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Published November 22, 2019

Interview with Yasuhiro Kimura and Hideya Takahashi, directors for JoJo's Bizarre Adventure: Golden Wind, by Livedoor News. Article published on November 22, 2019.

Interview

“ジョジョ愛”に敬意を表するッ! 『黄金の風』監督コンビが明かす、情熱の制作秘話 2019年11月22日 17時55分 2012年から続くテレビアニメ『ジョジョの奇妙な冒険』(以下、『ジョジョ』)シリーズの最新シーズン『黄金の風』。

イタリアを舞台にギャング同士の抗争を描いた本作は、イタリア各所を巡りながら緊迫したバトルを展開し、最終決戦の地であるローマへ突入。強大なボス、ディアボロ(CV:小西克幸)を前に多くの仲間を失いながらも、ついに主人公ジョルノ・ジョバァーナ(CV:小野賢章)たちの勝利で幕を閉じた。“覚悟”や“運命”といった心を打つテーマを盛り込みつつ、最後には爽やかな風が吹き抜けるような全39話だった。

2018年10月から3クールにわたって放送され、今年7月に最終回を迎えた本作。そのBlu-ray&DVDの最終巻が11月13日に発売されたことを記念して、監督を務めた木村泰大、髙橋秀弥のふたりに、ジョルノたちと共に駆け抜けた3年間を振り返ってもらった。

『黄金の風』で初めて『ジョジョ』シリーズに関わったふたりは、いかにしてシリーズのDNAを受け継ぎ、落とし込んでいったのか。イタリアロケ、アフレコ時のエピソードはもちろん、名シーンの裏側や狙いまで、徹底的に掘り下げていく。

取材・文/岡本大介

第37話は実質的な最終回。いちばんの戦力を注いだ 放送終了から3ヶ月以上が経ちましたが、周囲からの反響はいかがでしたか? 木村 最終話付近でアニメの話題がTwitterトレンドに入って、驚きましたね。全39話の長編作品ではなかなかないので、「最後まで観てくださったんだな」と素直に嬉しいです。 原作はもちろん、テレビアニメも国民的なシリーズに成長した感じがありますよね。 木村 そうですね。僕は『黄金の風』(アニメシーズン4)の放送中に結婚式を挙げたんですが、10年ぶりに会った知人や親戚から「『ジョジョ』、観てるよ」と声をかけられました(笑)。僕がアニメ関係の仕事をしていることすら知らなかったはずなのに…。『ジョジョ』の力は絶大だなと感じましたね。 髙橋 僕はSNSをやらないので正直、視聴者さんからのリアルな反響というのはよくわかっていません(笑)。ただ、スタッフのみなさんが最後まで士気を落とさずに頑張ってくれて、今でも本当に感謝しています。 現場作業のピークはどのあたりだったんですか? 髙橋 ジョルノの覚醒したスタンド、ゴールド・エクスペリエンス・レクイエムが登場する第37話『王の中の王(キング・オブ・キングス)』だと思います。第38話『ゴールド・E(エクスペリエンス)・レクイエム』と第39話『眠れる奴隷』は少しスパンが空いてからの2話連続放送でしたから。 第37話が7月5日に放送され、第38・39話が7月28日に放送。3週間ほど空きましたね。 木村 最後の2話は特別編というか、作り手としてはどこか“お祭り”的な感覚が強かったので、僕らにとっては第37話が実質的な最終回でしたよね。 髙橋 木村さんの担当回でしたが、はたから見ていてもヒシヒシと気合いが伝わってきました。 木村 第37話はスタッフ的にもいちばんの戦力を注ぎ込んでいて、まさに総力戦といった感じでしたね。

▲第37話で、主人公ジョルノのスタンドが進化。敵のボス、ディアボロを圧倒した。

▲ジョルノに敗れ、第38話で“無限に”死に続けるディアボロ。シリーズ屈指の悲惨な最期を迎えた。 最終話はまるまるプロローグという内容で、シリーズでも異色のクライマックスでした。原作通りではありますが、演出的には苦労したのではないですか? 髙橋 原作通りの流れでやるかどうか、最初に少しだけ検討したんですが、やはり最後に入れるのがふさわしいだろうという結論に達しました。

