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15:12 「旅 - イタリア」

荒木 イタリアに行ったのは1987年だっけ。あれは衝撃が多かった旅行でしたよー。

椛島 フランスのパリに入ってからイタリアたしに移動でしたっけ。イタリアではヴェネツィア、フィレンツェ、ローマと3都市を回ったよね。

荒木 あの旅はもう、食べ物もファッションも全て衝撃を受けたんですよ。あとは美術品。実際に見ると、やっぱり違う! ダビデ像は実物を見て「こんなにデカいのか!」って思ったし。

椛島 荒木さんはあのときからイタリアにハマりましたよね。そういえば荒木さん、あのときの旅行でエンキ・ビラルのポスター買ったよね。

荒木 買ったね。今も持ってますよ。バンド・デシネも衝撃だったな。 絵画みたいなタッチで漫画を描いてて日本じゃ考えられないって言うか。 オールカラーだし。ああいうのはびっくりしたね。食べ物も衝撃だった。イカスミの真っ黒なパスタとかが出てきて。


15:30 「映画館」

椛島 相変わらず映画はよく観てますよね。

荒木 まあね。映画館は最近は行ってないけど好きなんだよね。

椛島 一番前の席で観るんだよね。

荒木 そうですね。 字幕が右側に出ることが多いんで、対角線で観られるように最前列のやや左側に座るのが好き。 最前列は没頭できる感じがいいんですよ。

椛島 ジョジョ席だね。 映画館に行ってそこをチェックすると荒木飛呂彦がいるわけか (笑)。

荒木 いやいや、若い頃の話ですよ(笑)。 あの当時は娯楽が映画しか無かったんだよね。

椛島 1日に3本は観てたって話してたよね。

荒木 うん。 高校生の頃とか、金曜日に終わる映画があるとすると「授業を受けてる場合じゃねえな!」 って思ってた。 3本立てで旧作を上映する名画座があって、 よく通ってましたね。 あれはかなり勉強になったよ。 『猿の惑星』 とかは第1作から5本続けて観て「こういう流れになってるんだ」って判ったりとかしてね。 1日1本を目安にしていたので年間で300本以上は観ましたね。

椛島 ヴェネツィアのお店だったね。

荒木 美味しいだけではなくて運河が見えるロケーションっていう。あと、塩が入ってる瓶の形とか、そういうものの美意識まで全然違ってて、生活に幸せがあふれてる感じで。空間の様式というものにすごく衝撃を受けましたね。

椛島 編集者から見てもイタリア旅行以降、描く作品の世界観がバッと拡がった感じはありましたよ。

荒木 そのあともイタリアに行きましたからね。最初の衝撃は薄れたけど、今度は深く深

椛島 あそこで基本ができましたよね。

荒木 今でも「イタリアに行ってから絵が変「わった」と言われます。エル・グレコの絵に似ているとかも言われますね、ちょっと身体が「ニュッ」と伸びている所とか。僕の絵もグニュッと伸びているんだよね。エル・グレコも含めて宗教画を数多く見ているから、無意識に影響はあったと思う。

椛島 美的に打たれた?

荒木 打たれましたね。 最初のイタリアでは、もう何を見ていいのか判らないくらい、衝撃だらけだった。ローマのオベリスクも、たしか見られるものは全部回りましたよね。写真も撮ったのを覚えていますよ。オベリスクは高さが20メートル以上もある石柱なのに一枚岩で作ってあるというところもビックリしたなー。

椛島 そして、その翌年の1988年には一緒にエジプトに行ったんだよね。荒木さんは当時、週刊連載を休まないでちゃんとエジプ旅行にも行きましたよね。3か月間、毎週1日ずつ早めて、2週間前後の余裕を作って海外旅行に行った。

荒木 やっぱり、海外を見たい気持ちが強かったですからね。

椛島 当時から〆切にはきちんとしてたし、基本的に仕事が好きだよね?(笑)

荒木 うん、嫌いではないね。仕事が好きってのもあるし海外にも行って、とにかくいろいろと見たかったんですよ。

椛島 行きたかったのは、もしかして好きだった推理小説の影響がある?

