Da Vinci (April 1999)
Comnavi Vol. 3 (February 1998)
An interview with Hirohiko Araki from the May 1999 issue of the Da Vinci magazine.
Interview
奇抜な発想と、奇妙な世界観で構成された大河ストーリーもテンションを落とすことなくついに第5部終結! 次なる展開は?
12年前、連載が始まった『ジョジョの奇妙な冒険』。タッチ/ポーズ、セリフ/効果音、そして世界観は当時、飛びぬけて異彩を放っていた。唐突であり、尋常じゃないもの。異端と呼んでは失礼だろうか。以来、ずっと気になっていた。そんなちょっとヒネた期待を荒木飛呂彦は絶対に裏切ることなく、単行本は現在62巻にまでわたっている。第5部ギャング編がついにエピローグを迎えたが、次の構想は? 休載期間を前に、今もっとも気になるマンガ家に話をうかがった。
「いやあ、なんか読者の興奮が止まるんじゃないか、と思うと、不安になっちゃうんですよ。勇気がいるんですよね、最後の敵と対決するヤマ場に挑む踏ん切りをつける勇気が。だから、どうしても毎週シツコイくらいにサスペンス的な駆け引きを織り込んでしまう」 連載13年目に突入した『週刊少年ジャンプ』の名物マンガ『ジョジョの奇妙な冒険』の作者、荒木飛呂彦さんは、こう言って頭をかいた。 『ジョジョ~』といえば、19世紀後半のイギリスを舞台に、呪われた石仮面をめぐって二人の若者の因縁が深まり、果てしのない戦いが100年以上にもわたって展開していく壮大なストーリー。その唯一無二の世界観とタッチ、超絶ポップな描き文字やセリフの数々、そして冒頭で荒木さんが述べていた、執拗なまでのサスペンスの導入で、12年以上にわたって読者を魅了し続けてきた。 いったいどのような精神構造、体力、パーソナリティの人物が、この作品を構築しているのだろうか。 インタビューの場所であるホテルの一室に現れた荒木さんは、12年前の著者近影と少しも変わらぬ雰囲気の、イタズラっぽい笑顔を絶やさない、少年のような人物だった。
絶対にズレないテーマ性が壮大な物語を決定した
「『ジョジョ~』という作品は、描く前からテーマは決めてあったんですよ。『人間は絶対に素晴らしいものだ』というものなんですけどね。これを疑ってはいけない、人間の存在を否定するようなマンガには絶対しない、と、自分に言い聞かせて始めました。そうなってくると人間なんだから、結婚して子供を生んで、ということも含めて素晴らしいということになる。だから舞台を古い時代に設定した時点で、これは現代までいくな、と。もちろん読者に嫌われなければの話ですけど」
壮大な物語のプロットは現代が舞台の第3部までは決めてあったという。だが、それ以降の未来を描くのは予定外だったそうだ。
「あまり未来には行きたくないんですよ、『火の鳥』のように。リアリティがないとちょっと・・・・・・。みんなが知らない食べ物を食べていたり、知らない機械を使っていたり、というような世界は、私には描けないと思いますから。だからリアリティのある世界・・・・・・というのが基本なんです」
しかしながら、92年から3年以上にわたって展開された第4部の舞台が、じつは今年(99年)なのである。
「あれは苦しかったんです。4部からは、ほんと何も決めてなくて。でも、描きたいこともまだまだあって、続けたい・・・・・・。だから遠い未来ではなくて、ちょっとだけ未来にならいいかな、と。でも、あの頃は、まだ先だと思っていたけど、あっと言う間に99年になってしまって(笑)」
荒木さんの描きたかったものというのは、なんだったんだろうか。
「そりゃあもう、サスペンスですよ!」
何を描いても、ジョジョになる ジョジョになる
荒木飛呂彦の作品の魅力のひとつに、その世界観がある。度肝を抜くようなセンスのファッションや髪形に身を包んだキャラクターたちがクネクネと不思議なポーズをとりながら、ブッとんだ会話をかわす様は、トランスしてしまうかのような、奇妙な感覚に読者を引きずり込む力がある。
「たしかに、意味ないよなあ。ブレイクダンスがはやれば、それをとり入れたり(笑)」
あの独特なタッチというのは、マンガを描き始めた頃からすでに確立されていたのだろうか。
「そうでもないですよ。高校時代から描き始めたんですが、初期は白土三平さんみたいな絵柄でしたね。それから、だんだんといろいろ取り入れ始めて。たとえば美術館なんか行ったりして、感動したら、そこで観た絵画や彫刻のポーズを取り入れたりとか」
マンガ家としては非常に特異な絵の勉強の仕方である。
「やっぱり普通は他のマンガの絵からの影響が強いもんですかね。私の場合はとくに彫刻から影響されることが多いんですよ。彫刻って、変なポーズとったりするじゃないですか、なんか不自然な(笑)。それでもなぜか生命力に満ち溢れていて、いいんですよねえ、あれが」
しかし、変なポーズを決めたり奇抜なファッションに身を包んだりしているキャラクターたちが暴れている舞台自体は、先ほども明言していたがリアリティのある街並。それは日本だろうがイタリアだろうが変わらない。びっしりと描き込まれた存在感のある風景が雄弁に物語っている。
「やっぱり取材旅行に行ったり、調べ物して裏づけをしないと。それとね、海外に行ったりするのは、もちろん取材のためでもあるんですけど、アイデアがわくんですよ。たとえば、エジプトに取材に行ったときに、もう、この国の人たちは全員が悪人なんじゃないだろかって思うくらいの目にあいまして(笑)。それで主人公をここへ放り込んだら面白いんじゃないかな、とか。こういうのって行かなきゃわからないでしょ。行く前は私もエジプトって単純に素晴らしい国なんだろうな、って思ってましたから。違う意味で、素晴らしいと今は思いますけど」
こうして、さまざまな取材や壮大なテーマ、サスペンスの織り込みによって、『ジョジョ~』のテンションは今なお落ちることなく連載が続いている。しかしながら『ジョジョ~』の連載開始は86年の暮れ。60年生まれの荒木飛呂彦はそのとき26歳。つまり、その後の12年、マンガ家としてもっとも脂の乗り切った時期をすべて『ジョジョ~』に費やしたことになるのだ。これは少しもったいないような気もする。荒木ファンとしては、現在の筆力で『バオー来訪者』の続編や、まったくべつのジャンルの作品も読んでみたいのだが・・・・・・。
「もうね、『ジョジョ~』しかないんですよ私には。なにしろ人間がテーマだから、人間がいる限り続きますよ(笑)。たしかに他の作品も読みたいという方もいるでしょうけど、すべてをこれにぶつけてるから、結局、タイトルを変えただけで同じなんですよね。今さら恋愛マンガとか描けないし、いろいろ手を出したらダメになるだけでしょ。だったらもうね、開き直るというか、覚悟を決めて『ジョジョ~』と心中ですね」 [1]