第5部のテーマは“運命”ですから、第39話『眠れる奴隷』のエピソードを最後に持ってくることで、繰り返し観た際にテーマをより強く感じられるんじゃないかと思ったんです。 木村 そもそもですが、アニメで原作の設定や構造を変えている部分ってないんです。キャラクターの過去エピソードを増やしたり、必要に応じて場所を変更したりはしていますが、改変しているわけではない。だからこそ、エンディングについても原作準拠が望ましいだろうと。

▲最終回となる第39話では、持ち主の運命を告げる奇妙な「石」のエピソードが描かれた。 キャストの「ジョジョ愛」の強さに驚かされた 今のお話からも制作チームの“原作愛”を感じますが、キャスト陣の思い入れはいかがでしたか? 木村 それはもう強かったです。みなさん完全にキャラクターを作り上げてきていらっしゃるので、収録時のリテイクがほとんどないんですよ。 なかでも、とくに“ジョジョ愛”が強いと思ったのは誰ですか? 髙橋 みなさん本当に熱量が高いんですが、あえてひとりを挙げるなら、僕はアバッキオ役の諏訪部(順一)さんです。収録中もセリフの解釈について指摘をもらって、僕らが「たしかにそうだ」と納得したこともありますから(笑)。 木村 諏訪部さんはアバッキオが好きすぎるんですよね。当初、諏訪部さんはディアボロ役でもハマるんじゃないかと思って提案したことがあるんですが、頑として「アバッキオ役じゃないと出演しない」と(笑)。

▲チームのブレーキ役でもあるアバッキオ。序盤は新参者のジョルノと衝突していたが、次第に信頼を寄せるように。 印象的だったアフレコ時のエピソードはありますか? 髙橋 小野(賢章)さんは「無駄無駄ラッシュ」に対してかなりこだわりを持っていて、本編の収録でも「もう1回やらせてください」と何度も録り直しをしたことがあります。 木村 僕が小野さんのお芝居で覚えているのは第19話『ホワイト・アルバム』の最後で、朝日をバックに「ミスタ…あなたの『覚悟』は…この登りゆく朝日よりも明るい輝きで『道』を照らしている」という決めゼリフです。

ここは小野さんの希望で何度もやり直されていて、そのこだわりに作品への愛情と気合いを感じました。

▲第19話で、主人公の“格”を見せつけたジョルノ。ジョルノ役の小野賢章にとっても、思い入れのあるシーンとなった。

▲第31話で、ジョルノは敵のチョコラータ(CV:宮内敦士)に対して“無駄無駄ラッシュ”を披露。小野は、約30秒間にわたって「無駄」を叫び続けた。 ミスタのスタンド「セックス・ピストルズ」の6体は、すべて鳥海浩輔さんが演じているんですよね。 木村 そうです。ナンバーごとに性格が違ったりもするので、6体すべてを別録りにして、最後にそれをミックスして使っています。

もともとおしゃべりなミスタに加えて、さらに6体を演じているので、セリフ量で言えばジョルノやブチャラティ(CV:中村悠一)よりも断然多くて、負担は相当だったと思いますね。

▲セックス・ピストルズは、それぞれ性格もバラバラ。ミスタ役の鳥海浩輔は、計7キャラクターを演じ分けた。 監督オファーは本気でドッキリだと思った ここからは、おふたりがいかにして『黄金の風』に関わっていったかを教えてください。『ジョジョ』シリーズに関わるのは、おふたりとも今回が初めてですが、原作やアニメシリーズについては、どの程度注目されていましたか? 髙橋 僕は学生時代から原作を読んでいて、大好きな作品でした。

それもあって、もしアニメを観て違和感を抱いたら嫌だなと思って、放送当初は少し避けていたんです。ただ、そうは言ってもやっぱり気になって『ファントムブラッド』を観たら、めっちゃ良くてビックリしました(笑)。 それ以降はアニメもチェックするようになったんですか? 髙橋 いえ。当時は自分が関われるなんて夢にも思っていなかったので、アニメスタッフへのリスペクトを感じつつも、どこかで距離を取っていました。