荒木 大きいね。『シャーロック・ホームズ』のシリーズとか、ああいった作品のイメージっていうか。 読んでて「現地を見たい!」って思うようになってましたね。

椛島 それで初めての海外旅行がイギリスだったわけね。

荒木 ですね。海外に興味があってひとりでロンドンに行きましたね。『ビーティー』のあとくらいです。


15:44 「旅 - エジプト」

椛島 エジプトは第3部の舞台にもなったけど、あれはエジプト旅行に行っていなければ別の場所が舞台だったかもしれないですね。私が行きたかったからエジプトを取材先にしたっていうのも事実だけど(笑)。

荒木 エジプトでデヴィッド・ロバーツの画集を買ったんですけど、これなんですよ。大きいでしょう?

椛島 大きいなぁ(笑)。よくエジプトから持って帰ってこれたよね。

荒木 抱えて帰ってきましたよ。当時は海外の宅配便もなかったから送れなかったの(笑)。エジプトから出国するときは税関がうるさかったんだよねー。「本だよ」って言っても信用してくれなくて「中を見せろ」「開けろ」って。大きいから空港のエックス線の検査も大変だったし他の荷物もあったし。

椛島 さっきも遠近感を加速させるって話をしたけど、この画集の絵もそうだね。実際に描いている場所に行くと、ここまでじゃない。でもそこがまたいいんですよね。よこやまみつてる

荒木 そうなんですよ。 横山光輝先生の『バビル2世』の世界なんだよね。

椛島 しかし大きいな。見るのには覚悟が必要だね。1ページをめくるのに大人が二人がかりだもんな(笑)。

荒木 この画集だとアブ・シンベル神殿も砂に埋もれて描かれているけど、僕らが行ったときは砂がなくなって露出してたよね。『ナイル殺人事件』に出てきた、石を落として人を殺そうとする神殿も描かれてる。そこはすごく憧れていた場所で。

椛島 この画集はいくらくらいだっけ。

荒木 これは復刻本なんだけど、当時で10万円くらいだったかな。

椛島 多少重かったり値が張っても、こういうのは一期一会ですからね。

荒木 そうですね。エジプトはね、行くと人生観が変わる場所だと思いますね。川をはさんで東側と西側で概念が違うとかあって。

椛島 東側が生きている者の土地で西側が死者の土地ってやつだね。

荒木 人間って「そう考えるのか!」って思った。エジプトは、椛島さんと行ったあともプライベートで2回くらい行ってるんだよね。

椛島 えっ、そうなの?

荒木 行ってるんですよ。取材とかじゃなくて、単なる観光で(笑)。カイロとか、ほぼ同じようなところを回ったんだけど。『ジョジョ』でも描いたし、「もう1回見ておきたい」っていう気持ちがあって。その足でトルコとかアラブの国も回ってみたけど、より深くわかった感じがあった。バザールなんてスタンド使いが出てきそうな雰囲気でさ(笑)。

椛島 バザールは観光地ではなくて現地の人ばかりなので、ああいうところに行くと私は「来たな」という気持ちになれる。荒木さんもエジプトはカルチャーショックがあったんじゃないですか?

荒木 ありましたねー。最初のエジプトではさ、何かを買おうとしたら店員が「他にも裏にあるから来い」って言うんですよ。それ何かヤバい感じがしてさー。店の奥は真っ暗だし(笑)。

椛島 ガイドも付けないで二人でブラブラしていたしね。今、行きたい国はありますか?

荒木 今は特にないかな。もともと「旅行に行きたい!」というよりは、好奇心から「知らない国を見てみたい」という気持ちが強かったと思うので、旅行好きというわけではないかも。じつは行くまでは結構面倒だったりすることもあるし(笑)。行けば面白いって判ってるんだけど。

14:08 「料理」

椛島 今回のこれも美味しいね。

荒木 今日はイタリア風マグロのタルタル。 それとブロッコリーだけのスパゲッティ。シンプルです。

椛島 パスタはしっかりアルデンテですね。

荒木 そう。パスタに入ってるブロッコリーは、先っぽの部分だけをわざとクタクタになるまで煮ました。 そっちのほうが合うかなと思って。これは茹で方がさっぱりしてると堅くてダメなんですよ。 ブロッコリーはフランス風のクタクタが好きなんだよね。 それでニンニクとアンチョビをあえて、あとはレモンをちょっとかけて。

椛島 マグロのタルタルは?

