Sayaka Isogai (December 2022)

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Published December 19, 2022
Missing translation

An interview with Sayaka Isogai, production designer for the Thus Spoke Kishibe Rohan TV Drama. It was published in the Winter 2022 issue of JOJO magazine, released on December 19, 2022.

Interview

Transcript

露伴の書齋の作り方

美術
磯貝さやか

インタビュー

作品の世界観を構築し、物語に奥行きを生み出すドラマセット。露伴の性格や嗜好が反映された書斎をはじめ、作中に登場するあらゆるロケーションのデザインを担当しているのが、美術の磯貝さやかさんだ。部屋の隅々にまでたっぷりと詰まった、そのこだわりをのぞいてみよう。


露伴の書斎。窓側を向くようにして机が配置されている
「ホットサマー・マーサ」では露伴の寝室が初登場
露伴の愛犬・バキンのベッドや玩具が配された一角
漫画執筆用の画材は丁寧に使い込まれた風合い
作中ではあまり映らない位置にある棚にも、雰囲気のあるアイテムが並ぶ
どの角度から見ても、こだわりの詰まった家具が配されている
机の引き出しの中には懐中時計やトランプなどの小物類が

――まずは磯貝さんがドラマ『岸辺露伴は動かない』でどんな作業をしているのか教えてください。

 さまざまなシチュエーションの空間をデザインすることが美術の役割でして、本作に登場する露伴邸をはじめとしたあらゆるシーンをトータルして世界観をデザインしていくのが主な作業内容です。実作業としては、イメージを集めつつ、ロケハンをして、方向性が決まったら具体的に図面やプランを描いていくという感じですね。「その空間でどういう動線を作れるか」や「実際の漫画家の方はどういう道具を揃えてどこに何を置くのがリアルなのか」、「その部屋をどう使っているのが露伴っぽいのか」など、キャラクター性も踏まえつつその場所が持つ雰囲気にマッチする家具の選び方をしています。
 例えば露伴の場合だと、ロケーションとして葉山加地邸を使うということだったので、当初はアンティーク系のイメージや、モダン寄りのイメージ、白を基調としたイメージなど、3~4種類の「プランを私のほうで考えて、そこから演出の渡辺一貴さんと話し合っていきました。渡辺さんからは「もう少しアンティークを入れてほしい」というお話が「あったので、アンティーク系に寄せつつ、でも加地邸の雰囲気にも合うようにモダンな要素も活かしてデザインしています。

――露伴邸を葉山加地邸にするというのも、渡辺さんや磯貝さんで話し合って決められたんですか?

 そうですね。ただ、渡辺さんの中では私と話す以前から既に決まっていたと思います。「ここでやりたいと思っている」と事前に聞いていたので、私も実作業に入る前に資料を見て下調べをしていきました。建築した遠藤新[a]さんや、その師匠であるフランク・ロイド・ライト[b]の本を見たり、あとはド・スタール[c]の画集を自分でも買ったりというアプローチもしましたね。

――ド・スタールの画集というと、露伴が破産しても手もとに残していた画集ですね。そういったものもデザインの参考になるんですか?

 「岸辺露伴という人はこういうものが好きなんだ」と思うとイメージが湧きやすいんですよ。この『岸辺露伴は動かない』の仕事だけじゃなくどの現場でもそうなんですが、それぞれのキャラクターを落とし込んで「この人だったらこうするだろうな」「こういう家具は選ばないだろうな」という視点で美術を考えていて。空間がアンティーク寄りと決まったときも「アンティークが好きで、この建物を家兼書斎にしようと思う人はどういう人か」という想像が広がりやすかったです。

――なるほど、そうやって想像される人物像をヒントにして、そのキャラクターの生活を考えていくんですね。志士十五の部屋など、作中には露伴以外のキャラクターの家や部屋も出てきますが、それも同じようにして考えていくのでしょうか?

 そうですね。露伴と十五は同じ職業であっても暮らしや仕事の仕方は全然違うでしょうし、場所が決まったときに「この部屋を選ぶ人はまずアンティークは置かないだろう」と思ったので、そういうものは除外して考えていって。結果、露伴の部屋とはまったく雰囲気が異なる、無骨な感じの部屋になりました。

――個性的なキャラクターたちを落とし込み、彼らの思考と重ねながら空間をデザインしていく……。頭ではわかっても、実際に行うのはすごく難しそうです……!