しっかりと観ると嫉妬してしまうというか、自分が関われないことが悔しくなる。 では監督のオファーが来たときにはかなり嬉しかったのでは? 髙橋 最初は本気で“ドッキリ”だと思いましたね(笑)。

ずっと疑っていたんですが、アニメーションプロデューサーの笠間(寿高)さんとお会いしたことで初めて「本当にやれるんだ」って(笑)。『黄金の風』はとくに好きな部でもあったので、とても嬉しかったです。 木村 僕は『週刊少年ジャンプ』を読んでこなかった珍しいタイプの人間なので(笑)、未読のまま大人になりました。ただアニメシリーズはリアルタイムでほぼすべて追いかけていて、いち視聴者として楽しみにしていたんです。

監督のオファーが来たのがちょうど『ダイヤモンドは砕けない』の放送が終わる2016年の年末。「『黄金の風』もやるよな。いったい次はどんな話なんだろう?」って思っていたので、まさに青天の霹靂でした。 では、そこから改めて原作をお読みに? 木村 そうです。原作未読のままアニメを新鮮に楽しみたいという気持ちもあったので、オファーを受けたときは「原作読まないとな…」と、ちょっと複雑な気持ちでした(笑)。 実際に原作を読まれた印象はいかがでしたか? 木村 最高に面白かったです。でも、じつは読む前はちょっと不安だったんですよ。 どうしてですか? 木村 「原作は未読」と言いましたが、実際は友達の家でちょこちょこ読ませてもらう機会があったんです。でも子どもだった僕は、密度の濃い絵柄や情報量に頭が追いつかず、投げ出した経験があって(笑)。

でも今回Kindleのカラー版で読んだら、子どものころにはわからなかったアレコレがスイスイと頭に入ってきて、とても楽しめたんです。単に僕の理解力が上がったのかもしれませんが、カラーで読めたことも大きかった。

「これをフルカラーでアニメにできるんだ」とやりがいも感じましたし、ワクワクしましたね。 総監督から授けられた「『ジョジョ』はプロレス」との言葉 監督を務めるにあたり、津田尚克総監督とはどんなお話をされましたか? 木村 津田さんが「ジョジョはプロレス」と言っていたのが印象深いですね。

何か策を講じて、相手がそれにハマったと思ったら、今度はさらに相手がそれを上回る策を講じる。ジョジョのバトルはその連続で積み上がっていくじゃないですか。それが“プロレス”的だと。

最初に絵コンテを書いたとき、「みんな『なにィーッ』って言いすぎじゃない?」って思いましたし(笑)。今考えれば、すごく『ジョジョ』らしい様式美のひとつなんですが、まだ慣れていない時期だったので「これでいいのかな?」とひとりで不安になっていました。

▲木村監督の言葉通り、『ジョジョ』では「なにィーッ」や「ば、バカな」といった驚くシーンが多用されている。 髙橋 僕が津田さんの言葉で覚えているのは「ルネッサンス」ですね。 「芸術復興」という意味の、「ルネッサンス」ですか? 木村 そうだと思います。初心に返れという意味なのか、ルネッサンス的な芸術美を追求しろという意味だったのか…。 髙橋 途中ですぐに言わなくなったので、真相は今でも闇の中なんです(笑)。 いつか真意を聞いてみたいですね。ほかに津田総監督から言われたのはどんなことでしょうか? 木村 “現実のイタリア”より“イタリアっぽさ”を大切にしてほしいと言われましたね。 どういう意味でしょう? 木村 イタリアに行ったことはなくても、多くの人の頭の中にピザやパスタ、ワインといったイタリアのイメージはありますよね。

