Araki x Akiya Takahashi (February 2007)

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Published February 12, 2007
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An interview between Hirohiko Araki and Akiya Takahashi about the Musée d'Orsay exhibition in Tokyo, published on Orsay's website. Three videos of their conversations were also posted on Orsay's website.[1]

Interview

Transcript

荒木: この時代って、他の時代よりも作家にいろいろな個性があって、それが揃っている気がします。

高橋: そうですね。この時代とミケランジェロたちがいたルネサンスの時代は、作家のキャラが強いですね。

荒木: 独特ですよね。見ていて楽しいし、次から次に出てくる感じがいいですね。

高橋: どの時代でも画家や彫刻家はたくさんいたはずなんですけど、ある時代にエネルギーがまとまって出てくる時があるんですよね。今回のオルセー美術館展のテーマは「芸術家たちの楽園」で、この時代の芸術家たちのインスピレーション源とはなにか、というのがテーマなんですよ。

荒木: それでは、よろしくお願いします。

エドガー・ドガ 『テレーズ・ドガ』大きい画像を見る

荒木: この絵はもうこれで完成なんですか? まだ半分って感じのところもあるんですが…。

高橋: ドガはそういうことをやるんですね。顔を半分くらい描いて、そのままのものとかね。それがドガのモダンな感じを出していたりしますね。

荒木: 絵って無限に描けるんですよね、描こうと思えば。いつまでも描いていられるんですよ。自分が終わりと思ったところが終わりなんですよね。

高橋: この時代まではそういう発想がなかったんですが、ドガの世代あたりからは考えていたようです。彫刻家のロダンなんかは、意識的に作品を未完成のままにしていたりします。

荒木: ダヴィンチは違いますよね?

高橋: ダヴィンチは違いますね。ダヴィンチは「描けない」って感じですね。

バルトロメ 『温室の中で』大きい画像を見る

高橋: そんなに有名な作家ではなく、むしろ彫刻なんかをやってたバルトロメという作家です。

荒木: 温室ですよね… いいですよね、こういう生活。行ってみたいですね。

高橋: これは奥さんの肖像だから、作家自身がこういう生活をしていたんでしょうね。日本でこんな生活している人なんてほとんどいないでしょうからね。

荒木: 絵としては、水玉の服の描き方がいいですね。このあたりの時代の作家は、黒の描き方もうまいけど、白の描き方もうまいですよね。

ミレー 『グレヴィルの教会』大きい画像を見る

高橋: ミレーの生まれ故郷の絵で、最後まで自分で持ってたものですね。

荒木: ミレーは空に対する影の感じがいいんですよね、逆光というか… うまいんですよねぇ。それだけで田舎に対する尊敬の心みたいなものを感じられます。

高橋: 暗い雲の中でヒョッと青空を入れたり、使い方がうまいですよね。

荒木: 空が永遠に広がっているような感じ、いいですよねぇ。昔は東京でもこういう空が見られたよなぁ、みたいな。

ゴッホ 『アルルのゴッホの寝室』大きい画像を見る

荒木: 子供の頃に謎がいっぱいあったんですよ。例えば、UFOだとかネッシーだとか。

高橋: 魔の三角地帯とか…

荒木: そうです、ああいう類の話です。それと同じような感じで、ゴッホが絵のために耳を切ったり、というのがあって、それが不思議で仕方がなかったんですよ。ゴーガンも絵を描くためにタヒチまで行くのかな?と。

高橋: これも不思議な絵ですよね。椅子がふたつあって、ひとつはゴーガンが来るから…

荒木: あぁ、なるほど。

高橋: でも、ベッドにも枕がふたつあったりね。

荒木: あぁ(笑) 部屋にかかっている絵は、ゴッホの自画像と、あともうひとりは誰なんですかね?

