MdN (September 2023)
Interview Archive
An interview with Noriko Narumi[a] discussing the creation process of the logo and volume design for The JOJOLands. It was posted on MdN's website on September 21, 2023.[1]
Interview
デザインのスタート地点
──『ジョジョリオン』完結から1年半の時間が空いて、新シリーズ『ジョジョの奇妙な冒険 第9部 The JOJOLands』(ザ・ジョジョランズ)のコミックス第1巻がついに発売されました。舞台はハワイ。若者たちがのし上がっていくクライムサスペンス系のストーリーで、クセのある謎めいた登場人物たちが続々と登場して、さっそくミッションを開始するが……という初っ端から“ジョジョ”らしさ全開の怒涛の展開に、ワクワクが止まらない1巻でした。デザイン面においては、当初はどのような話が挙がっていたのでしょうか?
成見紀子(以下、成見) 最初は「ハワイが舞台」ということを担当編集者さんがおっしゃっていて、その後、荒木先生が描いた登場人物のラフ画と簡単なネームを見せてもらいました。絵は今よりももう少しポリネシアン風というか、現地感がある印象でしたが、それからいつものスタイリッシュな雰囲気に落ち着いていったと思います。そうした流れを汲んで、タイトルロゴもあまり直接的に現地っぽさやトライバル感は出さない方向性にしようというのがなんとなく頭にありました。
──なるほど。デザインするにあたって、作品内容について詳細を話す訳ではないのですね。デザインの方向性もしっかり話し合うというより、ラフを提案しながら進める流れでしょうか。
成見 私の場合はそのようにさせてもらっています。いろいろと手を動かすことでアイデアが浮かんだり、イメージできることもあるので、まずはさまざまなパターンを提案して絞っていきます。今回の『 ザ・ジョジョランズ 』でもまだタイトル自体が正式に決定していない段階から複数のラフを提案していました。
──作者の荒木飛呂彦さんとデザインに関して直接やり取りすることは?
成見 荒木先生とやり取りすることはなくて、すべて編集者さんと話をします。編集者さんが噛み砕いたり、先生サイドと折り合いをつけた意向が私のところに降りてくる感じです。
タイトルロゴのモチーフは“交通標識”
──ざーっとタイトルロゴのラフを提案した後はどのように進めていったのでしょうか。
成見 第1話に「車」が登場するのですがそれが印象的でした。そして、乗り物!若者!ハワイ!という話の滑り出しにポップさを感じて、このポップさに対して隣り合わせて良いデザインは? と考えると、「交通標識」というキーワードが浮かんできたんです。そこから、タイトルロゴのベースを「Interstate」(インター・ステイト)という書体に決めました(Interstateは、“アメリカの高速道路標識の公式書体として使用されてきた「Highway Gothic」を再解釈した書体” 。Adobe fontの紹介文より引用 )。ファミリーが多い書体(文字の太さの種類が豊富)で、使い勝手が良さそうな点も、この書体をセレクトした理由です。
成見 使い勝手が良くノーマルな書体で言うと、「Helvetica」(ヘルベチカ)も考えたのですが、少し文字の特徴も出したいと思っていたので、例えば「Interstate」は「&」の形がかわいかったり、「H」「d」のラインの端が削られたような、斜めの角度が付いていたり、味わいがありました。この文字の特徴をタイトルロゴの文字加工でも生かせそうとか、アイデアも浮かんだんです。
──確かに一般性や公共性を感じますが少しクセもある書体ですね。
成見 そうですね。それと、洋ゲー(海外ゲーム)のタイトルロゴも参考になりました。洋ゲーのロゴは、強くてシンプルで可読性が高くて、ドシッとした感じが良いなと。そのほか、『 JOJO magazine 』などを手がけられているジェニアロイドの小林満さんのデザインも参考にさせていただいています。『JOJO magazine』はすごくすっきりした書体をポーン!とレイアウトしていて、シンプルで強いロゴ。小林さんのデザインはいつも素晴らしいなと思います。
複雑なロゴにするのもジョジョのデザインにおいては面白いと思いますが、書籍やジョジョ展などでジョジョのデザインを見ていると、やはりロゴがすっきりとした見えるデザインの方が私は良いなと感じていたので、今回もそういう方針が良さそうだと考えていました。
──タイトルロゴのベースが決まった後はどのように? 制作過程の資料を見ると、角ばったロゴなども制作されていますが。
成見 そうですね。「Interstate」の文字の特性を生かして、すっきりとした方向性はある程度決めていたのですが、コミックスのロゴが確定する前に、書店の販促ポスターなどで使うロゴが必要になるので、そういうこともあって、まだ他のタイプも探っていますね。
成見 ただ、やはりそのあとは「Interstate」の書体感を生かしたロゴに絞って、それを斜めにしたり、ちょっとした加工などしてブラッシュアップしていきます。
「矢印」と「三角」模様に秘められた思い
──完成したタイトルロゴの「d」の文字や、表紙のビジュアルで「矢印」マークが登場しています。この「矢印」は制作過程ですでに確認できますが、なぜ「矢印」を取り入れたのでしょうか?