荒木 ほとんど赤身のサクを買ってきて、刻んで混ぜ合わせですね。 入っているのは黒オリーブ、ペッパー、マスタード、パセリ、あとは大葉、ニンニクをすったやつ、そして軽く塩。 シンプルです、うん。で、パンはその辺で買ったやつ(笑)。 あってもなくてもいいかなーと思ったんで。

椛島 食材も自分で選んだんですか?

荒木 昨日、スーパーに行って自分で買ってきましたよ。 マグロは中トロに行くとダメというか、あまり健康的でないっていうか。 脂が少ない方が料理には向いてるんだよね。

椛島 もしかして塩分とか気にしてる?

荒木 塩分と脂分はしてますね。 パスタも茹でるときに塩を入れるけど、入れすぎには気を付けてる。 美味いものって結構ヤバイですよ、 悪魔の味覚なんだよ(笑)。 だから控えめに料理は作ったほうがいいですね。 世の中で人気がありすぎるものって危険なものかもって思うんですよ。 漫画も同じで、 だから 『ジョジョ』 はほどよい感じで(笑)。 世の中のために漫画を描いているから、 経済を追求しすぎちゃいけないですね。

椛島 人気の一番を目指すと全力疾走になるから消耗しちゃう。だから長く続けにくいけど、人気が無いと終わっちゃうしね。 なかなか塩梅が難しいところ、 今回の料理と同じですね。


14:32 「フランク・フラゼッタ」

荒木 フランク・フラゼッタの画集か、懐かしいですね。1980年代にデビューした漫画家や編集さんは一度は見ているんじゃないかな、これ。

椛島 当時、みんな買ってましたよね。

荒木 フラゼッタって、海外のペーパーバックの挿絵や表紙イラストとか映画のポスターとか、そういうものを描いていたイラストレーターなんですけど。僕的には、この人の筋肉と世界観がいいんですよ。あと週刊少年ジャンプ編集部の都市伝説みたいなのがあって、椛島さんが「この画集を見た漫画家は売れるぞ」って言ってましたよね。

椛島 言ったかなあ(笑)。

荒木 この柔らかい筋肉の感じがフラゼッタだけなんですよ。とにかく筋肉がまろやかで。例えば少し腕をねじっているポーズとか、蛇が巻き付いているときの一体感とかピーンと伸ばして剣を握っている感じとか、そういうのがすごく好き。それと背筋とかお尻の感じもいいんだよね。

椛島 筋肉が柔らかいというのは、なるほどと思いますね。

荒木 あと、構図もいいんですよ。 正面を向いて、何かに向かっていくような構図が多いんです。

椛島 動きがあるし、絵に物語性もありますよね。そういった部分は漫画家のイラストに近いかもしれないですね。

荒木 美術界の人ではなくて、こっち側の人という感じがしますね。

椛島 フラゼッタはもともとは1960年代にデビューして漫画も描いていたらしいですからね。日本では1980年代にブレイクしだけど、ちょうどギーガーやシド・ミードも日本に紹介され始めた頃でしたね。


14:43 「イタリアで買った版画」

荒木 なんでブレイクしたんだろ?

椛島 映画じゃないかな。 フラゼッタは『コナン・ザ・グレート」の原作小説の挿絵を描いていたし、 ギーガーは『エイリアン』のデザイナー、シド・ミードも「ブレードランナー』のデザインをしていましたからね。 映画を介して日本に入ってきたわけだけど、リドリー・スコット監督の存在は大きいですね。当時は特殊メイクやSFX、CGの技術も始まった頃で、すごくインパクトがあった。 映画のビジュアル革命の影響で漫画も大きく変わったし。

荒木 ギーガーに影響を受けた人は多かったですよね。

椛島 新しいリアルだったね。『ブレードランナー」にはスピナーという空飛ぶ車が出てくるけどシド・ミードは、50年代にはアメ車のカタログのイラストも描いている。 のことをきちんと判っている人がデザインしているから説得力があるし、それを見てみんな驚くわけ 空想ではなくリアリティなんだよね、現実味が感じられるというか。 荒木さんもよく言うじゃない、 「ルールが大事」って。それ確かにあって、どんなに破天荒に見える漫「画でも「これはやっていいけど、これは駄目」という部分が必ずある。

荒木 そうね。

椛島 作家同士でそういう話はしなかった?

