Interview:CGWORLD (December 2021)
Interview
『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』OPムービーCGIディレクターが語る"ストレスを感じない制作環境"とは
原作へのリスペクトあふれる構成と再現性、演出で大きな話題となり、NetflixやYouTubeにも公開されたその『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』OPムービーは、すでに1,000万再生を軽く突破。本作を手がけた神風動画のCGIディレクター、宇都宮隆文氏が、最新スペックを誇るAMD CPU/GPU搭載機に触れつつ、"理想的な制作環境"について語ってくれた。
試行錯誤をくり返すアーティストが求めるもの
「まず神風動画では、CGツールで画を完成させて出力する、というような考え方はないんです」。そう語る宇都宮氏は、この『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』OPムービーでCGIディレクターを務めた、まさに"神風動画らしい"アーティストだ。CGのモデリングからアニメーション/作画/合成(撮影)といった様々な表現を使いこなし、あくまで"イメージどおりのビジュアル"のために最後まで試行錯誤する。ゆえにレンダリングの結果などもあくまで途中経過であり"素材出し"。何層にも組み合わされて初めて、そのビジュアルが完成する。例えば、本作のあるシーンでは一連のカメラのながれやキャラクター、背景がCGで、カメラがぎりぎりまで寄るとキャラが作画に切り替わり、さらにそれらの上に乗る一連の糸やエフェクトなどの演出がCGや作画で描かれた連番......と、構造としてはまったくのバラバラ。三次元的にカメラを使いダイナミックに演出しながら、"アニメーションとしての完成度"を追い求める、神風動画らしい画づくりのアプローチだ。
CGIディレクター・宇都宮隆文氏 2016年より神風動画のプロジェクトにアニメーターとして参加、2018年より神風動画に所属。『テイルズ オブ クレストリア』コンセプトムービーからCGI監督を務める。以降、作品にはほぼCGIディレクターとして、全体のクオリティを担保する形で関わる。
CGを素材出しと割りきるこうした制作フローにおいては、1つの処理のマシンパワーとしてのレンダリング負荷はそれほど高くならず、事実、神風動画では常設のレンダーサーバー等も運用されていない。メインCGツールであるLightWave 3D(以下、LW)の動作が比較的軽い、ということもあって、個々のアーティストのオペレーションPCで、レンダリング処理含めて行なっているのだ。それはつまり、逆説的になるが個々のPCにストレスを感じさせないスペックが必要になる、ということでもある。
「LWは軽くて事前に決めるルールが少なくて済み、トライ&エラーなどに柔軟に対応しやすい。短編にすごく向いている」と宇都宮氏は語るが、それでも実作業時には、LWでシーンを2、3個開いて裏でレンダリングしながら、After Effectsのプロジェクトも複数開く。オペレーション時のマルチ処理負荷は相当なものだ。「基本的に、そうしてウインドウを複数起ち上げて制作を進めていくことがほとんど。そもそも、同じLWのシーンデータでもメインキャラ、スタンド、モブ、背景等を個別にレンダリングする必要があり、1つのウインドウの処理をかけてあとは何もしない、ということはない。そうして裏で何かが動いているときにオペレーションが重くなるのは、作業に支障が出てしまう」と宇都宮氏。しかし、このAMDのCPU/GPUを搭載した検証機においては「そのストレスは全然感じなかった」という。「また、LWはカメラワークが入ると重くなるので、実作業時は結構表示を間引いたりしていました。それがこの検証機では、すんなり表示されるしスムーズに動く。こうしたプレビューには確実にGPUのパワーは効いてる! と思いました。その点で、新しい演出や見たことがない映像の試行錯誤、といったことにも向くのかなと思います」。
ひとつひとつの処理にマシンパワーが必要でなくても、複数同時の処理が大量に積み重なって、オペレーションが重くなる。そんな神風動画のような制作アプローチも存在する。そうしたときにも、ハイエンドのAMDメニーコアCPUと強力なGPUによって、作業効率の確実な向上が見込めることは確実だ。最後に宇都宮氏が、アーティスト向けPCについて求めるものを語ってくれた。「パッケージとしてまとまったものであってほしい、ということはありますね。速さはもちろんですが、意外と気になるのが静粛性とか。プロダクションワークだと周りでも業務が行われているわけで、レンダリングを回していきなりすごい音がし出すと、申し訳なくなって自分が集中できなくなる(苦笑)。そうしたアーティストの現場の実際も踏まえて、出来上がったものになるとうれしいですね」。
LightWave 3D、After Effectsのオペレーション、レンダリングともに大幅なスピードアップ
完成カットを用いて、実制作と同じようなオペレーションとレンダリングテストを実施。「レンダリングだけでも倍くらい速くなっていますが、オペレーションの体感値と合わせると数倍はちがう印象を受けた」と宇都宮氏。CGの一発レンダリングではなく、短いカットデータを数多くの素材に分けて出力し、ルックの調整の方に時間をかける制作スタイルの神風動画。宇都宮氏の業務ではFIXさせた長尺をレンダリングサーバに投げるというスタイルは少なく、オペレーションもレンダリングも同一マシンを用いることが多いため、読み込みもプレビューも驚くほど速く、ストレスなくオペレーションできるこのAMDの検証機なら「劇的に効率が上がるだろう」という。
検証機 CPU:AMD Ryzen Threadripper Pro 3975WX (32コア64スレッド 3.5GHz/最大4.2GHz) メモリ:32GB×8 DDR4-3200MHz GPU:AMD Radeon Pro W6800 32GB GDDR6 ストレージ:NVMe M.2 2TB SSD
神風現役機 CPU:Xeon E2286G 6 コア12 スレッド 4.0GHz/最大4.9GHz メモリ:16GB× 2 DDR4-2666MHzDDR4 GPU:Quadro P2200 5GB GDDR5X ストレージ:SATA 256GB SSD
神風動画演出のOPイメージボード&絵コンテ
『ファントムブラッド』~『スターダストクルセイダース』までと同じく、オープニングムービーは演出まで含め神風動画の制作だ。まずは社内で手がけられたこれらのイメージボード、絵コンテ等で画の方向性と世界観が共有されるが、絵コンテではなく最初から動画コンテとして制作が進むカットも多い。これらをカット構成内のそれぞれの素材の向き不向きで柔軟に作画とCGに振り分けられ、組み合わされて実際のビジュアルへと落とし込まれていく。そのクオリティを担保するのが、CGIディレクターの宇都宮氏の役割だ。
多重レイヤーが織り成す究極再現度のCGビジュアル
神風動画においては、CGレンダリングの画はあくまで最終ビジュアルをつくり上げるための素材の一部であり、CG、作画を含め多数の出力素材をまとめ上げることによって、この独自の表現をつくり上げている。本シリーズのOPムービーは、その最たるものと言えるだろう。キャラクター1体についても、数多くの素材によって構成されている。CGソフトからも、カラー情報やアルファはもちろん、複数方向からのディフューズ、ジオメトリ、ノーマルマップ等々、二桁を超える素材が出力される。これに加えて、徐倫のキャラクター以外にも複数の背景、作画エフェクト、さらには同様に多数の素材が使われるスタンドのキャラクターが加えられて、カットが完成する。