 やっぱりそういう選び方をしないと自分が納得できないんですよね。「自分が説明できないものは作らないように」というのは仕事をするうえで常に意識していることで。「なんでこれを置いたんですか?」と聞かれたときに必ず全部答えられるようにしていたいという気持ちで、それぞれの部屋を飾っています。たぶん荒木先生も漫画を描くにあたっていろんな場所や人を取材されたり、いろんな資料を調べられたりするのだと思うのですが、それって美術も同じで。準備段階で実際の場所に行って見たり触れたり、資料を集めたりして、そこから考えを広げていくんです。『岸辺露伴は動かない』の作業をしながら、そういうところは少し似ているのかなと思っていました。

――ちなみに、磯貝さんはもともと『ジョジョ』に詳しかったのでしょうか?

 いえ、実は私、普段はほとんど漫画を読まないタイプでして、全然詳しくはありませんでした。ただ、もちろん作品は知っていまして、初めて『ジョジョ』に触れたのは『岸辺露伴 グッチへ行く』が掲載された雑誌「SPUR」でした。表紙にバーンと描かれたキャラクターに目を引かれたのが手に取ったきっかけだったと思います。荒木先生の絵はアートっぽいといいますか、一枚の絵としてとても強い力がありますよね。『岸辺露伴は動かない』のお話をいただいたときに「あのときの作品だ!」と思い出して、それから『ジョジョ』を読み込み、イメージを膨らませていきました。

――漫画の中にも露伴邸は登場しますが、美術を考えるうえで漫画の描写はどの程度参考にしているんですか?

 置いてあるもの自体はけっこう変えているんですが、レイアウトは参考にしていますね。例えば窓を向いて作業する机の置き方や、机の左側に本棚がある感じなど、そういった家具の配置は意識して作りました。ただ、色味などは完全に漫画から切り離して考えていて。漫画の描写をそのまま再現するのではなく、要素を拾いつつ、葉山加地邸という場所に合うように落とし込むことのほうを重視しています。葉山加地邸はほかの作品で使われているのを拝見したことがあったんですが、実際に入ったのはロケハンのときが初めてで。かっこいいなと思いつつ、同時に「この場所が持つ重厚感を壊さないようにしながら、『岸辺露伴は動かない』の世界観をちゃんと作れるだろうか」というプレッシャーも大きかったですね。難しさもありますが、楽しみながらやらせていただいています。

――改めて、露伴邸のデザインのポイントを教えてください。

 家具や小物は装飾部の方に提案していただき「露伴が選んでいる」という視点でメインの物を一緒に選んでいます。露伴は自分がいいと思うものや美しいと感じるものを傍に置いていると思うので、そこは意識しているポイントです。漫画台は本作用にオリジナルで作りました。既存のものでよさそうなのを探しもしたのですが、なかなかピンとくるものがなく。特注して、それにヨゴシを加えて使い込んだ感じを出しています。ほかにも、例えば机の引き出しの中にしまってある小物や壁際の棚に並ぶオブジェなど、画面にはほんのちょっとしか映らない場所でも、よく観ていただくと一個一個かっこいいものがあふれた空間になっていまして。「こういうものを置いているんだ」と思いながら画面の隅々までじっくりと観ていただけたらうれしいです。

――引き出しの中にまでこだわっていたとは……! ちなみに、家具はどの国のものかなど統一性はあるんでしょうか?

 見た目で選んでいるので、それはけっこうバラバラです。でも、強いて言うならばヨーロッパのものが多いと思います。原作でも露伴はイタリアやフランスなどに行っていたりもしますからね。

――これまでに放送された第1話~第6話で、露伴邸以外で特に印象に残っているセットを教えてください。

 第1期のものだとやっぱり十五の部屋です。自分としてはかなり散らかしたほうだと思っていたんですが、渡辺さんから「もっと散らかしてください」と言われ、さらに物を増やしたのが印象に残っています。たぶん見えていないと思うんですが、散乱している本や辞典もすべて「くしゃ」で始まる言葉が載っていそうなページを開いてあるんですよ。スタッフみんなで楽しみながら並べていました(笑)。
 第2期では、橋本陽馬が設置したボルダリングですかね。こちらも美術プランとして考えたときは実際のものよりも控えめにしていたのですが、陽馬の狂気的な要素を入れたいと思い、現場で数を増やしています。やり始めたら止まらなくなってしまって、しまいには私も陽馬同様にかなり狂気じみた感じで取り付けていましたね(笑)。ちょっとやりすぎてしまっただろうかとも思ったんですが、渡辺さんも笑いながら「ありがとうございます」と言ってくださって。映像になったときも迫力が出てよかったと思いました。