荒木 しなかったなぁ。 ただ、漫画を読む「この先生はフラゼッタの画集を買ったな!」ってのは明らかに判った(笑)。

椛島 ギーガーやシド・ミードの画集もみなさん持っていましたよね。

荒木 やはりリドリー・スコットの影響でしょうね。 エイリアンのデザインは生命と機械の融合というか。 新しかったですよ。

椛島 ギーガーは映画『エイリアン』の前は一般の人にはほぼ無名だったと思うから、やはり当時のリドリー・スコットのセンスは凄かったね。リドリー・スコットはいい映画もあるけど、私は最近のはあまり好きじゃないかな。

荒木 そう? 駄目なのはあんまりなくて、だいたい面白いと思うよ。『エイリアン:コ「ヴェナント』とか『最後の決闘裁判』とかも面白かったし。そりゃ『ブレードランナー」とかと比べたら・・・ってのはあるけど。

椛島 映画の話になっちゃったね(笑)。 話版画に戻すと私が今日、自宅から持ってきたのは18世紀イタリアのピラネージという作家の版画です。 版画連作の1枚で、「牢獄』っていうタイトル通り牢獄を描いているけど、現実のものではなくて空想上の牢獄ですね。

荒木 一緒にイタリアに行ったときに買ったやつ?

椛島 そう。 荒木さんも含めて4人でイタリアに行ったけど、 版画屋の前に着いたときはみんな疲れ切ってて(上段の写真参照)、 私ひとりで店に入ったんだよね。だから荒木さんは、この版画を見るのは始めてでしょ。

荒木 見てないね。 ただ椛島さんが版画屋に入ったところは覚えてるよ。

椛島 ピラネージという人は建築家志望だっただけあって、 空想ではあっても説得力があるんですよ。こんな建物は実際にはあり得ないけど、あってもおかしくないと思わせてしまうくらいの説得力がある。この版画のほかにもローマの景観を描いたものとか、沢山描いている人でね。 18世紀当時は写真がない時代だから、こういった版画で世界に広めていくという需要はあったんだけど、その版画のローマの遺跡がね、これがまた実物よりもいいわけ(笑)。遠近法が強調されて描かれていて、より巨大に見えて迫力が出ているんですよ。 テーマパークに作られたお城と同じだよね、あれも上のほうを小さく作って実際より高く大きく見えるように設計されている。話を漫画にこじつけると、漫画は説得力、リアリティが大事。それも、ただ現実をそのま描けばいいのではなくて、加速させていく、誇張させていくのが面白いんですよ。私はピラネージの絵のそういう所が気に入ってイタリアで買って以来、ずっと部屋に飾ってある。


15:00 「ブラウン管」

椛島 前回話してくれたスズメの本、あれ読みましたよ。 面白いけど、よくああいうものを見つけるよね。

荒木 本屋さんで平積みになってて偶然出会ったの。

椛島 忙しいのに、よく時間を見つけてるなぁと感心しました。 本屋に行くのも買って読むのも当たり前のことではあるけど、忙しいとなかなかできないはずなのに。 インプットがすごいですね。

荒木 アナログなところで、そういうのを見つけるのが好きなんですよ。 出会っちゃうのが好きって言うか。 ネットだと音楽でもランキングで見ちゃったりするから、ああいうのは出会いがないですね。 ネットではオークションもしないし、買い物もしない。 CDもお店で自分で手に取らないと買わないし。 スマホは前から持ってるけど、それでお金を払うとか買い物とかはしないなぁ。

椛島 テレビもブラウン管のやつを結構長く使ってましたよね。 そういうところはわりと保守的?

荒木そうかもしれませんね。 音楽も配信では聴かないし。 音楽はCDをセットして選曲をして聴くのが「聴いている」 って気がするんですよ。

椛島 超アナログですね。 それは音へのこだわり?

