〝心の師匠〟の秘密
まず、ご挨拶。
「こち亀」(タイトル略すの許してください)第160巻!おめでとうございます。そして、その記念すべきコミックスのあとがきを依頼されるなんて本当に名誉な事ですし、一漫画家として、ひとつの認められた達成と受け取りたいと感激しております。
……という事で、『こち亀』の作品として凄さとスバらしさは、すでに159回にわたって語られて来たと思うので、荒木飛呂彦としては、このあとがきで自分の事だけを述べたいと思っております。
ぼくは1980年の冬に漫画家として週刊少年ジャンプにデビューさせていただいたのですが、その授賞式の時「がんばってね。」と祝福をしてくださったのが秋元先生で、しかも先生は、その当時の一新人の事を27年経った今でも覚えてくださっていたのだ。こういう事って自慢しちゃダメですか?
80年代の漫画家の伝説として、「何日徹夜して寝てない」だとか「一日で原稿20Pとか30P描いた」だとか、武勇伝のように語られていましたが、漫画家プロ生活を体験して、「そういうのは良くない」と思うようになりました。「秋元先生がそういう事をしてないよなぁ」と思ったからです。毎日、規則正しい生活をし、仕事それ自体を楽しみ、どんなに忙しくても新人さんや編集さんたちを励ますパーティーには時間を作って必ず出席する姿勢。「学ぶべきはこっちの方だ」と思いました。最近、その事をますます革新するようになりました。『こち亀』が連載31周年を迎えても逆にパワーと円熟味を増しているように感じられるのは、そういう姿勢ゆえの秘密に間違いありません。
秋元先生は、よくパーティーでスピーチをなさるのですけれども、これが超おもしろくていいスピーチなんです。読者のみなさんに本当聴かせてあげたい。もし録画してたらスピーチのとこだけまとめてDVDとかで出せばいいんだよね。ああいうスピーチってのは実にむずかしくて、普通の人には出来ないものです。そういう所にもなにか秘密がありそうだ。秋元先生に「探らないでよ」と叱られそうですが、新人の時、祝福していただいた以上、ぼくは〝心の師匠〟と思っております。(『こち亀』のますますの発展と週刊少年ジャンプのさらなる栄光のために。)