Mamoru Miyano x Yoshio Kubo (December 2024)
The Nikkei (August 2024)
Interview Archive
An interview with Mamoru Miyano (actor of Dio Brando) and Yoshio Kubo (costume designer) about the JoJo's Bizarre Adventure: Phantom Blood musical. It was published in the Winter 2024 issue of JOJO magazine, released on December 18, 2024.
Interview
Blu-ray 発売記念 対談
宮野真守×久保嘉男[yoshiokubo]
『ジョジョの奇妙な冒険』を原作とした世界初のミュージカル作品『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』。「第1部 ファントムブラッド」をベースにした本作は、美術や音楽、キャストの熱演だけでなく、世界観にマッチした個性的な衣裳でも注目を浴びた。本作の衣裳の制作秘話について、ディオ・ブランドー役の宮野真守さんと、衣裳を担当した久保嘉男(yoshiokubo)さんに話を聞いた。
――まずは、パリ・コレクションなどで活躍するデザイナーである久保さんが、どういった経緯で本作の衣裳を担当することになったのかを教えてください。
久保 2023年春夏コレクションのショーを、本作の演出・振付を担当した長谷川寧さんが見てくれていて。「『JOJO』のミュージカルでも、ショーと同じようにエネルギーに満ち溢れた服を作ってほしい」と連絡をくれたことがきっかけでした。何か新しいことに挑戦したいと考えていた時期でもあったので、タイミングもよかったですね。ただ、普段漫画をあまり読まないこともあり、実は衣裳を担当することが決まるまでは『JOJO』を読んだことがなくて。そんな僕でも名前を知っているくらい『JOJO』は有名だし、ファンが多い作品であることは理解していました。製作の東宝さんも、初演の舞台となる帝国劇場の建て替えを目前に控え、本作に懸ける思いがかなり強いようだったので、気の引き締まる思いがしました。
――原作を未読だった久保さんが、なぜ本作の衣裳担当に抜擢されたのですか?
久保 長谷川さんからは「ファッショナブルなアプローチで、かっこよく見える」というお題が出ていました。漫画やアニメで描かれる服は実際に着ることを考慮していないので、忠実に再現するとどうしても現実性のある服にはならず、コスプレ感が出てしまうんです。『JOJO』好きのデザイナーさんだと、原作愛が強すぎるゆえに、衣裳も自然と原作に寄せていってしまう可能性があると思います。そう考えると「原作を見ていないほうがかえっていい」という思いが、製作陣にあったのかもしれないです。
宮野 原作の「第1部 ファントムブラッド」はクラシカルな世界観だけど、メインキャストの衣裳はスタイリッシュな洋服を中心とした軽やかな衣裳だったから、意外性があって面白かったです。
久保 どのキャラクターの衣裳も「街中をギリギリ歩けるぐらいのものにする」という思いでデザインしました。コンサートやミュージカルの衣裳って僕の中では派手で、かっこよくないイメージがあって。キャストさんたちが映えないといけないし、お客さんは遠い場所からキャストさんを見るから、衣裳が派手になるのは当たり前のことではあるんです。それでも衣裳をファッショナブルなものにするならば、ある程度派手さは切り離したほうがいいかなと考えたんです。
――衣裳はどんな流れで作ったのですか。
久保 本作の衣裳はオートクチュールで仕上げています。最初に長谷川さんが原作のキャラクターの服で重要と思われるものをピックアップしてくれて、それを参照しつつ、デザイン画を描きました。デザイン画を東宝さんにチェックしていただき、OKが出たらどんな生地にするかを考えます。生地にゴーサインが出た後の、パターン(型紙)作成からは東宝の衣裳チームにお願いして、上がってきたものを僕がトワルチェック[※ 1]をしました。本番用の仮縫いが完成したらキャストさんに着てもらって、着丈や袖丈などの細かな調整を行う、という流れです。ひとつの衣裳が完成するまで、1か月半ほどかかりましたね。
宮野 最初の衣裳合わせのときから「ディオの襟元の羽は、どれくらいのボリュームにしようか」みたいに、すごくこだわりましたよね。身体に合うかどうかを見ながら、仕上げてくれたのが興味深かったです。
――本作の衣裳の素晴らしさは、どんなところでしょうか?
宮野 オリジナリティだと思います。ブーツのデザインは原作と同じようなデザインだけど、それぞれカラーが違ったりなど、原作のモチーフを取り入れつつも久保さんならではのものになっていました。本作は原作をそのままやるストーリー構成ではなかったのですが、『JOJO』のミュージカルとしての統一性はあります。それだけに、まったくのオリジナルをビジュアルとして見せるというのは、勇気がいることだと思いますし、それがバッチリハマったと感じました。
久保 原作そのままにやるんだったら、多分僕に頼まなくてもよいはずですから。僕の色を出しすぎないというのを踏まえつつ、これまでやっていないことに挑戦したいとも思っていたので、過去のミュージカルをたさん見て研究しました。そこで思いついたのが生地にこだわった衣裳で、キャラクター全員の生地にジャカード[※ 2]を使用しました。模様がプリントされた生地に比べて厚みがあり、立体感があって奥行きが感じられる生地なので、パッと見ただけでも高級で凝った衣裳だとお客さんに感じていただけたのではないかと思っています。他にも、ジャケットの袖口はボタンを開閉できる
宮野 高級感や美しさは、『JOJO』の世界観にとって大事だから、生地でそうしたものを表現するのは面白い試みですね。
――生地といえば、ウィル・A・ツェペリの衣裳の、白い生地が表情豊かで驚きました。
久保 ツェペリの白い生地は、日本の生地屋で一生懸命探して、今の柄がある白の生地にたどり着くことができました。生地のほか、ディテールにもこだわっていて、キャラクターごとのアイデンティティを持たせるようにもしました。原作やアニメを履修する中で、幾何学模様が多く使われているなと感じたので、ジョナサン・ジョースターとジョースター卿の衣裳には、幾何学模様を取り入れています。衣裳で、ジョースター一族の血統のつながりを表現できたらと考えたんです。また、ジョナサンは茶、ディオは紫と、キャラクターごとに色のテーマを決めて、遠くから見てもどのキャラクターかわかるようにもしました。
宮野 ディオの紫の衣裳、凝っているだけに大変だったのでは? 見てください、この美しいグラデーション!