荒木 音がいいとか悪いとかではなくてセットするのが儀式ですね。 あと、ジャケットに書いてある小さな文字の情報がいいんですよ。プロデューサーは誰々とかっていうクレジットが。椛島 世の中のほぼ全てが液晶テレビの時代にブラウン管っていうのも味わいがあっていいね。

荒木 イタリア人が「古いことをずっとやっていると新しくなる」って言ってたんだけど、僕もその考えはいいなって思いますよ。 我慢していると新しくなるの(笑)。

椛島 たしか「『ジョーズ』はブラウン管で見ると迫力がある」って言ってたよね。

荒木 ノスタルジーがあるっていうか。

椛島 でも液晶テレビに換えたときに「どう?」って聞いたら「液晶いいっすね!」って言わなかった?

荒木 そりゃ、いいよー(笑)。 でもブラウン管には昔のロマンみたいなのもちょっとあるんだよね。

カラム:荒木飛呂彦、各部ボスを語る

第2部で「柱の男」が出てきた理由

——せっかくの機会なので、ディオ以外の『ジョジョ』の敵キャラについても語っていただければ。

荒木 それは漫画術とはまた違う話ですよね。『ジョジョ』を続けていく中で、僕はこういうふうに作ってきましたよという、ちょっとコアな内容になりますけど。

——ぜひお願いします! たとえば第2部だと、メインの敵キャラは、カーズ、ワムウ、エシディシの「柱の男」たちですが、なぜ、ああいう感じの敵にしようと思ったんですか。

荒木 第2部は石仮面の根源にまつわる話を描こうということだったので、そこから出てきた敵キャラという感じかな。太古の昔に「柱の一族」みたいな人たちがいて、長い歴史を眠り続けてきたという設定は、やっぱり不老不死、究極生命体の敵にしたかったということですね。

——敵を3人にしたのは、どういう理由だったんですか?

荒木 まず、「柱の一族」だから敵は何人かいるだろうということと、それから、第2部は第1部より色々な意味でパワーアップさせたかったんですよね。だから、敵の数も1人から3人に増やしました。あと、敵が3人いると、「ひとりずつ順番に対戦していって、最後はこの中の一番強いヤツと戦うんだな」と、読者にも自然と伝わります。ある種の、予告テクニックですね。

——主人公と悪役をセットで考えるということでいうと、第1部の主役であるジョナサンと第2部のジョセフとでは、かなり印象が違います。 真面目なジョナサンと比べると、ジョセフは弾けたキャラクターで、それこそ敵キャラが3人もいるのに全然負けていないというか。

荒木 そうですね。世代を変えたいというのがあったし、さっきのパワーアップという意味でも、ジョセフはあれがいいんですよ。

——『ジョジョ』のシリーズを始めるときから、よく知らない先祖の因縁で襲われる怖さを描く構想があったということですが、第1部から続けてディオ(DIO)と戦うのではなくて、別の敵を出してきたのはなぜだったんでしょう?

荒木 『キャプテン』っていう漫画があって、 弱小野球チームの代々のキャプテンがバトンを受け継いで強豪に成長させていくんですけど、ああいう感じをイメージしてたところもあるんですよね。ジョセフはジョナサンの孫ということになりますが、おじいちゃんぐらいだとわけがわからない因縁というより、何があったかまだ理解できるんじゃないかと思うので、ディオ(DIO)が蘇ってくるまで、もう一世代乗り越えたかったんです。

承太郎はジョナサンの孫の孫、つまり玄孫で、そうなるとジョナサンのことは完全に自分が知らない、無関係な世代の話になる。だから、第3部をスタートさせたときは「来たな、ついに!」と思いました。

——満を持して、DIOが登場するわけですね。

荒木 そう。だから、第3部では早くDIOを描きたくてしょうがないんだけど、当時の担当編集者が「絶対出すな。DIOが出てきたら読者の気持ちは目の前の敵じゃなくて、ラスボスのDIOにしか行かないから」と、ずっと止めてたんです。だから最終決戦の舞台となるエジプトに来るまでは、ずっとシルエットだけのDIOしか描けなかったんですよね。