現実のイタリアのレストランではピザってあまり置いていないんですが、アニメは“イタリアっぽさ”を大切にしているので、ピザがあっていいんです。

荒木(飛呂彦)先生もイタリアを取材されたうえで描いていますが、随所でそういう“っぽさ”は大切にしているんですよ。 なるほど。みなさんもロケハンでイタリアに行かれていますが、そのうえで“っぽさ”を意識しているんですね。ちなみにロケハンはいつ行ったんですか? 木村 2017年の7月25日に出発しました。たしか8~9日間の日程でした。 髙橋 スゴい! よく覚えてますね。 木村 現地がものすごく暑かったので覚えているんです。熱波注意報が出ていたくらいでしたから。 木村監督は本編の放送中にロケハン時の写真をTwitterに投稿されており、ファンのあいだで話題になりました。 木村 『黄金の風』をアニメ化するにあたり、聖地巡礼をしやすくしようというのは最初から目標にしていたことだったんです。それこそ聖地巡りだけでイタリアツアーが組めるくらいのものにしたくて。

フーゴの過去描写は、荒木先生のアイデアを膨らませた シナリオや絵コンテといった実作業は、いつごろから着手されたんですか? 髙橋 ロケハン前に構成だけは決めてあって、本格的にスタートしたのはロケハンから帰ってきてからですね。 木村 だから、ロケハンのときはかなりフワッとした気持ちでしたよね。 髙橋 そうそう。戻ってきてからようやく「『ジョジョ』の監督をやるんだ」というプレッシャーを感じ始めました。 木村 そもそも僕らふたりはこれまでのシリーズにまったく関わってこなかったので、「自分に『ジョジョ』の絵コンテが描けるのか?」という不安もあったんですよね。 髙橋 ありました。最初の絵コンテ作業がいちばんプレッシャーを感じました。僕は第2話『ブチャラティが来る』、木村さんは第3話『塀の中のギャングに会え』を担当したんですが、そのときは津田さんからのプレッシャーも半端なかったです。

▲髙橋監督が初めて『ジョジョ』の絵コンテを担当した第2話。ブチャラティが登場する。

▲木村監督が初めて『ジョジョ』の絵コンテを担当した第3話。ギャング入団試験が描かれる。 『ファントムブラッド』から『スターダストクルセイダース』で監督を務めてきた津田総監督は、今回、1話のコンテ・演出を担当されて以降は、数話でコンテや演出に関わっているのみです。役割としては仕上がりチェックのような感じだったんですか? 髙橋 そうですね。序盤は僕らが上げたものをつぶさにチェックしてもらっていたんですが、途中からはかなり任せてもらえるようになっていきました。 おふたりが一緒に仕事をするのも今回が初めてだと思いますが、演出家としてのお互いの印象はいかがですか? 髙橋 制作作業に入ってすぐのころ、木村さんの描きかけの絵コンテを見たことがあったんです。第3話の冒頭シーンだったんですけど、それがめっちゃオシャレで驚きました。 木村 最初の絵コンテだったので、僕なりにイタリアっぽいオシャレさを狙って頑張っていたんです。 髙橋 隣にいた津田さんと「むしろオシャレすぎじゃない?」って話していましたよ(笑)。 どんな部分にオシャレさを感じたんですか? 髙橋 ごく普通の日常シーンなんですが、その切り取り方がセンスに溢れていたんですよね。木村さんはOPもPVもやられていますし、第5部のビジュアル面に関しては最初から最後まで頼りきりでした。

木村監督から見た髙橋監督はどんな印象ですか? 木村 絵コンテを見て思ったのは、すごくロジカルで緻密な方だなと。細かい演出を丁寧に積み上げていく、まるで詰将棋のような作り方なんですよね。

とくにそれを感じたのが第28話『今にも落ちて来そうな空の下で』ですね。 アバッキオの退場回ですね。 木村 そうです。あくまでアバッキオがメインではありつつも、ほかのキャラクター全員の感情をうまく積み上げていって。だからこそ、あそこまで泣かせるフィルムになったと思うんです。

僕はあそこまでの我慢はできないので、きっともっと手前で決壊すると思います(笑)。それで言えば第2話のジョルノの回想シーンなどもとてもうまくて、僕には描けないなと思いましたね。

▲第28話のタイトルと連動した空のカット。放送時、描写の美しさも話題となった。

▲アバッキオが死ぬ直前のひとコマ。表情や構図、背景の雲など、細かいこだわりが見られる。 おふたりはまったく違う個性を持った演出家なんですね。 木村 そうだと思います。

