Interview Archive
Interview with Hirohiko Araki on the website houyhnhnm.jp.
Interview
荒木飛呂彦と岸辺露伴はグッチ好きだった!?
―はじめに、『SPUR』から企画の内容を聞いた時の気持ちを教えてください。
荒木飛呂彦氏:(以下、荒木:敬称略):そうですね。まず企画の内容が、グッチの職人と工房について、さらにものづくりについてのマンガを描いてほしいという依頼だったので、「これは何だろう?」と思いましたね。
―何だろうというと?
荒木:普通だと職人や工房を紹介するマンガで、こういうところで、こんな風に職人さんが働いているんだよとか、そういうものがSPUR編集部もグッチも欲しかったんだと思うんですね。でももう少しマンガのキャラクターと融合したいと思ったんです。ストーリーがあれば登場するのは誰でも良いという感じではなくて、ジョジョと融合したいなと。
―ジョジョと融合というのは、『SPUR』から依頼はあったんですか?
荒木:いいえ、それはありませんでしたね。それでも引き受けたからには、そういう作品を描きたいなと最初に思いました。でも難しいかなとも思いましたけど。
―ストーリーの主人公に第4部に登場する天才漫画家・岸辺露伴を持ってきましたよね?
荒木:そうそう。露伴をストーリーの上にちゃんと乗せて、グッチを紹介していくっていう風にしたかった。
―今回のマンガのタイトルが『岸辺露伴 グッチへ行く』ですが、以前のルーヴル美術館とのプロジェクト作品『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』との関連性はありますか?
荒木:最初はなかったんです。でも露伴だったらグッチに行ってもいいねって。そんな感じでした。
―『ジョジョの~』第4部のクライマックスのシーンで、露伴はグッチの時計をしていますよね?
荒木:そうなんですよね。でもそのことは指摘されるまで僕自身は忘れていました(笑)。「ああ、そういえばしてたなぁ」って。
―ということは、露伴はグッチ好きというキャラクター設定だった訳ではないんですね?
荒木:そうですね。確かに露伴はグッチの時計をしていましたけど、ファッションはどこどこのブランドが好きでという風に設定を決めていた訳ではないですね。だから今回もグッチだから露伴ということではなくて、ストーリー的に露伴なんです!
―なるほどですね。
荒木:露伴はパリのルーヴルにも行ったし合うね。みたいな感じでした。
―今回は荒木先生自身もフィレンツェから来日したグッチの職人に取材をしたそうですが、一番印象に残ったことはなんですか?
荒木:ん~なんですかね。スタッフのプロ意識ですかね? それは本当にすごかった。やっぱり職人というか、働いている人たち全員がプライドを持って仕事をしているんだなと感じました。いろいろなブランドがあるけれど、向こうの人たちにとってグッチで働くということは憧れなんだそうです。みんなグッチが一番良いと言ってましたね。
―荒木先生自身も洋服はとても好きと伺ったんですがグッチはどの程度お持ちですか?
荒木:靴とか鞄とかそういったものが多いですね。恥ずかしながら服はあまり持っていませんでした。
―では、どんなファッションがお好きですか?
荒木:自分では着ないんですけど、なんか不良な感じが好きなんです。
荒木:そうですね。個人的には上品よりはそういうのが好きですね。
荒木先生のマンガ独特の"あの表現"の真相とは?
―今回のマンガの中では、露伴も通訳の女性もグッチの服を着ていますが、あれは荒木先生のアイディアですか?
荒木:そもそもグッチの作品を描けということだったんで、すべてグッチに徹しようと。それが理由ですね。じつはマンガに出てくる人物全員がグッチを着ているですが、それは僕のアイディアですね。あんまりそういう風に見えないんですけど。
―そうなんですか!?
荒木:そうなんですよ。でも、じつは洋服の色を一部変えさせてもらっているんです。
―確かに色が違ってますよね。気がつきました。
荒木:元の色のままだと、絵的に華やかさとか配色の感じがどうしても納得いかないんですよね。茶色だけでまとまってると、ちょっと嫌だなぁとか思ってしまう。
―そういうオーダーに対して、グッチからNGは出なかったんですか?
