Isao Tsuge (December 2022)

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Published December 19, 2022
Missing translation

An interview with Isao Tsuge, supervising character designer for the Thus Spoke Kishibe Rohan TV Drama. It was published in the Winter 2022 issue of JOJO magazine, released on December 19, 2022.

Interview

Transcript

「荒木先生が夢見るもの」を現実へ

人物デザイン監修
柘植伊佐夫

インタビュー

衣装やヘアメイクだけでなく、あらゆる角度から人物を総合的にデザインし、作品のビジュアルを築き上げていく人物デザイン監修の柘植伊佐夫さん。『ジョジョ』を読んで「危険物だ」と感じたという彼が、荒木ワールドを実写に落とし込む際に意識したポイントとは?


「ジャンケン小僧」露伴衣装デザイン
「ホットサマー・マーサ」露伴衣装デザイン
「ホットサマー・マーサ」京香衣装デザイン
「ジャンケン小僧」京香衣装デザイン
「ホットサマー・マーサ」イブ衣装デザイン
「ジャンケン小僧」大柳賢衣装デザイン

――柘植さんは「人物デザイン監修」という肩書きですが、どういうお仕事をされているんですか?

 「人物デザイン監修」という言葉は2010年のNHK大河ドラマ『龍馬伝』のときに生まれた言葉なのですが、要は作品の扮装全体に関することを担当する役割ですね。衣装、ヘア、メイクといった役者周りに関わるものを統括しています。ドラマ『岸辺露伴は動かない』でいうと、露伴や京香はもちろん、例えば「背中の正面」ではたくさんの手が伸びてくるシーンがありましたけど、あれも“人物”なんですよ。本作は極力VFXには頼らないというコンセプトがあるので、「たくさん伸びてくる手はどんなものなのか」「それには布がかかっているのか」「風は吹いているのか」「吹いているのだとしたら、手にかかる布はどういう重さでなびいて、透過性はどうなっているのか」といったことが関わってきます。そういう部分も含めた、人物周りのビジュアル設計をしているのが僕の仕事です。
 実際の作業としては、(演出の渡辺)一貴さんが最初に何か思い描いているものがありますので、それを聞きながら「こういうことですか?」と実際に絵を描いてみることが多いです。だから、僕がデザインをイメージしているというよりは、「一貴さんのイメージしていることを翻訳して現実化する」といったほうが近いかもしれません。

――柘植さんはこのドラマ『岸辺露伴は動かない』の話をもらってから、初めて『ジョジョ』に触れられたそうですね。

 そうなんです。ただすごく特徴的な作品なので、当然ビジュアルは存じ上げていました。お話をもらったときは、「この強烈な世界に、本当に手を付けるんですか!?」と思いましたね(笑)。でも、一貴さんは「これをやりたいがために演出家になったぐらいに好きなんです」とおっしゃっていて。そんな作品に声をかけていただいたことがとても光栄でした。
 そこから漫画を読んだのですが、率直な感想としては「とんでもない危険物だな」でしたね(笑)。僕はビジュアル担当なので、漫画のビジュアルをそのままやるとなるといろんな意味で大変なハードルになるだろうなと感じました。衣装だけでなく、美術や撮影、照明といったあらゆる分野の力が合わさればギリギリやれるかもしれないけど、その方法を使っても相当ハードルが高い作品だと思いましたね。

――そんな作品を実写の世界観に落とし込むために、どんな工夫をされたんですか?

 最初の打ち合わせで、一貴さんが作品の方向性について「漫画のビジュアルをそのままやるというよりは、モノトーンに落とし込んでいくなど、ストイックな方向に持っていきたい」とおっしゃっていて。それがひとつのやりやすさになると思いました。我々としては「現実の限られた条件下でどういう方法を取れば、見る側に“夢”と“現実”の両方を提供できるか」を考えていくので、あらゆる要素をそぎ落としながら荒木先生が一番言いたいエッセンスを残していくという作業だったかなと思います。

――要素をそぎ落としてエッセンスを残す作業、ですか。

 例えば、露伴のヘアバンドって漫画だとけっこうギザギザが大きいんですが、それをドラマ内の服飾では少し小さくしています。漫画で描かれたものをそのまま現実にすると、脳がそこにフォーカスして逆に印象が変わってしまうんですよ。色に関しても、荒木先生の着彩するコントラストをそのまま実写でも採用すると、実際のロケーションとは合わなくなってしまいますよね。だから、現実にあるものの色彩設計と衣装の色彩設計を近づける必要があって。でも、近すぎると今度は現実すぎてしまって荒木先生の世界にはならなくなる。その距離感のバランスには気を遣いながら、「荒木先生が夢見るもの」を現実に落とし込んでいきます。

