Araki x Otsuichi - The Book (2007)
Eureka (November 2007)
Interview between Hirohiko Araki and Otsuichi, author of The Book: JoJo's Bizarre Adventure 4th Another Day
Interview
Untranslated
―― 『The Book』を読まれて荒木先生はいかがでしたか?
荒木: ラストシーンがグッと来るんですよ。サスペンスがあって盛り上がって、その解決がガーッとあって、悲しくて切ないラストがある。杜王町にぴったりだし乙一さんにぴったりだし。ハッピーエンドとは違った豊かな感じがあるんですよ。
乙一: …「豊かな感じ」…いいですね。
―― 荒木先生は、ご自分のマンガがノベライズされるというのはいかがですか?
荒木: 別に大丈夫なんですよ。才能のある作家さんが小説にしてくれるのはすっごく面白いですし。特に今回の『The Book』はスッと入っていけるんで。
―― 『ジョジョ』の世界に入れる?
荒木: そう、馴染んでるんですよ。引き込まれるっていうか。乙一さんの仗助になっていて。マンガのノベライズってあまり読んだことが無いから誤解しているのかもしれないけど「ちょっと原作と違うなー」って思うこともあったんですよ。でも、この『The Book』はかなり熟成されていましたね。書き上げるのに何年かかったんでしたっけ?
乙一: 何年かかったのかな…、多分5年くらいだと思います。大量のボツ原稿があります。結局、2000枚以上書いたはずなんですが、思い返すと5年はアッという間ですね。
―― 執筆5年、ボツ原稿2000枚はすごいですね。
乙一: 『ジョジョ』のキャラクターを自由に動かせていないというか、操り人形しか書けていない違和感がずっとつきまとっていて…。それで、いろいろと考える必要があると思って自分で何度もボツにして作戦を練っていました。こういうことをできるのは一生に一度なんじゃないかと思うと、納得できない原稿で本を出すのは一生後悔しそうだったので、各方面に頭を下げて本が出ない状況が続きました。
荒木: でも、その甲斐はあったと思うよ。たしかにすごい本になってる。
乙一: 今回の『The Book』では荒木先生に口絵や挿絵も描いて頂いたんですが、今の絵柄で4部のキャラを見られるのは、すごくうれしいです。
荒木: 挿絵で気を使ったのが日常性なんですよ。冬の杜王町が舞台なんで背景に雪を降らせてみたり。小説オリジナルの敵も仗助たちと戦うけど、でも「悪くて強い敵」っていう感じじゃない。「町の中にいる主人公」っていう感じで、ちゃんと人生の背景がある。その辺のリアリティとかは注意しました。
乙一:
どのイラストも僕のイメージ以上でした。それと巻頭口絵で描いて頂いた飛び出すイラスト、これがまたすばらしい…。
―― 乙一先生は、ノベライズの執筆で面白かった部分はどこですか?
乙一: 『ジョジョ』ファンだけに判るようなネタを散りばめてみたんですが、そういうところが面白かった。同人誌を書いている気分でした。
荒木: そういうネタ的な部分が、なんか生き生きしてるんだよね(笑)。適度にリラックスしている感じも出ていたし。
乙一: 最初はネタ的な部分を排除する方向で書いていたんですが、そうすると借り物的な違和感が出てしまって。ところがネタ的な視点を入れたら、不思議と違和感がなくなっていくような気がしたので積極的に入れようと思いました。
荒木: 乙一さんは以前から「4部を小説にしたい」って言っていたよね。
乙一: 3部と5部のノベライズがすでに出版されているというのもあるんですが、でもそれが出ていなくても4部を選んでいた気がします。不気味で好きなんです。
荒木: 4部が乙一ワールドに近いからじゃないかな? この『The Book』が出たらね、スッゲー悔しがる作家さんもいると思うよ。
乙一: 僕は、いろんな作家さんが4部の小説を書いたら面白いだろうなぁって思っているんですよ。書いた作家さんが『ジョジョ』をどう読んできたのかが出てきそうで面白そうだなぁと…。「この作家はこういうところが好きだったんだな」とわかると思います。
―― 劇中のスタンド能力(詳細は小説を読んでくれッ!)は乙一先生のオリジナル?
乙一: そうですね。
荒木: スタンドって必ず自分の人生観が入ってくるんですよ。だから考えた本人じゃないと、たいした技に思えないんじゃないかな。描く本人が「こりゃスゴイ」って思ったのがいいんだよね。
乙一: 「スタンドが人生観を反映している」…、これもいい言葉ですね。
―― 乙一先生が4部で好きなキャラクターは誰ですか?
乙一: 吉良吉影ですね。連続殺人犯の悪役なんですが、とにかく平穏に人生を終えようと言うその思想が衝撃的で、僕の人生にも馴染んだところがあって。
荒木: 吉良は前向きなんだよね、とにかく「悪のヒーロー」を目指してたんで。じつはマンガでは描かなかったけど吉良の背景もあるんですよ。吉良の母親が虐待みたいなことをしてて父親は見て見ぬフリで、それを「すまない」って思っていたから吉良をあそこまで救おうとしてたっていう。ただマンガでやっちゃうと悪役としては悲しいヤツになるし、敵にもならないし。そこの兼ね合いは描けなかったっていうか少年誌だからできなかったのかな。でも乙一さんの小説にはそういう悲しい部分もあって、かなり良かったですよ。
―― 小説家という立場から見て、『ジョジョ』のキモはどこだと思いますか?
乙一: それは人それぞれ違うと思いますが、僕の中では演出です。普通のマンガならいきなり見せて読者を驚かす場面でも、『ジョジョ』は少しずつ周辺を固めてから提示するような、ゾクゾクする感じがあります。そういうビックリするような仕掛けがすごく好きで、『ジョジョ』を読んでいて至福を感じる時ですね。
荒木: ありがとうございます。でも何気なくやってんだけど(笑)。
―― 荒木先生から見て、この『The Book』の魅力はどこでしょうか?
荒木: この『The Book』にはね、サスペンスがあるんですよ。あと、「血の因縁」的な設定が出てくるんだけど、その辺がイイっすね。そこを外さなかったのは、さすが乙一さん。
乙一: 僕は『ジョジョ』を読んで「血縁」という言葉を気にするようになったんです。少し前から「父」とか「子」とか、そういうキーワードが好きになっていて、自分の小説でもそういった血族の話を書いたりしていました。
荒木: 『The Book』は乙一ワールドに4部のキャラクターが入っていく感じがするところもイイんですよ。億泰とか仗助といった4部の各キャラクターたちが深く描かれていて、原作よりいいかもしんないですね。
―― 小説だと、心理描写をより細かく入れられますね。
荒木: 3部や4部を描いていた頃、担当編集者から「悲しい話を描いてくれ」と言われたんですよ。僕もそれを目指したんだけど、でも若かったせいか、そこまで達していなかった。だけど、この『The Book』にはそれがあるんですよ。4部当時に目指していたものの完成形がある。完璧ですね。k
乙一: 良かった…。ホッとします。
References