――現場に入ってから、事前に考えた美術プランに要素を追加することもあるんですね。

 そうですね。やっぱりディスプレイや紙の上で見るのと実際に自分が空間に入ったときとでは印象が全然違うんですよ。プランニングしながらも、最終的には現場で見たときに迫力がでるように、かっこよくなるようにということを意識しています。あと、映像チームの皆さんに「ここには美術が置いてないから、このアングルからは撮らないようにしよう」と制限がかからないよう、どこでも使えるようにということも考えています。実際、人間って生活していると部屋の360度いろんな場所を使うじゃないですか。なので、カメラに映らないかもしれなくても、なるべく飾れるところは飾らせていただいています。そのほうが役者さんも世界観に入り込みやすい気がします。

――屋外のロケーションではどんなことをされているんですか?

 屋外の場合はその場所を活かしながら、水たまりなど、物語上必要なものを作ったり飾ったりしています。「どこまでがもともとあったもので、どこからが美術でやったものなのか、わからないようになじませる」というのが課題で。ほかのスタッフの方から「これは飾りですか? もとからありましたか?」って言われたら成功という基準でやっていますね。

――第3期となる今作の美術面でのこだわりや見どころを教えてください。

 今回は露伴邸がメインのお話なので、私自身、作業していてイメージはしやすかったです。露伴の愛犬・バキンのグッズは初めて登場しますが、そちらもこれまで同様に「露伴ならばこういうものを選びそう」という視点で選んでいます。「バキンへの接し方を見るに、何日か時間をかけて探して、ちゃんといいと思ったものを選んでいるんじゃないかな」や「きっと簡単には手に入らなさそうなものを使うんだろうな」と考えて、ナチュラル系の木でできた柵ではなくダーク系の柵を置いてみたり、犬用のベッドは紫のクッションのものを使ったり。それから、露伴の寝室も今回初めて登場しています。イブちゃんのキャラクターも相まってちょっと不思議な新しい世界観になっていると思いますね。
 また「ホットサマー・マーサ」では作中で時間経過もあるので、今まで置いていた扇風機を外して新しくヒーターを入れました。これもかなりこだわりの詰まったもので、アラジン系のヒーターなんですが、普通のものとはちょっと違う珍しい形のものなんですよ。あと、藪箱法師の露伴は、通常の露伴とは少し違うので、そこは家具や道具の使い方で違いを表現しています。通常の露伴は道具を大事に使うだろうけど、藪箱法師の露伴は扱い方が雑だったり、使った本をそのまま出しっぱなしにしていたり。このインタビューを受けているのは撮影の真っ最中で、そのあたりはまさにこれから撮影するところなので、散らかし具合や部屋の荒れ具合を渡辺さんとも相談をしながら飾っていきたいと思います。どんな感じになったのかは、ぜひ放送でご覧ください! それからもうひとつ、今回、「ホットサマー・マーサ」のフィギュアを造型部に作ってもらったのですが、とってもかっこいい仕上がりになっています。私も思わず欲しくなってしまいました(笑)。そちらも注目していただけるとうれしいです。

――ありがとうございました! それでは最後に、読者へメッセージを。

 今回もとても面白いお話になっていますので、美術もそうなんですが、作品全体を楽しんでいただけたらと思っています。放送までどうぞ楽しみにお待ちください。


磯貝さやか ISOGAI SAYAKA
プロダクションデザイナー。フリー。2007年に桑沢デザイン研究所スペースデザイン専攻卒業。プロダクションデザイナー原田恭明氏、花崎綾子氏に師事するなどして経験を積み、2020年に独立。CMやMV、グラフィック広告を中心に幅広く活動する。


Notes

  1. ※1 遠藤新
    建築家。フランク・ロイド・ライトに師事し、その建築哲学を受け継いで「葉山加地邸」や「旧近藤邸」などの設計を手がけた。
  2. ※2 フランク・ロイド・ライト
    建築家。周囲の景観と融合したデザインを得意とし、「近代建築の三大巨匠」のひとりに数えられている。代表作は「落水荘」「ロビー邸」など。
  3. ※3 ド・スタール
    画家。モチーフを極限まで単純化した、抽象と具象の中間ともいえる画風が特徴的。代表作に「アグリジェント」「船」などがある。

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