「普通の人」吉良吉影の怖さ

——第4部では、杜王町という町のあちこちに潜んでいる不気味なものが「敵」になります。

荒木 先祖の因縁で敵が襲ってくるという構想は、第3部でほとんど描くことができました。ところが今度は、色々なスタンドのアイデアが余ってきちゃったんです。たとえば待ち伏せする敵とか、砂漠みたいな何もないところでは使えないじゃないですか。そういうスタンドを出すにはどうすればいいか考えたとき、スティーブン・キングの『呪われた町』みたいに、心霊スポットがあちこちにある、得体が知れないヤツがいる町のマップを作っていこう、と。

だから、主人公の仗助も町の友達風になってくるし、ジョセフや承太郎と違って、マッチョじゃない感じにしたんだよヤンキーはヤンキーでも、ちょっとおしゃれだったり。

——そういえば、仗助は高校生なのにフェラガモの靴とか履いてました。

荒木 第4部の連載を始めたのは、筋肉むきむきのヒーローを演じたシュワルツェネッガーの時代が終わった頃で、そういう時代の変化も影響していると思います。

——最初はアンジェロ、虹村形兆など色々な敵との戦いがあって、吉良は途中から登場しますが、 先生の中では最初からいたキャラクターだったんでしょうか。

荒木 そうですね。杜王町のようなところには、やっぱりシリアルキラーがどこかにいるんだろうなというのは、最初から考えてました。

——悪役は主人公とセットで作るというお話で言えば、 吉良も仗助と対比させながら造形していったんでしょうか。

荒木 仗助だけじゃなくて、DIOとの対比ということも考えました。つまり、ただパワーが強いだけのわかりやすい敵ではなくて、そこのカウンターを目指したんですよね。時代的にも、バブル経済が終わっていたので、「アゲアゲのキャラクターでいくのはちょっと違うな」という感覚もありました。その流れから、日常の中に潜んでいたり、ヤバい本性を隠しているのが実は強いし、怖いんじゃないかなって思ったんです。

当時流行っていた『羊たちの沈黙』という映画や、本で言うと『殺人百科』のようなシリアルキラーものでも、一見普通の人が実は殺人鬼だったりする。吉良はどこにでもいそうな目立たない人物として生きていますが、実際、連続殺人犯で捕まっていない人もいるわけで、自分のすぐそばにそういう人がいるかもしれないと考えると、これは怖いですよ。

そういう吉良のキャラクターを考えて、彼を杜王町という日常の中に入れれば、もうそれだけでストーリーができていきます。漫画って、そういうふうに同時にでき上がっていくものなんです。

——ちなみに、吉良の身上調査書はどんな感じだったんですか。

荒木 やっていることはヤバいんだけど、とにかく普通の人だというイメージなので、持っているトロフィーが全部3位とか、普段は本当に目立たない人物という感じですね。

あと、吉良は吉良で一生懸命自分の幸せを追求しているので、彼の身上調査書を作るときも、怖いとか強いとかいうことだけじゃなく、前向きな部分とか、人間として素晴らしいところを書いていきました。そうするとキャラとして深みが出てくるし、敵として申し分ないという感じになるんです。ほんと、彼は強かったですよ。

——吉良が川尻浩作に成り代わった後、真相を知らない奥さんがだんだんときめいていくのも、それだけ吉良が魅力的だからということですね。

荒木 思慮深いところもあるし、吉良はただの変態じゃないんです。でも、吉良もけっこうかわいそうな人なんだと思いますよ。ああいう歪んだ人格になったのは、たぶん生い立ちとか、なんらかの理由があるはずで、今だったら吉良のそういう哀しい部分も描くと思います。ただ、当時の少年漫画にそこを入れるのは違うかなと思ったので、あえて描きませんでした。

——確かに吉良の哀しさが見えてしまうと、読者はなかなか「仗助、行け!」と思えないですよね。

スタンドがキャラクターを最強にする

——第5部はマフィアの大ボスという、非常にドス黒い敵が出てきます。一方、主人公側のジョルノたちのチームもマフィアですから、単純な正義の味方という感じではありませんでした。