タイプの違うふたりが揃ったのはたまたまだとは思うんですが、今回はそれがうまいことハマりましたね。 それぞれ担当する話数はどのように振り分けていったんですか? 髙橋 ふたりで話し合って決めたんですが、お互いに自分が得意なエピソードや好きなエピソードを選んでいったら、自然と明確に分かれました。

結果的に回想シーンはほとんど僕ですし、アクションは木村さんが多めになりました。 回想シーンに関して言えば、今回はアニメオリジナルのエピソードも多かったように思います。これらはどのようにして作られたんですか? 木村 ちょっとしたものであれば、こちらが作ったものを荒木先生に確認していただきますが、大きなところは先に荒木先生からアイデアをいただくこともありました。

いちばん大きなオリジナルはフーゴ(CV:榎木淳弥)の過去についてで、あれは「フーゴの過去にはどんなことがあったんでしょうか?」とお聞きして、それをもとにしてシナリオにしています。

▲原作では深く追求されなかったフーゴの壮絶な過去は、ファンのあいだでも大きな反響を呼んだ。 ナランチャが好きすぎて監督のオファーを快諾 おふたりが個人的に好きなキャラクターは誰ですか? 髙橋 これはインタビューのたびに言っていますが、ナランチャ(CV:山下大輝)一択です。 木村 毎回聞いているので、すっかり「髙橋さん=ナランチャの人」のイメージになってきました(笑)。 髙橋 あながち間違いでもないですよ。僕はナランチャのために監督のオファーを受けたと言っても過言ではないですから(笑)。

本編中のナランチャエピソードはすべて担当させてもらったので、個人的にはそれだけでも大満足なんです。先ほど木村さんの話に出た第28話も、僕としてはアバッキオ回であると同時に、ナランチャ回でもあると思っているんですよ。 アバッキオの死を受け入れられないナランチャの姿は、山下さんの演技もあいまってシリーズ屈指の名シーンとなりました。 髙橋 そうなんですよね。山下さんは以前に別の作品でもご一緒したことがあって、そのときも泣きのお芝居がすごくうまいなと感じていたんです。

だからここもイケるなと思い、原作よりもナランチャの芝居を膨らませました。

▲感情を素直に見せるナランチャは、シリーズを通して見せ場も多い人気キャラクター。 木村監督が好きなキャラクターは? 木村 今はミスタが好きです。勘やノリで生きているところや能天気な性格など、僕らが思い浮かべるイタリア人っぽくていいですよね。

それでいて初対面のジョルノの本質をすぐに見抜いて信用するなど、人間的にも魅力的ですし。スタンドが銃というのもすごくカッコよくて、大好きです。 ミスタで好きなシーンはありますか? 木村 第30話『グリーン・デイとオアシス その1』で、ジョルノとミスタのふたりで銃を撃つシーンが好きですね。

通常のミスタが撃つ弾丸は、弾道の軌跡に青色を付けているんですが、あそこのシーンだけはジョルノの黄金色にしているんです。

そういう細かい部分の色を演出できるのはアニメならではなので、作業していてもアツかったです。

細かいことですけど、ジョルノはミスタのことを最初は“ミスタさん”って呼んでいるんですけど、あるときから急に“ミスタ”になったのが、個人的にはツボなんです(笑)。

▲明るい性格が持ち味のミスタ。第34話では、ディアボロの娘トリッシュ(CV:千本木彩花)と体が入れ替わってしまう。その際のコミカルな演技が笑いを誘った。

▲第30話では、ミスタとジョルノのコンビ技が登場。セックス・ピストルズにも変化が見られる。 話題になったOPのジョルノの後ろ姿は、木村監督の発案 弾道の色変化のお話が出たついでにお聞きしますが、画面の色味が一瞬で変わるなど、色による演出が印象的でした。 木村 画面の色がシーン単位で丸ごと変わるのを「シーン特色」、カット単位でピンポイントに変わるのを「カット特色」と呼びますが、『ジョジョ』では『ファントムブラッド』からどちらも使われているんです。 髙橋 基本的にはバトルの決着がつきそうなタイミングでシーン特色を多く使っています。「ここからクライマックスに向けて加速していきますよ」ということを表現するための演出で、これは『ジョジョ』シリーズを通じての特徴でもありますね。