成見 「ジョジョ」では1話の最後のコマなどで、矢印の中に“To Be Continued”と書かれるおなじみの表現があるのですが、それを生かせないかなと思っていました。それに、『ザ・ジョジョランズ』の第1話の冒頭でハワイの火山が垂直に吹き上がっている描写や、若者たちの上昇志向など、とにかく「上に、上に」だよねと。そういうマインドを「矢印」にして表現しています。
──また、完成したタイトルロゴの「The」の下、「J」のセリフ部分(文字の端の飾り)を三角マークのように強調していて、「J」「L」「d」のセリフ部分も同様に加工しています。これも制作過程から確認できますが、三角にはどういう意図があるのでしょうか?
成見 ジョディオのマーク(ブックカバーで両手を上げている人物が主人公のジョディオ・ジョースター。その胸元のマーク)の中に、火山を表現した三角が描かれていたので、これをロゴに入れたらかわいいなと思っていたんです。それにトラベル・チケットや飛行機、パスポート、地図の標識など、旅行感のある雰囲気も演出したかったので、それらを三角で表現しています。取材でハワイに行ったと編集者さんから聞いていたので、「旅行、いいな、最高だな」と、そういう気分も頭に残っていたのかなと思います(笑)。さらに、三角をあしらうことで、文字に少し動きを付けたかったこともあります。先ほど言ったように「Interstate」の書体がもともと角が削れて斜めになっているので、親和性も高いだろうなと思いました。
星マークが斜め(斜体)になった理由
──タイトルロゴは最終的に斜体(斜めの文字)になっています。また、「ジョジョ」でおなじみの「星型のアザ」をモチーフとした星のマークが巻数表記の部分に入っています。この星のマークは『ジョジョリオン』でも入っていますが、今回の『ザ・ジョジョランズ』では星が斜めになっています。文字や記号を斜めにした理由を教えてください。
成見 荒木先生の絵は、特徴的なポージングや、さまざまな角度のコマ割りなどが有名ですが、私の印象では、左右対称、水平垂直、正方形といったすごく安定感があって、重心が(中心に)落ちている絵の構図も特徴的だと感じています。ですので、ロゴやデザイン要素まで水平垂直にしてしまうと、すごくビシッと収まるのですが、逆に収まりすぎる可能性があります。そして今回は少しロゴに動きが欲しいなと思っていたので、ロゴや星のマークを傾けた、という経緯ですね。
──水平垂直を感じる絵というのが興味深いです。タイトルロゴの和文の書体の選定理由も教えてください。
成見 和文は「A1ゴシック」です。「A1ゴシック」は力が均等に入って面で捉えたような、クセの少ない印象で、ノーマルだけど少しクセのある「Interstate」と喧嘩しなさそうだなと思い選定しました。「Interstate」はファミリーがそろっていて、文字の太さの種類が豊富な書体で、「A1ゴシック」もある程度太さが選べるので、そこも相性がいいかなと思いました。
──こうした経過があってタイトルロゴができたんですね。最初にロゴを見たときに、力強く、王道感があってモダンな印象も受けたので、狙いや過程を聞いてすごく納得しました。
成見 うれしいです。
──ちなみに、資料を見ていて気になったのが、最後の最後で今までの話の流れの「すっきりとしたロゴ」とは異なる、絵的なロゴも提案されていますが、なぜでしょうか?