荒木 マフィア対マフィア、両方とも悪なんですよね。ただ、同じ悪でも、なんのために戦うかというところが、両者を分けている。ブチャラティたちは生まれたときからマイナスという設定にしたわけですが、信じていた組織に裏切られたとき、彼らは人として正しい道を行くことを決断した、ということです。

——大ボスであるディアボロが『ゴッド・ファーザー』のマーロン・ブランドのような貫禄のある年配の男性ではない、というところはとても新鮮でした。

荒木 美少年を描くというのが、第5部のテーマのひとつだったんです。舞台がイタリアだからファッショナブルでありつつ、スタンドバトルもしっかり見せるということで構成していきました。

——ディアボロは、二重人格的なところもある、かなり複雑なキャラクターです。

荒木 第5部の構想を練っているとき、『24人のビリー・ミリガン』のような多重人格ものが流行っていた影響もありますね。

『ジョジョ』も長く連載してきて、「人気があったからまたDIOみたいな敵を出そう」というやり方もあるかもしれませんが、僕は、やっぱり前の敵とかぶってはいけないし、バリエーションに富んでいる方がいいと思うんです。だから、ディアボロはDIOや吉良と違う悪、しかも彼らと対抗できる新しいキャラクターにしようと考えました。

——さらっとおっしゃいましたが、DIOと吉良と対抗できて、しかも違うパターンの悪役を作るって、すごくハードルが高くないですか。

荒木 たぶんスタンドがないと、なかなかできないですね。スタンドって要するにキャラクターなので、いつもふたつのキャラクターを同時に作る作業をしているんです。労力は2倍かかりますけど、ひとつのキャラクターにふたつ入っているというか、ブルA面でヒット曲が2曲入ってるような感じになるので、最強のキャラクターが作れてしまうんですよね。

隠れみのとしての「神父」

——第6部は主人公の徐倫対プッチ神父という構図になるわけですが、『ジョジョ』という「受け継いでいく物語」の中で、主人公を承太郎の息子ではなく娘にしたのは、なぜだったんでしょうか。

荒木 以前、『ゴージャス★アイリン』という作品で女の子を主人公にしたことがあったんです。今は女の子が主人公の少年漫画なんて珍しくないけど、当時の「少年ジャンプ」だと、まだちょっときつかったんですよね。社会のジェンダー意識が子どもにまで染み付いていたというか、やっぱり女の子なら、かわいくて、守ってあげたいキャラクターでなければならない、という感じがすごく強かった。

それから時代が変わって、ハリウッド映画でもシガニー・ウィーバーみたいな戦う女性主人公も出てきました。女の子も殴られたりバトルをすることが珍しくなくなってきたし、中性的な雰囲気があったジョルノの後、誰を主人公にするかと考えたとき、もう女の子しかいないと思ったんですよね。

徐倫を主人公にしたのは、第1部のエンディングでジョナサンを殺したときより冒険だったという気がします。 これまで承太郎、仗助、 ジョルノという主人公たちがいたからこそできた冒険で、いきなりだったら、徐倫を主人公にはしなかったかもしれません。「女の子描けるかな」という不安もあったし、特にバトルができるかできないかは非常に重要だったんですけど、刑務所だったらいけるかな、と思ったんですよね。

——徐倫刑務所で出会うのが、プッチ神父です。プッチ神父はDIOの友人という設定でしたが、敵を「神父」にしたのは、どういう意図があったんでしょうか。

荒木 何か宗教的なことというより、やっぱり隠れみのとしての「神父」という意図がありました。プッチ神父は、頼りにされる先生みたいな存在だけど実は敵だった、みたいなヤツで、あんまりわかりやすい悪じゃないんですよね。そういう複雑さがもう少年漫画じゃないのかなって思ったり……年齢的にも4歳ぐらいになっていて、「そろそろ『少年ジャンプ』ではないのかもしれない」という感覚もありました。