▲シーン特色の一例。画面全体の色に変化が起こっている。

▲カット特色の一例。通常カラーのシーン内で、ワンカットのみ特色カットが差し込まれる形式。 そうだったんですね。シリーズの特徴と言えば、OPの特殊演出も毎回話題となりますよね。 木村 『黄金の風』のOPは僕が作っているんですが、当初の構想では最後のGERverはありませんでした。

でもディアボロverに切り替わるのが第34話で、そこから最後まで同じだとちょっと飽きるかなと思い、何かひと捻りしたいとGERverを作りました。 ジョルノの後ろ姿をDIOに似せているのも木村監督のアイデアですか?

木村 そうです。

原作だと、ジョルノがDIOの息子であるという設定ってあまり強調されないじゃないですか。でも、ローマに入ってからのジョルノはかなりDIOっぽい表情を見せているんですよね。ビジュアル的にも、覚醒すると髪の毛にウェーブがかかりますし。

だからここで重ねてみたら面白いかなと思ったんです。 ファンも大満足のOPになりましたね。 木村 盛り上がっていただいて本当に良かったです。 髙橋 でも『ジョジョ』シリーズのOP&EDって、どんどんハードルが上がって大変なことになってきましたね。 木村 止めようにも後には引けない状態なんですよね(笑)。

▲『黄金の風』のOP映像のひとコマ。物語の展開に合わせて、シーンが差し替わる“特殊演出”はこのシリーズの特色だ。 チョコラータ戦の塔が見つからず、原作を手に探し回った 本編を描くうえで、ロケハンがすごく役に立ったと感じたのはどんな部分ですか? 髙橋 僕は日常シーンを担当することが多く、その際に料理を出したがるタイプなのですが、そこはイタリアでのロケがすごく役立ちました。たとえば第19話『ホワイト・アルバム』で、ブチャラティとミスタがブルスケッタを食べるシーンなどがそうです。

ここはアニメオリジナルの回想シーンなので、最初はパスタかピザにしようかとも思ったんですが、ロケハンの際に食べたブルスケッタを思い出して、こちらにしたんです。ブチャラティの「ブルスケッタを4つ…いや、やはり5つにするか」というセリフは、パスタを注文していたら生まれなかったと思います。 「4」という数字を忌み嫌うミスタの性格がよく表れたシーンでしたが、ブルスケッタのおかげなんですね。 髙橋 そうです。ふたりで4つを注文することが不自然ではないメニューとしてブルスケッタを入れられたのは、まさにイタリアで実際に食べたことがあったからだと思います。 そうだったんですね。逆にロケハンの際に困ったことなどはありましたか? 木村 第1話『黄金体験(ゴールド・エクスペリエンス)』と第2話『ブチャラティが来る』に登場する路面電車は苦労しました。

原作に描かれている車両は古くて残っておらず、しかもちょうどロケハン時にストをやっていて、電車に乗ることすらできなかったんです。 ではあのシーンは想像で? 木村 それが、運良く同じタイプの車両を掲載しているブログを見つけまして(笑)。それを参考に描いたりしました。あとチョコラータ戦でヘリを捕縛した塔もなかなか見つからず、あれも苦労しました。原作を手に探したんですが、その場所には塔らしきものはないんです。

いろいろと考察して、きっとベネツィア広場から近いところにあるんじゃないかと仮説を立てて探した結果、ようやくミリツィエの塔を発見したんです。 モデルとなった塔を自力で発見したんですね。スゴいですね。 木村 本当に幸運でした。

▲『黄金の風』では、建物もキャラクターの一部。ブチャラティがボスを裏切る第21話では、船着き場の階段が、チームの切ない別れを盛り上げた。 荒木先生の頭の中には、一連の映像ができている 裏話をたくさん教えていただきましたが、制作していくなかで、アニメーター陣から“ジョジョ愛”を感じることはありましたか? 髙橋 もちろんあります。個人的な感覚で言えば、男性陣よりも女性陣のほうが“ジョジョ愛”というか、主張が強かったように思います。「リゾット・ネエロ(CV:藤真秀)が好きだから、ぜひ退場回のカットを描かせてくれ。もう描ける機会がなくなってしまうから」とか。 木村 「暗殺者チーム」って、女性陣に意外と人気があるんですよね。 髙橋 そうですね。どんな敵キャラにもそれぞれファンがいることに驚かされます。 木村 もちろん僕らも『ジョジョ』が好きなんですけど、アニメーターさんたちはそれ以上の熱量なので、あえて少し引いた目線でジャッジしていくことも多かったと思います。