荒木:色に関してはありませんでしたね。でも本当にお願いをして「このパンツを緑色にさせてください~」とかそんな感じでした。じゃないと絵が沈むんですよ。マンガとして、荒木飛呂彦の作品として違うと思うんですよね!
―なるほどですね。マンガの最後が「このバッグはスタンドだったんだ......」というオチですよね。ファンとしては、あのバッグのスタンド名は何だったんだろう? とすごく気になったんですが。
荒木:確かに! 確かにそうですね。スタンド名か~。考えてなかったなあ。何が良いだろう!? 音楽っぽいもので何か......。バッグに関連する曲は知らないなあ(笑)。そうそう。じつは初期段階のストーリーでは、バッグではなくて財布だったんですよ。
―そうなんですか!?
荒木:はい。でもグッチから財布ではなくてバックにしてくれと強くお願いされたんです(笑)。
―書けないかもしれないですね。この話は(笑)。
荒木:でも結果的にはバッグの方が話としてはよかったですね。
―そうそう。お祖母ちゃんの形見のバッグということは『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』で冒頭にチラッと登場した、あのお祖母ちゃんですよね?
荒木:そのとおりです。温泉宿を経営していたお祖母ちゃんです。もう既に死んでるんですね。『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』は、露伴が17歳のときの話ですからね。
―今回も「パァァーァッ」とか「ガパァァッ」とか「ギャンッ」というような表現があったり、『ジョジョの~』ではおなじみの「オラオラオラオラオラオラ」、「無駄無駄無駄無駄無駄無駄」、「ドラララララララ」、「ズキュゥゥゥンッ」といった荒木先生のマンガ独特のあの表現は、どこからインスピレーションを受けているんでしょうか?
荒木:あれは仕事中もアイディアを考えるときも、いつも音楽を聴いているんです。そのノリですね。あとはリズムです。描いているときってネームのリズムがあるんです。そこで最後に「ッッッツアー!!」ってのばしたり。そういう感じですね。ここでこんな音楽がくると「ズキュゥゥゥンッ!」とか。
―あとキャラクターが突然豹変してしまうパターンもよくありますよね。
荒木:そうですね。大人しいと思っていた人が実は追いつめられて人が変わるとか、描いていて楽しいですね。性格まで崩壊していく感じとか。
―荒木先生の中で一番好きなキャラクターは誰ですか?
荒木:いままで描いた中でですか?
―はい。
荒木:ん~「重ちー」ってキャラクターですね。いろんなところから、小銭や細かいものを拾ってくるスタンドを使うんです。「重ちー」は良いですよー。あとちょっと頭が良くなさそうなところも癒されますよね。主人公では仗助ってのが好きなんですけど。
―いずれも露伴と同じ第4部のキャラクターですね。
荒木:そうですね。普段『ジョジョの~』って神話的に描いているんです。でも第4部は「隣の人」って感じがするんですよ。身近な人って感じ。その中でも「重ちー」です。能力も良いですねー。あれは泥棒じゃないですからね。落ちてるものを拾ってるだけだから悪いことはしてないんです。
―では少し話しを戻して。荒木先生にとって、「良いファッションブランド」とはどういうブランドだと思いますか?
荒木:まず品質が絶対ですよね。着心地が良くて、自己主張せず、それでいて印象に残るやつです。難しいですよね。でもグッチにはそれがあると思います。
―なるほどですね。
荒木:だからやりすぎない寸止めなんですよ。それが良いファッションだと思います。僕は不良っぽいファッションが入ってるのものが好きではありますが、思いっきり不良ではないんですよね。そこに上品さも必要なんです。だからグッチをはじめとするイタリアのファッションはそういうところがすごいんです。まさに寸止めですね。
―わかりました。では最後の質問です。露伴はパリのルーヴルに行って、フィレンツェのグッチにも行って、今回新宿にも行きました。次はどこに行くんでしょうか?
荒木:次は富士山とか良いですね(笑)。 だってNYとか行かなそうじゃないですか? どうせだったら露伴が絶対に行かなさそうな、マニアックなところに行かせたいですね。
GUCCI × HIROHIKO ARAKI × SPUR 「岸辺露伴 新宿へ行く」展 会期:2011年9月17日(土)~10日6日(木) 会場:グッチ新宿 住所:東京都新宿区新宿3-26-11[1]