SPUR Magazine (August 2018)
Araki's Motivation (August 2018)
Interview with Hirohiko Araki in the October 2018 issue of SPUR magazine, published on August 23, 2018.[1] The interview was also psoted on SPUR's official website on September 9, 2018.[2]
Interview
―― 今回は「JOJOの奇妙なヒロインたち」というテーマで、『ジョジョ』シリーズにおける女性キャラクターの魅力などについてお話を伺っていきたいと思います。荒木さんが女性キャラクターを描くにあたって、何か意識していることやこだわっていることはあるのですか?
荒木 特にないんですよね。女性だからとか、男性だからとか、そういった形では区別していなくて、しいて言えば、可愛いか、かっこいいかぐらいの意識の違いかな。ただ、僕はいわゆる可愛いがあまり得意じゃないから、どうしてもかっこよさを意識して描くことが多いですね。かっこいいといっても、そこにはいろいろな定義があって、僕の場合はまず孤独であることだと思っています。社会から認められていないけれど、自分の信じる正義を貫いている。それがヒーローであり、ヒロインなんですよ。ちょっと世の中からはみ出ているところがかっこいいんです。
―― 前のページで、エリナ、スージーQ、徐倫、康穂の4名の女性キャラクターをイメージしてファッションシューティングを行なっているのですが、それぞれのキャラクターをひと言で表現するとしたらどんな感じになりますか?
荒木 この4人を対比させるのであれば、エリナはやっぱり誠実で、スージーQは明るくておっちょこちょいで、徐倫はポップではつらつとしていて、康穂はいちばん現代的な子という感じですかね。
―― この中でいちばん思い入れがあるのは誰ですか?
荒木 僕は今描いているのがいちばん好きなので、この中だと康穂ですね。康穂ってちょっと病んでいる感じがあって、それが何かいいんですよ(笑)。
―― 徐倫はどうですか?『ジョジョ』シリーズで初めての女性の主人公でした。
荒木 もちろん、思い入れはあります。女性にパンチを食らわしたり、腕を切られたり、そういうバイオレンス描写ができるようになったのはやっぱり徐倫からなので。それまではなかなかできなかったですからね。『ジョジョ』を描く前に、『ゴージャス☆アイリン』(,85 年)という女性が主人公の作品を描いたことがあるんですよ。今でこそ女性が戦う作品はたくさんありますけど、当時の少年誌ではあり得なくて、描いていて気持ち悪くなるし、「これはダメだ」と思って長編にするのをやめました。
―― 自分の作品なのに、描いていて気持ち悪くなったんですか?
荒木 アクションシーンを描くのがダメでしたね。当時は『エイリアン2』が公開された頃で、シガニー・ウィーバー演じるリプリーが強い女性でかっこいいなと思ったから、僕もマンガでトライしてみたんだけど、やっぱり女の子が殴られたりするのはちょっと残酷すぎて描けませんでした。それに、当時は細い眉も描けなかったんですよ。あの頃の少年誌の男の主人公はみんな眉が太くて、それが普通だったので、細い眉のキャラクターって何か悪役に見えてくるんですよね。そういう時代だったから、少年誌で女性の主人公を描くのはまだ早かった。まだスタローンとシュワルツェネッガーの時代だったんですよ(笑)。ただ、それから15年近くたつと時代も変わって、女の子がパンチを食らったりするシーンを描いても平気な感じになった。これならちゃんとタフな女の子が描けると思って、第6部は徐倫を主人公にしたんです。
―― たとえば、女性キャラクターを描くときは目から描き始めるとか、男性キャラクターのときと手順が違ったりするのですか?
荒木 そういった描き方の違いも特にないですね。というより、絵を描くときは基本的に女性のポージングを参考にして描いています。なので、男性のキャラクターも女性ファッション誌に登場するモデルとかを見ながら描いているんですよ。男性ファッション誌のモデルはただ立っているだけというのが多いんですけど、女性誌のモデルは腰をぐっとひねったり、首をぐいっと曲げたり、ポージングがいろいろあって面白いんですよね。輪郭とか骨格みたいなところはさすがにそれぞれ別のものを参考にしますが、ポージングに関しては男と女のキャラクターで違いはなくて、どちらもだいたい女性ファッション誌を参考にして描いています。
―― では、ファッションはいかがでしょう。男女のキャラクターを描くうえで、ファッションの違いは大きいですか?
荒木 そうですね。男女で大きく違ってくるのは、ファッションの部分だと思います。僕は、キャラクターを考えるときは身上調査書みたいなものをつくるんですよ。全部で60項目ぐらいあるんですけど、性格とか口癖とか好きな食べ物とか、いろいろと細かく設定していくことで、キャラクターがどんどん立体的になっていくというか、実在の人物のように生き生きしてくるんです。そうやって設定を考えるときでも、ほとんど男とか女ということは意識しないのですが、やっぱりファッションだけはどうしても違いが出てきますね。
――『ジョジョ』シリーズのファッションは、読者からの注目度も非常に高いです。康穂のスカートについている花だったり、承太郎の学ランについている太いチェーンだったり、ああいう独創的なディテールはどうやって生まれるのですか?
荒木 ファッション誌とかを見て、参考にすることが多いですね。チェーンをつけたりするのは、要するにファンタジーなんですよ。学生服にチェーンをつけることってまずないじゃないですか。だから、そうすることで、ファンタジーになっていくというか、「これはマンガなんです」ってことを表現しているんです。スカートに花がたくさんついているのもそう。それがわかりやすくできるところが、ファッションを描いていて面白い部分ですね。
―― 理想のヒロイン像というのはあったりするのですか?
荒木 目的に向かって強い意志を持っていて、そのうえでどこかにやさしさがあるというのが理想ですよね。あとは、ちょっとゲスな部分があるのもいいかな(笑)。男のゲスな部分は許せないけど、女性のゲスな部分は許せます。その背景に何か理由があるのかなって思っちゃうんですよね。今の時代状況を考えると、品行方正なキャラクターよりも、どこかに欠点があったり、悩みを抱えているキャラクターのほうが読んでいて共感する部分が多いと思います。聖母マリアみたいなエリナよりも、ちょっと病んだ感じの康穂のほうが間違いなく面白くなるんだろうなって。
―― 漠然とした質問になりますけど、荒木さんにとって女性とはいったいどういう存在ですか?
荒木 女神ですね。世の中を幸せにする存在。ダメですかね(笑)。
―― ダメではないですよ(笑)。
荒木 だからといって、過剰に崇め奉るということではなく、マナーを守り、きちんと敬意をもって接するという意味合いでの女神なので、レディファーストみたいな考え方に近いのかな。だから、何かもめ事が起きたときも、よほどのことがない限り、女性を上に置くようにしています。女性という存在を女神だと思って生活していると、大抵のことはうまくいくんです。少なくとも、わが家はそうですね(笑)。
―― 女神なのに、ゲスな部分があってもいいんですか?
荒木 いいんです。だって、ギリシャ神話に登場する女性たちはヤバいじゃないですか(笑)。ゼウスの奥さんとか、ものすごく怒るし、嫉妬深いですよね。でも、そういうところが話を面白くしていると思うので、ゲスな部分ってやっぱりあったほうがいいんですよ(笑)。