成見 そうなんですよ。絵的なロゴというか、ロゴ単体でインパクトのあるロゴってほとんど通らずに最終段階まできたので、できる限り作るだけ作ってみて、とにかく悔いのないようにしなければと思ったんです。それと「『スティール・ボール・ラン』のような複雑なロゴのパターンってどうなんでしょう」と編集部の方からリクエストも挙がっていたので、最後の最後に全く別のタイプのロゴも提出しました。
──これはこれで見応えのあるロゴですね。
成見 フフフ。何かやった感、がんばった感がありますよね(笑)。とにかく悔いが残らないようにと思っていました。物語のモチーフを取り入れてみたり、火山をベースにしたり。でもやっぱり改めて見ると元の書体を生かした方で良かったんだと思います。
ブックカバーのレイアウトは「一枚絵」が軸
──タイトルロゴができた後、ブックカバーのレイアウトはどのように進めているのでしょうか?
成見 カバーのイラストに関しては、荒木先生が基本的には一枚絵をどーんと描いてきて、トリミングの位置もご希望されています。ですので、こちらは絵を見て、ロゴや巻数表記などのデザイン要素をはめて、ピタッとくればOKという。その後にカバーの裏表紙などを作るという順番です。
今回の『ザ・ジョジョランズ』第1巻の絵に関しては、帯を付けるとジョディオの胸のマークが隠れてしまうと思って、編集者さんに、少し人物を上げるパターンを提案しました。最終的には、絵の中心に描かれている「火山」をしっかりと見せたいという意向があったようで、そのままのパターンで決定となりました。
成見 荒木先生のトリミング指示って、「うわっ!大胆」と最初は驚くことがあるんですけど、やっぱりそこに文字などのデザイン要素を入れてみると、もう先生テイスト、ジョジョイズムな感じがじわじわと出てくるんですよね。不思議です。
表紙のデザインは自由度が高い?
──ジョジョのコミックスはブックカバーと表紙のデザインが異なりますよね。表紙は表紙でその巻のトピックやモチーフをコラージュしたような、洗練されつつ遊びのある表紙デザインで素敵ですが、これはどのように?
成見 表紙はブックカバーに比べるとルールは少ないので、割と自由に作らせてもらっています。『スティール・ボール・ラン』の頃から(成見さんは『スティール・ボール・ラン』のコミックスに関しては、ロゴ以外のデザイン周りを担当)、荒木先生の絵を切り出して、何かそこにちょっと足したいという欲があって。
例えば、『ジョジョリオン』は「家」がテーマなのかなと思ったので、家の絵を中心に、あとはその巻の物語で印象的なモチーフを散りばめてレイアウトしていました。荒木先生は、シリアスな展開の中に突飛な冗談を入れてきたりするので(笑)(『ジョジョリオン』田最環の初登場シーンなど)、そういうところも好きで切り取ったりします。あと私は、荒木先生の雲の絵がすごい好きで。
──生き物のような、有機的な、何か感情があるような雲を描かれますよね。
成見 そうなんです。なにか見ているだけで、ワクワクする。勢いが立ち上がる感じで、生き生きしていますよね。『ザ・ジョジョランズ』の表紙も雲の絵を使っていますし、カバーの表4(裏表紙)でも、採用はされてないですが、雲のパターンも提案しています。
「ジョジョのデザイン」で大切にしていることは“色の謎めきの増幅”
──ロゴを作って、絵に合わせて、レイアウトを完成させるという『ザ・ジョジョランズ』のコミックスの装丁の手順がよくわかりました。ここからは、ジョジョのデザインの総括を聞いていきます。まず、ジョジョのデザインにおいて、一貫して大切にしていることはありますか?
成見 荒木先生の絵は、空が緑、唇が黄色など背景の色や補色といった「色」もすごく特徴的だと思っていて、必ず色でフックを効かせているという気がします。ゴーギャンの色彩に影響を受けたともおっしゃっていますよね。色に謎めきがあるというか、そういう絵に対して、デザインでも謎めいた感じを引き立てたい、もっと増幅させたいという思いがあります。それと、大切にしていることとは少しずれますが、アナログの原画をビシッと描かれる方なので、その原画の色がすべての基準となります。その点、基準の色がしっかりあるのであまり配色で悩むことはないので、やりやすさも感じています。
──原画の色という軸があるから、ロゴの色も決めやすいという、ジョジョのデザインならではのポイントですね。今回の『ザ・ジョジョランズ』も同様でしたか?
