Rohan at the Louvre (May 2011)

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Published May 31, 2011
Araki Hirohiko meets Musee du Louvre 01.jpg

An interview with Hirohiko Araki included in the Japanese hardcover edition of Rohan at the Louvre, titled ARAKI HIROHIKO Meets MUSÉE DU LOUVRE, that was released on May 31, 2011.

Interview

荒木飛呂彦の視点はマンガとBDの間に何を見るか

――まずはこのプロジェクトに参加することになった経緯を教えてください。

荒木 以前 『オルセー美術館展』(07年開催の『オルセー美術館展/19世紀芸術家たちの楽園』)のお手伝いで、高橋明也先生(三菱一号館美術館初代館長)と対談させていただいたんです。そのきっかけを作ってくださった新聞社さんを通じて、依頼をいただいたと聞いてますね。

――最初、 ルーヴル美術館からの依頼と聞いた時、どう思われましたか?

荒木 光栄なこと、と思うと同時に「本当なのかな?」って(笑)。どこのルーヴルですか、みたいなね(笑)。だって、ルーヴルとマンガって、イメージ的にすぐには結びつかないですよ。 でも本当にあのルーヴル美術館からの依頼だとわかって、とにかく光栄だと思いましたね。あと、自分たちの利益とかに関係ないのに、仲介してくれた新聞社の方々には感謝してます。

―今回、初のフルカラー作品ですが、最初からその予定だったんですか?

荒木 このプロジェクトで刊行されてる他の作品がフルカラーだって聞いたので、「じゃあ僕もフルカラーでやります」って感じですね。

――プロジェクト責任者のファブリスさんが来日された時に『スティール・ボール・ラン』のモノクロ原稿を見て「捨てがたい魅力。日本のスタイルを押し出すなら、モノクロで描くのも素晴らしいのではないか」とおっしゃってましたが。

荒木 ありがたいですね。 確かにそういう選択肢もあったんですけど、こういう機会もなかなかないので、 フルカラーでやってみるのもいいかな、って。

――カバーイラストからインパクトありましたね。

荒木 カバーイラストはフランスに敬意を表して、トリコロールにしてます。 白・赤・青の三色ですね。そこに日本のテイストを意識した模様を入れました。雲や波の感じをイメージした、昔の日本画にあるようなモチーフですかね。

――本編ではいつものカラーリングではなく、ちょっと色調を抑えていますよね。

荒木 いつも使ってるカラーリングで全編構成したら読む側が疲れるな、ヤバイな、と。だからストーリーを読んでもらうためのバランスでいこうと考えました。参考のために何冊かBDの作品をいただいて、ニコラ・ド・クレシーさんの作品とかを見て、フルカラー用の色彩感覚を学びましたね。

――日本が舞台の前篇、 ルーヴルに舞台を移す中篇、地下で展開される後篇と、色合いが変化していきますね。

荒木 そうですね。 最初の日本篇は和風だし、過去のエピソードなのでセピア調。畳とかの色合いを意識してます。パリに到着するとピンク、 地下ではブルーを基調にしてます。 全篇、下塗りを最初にしてるんですよ。パートごとに基調になる色合いを意識的に分けてます。

――日本家屋や浴衣といった日本的なモチーフが随所に登場しています。

荒木 フランスの読者を想定して、そこも意識的に入れましたね。自分でもそういうモチーフはあまり描いてなかった所なので、新鮮で楽しめましたよ。主人公は第四部のキャラクター、マンガ家の岸辺露伴です。 最初から主人公は露伴で考えていたんですか?