久保 この衣裳は染色で紫のグラデーションを出しているんですが、とても高い技術が使われているんです。ショーウィンドウに飾られていても、見応えがあると思います。
宮野 物語後半で登場する、ディオの大ぶりのファーがついた緑のコートは、僕が出演する舞台やコンサートに来てくれるファンの方からも「意外性があってよかった」と評判でした。豪華でゴツくて、重かったですけど(笑)。
久保 凝っちゃって、めちゃくちゃ重くなっちゃいましたね(苦笑)。ファーはフェイクファーにするかリアルファーにするか悩ましかったのですが、最終的には時代も感じさせるものだからフェイクファーでボリュームがある感じにしようとなりました。
宮野 いずれも原作とは異なる衣裳なのに、「ディオだ!」ってなるじゃないですか。そういう説得力があるところが、本作の衣裳の優れた点だと思います。
――ディオやジョナサン以外で、お気に入りの衣裳はありますか?
久保 ワンチェンの衣裳が好きです。実際に買いたいという人がいたくらいで。花やドラゴンの刺繍が施されていて、とても凝っているんです。シルエットが今風で、靴も雰囲気よく仕上がって、コーディネートとして気に入ってます。
宮野 僕はスピードワゴンの衣裳が、かっこよくて好きです。暗黒街で暮らしてる割に、生地やベストの感じも相まって、一番高級そうに見えたんです。
久保 スピードワゴンだけは、ラペル(襟)にはあまり使わない赤のラインを入れたりと、わざと突飛なデザインにしたんです。ラップをすると聞いていたから、ちょっと派手さがあって、エンターテインメント性があった方がいいかなと思って。アメリカのコメディーショーで、司会が会場を盛り上げながら登場する、みたいなイメージで衣裳を作りました。
宮野 なるほど! スピードワゴンの初登場シーンは、階段から降りてきてラップをするという内容だったのでピッタリでしたね。老人の雰囲気から、若い姿になる瞬間がめちゃくちゃかっこよくて。早口でラップするとき、エンタメ感がすごくあってゾクゾクしました。
――舞台の進行や演出などをサポートする、黒子の衣裳も話題を呼んでいました。
久保 長谷川さんとは「『JOJO』の世界観で、黒子が全身タイツ姿で出ているのは嫌だな」という思いが共通していて。それで頭や手を出した黒子の衣裳を、本作のためにデザインしました。波紋の黒子の衣裳は、みなさんに「波紋だ!」と感じていただけるような丸のプリントを考えて作りました。シルエットやディテールにもこだわっています。
――黒子の衣裳には、そんな背景があったんですね。衣裳から話は離れますが、ディオ役を演じ切った今、どんなお気持ちなのかを宮野さんに伺いたいです。
宮野 ディオを演じることは大きなチャレンジでしたが、無事やり遂げられてよかったです。僕はそもそも、ディオという役への思い入れが強すぎて。アニメのディオ役のオーディションで落ちているだけに、本作のディオは絶対モノにしたいっていう気持ちがあって。アニメのディオ役は、僕が心の師と仰いでいる
――そんな出来事があったとは…! 最後に、読者に向けメッセージをお願いします。
久保 僕は出不精なんで、本作を通じて宮野さんをはじめ、さまざまな方々に出会えたことがとてもよかったなと。この仕事を通じて、僕のブランドが雑誌に初めて掲載されたときに、撮影を担当してくれたカメラマンさんにも約18年ぶりにお会いすることができたりもして。そうした奇跡的な再会もありましたし、面白いと感じたことは、まずはやってみたほうがいいなって改めて思いました。舞台も見させていただいたんですが、鳥肌が立つほど感動しました。いろいろなメディアで取り上げていただいたので、本作に少しは貢献できたのかなと思っています。
宮野 『JOJO』に関わることができて嬉しかったです。まさか実写の舞台でとは思ってもみなかったんですけど、『JOJO』の魂というか空気感は存分に味わえましたし、しかもそれをミュージカルとしての演出方法ではありましたが、我々の魂も存分にみなさんに伝えられたと思うので、とてもいい経験になりました。この対談を読んで、舞台に少しでも興味を持っていただけたなら、食わず嫌いせずに(笑)、Blu-rayを見てほしいなと思います。我々は本気で『JOJO』をやっているので。