成見 配色は迷わなかったですね。フードの色が青だったのでロゴもそのまま青で。黒も合うかなと思いましたが、作品のテーマやキーカラーに合わせています。『ザ・ジョジョランズ』の第1巻に関しては、ロゴ制作で話した通り、絵的にも内容的にもストレートであまり曲がった雰囲気ではなかったので、配色も素直な作りになっています。
『ジョジョリオン』のコミックスのデザイン
──前シリーズの『 ジョジョリオン 』についても聞かせてください。『ジョジョリオン』のコミックスのタイトルロゴはどのような意図でデザインしたのでしょうか。
成見 『ザ・ジョジョランズ』ほどではないですが、『ジョジョリオン』でもいろいろなパターンのロゴのラフを提案したと記憶しています。当然、ゴシック体のパターンも作ったと思いますが、タイトルが和文で、話の内容自体も少ししっとりとした、大人っぽい印象を受けたので、「秀英5号」という明朝体をベースに、書体そのものの特性を生かしたロゴデザインになりました。
──『ジョジョリオン』のタイトルロゴには、かすれた質感が入っていますね。
成見 1話目で「壁の目」(ジョジョリオンに登場する“隆起した断層”のこと)の説明や、地震などに触れられていて、そのあたりをロゴでも表現しました。
──ちなみに『ジョジョリオン』で成見さん的に好きなブックカバーのデザインは?
成見 12巻です。いいですよね。
──このトリミングは成見さん?
成見 いろいろな人からかっこいいとおっしゃっていただいて。同じように「トリミングもしたの」と聞かれたのですが、これも荒木先生の絵、そのままです。何か「引き算の絵」のような構成ですごく好きなんですよね。渋いです。一見合わないような組み合わせですし、スパッとしたトリミングの仕方も印象的。なぜ、こういう絵の切り方をしたのか聞いてみたいです。配色も、緑とオレンジの組み合わせに、突然桃色を放り込んでくる感じも素敵です。
デザイナー 成見紀子が装丁で大切にしていること
──成見さんの装丁は、ジョジョ関連以外でも、絵と文字のバランスが絶妙で、しっかりロゴも目に留まり、一枚絵としても機能していると思いますが、その辺は意識的でしょうか?
成見 そう言っていただけるのはありがたいですが、逆に私としては、まだまだロゴが絵に干渉し過ぎていて、目に止まりづらいと思っています。最近は特にそこを意識していて、試行錯誤中という感じです。基本的に書籍は、大友克洋さんの漫画『AKIRA』の装丁のような、不動のタイトルロゴとして見えることが、デザイン的には1番良いのではないかと思っています。この仕事を長くやってきてさまざまな装丁を見ていると、やっぱり絵は絵、文字は文字という感じで、ぱっと文字が浮かんで見える方(はっきり認識できる)が望ましいと感じるようになりました。
──成見さんは学生時代に油絵を専攻されていたそうですが、それで一枚絵のようになじませてしまう意識が強いのでしょうか。
成見 そうですね。油絵をやっていた影響はあると思います。意識しないと、くせで絵と文字を一体化させてしまう。ですので、絵は絵として、文字は意味を伝えるものとして、しっかり分けるべきだと、根本的なことなのですが。そういうこともあって『ザ・ジョジョランズ』では、元の書体感が強く残るようなロゴを最終的に選んだ気がします。
──なるほど。
成見 それに書店に行ってぱっと目を惹く装丁って、テキスト感を保っているデザインなんじゃないかなと思います。良い装丁、目立つ装丁、評価されているデザイナーの装丁に共通しているのは、テキストがテキストとしてぱっと浮かんで見えるデザインなんですよね。なので、装丁を手がける上で大切にしてること、取り組んでることは「テキストが立ち上がって見えること」です。
── 「ジョジョ」でいえばコミックスの装丁は、すでに絵もロゴもどっちも引き立っている領域にきている気もしますが。
成見 そう言っていただけるとうれしいですね。でもまだまだです。1番大事なところでもあるので、課題というか宿題は多いです。
── 貴重なジョジョのデザインのお話、ありがとうございました。今後の『ザ・ジョジョランズ』とそのデザイン周りも今から待ち遠しいです。
Notes
- ↑ Cover designer for Steel Ball Run and logo designer for Thus Spoke Kishibe Rohan, JoJolion, and The JOJOLands.