――「ザ・ラン」「懺悔室」を制作するにあたって心がけたことは?
加藤 今回制作するのがその2エピソードと決まったとき、最初に感じたのが「正反対の物語だな」ということでした。「懺悔室」は露伴が見聞きした話という構成で、露伴は本当に動かない。それに対して「ザ・ラン」は動きまくる。その対比が面白いと思うんですけど、どっちモ極端なんですよ。動かなさすぎる「懺悔室」は、密室の中の緊張感と若い男の身に起きた不思議な出来事をどうやって表現するかを大切にしていきました。また、マンガならではのトリックが使われているのもこのエピソードの特徴なので、その部分をどうするか、“誰”に懺悔させるのかという声芝居も気をもんだところです。一方の「ザ・ラン」は動くんだけど、実際はふたりで並んでランニングマシンの上を走っているだけなので、映像化したときにスピード感をどうやったら出せるだろうか、という点を考えていきました。
石本 画的な部分では、TVシリーズのキャラクターデザインがどんどんアップデートされていくので、その合間に作る『岸辺露伴は動かない』では、そのときどきのいいところをどう反映させていくかという部分は考えています。外伝とはいえ、『ジョジョ』シリーズの作品なので、ライブ感みたいなものを味わっていただきたいな、と。でも、「ザ・ラン」と「懺悔室」では原作が描かれた時期も違うので、それぞれの荒木先生の絵柄をどう落とし込むかというのは一番頭を抱えた部分でした。
――石本さんは当初、「ザ・ラン」と「懺悔室」でキャラクターデザインを変えようとしていたそうですね。
石本 今回の制作は第5部のアニメスタッフがそのままスライドして入っているのですが、スケジュールのことを考えて、津曲大介さんにも総作画監督を担当していただきました。原作の絵柄の違いに加え、ふたりで分担するということで、世界観の棲み分けという意味でも2編でキャラクターデザインを変えるというのがいいんじゃないかと思ったんです。でも、「世界観を統一してほしい」というオーダーがあったので、結局統一することになりました。ちなみに総作画監督の分担は、僕が「懺悔室」を、津曲さんが「ザ・ラン」をというようにしています。
――『岸辺露伴は動かない』は非常にホラー感が強いお話が多く、アニメとして恐怖を際立たせるような演出がなされていると感じました。そのあたりのこだわりについて教えてください。
加藤 その辺はアニメ『岸辺露伴は動かない』の成り立ちに関係している部分ですね。というのも、本シリーズの第1弾である「富豪村」を作ったときに、僕と一緒にソエジマヤスフミさんにも入ってほしいというオーダーがあったんです。ソエジマさんは『ジョジョ』のTVシリーズでビジュアルディレクターなどを担当された、特殊なルックが上手な方です。「富豪村」では、カフェで露伴と京香が話している日常の様子と、一究の言葉を借りて“あっちの世界”のルールに縛られていくという部分とが明確に棲み分けできるので、自由奔放にやれる“異形な世界”の方をソエジマさんに担当していただいて、ビジュアル面の爆発力を見せていただき、僕は日常から“あっちの世界”に行く橋渡し部分を担当して、そのギャップを楽しんでもらう構成にしたんですね。その日常・非日常・日常というサンドイッチ形式のスタイルは、その後の「六壁坂」、そして今回の「ザ・ラン」と「懺悔室」でもなるべく踏襲しています。
とくに「懺悔室」は原作だとどんでん返しから話が終わるまでがすごく早いんです。映像作品にしたとき、ラストに余韻を持たせてあげたほうが、観ている人にもこの奇妙な話が伝わるだろうなという考えがあったので、冒頭とラストに康一くんなどの第4部のキャラクターを出しました。
「ザ・ラン」も、最初は同じようにするつもりだったんですが、それをやってしまうと、一番おいしいところである露伴と橋本陽馬のバトルに至るまでの段取りが、長くなってしまったんですね。なので、そのオリジナル部分はコンテ段階でバッサリと削りました。最終的には原作のテイストにすごく近い形になりましたね。
――加藤監督からのお話に出た、康一、億泰、由花子のデザインについても教えてください。康一は第5部でも出演しており、由花子は原作でも登場していましたが、億泰が『岸辺露伴は動かない』に出演するのはアニメオリジナルですね。
石本 億泰は「富豪村」でも出演しているのですが、見返したら絵が硬いと我ながら思いまして。「懺悔室」では表情を少しだけ変えていて、コミカルな感じを強調しています。
――タピオカミルクティーを頼んでいたのには、その表情も相まって思わず笑ってしまいました。
石本 タピオカミルクティーは加藤さん発案でしたっけ?
加藤 そうですね。億泰は、なんでもリアルタイムで流行にアジャストできるタイプかなという感じがするので(笑)。
石本 康一くんも、「富豪村」のときと同じく、第4部のときのポルナレフ風ヘアーのままにしようかなと思ったんですが、イタリアに行くということで第5部風に髪形を整えました。
加藤 康一くんも由花子も、新しいコスチュームになっているんだよね。
石本 そうですね。由花子さんは胸に「由」の文字があるんですよ。
――制作にあたって荒木先生からはどんなオーダーがありましたか?
加藤 キャラクターのフォルムについては、「ザ・ラン」の陽馬やほかのキャラクターについて何度かありました。筋トレの話なので、最初は骨格がきっちりとわかるようなキャラクターデザインだったんですが、「もっと筋肉質に」と。
石本 「第1~3部くらいのマッチョにしてくれ」ということでしたね。一番修正が多くあったのは、ボウズ頭のジムの客です。当初、荒木先生から「ドウェイン・ジョンソンくらいマッチョに」と言われていたんですが、原作とちょっと外れてしまうし「またまたご冗談を」くらいに思っていたら、本気だったようで(笑)。でもそこにこだわる気持ちはなんとなくわかりました。「懺悔室」は割とすんなり決まった印象です。
――貴重なお話をありがとうございました。では最後に、ファンにメッセージを。
加藤 アニメーションの作り手として、荒木先生の描かれた世界観を尊重しつつ、いかにしてうまい具合にアニメーションへと落とし込めるかという点に気持ちを入れて作った作品です。
役者のみなさんの芝居や、音楽の演出も含めて、総合的に非常にクオリティの高いものになっていると思うので、ぜひ楽しんでいただければと思います。もしこれをきっかけに『岸辺露伴は動かない』に触れたという方は、コミックス2巻分の奇妙な話があるので、そちらもぜひ読んでみてください。
石本 『岸辺露伴は動かない』は作画的にもいろいろ模索している作品です。意図的に出している絵柄の違いなんかも、楽しんでいただければ幸いです。
加藤 瞳の描き方だったり、BL影(黒塗りで表現する影)がTVシリーズに比べたらはるかに多めに使われていたり、同じシリーズであるとはいえ『ジョジョ』本編とスピンオフとの表現の差もあるので、注目していただきたいですね。BL影の処理の部分では、第5部で入れていた表現をあえて今回は使っていないというのもあるんです。
石本 そうですね、いろんなテイストを楽しんでいただければ。とはいえ、そもそもの物語が面白いので、まずは物語を堪能してください。スタンドバトルがメインの『ジョジョ』本編の“奇妙な冒険”に対して、今回は怪異メインの“奇妙な物語”。露伴の体験を追体験できるという面白さがあると思うので、ぜひ楽しんでください。