高橋: これが実はよくわかってないんです。結構、謎が多くてよくわからないんですよね。

荒木: でもなんかずっと見ちゃいますね。

高橋: 不思議ですよね…。これは「穏やかさ」と「静けさ」を表現している、とかゴッホが手紙とかに書いてるんですけど、本当に穏やかなのかっていうのもよくわからないし… 同じ部屋の絵があと2枚あるんですが、一番はじめ(1888年)に描かれた絵なんてのは、もっと歪んでいたりしますしね。

荒木: 何枚も描きたかったんですね。

高橋: そうなんですよ。なにか思い入れている絵なんですね。

荒木: やっぱり、謎があるといいですね、絵は。

荒木: この絵の発想というか、思想はデジタルですよね。

高橋: そうですね。

荒木: サインまで点描ですね(笑)

高橋: 点描のテクニックって一世を風靡するんですよ。この当時、点描をやらない画家っていないんですよ。とにかく、ピカソだろうが、マティスだろうが、あらゆる20 世紀初期の画家たちが点描をやってますね。印象派の画家だって、ピサロはやってますしね。

荒木: これは絵が大きくないと重厚感とか奥行きみたいなものがでませんよね。

高橋: ただ、大きいと完成させるのが大変なんですよね。コストパフォーマンスは決してよくないですね、これは(笑) なので、いろんな人がやってみるんですけど、コストパフォーマンスが悪いからか、みんなやめちゃうんですよ。

荒木: 漫画界でも水木しげる先生は背景を点描で描きますね。岩とか石灯籠みたいなものが点描なんですけど、すごいんですよ。

高橋: そうなんですか! 気がつかなかったなぁ。

フレデリック・バジール 『バジールのアトリエ、ラ・コンダミヌ通り』 大きい画像を見る

荒木: なんかいいな~、楽しそうだなぁ。こういう仕事場、欲しいんですよね~。

高橋: (笑) パリにいた頃は、アトリエだったところを借りたのでこんな感じの仕事場でした。

荒木: こういう天井の高いところで絵を描きたいです。こんなアトリエってだけで、憧れますね。いろんな人が来て、ああでもないこうでもないって話なんかして。…あの折りたたみのテーブル、いいな~。

今回のオルセー美術館展に登場するアーティストについての印象はいかがですか?

荒木: 売れないのに描き続けている、そんなイメージがあるんですよ。不屈の精神というか、自分たちだけに見えているものがあるという感じ。この時代の画家にはそういうところがすごくあって。タヒチに行ったゴーガンや自分の耳を切ったゴッホとか「そこまでするのか!」と。

高橋: ただ、ゴーガンは自分の絵をすごく売りたいと思って、マーケティングも随分と考えていたようですよ。タヒチに行けば有名になるだろう、そしてフランスに凱旋するということを考えて、それだけでも売りになるだろうと、そういうのも考えていて…

荒木: あぁ、そういうのもあるんですか。

高橋: だから実はタヒチでなくても良かったという面もあったのかもしれません。とにかく、人に知られていない珍しいところに行って、一旗揚げたい、と。

荒木: そうなんですか!(笑) でも、新しい場所に行ったり、絵を描いたり、ということが好きだったいうのもあるんですよね?

高橋: もちろんそうですね。それでマーケット的な成功とは関係ない方向に流されて行くんだけども、それはもう自分では止められないですね。

荒木: 僕の仕事も、いつも認められてるとは限らなくて、けなされる事も多いんですけど、そういう時は彼らの存在にすごく勇気づけられるんですよね。でも、ゴッホが自分の耳を切ったのは「そこまでするか!」って思うし、本当に不思議ですね。そういう風になっちゃうんですかね…。

高橋: う~ん、まあ、ゴッホとゴーガンの場合はラブストーリーなので… 特にゴッホの場合は「愛のためならなんでもする」みたいなそんな状態ですから。

荒木: ああ、そういった背景もあるんですね。

『ジョジョの奇妙な冒険』にもリアリティを追求するために蜘蛛を舐めちゃう作家が登場しますが、その発想というのは荒木先生ご自身が「そこまでするか!」と感じたというところに由来していたりするんでしょうか?

荒木: そうですね。とにかくゴーガンとゴッホの話は子供の時に聞いたんですけど、「ネス湖にネッシーがいる」というくらいに不思議な話だったんですよ。インパクトがあって、自分の中にずっと残っていて、それでそういうキャラクターが出てきたんでしょうね。たとえば、ゴーガンがタヒチに行った理由ですが、僕も実際にイタリアとか旅行に行くとビックリするんですね。写真で見るのとは違って、すごいと思うものがいっぱいあって。ゴーガンがタヒチに行ったのもそういう感動があったからなんじゃないかと思います。背景にある生き方みたいなものには、すごく影響を受けますね。絵のテクニックを見ても、影響を受けていますけどね。細かく見ていくと、きりがないですよ。マネのベルト・モリゾなんかも、適当に描いてる感じがすごくかっこいいんですよね。一気にグゥゥっと描いてる線とかあると思うんですけど… 不思議ですよ。


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