たださすがと言うべきか、こちらから何も言わなくても『ジョジョ』らしいツボを押さえた絵がどんどん生まれてくるので、その点は本当に助かりました。

▲スタッフからも人気が高かったというリゾット。磁力を操り、鉄分を刃物などに作り変えられる「メタリカ」のスタンドを持つ。

▲リゾット率いる暗殺者チームの面々。ジョルノたちの行く先々で死闘を繰り広げた。 シナリオチームはいかがでしたか? とくにシリーズ開始からシナリオを担当されている小林靖子さんとはどんなお話をされましたか? 髙橋 小林さんはずっと「キング・クリムゾン(ディアボロのスタンド)が何をやっているのかわからない」とおっしゃっていましたね(笑)。 木村 津田さんに「わかりやすく絵に描いて説明して」って頼んでました(笑)。 ボス戦については、何をやっているのかちゃんと理解できている人はあまりいないかもしれません。 木村 僕も子どものころに匙を投げていますから(笑)。でもだからこそ、誰にでもわかるようにアニメで表現するというのは今回のミッションのひとつでもあったんです。 実際に、アニメではすごく理解しやすくなっていて驚きました。 木村 でも原作からほとんど何も変えていないんです。原作をきちんと読みこんだうえでコマとコマのあいだを埋めていけば、自然とこのアニメの動きになるんです。 髙橋 きっと荒木先生の頭の中にはきちんとした一連の映像があって、それをコマとして抜き出してマンガにしていると思うんです。本作で多少なりとも再現できたのなら、それだけでアニメ化した意味がある。そこはやっぱり動画ならではの強みですよね。 最後に、おふたり自身が感じる『ジョジョ』シリーズの魅力についてお聞かせください。 木村 昔ながらの少年マンガ感ですね。

「任務は遂行する。部下も守る~」のような、強いセリフがちゃんとカッコよく聞こえる作品って今はあまりないような気がしますし、そこにすごくマッチョイズムを感じますね。 髙橋 どれだけ過剰な演出を盛り込んでも胃もたれしない作品って、『ジョジョ』くらいしか思い浮かびません(笑)。

キャラクターやセリフの強度がとことん強いので、どんな演出にも負けないんです。「もっといける」と思わせてくれるので、作り手としてもすごくやりがいがあります。 木村 『ジョジョ』の演出に慣れると、ほかの作品ができなくなる気がしません? 髙橋 そうですよね! 何をやっても、つい物足りなさを感じてしまうんですよね(笑)。

▲第38話の重要シーン。命を落とした仲間たちを思うジョルノの姿が、ドラマティックに描かれた。 木村泰大(きむら・やすひろ) アニメーション演出家、アニメーター。大学卒業後、2010年よりアニメーターとして活動を開始。主な演出作品は『世界征服~謀略のズヴィズダー~』、『蟲師 続章』、『美男高校地球防衛部LOVE!』、『銀魂°』、『CHAOS;CHILD』など。2016年『三者三葉』で初めて監督を務める。好きなジョジョキャラクターはプッチ神父(原作第6部登場)。 twitter(@namachu) 髙橋秀弥(たかはし・ひでや) アニメーション演出家。2004年、『蒼穹のファフナー』の制作進行として業界デビュー。以降、演出助手を経て演出家に。主な演出作品に『To LOVEる -とらぶる-』、『夏目友人帳 参』、『ソードアート・オンライン』、『フューチャーカード バディファイト』シリーズなど。『ポケットモンスター THE ORIGIN』で各話監督を、『競女!!!!!!!!』でシリーズ監督を務める。好きなジョジョキャラクターはイギー(原作第3部登場)。

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