ちて気持ちいいところか、居心地の悪くないところか、ということを常に探っています。それが一貴さんには「凄みが増した」「変わった」と思っていただけのならただただ嬉しいです。
――露伴の変化という点では、『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』では、ドラマシリーズでは描かれなかった露伴の過去が描かれるだけに、より心の内側と向き合う作業があったように感じます。
高橋:そうですね。タイトル通りですがドラマの『岸辺露伴は動かない』という受動と、今回の映画の『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』という能動の、対になる形になっています。露伴自身が何かに呼ばれて「行く」ということになり、そして、自分自身の過去とも向き合うことになります。その点では、これまでと違う一面が見せられているのではないかと思います。
――今回も荒木飛呂彦さんの原作からの脚色が非常に巧みだと感じました。本作では、「罪」というものが大きなテーマになっているように感じましたが、その点については?
高橋:原作は、ルーヴル美術館のバンド・デシネプロジェクトの『9番目の芸術』の絵画として出展されているものであったので、どちらかと言えば構図や絵柄、色彩が重視された荒木先生のこだわりが見える非常に絵画的な作品だなと思っていました。今回、実際に生身の人間が演じるにあたり、原作漫画では描かれなかった部分も補完するような形で物語が紡ぐことができたのではないかと感じています。脚本の小林(靖子)さんの素晴らしい構成に驚きました。
――原作コミックがあり、文字としての脚本があり、実際の撮影があり、とそれぞれのプロセスで感じるものが違ったかと思います。脚本を読まれたときのイメージと、実際の撮影現場でのイメージで何か大きな違いがあったものは?
高橋:実はイメージの違いというのはあまりないんです。というのも、非常にありがたいことに、物語の始まりはいつも「露伴邸」からなんです。ドラマシリーズから3年も撮影させていただいている場所なので、ここを訪れると自然と世界の中に入ることができます。また、美術スタッフの方々の細やかな仕事で、露伴邸の本棚にある書籍が毎回違うものに変わっているんです。露伴先生だったらきっと今はこれを読んでいるよねと。なので、現場に入ったらいつもその本を手にとって読むようにしているんです。
ーーそれは驚きです。本が変わっていることもそうですが、それを高橋さん自身も読まれているんですね。
高橋:スタッフの方々が考えている露伴像はこういうことかと読んでいても面白いですし、自分にもフィードバックできるものがあって。みなさんの露伴像を現場で吸収していると、露伴だったらきっとこう動くだろうということが自ずと見えてくるんです。脚本を読んだときに感じたものとはまた違う意識も現場に入ると生まれて。ドラマシリーズでは、感じた思いをそのままに、リハーサルとはまったく違う動きをしたこともあったのですが、一貴さんがそれを面白がってくれるのも大きかったです。
――そして、なんと言っても本作はフランス・ルーヴル美術館で撮影をしています。高橋さんは以前、ルーヴル美術館展のオフィシャルサポーターも務めていたので、何か運命的なものも思わず感じてしまいました。
高橋:2018年にルーヴル美術館へ訪れたときは、額装をされている職人の方々へインタビューもさせていただいて、観光では入れないような場所も見せていただいたんです。本作をやるにあたっても、その経験はとても大きなものになっていました。
――原作読者としては、ルーヴル美術館での撮影と同時に、奈々瀬を誰が演じられるか、というのも発表されたときに気になった点でした。奈々瀬役の木村文乃さんの芝居はいかがでしたか?
高橋:本作では露伴の漫画家としての原初が描かれるわけですが、そこでは夢のような、幻のような存在として奈々瀬さんがいます。かげろうのような佇まいで、でも確かにそこには実態があって……という非常に難しい存在を木村さんが演じてくださったのはとても心強かったです。
――『岸辺露伴は動かない』および『ジョジョの奇妙な冒険』に共通する大テーマとして、「どんな状況も受け入れてその先に進む」というものがあると感じております。改めて、『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』ならではの魅力はどんなところにあると高橋さんは感じていますか?
高橋:露伴が言っていることと重なりますが、“リアル”ではなくて“リアリティ”でしょうか。リアリティ、言い換えると“本当っぽさ”は、自分の解釈でしかないと思うんです。与えられたものをそのまま受け取っているだけだと、世界のすべてが平均化されて、感じていることもみんなが同じになってしまい、世界は豊かにならない。日本では特に“好奇心”が抑え込まれてしまうような環境のような気がしていて、自分の目で、自分の感じた心で世界を見るという機会が少ないように思うんです。蜘蛛を漫画で表現するために「味」も確かめてみる行動など、露伴がやることは狂人に思われるかもしれないのですが、自分の尺度で世界を見ていくということはとても大事だなと。ですから、本作を観てくださった方が、娯楽作品として楽しんでくださることもうれしいですし、露伴の生き様に触れてこれまでと違う感覚を味わっていただけたら何よりです。僕は、17〜18歳の頃に、原作漫画で露伴に触れて、ものすごく大きな影響を受けました。「こうやって生きてもいいんだ」「こんな生き方、カッコいい!」と。露伴のことを変人と思って終わるのか、それとも違う捉え方をするのか。映画を観た方がどんなふうに思うのか、聞いてまわりたいぐらいですね。
――「世界の見え方が変わる」という点では、現在AIの発達がものすごいスピードで進んでおり、インターネットが誕生したときのような変化が起きそうな予感があります。
高橋:人間の理解の範疇に及ばないものが生まれつつある感じがしています。デジタルによって加速度的に世界が変化していく中で、放っておくと腐っていってしまう自分たちの肉体がどれだけ大事なものであるかということは、俳優をやっていると常に感じています。デジタルの便利さを享受しつつも、そこにある怖さも常に意識していたいです。
文・取材=石井達也、 写真=池村隆司
References
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