荒木 本当は『ジョジョ』のキャラクターではなくて、 オリジナルのキャラクターにしてくださいと言われたんですけどね。ただ、露伴みたいなマンガ家のキャラクターがルーヴルに行く話になるな、ってのは当初からあって。だったらもう、露伴でいいんじゃないか、と(笑)。

――日本の読者的にはルーヴルと露伴の組合せという時点でグッときます。

荒木 それに、新たにキャラクターを起こすと、その紹介だけで平気で何十ページかかりますから。そうすると、なかなルーヴルの物語に入っていけない。 作者がキャラクターを把握していれば、露伴を知らない読者にもスムーズに提示できるんですよ。そう言ってルーヴル側に相談して、何とか了承してもらえました。

――そうすると、ストーリーも当初からある程度構想して行ったんですか?

荒木 そうですね。露伴がルーヴルで何かの謎を追う…‥くらいの。でもルーヴルは広大なので、描くポイントを絞る必要があるなと。それで、何か不穏なものがあってもおかしくない地下がいいなと考えて、取材では地下と屋根裏を中心に見せてもらいました。 表に出ていない所蔵作品がどんな風に、どこに保管されてるのかが気になってたんですよ。絵っていうのは、完璧でない状態だったり、修復中でとても見せられないものでも、名作だったりするものはある訳だから、作中の「黒い絵」みたいのが、どっかにあるんじゃないかな、と。

――その絵を追う露伴は、第四部でのエキセントリックな印象とはちょっと違いましたね。デビュー前の露伴の描写も興味深かったです。

荒木 今回はルーヴル用のキャラで描いてるので、 『ジョジョ』用に描いてるのとちょっと違うんですよ。でも、描かれてないとこで変な事もしてたのかも(笑)。

――露伴の初恋?も描かれてました。

荒木 フランス映画っていうと「エロティック・サスペンス」っていうか、秘められた恋と事件みたいなイメージがあるんですよ。日本もちょっとそういうとこがあるけど、フランスと日本のそういう感じを融合したっていうか。 クラシック恋愛要素を随所に入れて(笑)。

――露伴がルーヴルに到着した見開きなど、ポージングも随所に。

荒木 あれはミケランジェロの「瀕死の「奴隷」という彫刻のポーズです。 ルーヴルが題材なので、所蔵作品へのオマージュを入れてるんですよ。露伴が奈々瀬の記憶を読もうとするシーンも、アントニオ・カノーヴァの「アモルの接吻で蘇る「プシュケ」という彫刻のポーズ。 ちょこちょことそういうの入れてるんで、探してみてもらえたら嬉しいですね。

――今回、初めてBDのフィールドで作品を発表してみて、どうでしたか?

荒木 日本人に話を振られた以上、日本人らしさを出さないとダメだと思ったんですね。だから日本人がルーヴルへ行くという、日本とルーヴルがどう関わるか、というストーリーになったんです。

――BDとマンガの違いを感じたポイントって何がありますか?

荒木 わかりやすいとこだとカバーイラスト。 ルーヴルからは当初、風景メインで描いてくれっていう注文があって、びっくりしましたね。 他の作品見てみたら、みんなロングで描いてて、 キャラが小さいんですよ。わりとキャラに寄ってても目線が来てなかったり。日本のマンガの方法論とは真逆ですよね。

――荒木先生が考えるBDの特徴は?

荒木 誰も描いたこともない描き方みたいなのを追求してるとこですね。日本の場合は読者に受け入れられなければいけないっていう目的があるけど、それを無視して、むしろ逆走してるみたいな。その感じがスゴイですよ。 我が道を行かなきゃダメっていう突き抜け感なんですよね。そこが日本と全然違うと思う。今回、仕事をしてみて、ルーヴルの印象って変わりましたか?

荒木 別に変わらないです。 この壁の裏が実は通路だったのかとか、裏側を見れたというのはあるけど。やっぱりルーヴルはルーヴルなんですよ。

――そんなルーヴルに自身の絵が展示された感想はいかがですか?

荒木 畏れ多い(笑)。ルーヴルって近代より前の作品だけだから、ゴーギャンとピカソでも入れない場所なんですよ。そんな場所に展示されて「モナ・リザ」や「ミロのヴィーナス」と同じ空間に自分の絵があったっていうのは本当に光栄です。


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