第6部を始めたときは、全然そういうことは考えていなかったんですけど、描いているうちに、どこか行き着いたというか、色々と究極のところまで来てしまったな・・・・・・という感じになってきたんです。スタンドもありとあらゆる物理現象を描いてきて、自分としてはけっこう描き切った感がありました。でも、「達成感とかそういうことを思うこと自体がヤバいよね?」と自分の中で赤信号が点滅したんです。もともとは違うラストを考えていたんですが、その赤信号のおかげで「究極まで行った現代文明を捨てて自然に帰ろう」という、第7部につながるようなアイデアが出てきたんです。

ちゃんとしてる大統領、だから強い

——第7部からはパラレルワールドの『ジョジョ』の世界になっていくわけですが、第1部と同じ時代のアメリカ大陸横断レースという壮大な世界観が展開されていきます。 主人公はジョニィと相棒のジャイロというバディで、敵はなんとアメリカ合衆国大統領です。

荒木 第6部が刑務所という閉じた世界の物語だったので、今度は広いところを描きたかったんです。それでアメリカ大陸を旅するロードムービーという設定にしたんですけど、『キャノンボール』や『トランザム7000』のような、ひたすら走って、カーチェイスして、ぶっ壊して終わりみたいな映画も下地になっていると思いますね。

ロードムービーなら2人でバディにするのがいいかなと思って、ジョニィとジャイロは対比させながら、同時に作っていきました。ジョニィは、未熟な人間が旅をしていく中で次第に成長していくという、ある意味、典型的な主人公キャラですね。一方のジャイロは、古くから続くある王国から来ていて、先祖代々、処刑人の仕事に携わってきた家の出であり、生きるか死ぬかの究極のところにいる人間です。 彼は大陸横断レースに参加することで、古い時代の制度や考え方と対立していくことになるわけですが、ゴールが西海岸ではなくニューヨークなのは、行き詰まりつつあるそれまでの因襲から抜け出して新しい時代の文明の地に向かうという意味を込めているんです。

アメリカ大陸横断レースだったら、ラスボスはやっぱり大統領でしょう。時代設定としては、産業革命や人間の権利のような新しい流れが来ている頃ですから、ヴァレンタイン大統領というキャラクターを作るときは、能力やルックスより先に文明の利権的な理論をしっかり持っている人にしようと考えました。彼は、これから馬から機械の時代になることも、民主主義イコール資本主義経済の権利取得だということも知っている。しかも、彼の動機は私利私欲にあるんじゃなくて、あくまで理想とする国家観に基づいて行動している。たとえ悪いことをしていても、それは国のためなのだから、誰かが犠牲を払うのはしょうがないというのが、彼の理屈です。

——単純に、悪い誰かが敵だというのではなく、ジョニィとジャイロが体現する個人対ヴァレンタイン大統領に象徴される国という戦いに入っていくわけですね。

荒木 人としてはどうかというところはありますが、大統領としてはちゃんとしているヤツで、ちゃんとしてるほどやっぱり強いんですよね。あと、ヴァレンタイン大統領の偉いのは自分で戦うというところで、そこはすごいです。自分で戦いにくる大統領って、なんかいいですよね。

敵は「人間ではない何か」に

——第8部は、主人公の定助は記憶喪失で、自分はいったい何者なのかという謎を追求していくわけですが、敵はもう人間というより、どうしようもない呪いだったり自然環境の厄災という感じになっていきます。

荒木 透龍君は強力な敵キャラではないかもしれないけど、なんだかもう人間対人間の戦いではないのかな、という気がするんですよね。最近の気候危機、それから東日本大震災を考えてみても、やっぱり人知が及ばない大地の力というものがあるよね、というところから出てきたのが、「悪魔の手のひら」や「壁の目」です。

第8部では再生医療などの話とからめつつ、次の世代の新生命、あるいは、人類と同時に進化してきて、覇権をのっとるような存在を作りたかったんです。かつて、ネアンデルタール人とホモサピエンスが共存していたように、もしかしたら僕たちが知らないところで人類と同時に進化してきた生物がいるかもしれない。それが岩人間で、 康穂が子どもの頃から寄り添って、ずっとそこにいる透龍君の存在感は、そんな怪しさや怖さを表すものだったんじゃないかなと思っています。

——第8部までの『ジョジョ』の敵キャラについて、貴重なお話をありがとうございました! 次の第9部にどんな「悪役」が登場してくるのか…………は、これからのお楽しみですね!