――なるほど、ビジュアルを再現することよりも、絵を見たときの“感じ方”のほうに重きを置いているというわけですね。

 そうです。だから、一貫して「荒木先生が何を夢見ているのか」にシンクロする必要があるんです。同じ白の素材でも反射感や感触はいろいろとあるわけで。その中のどれが一番荒木先生のワールドで現実にあり得る感触なんだろうという“イメージのやり取り”をしている感じですね。

――荒木先生とも直接お話をされているんですか?

 直接のやり取りはしていなくて、こちらからデザイン画を出して、それに対してリターンをいただく感じです。第1期のときに「露伴のヘアバンドはなくてもいいですよ」とおっしゃっていたのが印象に残っていますね。「それはこれまでずっと描き続けている方だから言えることですよ!」と思いましたが(笑)、逆に考えると、それは荒木先生からの「それだけの自由度を持っていい」というエールなのだろうと感じて。額面通り受け取ってヘアバンドをなくすのは違うだろうとは思いましたけど、そのぐらい自由にやっていいのだと考えられるようになりました。それをきっかけにヘアバンドについて考え直すことができましたし、ヘアバンド問題をクリアできたことはある意味でこの作品を第3期までやらせていただけていることのひとつのブレイクスルーになったんじゃないかと思いますね。

――先ほどヘアバンドのギザギザを原作よりも小さくしているというお話がありましたが、あの特徴的な形状を実写の世界観に落とし込むことは相当難しかっただろうと思います。

 本当に難しかったです。ギザギザのヘアバンドって世の中的にはあまり見ない形状ですし、イラストで彩色されるような紫やグリーンにしてしまうと確実に浮くなと思って。もちろんそれを成立させるやり方もあるんですが、この作品はそういう力技とは少し方向性が違うので、現実から外れない世界観の中に混ぜるにはどうしたらいいかを考えていきました。色と形両方を原作に寄せるのではなく、ギザギザだけでもこの世界観を十分に表せると思ったので、形は原作の雰囲気を活かしつつも色は黒にしています。そうすると髪の毛と混ざって、アップショットだとヘアバンドのギザギザだとわかるし、引きだとギザギザなのか髪の毛なのかわからないという混ざり方をする。ドラマ全体の中で「わかること」と「わからないこと」が両立するので、よりリアリティが近まってくると考えました。でもやっぱりこれが一番、どういう受け止め方をされるか怖かったですね。

――ちなみに、「色と形両方を原作に寄せても成立させる力技」とはどういうやり方なんですか?

 例えば、建築構造物やインテリアなど世界観のすべてを荒木先生の色彩感覚に合わせてひっくり返せば、人物も同じ色彩構造で作れると思います。でも、我々がこのドラマで目指しているのはそうではなくて「日常的な世界の中にある非日常の奇妙さ」だから、その方法は違うよな、と。荒木先生の絵も全部が非日常というわけではないんですよね。むしろとても日常的な背景を描かれていて、でも画角が斜めになっていたり、歪んでいたり、パーツが変わっていたり、また話のロジックが一見繋がっていなかったりして、それが“奇妙”に感じられる。そういう荒木先生の“気分”をいただいて落とし込んでいるという感じです。

――その作業をされる際に、どんな要素をとっかかりにされたんでしょうか?

 僕は原作を読んだときに、荒木先生はモードに興味があるんじゃないかなと強く感じました。服飾的な資料を相当ご覧になっていなければああいう絵は描けないでしょうから。なので、僕としてはモードがとても重要なのではないかと思ったんです。コレクションで見るような先鋭的なファッションって、非日常的な形をしているじゃないですか。そういうモード的な要素を加味させれば、「日常の中の非日常」に切り込むことができるのでは、と。漫画の衣装をそのまま再現するコスチュームプレイも僕は全然否定的な立場ではないですが、この作品に関してはその観点よりもモードという記号を取り出したほうが合っているんじゃないかなと思いました。しかも、(露伴役の高橋)一生さんも(京香役の)飯豊(まりえ)さんもとにかく服が好きな人なんですよね。そういう意味でも一本筋が通ったんじゃないかなと思います。

――高橋さんや飯豊さんとは、衣装についてどんなやり取りをされるんですか?

 高橋さんは着たときの肌感を大事にされていて。締まり方や機能性、印象も含めてよりカンファタブルなところをすごく話し合っていますね。快適性や運動性という点に対して、ご自分のこだわりがあるのを感じます。飯豊さんとは、もうちょっと感覚的に、あるいは生理的に「こうしたほうがかわいいんじゃないか」というやり取りをすることが多いです。人によって意識するポイントがそれぞれ違いますね。

――高橋さんや飯豊さんからアイデアをもらうこともあるのでしょうか?

 たくさんありますよ。例えば、第1期と第2期ではヘアバンドの素材を変えているんですが、それは一生さんからのアイデアでした。第1期のヘアバンドのほうが質感が柔らかく、ギザギザの感じも少し不正確でよりリアリズムがあるんですが、一方の第2期は、それに比べて素材が少し硬めになり、ギザギザの揺らぎも減らしていて、よりフィクション度が高まっているんです。本当にミリ単位の話ではありますが、第1期に比べて第2期のほうが、ビジュアルの作り方がより原作寄りになっていますね。
 ちなみに第3期でもまた素材を変えていて、第1期、第2期はフェイクレザーだったんですが、第3期はいよいよ本レザーに出世しました(笑)。これも一生さんがそうしたいとおっしゃっていたからだと記憶しています。フェイクレザーは伸縮性などの面で扱いやすさがあるんですが、本レザーにはシボ(凸凹とした皺)など本レザーならではの味わいがあるんですよ。一生さんとも相談して、今回はホースレザーを使用しています。
 そういう挑戦ができるのも、やっぱりシリーズが続いてきたというのが大きいですね。第1期のときはヘアバンドが世界観を壊してしまったら……という懸念がありましたが、受け入れていただけたことで「第2期ではもっとやってみよう」と思うことができました。ヘアバンドに限らずシリーズを重ねたからこそやれることは当然あって、今回も第2期で出したものをまた出したり、第1期からのデザインを利用して違うものに転換したりと、これまでの歴史を活用した広げ方をしています。

――この流れから、第3期の衣装の見どころを教えてください。「ホットサマー・マーサ」のイブは原作ではうさ耳が印象的なデザインですが、それを実写にするとバニーガールのようになりそうな気がします。実写に落とし込む際に意識したことは?

 実際、バニーちゃんみたいになっていますよ(笑)。でも、あまり違和感はないと思います。というのも、イブを演じる古川琴音さんに浮世離れ感がすごくあって。造形も浮世離れしているけど、意外とちゃんとやりこなしていますね。京香のリボンがシルエットとしては猫耳に見えるので、「猫耳VS.うさ耳」という感じです(笑)。このエピソードでは衣装的シルエットも京香とイブであえて共通させています。似ているからこそちょっとムカッとする、みたいな。でも、そこでトラップをかけているわけではなくて、「京香は京香でかわいい、イブもイブでかわいいんだけど、ちょっとシルエットが似ているな?」と引っかかるようなバランスになっていると思いますね。

――「ジャンケン小僧」についてはいかがですか?

 ジャンケン小僧は原作の絵で大きな安全ピンが刺さっていたので、安全ピンを大量につけています。デザイン画を描いたときは重すぎるかなという懸念もありましたが、演じる柊木陽太さんご本人が「大丈夫」と言ってくれました。色は真っ白にしていて。露伴先生もこのエピソードでは白の衣装を着用していて、それは第1期のものの白黒反転なんですよ。だから、こちらのエピソードは「白VS.白」の構図ですね。京香も白いトップスと黒革パンツなので、ここでも白黒が基調となっています。黒革パンツにも実はもうひとつ仕掛けがあるんですが……この話はまた別の機会にお話しできたらと思います(笑)。

――どんな仕掛けだかとても気になります……。それでは最後に読者へメッセージを。

 こうして第3期を作らせていただき、ありがとうございます。第1期、第2期があったからできる表現をさせていただきましたし、今回もきっと皆さんに楽しんでいただけるんじゃないかなと思います。どうぞ放送をよろしくお願いします。


柘植伊佐夫 TSUGE ISAO
人物デザイナー、ビューティー・ディレクター、クリエイティブ・ディレクター。映像や舞台に登場するキャラクターの衣装・ヘアメイク・持ち道具を総合的にデザインし統括する「人物デザイン」というジャンルを開拓し多くの作品を担当する。


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