Hirohiko Araki x Ryosuke Kabashima (December 2023)

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Published December 19, 2023
Incomplete translation
JOJO magazine 2023 WINTER Araki x Kabashima.png

Another meeting between Hirohiko Araki and Ryosuke Kabashima, published in the Winter 2023 issue of JOJO magazine, released on December 19, 2023.

Interview

TranslationTranscript

Briefing Session
Hirohiko Araki × Ryosuke Kabashima (JoJo's Bizarre Adventure's first editor)

Date: September 2023 Weather: Rainy Temperature: 25°C Location: Hayama Kachi-Tei, Kanagawa Prefecture

In the October issue of Ultra Jump, Araki commented: “I stayed at the Hayama Kachi-Tei Hotel, one of the filming locations used in the Rohan TV drama. They said I could cook, so I did.” The reason for his stay was to hold this very important briefing! For this interview, Araki and Kabashima chose to discuss architecture. The location of this briefing was one recently used in the “Thus Spoke Kishibe Rohan” TV drama, so it has a link to Araki’s own work. Given Araki’s fondness for the Hayama Kachi-Tei, choosing it was an obvious choice.

After eleven thousand days
12:55 START


12:57 "Making cacio e pepe"
The first picture is of Araki’s homemade fried chicken. This was delicious, just like everything else! The bottle on the left of the second picture is a 2016 bottle of “Michel Redde Et Fils Pouilly-fumé La Moynerie” white wine. On the right is a 1996 bottle of French Chateau Lagrange red wine. The dark fruity aroma and the mellow flavor lends the wine a particular full-bodied nature. Being dry french wines, the aftertaste lingers on your palate. The third picture is cacio e pepe (pasta). For the olive oil used in the carpaccio, Araki brought his olive oil from home, some he made by adding finely chopped garlic. Cacio e pepe is a dish invented by the Romani people, “cacio” meaning “cheese” in italian, and “pepe” meaning black pepper. The dish usually uses what is called bucatini pasta, which is characterized by its thickness and large hole through the center. The 4th picture is octopus carpaccio.

Kabashima: Because this Kachi-Tei’s kitchen is fully stocked, you really can cook all you want.

Araki: Because this isn’t my usual kitchen, today’s menu’s theme will be “simple to make” (haha). Today’s meal will be octopus carpaccio and pasta cacio e pepe. After that, I’ll plan on making fried chicken. It’s the kind of menu you’d find for lunch at a resort.

Kabashima: Octopus carpaccio will make a great appetizer.

Araki: All it is is garlic-infused olive oil poured over boiled octopus. This menu’s more of a summertime menu, so I guess it doesn’t really match our situation outside (haha). Into the olive oil we’ll also add some herbs, this time I’m adding thyme and rosemary. I’ll also add some chopped Italian parsley. Herbs are always a good ingredient to add, but I don’t like adding mint.

Kabashima: Your pasta is always delicious. Those noodles are a little thick, huh.

Araki: That's bucatini pasta. Cacio e pepe is made with cheese and black pepper, the thick pasta is better for holding lots of cheese. We’ll boil the noodles until tender. I prefer boiling for a bit longer, I think it gives a richer flavor. I boiled it about a minute longer than usual, but it’s still too tough for me.

Kabashima: You like them softer?

Araki: You could say I like them "springy".

Kabashima: I figured I would drink with you today, so I brought some wine. I was equally smitten with the red and white, so I brought both (haha), which should we open?

Araki: Let’s open both (haha)!

Kabashima: In this house, with Araki-san’s homemade pasta, and a bit of wine, this is totally luxurious.

In the dining room. “It’ll go with the cacio [cheese]” Araki-sensei said. (They decided to start with the red wine.)
1:18 "Hayama Kachi-Tei"

WIP



打合せ
荒木飛呂彦×椛島良介(『ジョジョの奇妙な冒険』初代担当)

2023年9月某日 天候:雨 気温25度 場所:神奈川県 葉山加地邸

ウルトラジャンプ10月号に載った荒木先生のコメント、「実写露伴の加地邸に行ってきました」「料理してきましたよ」は、じつはこの「打合せ」のことだったッ! 今回の打合せのテーマとして「建築」を選んだ荒木先生と椛島良介氏。ならば、打合せの場所はドラマ『岸辺露伴は動かない』ロケ地として荒木作品とも縁があり、先生自身も興味があった「葉山加地邸」が選ばれるのは必然。そして恒例となった荒木先生の手料理(これがまた絶品!ゥンまああ〜いっ)、さらに椛島氏が選んだ香り豊かな赤と白のワイン――。この贅沢なシチュエーションで語られる荒木先生と初代担当の「建築観」とは?

After eleven thousand days
12:55 START


12:57 「料理 カチョエペペ」
右からタコのカルパッチョ、そしてカチョエペペ(パスタ)。カルパッチョに使ったオリーブオイルは細かく刻んだガーリック入りで、先生が自宅から持ってきたお手製。カチョエペペはローマ生まれのパスタ料理で、「カチョ」はイタリア語でチーズ、「ペペ」は胡椒を指す。麺はブカティーニ(やや太めで中心に穴が空いたパスタ)だ。上の瓶は右がフランス産の赤ワインで「シャトー・ラグランジュ」の1996年物。黒系果実の香りと芳醇な果実味が特徴のフルボディ。左の瓶は白ワインで「ミッシェル・レッド・エ・フィス プイィ・フュメ ラ・モワネリー」の2016年物。フランス産の辛口で、余韻が口中で長く続く。左は先生のお手製フライドチキン。これも美味!

椛島 この加地邸はキッチンも完備だから、利用客が自分で料理できるのもいいですね。

荒木 慣れたキッチンじゃないから今日のメニューのテーマは、まず「作りやすい」なんですけどね。今日の料理はタコのカルパッチョとパスタのカチョエペペです。それとこのあとにフライドチキンも作ろうと思ってます。メニュー的には「リゾートランチ」ですね。

椛島 タコのカルパッチョは前菜にいいですね。

荒木 にんにく入りのオリーブオイルを茹でたタコにかけるだけなんですけど。でも夏のメニューだから、この本が出る頃の季節とは合ってないかもしれない(笑)。オリーブオイルには香草も入れてて、今回はタイムとローズマリーが入ってます。それと刻んだイタリアンパセリも入ってますね。香草はいつも適当なものを入れてるけど、でもミントはあまり入れたことないかな。

椛島 パスタも相変わらず美味しい。これは少し太めの麺ですね。

荒木 ブカティーニっていう麺ですね。カチョエペペはチーズと胡椒のパスタなんで、チーズがよく絡むように太めにしたんですよ。で、茹で方は柔らかめ。僕は茹で時間を長めにするのが好きっていうか、そっちのほうが美味しく感じるんですよね。今日も普通より1分くらい長めに茹でたけど、まだちょっと堅いかな?

椛島 柔らかいのが好き?

荒木 というかモッチリが好き。

椛島 今日も荒木さんと飲もうと思ってワインを持ってきました。赤と白、どっちがいいかなって迷って結局両方とも持ってきたけど(笑)、どちらにします?

荒木 両方開けましょう(笑)。

椛島 この場所で、荒木さんの手作りパスタとワインを楽しめるって、なかなか贅沢な時間ですよ。

食堂にて。「カチョ(チーズ)に合うから」という先生の希望でまずは赤ワインから。
13:18 「葉山加地邸」
食堂横にある暖炉付のテラスで、豊かな緑を見渡しながら雑談。

椛島 今日の打合せは場所がいいですね。テーマが「建築」だから、この葉山の加地邸[a]にしたんですよ。

荒木 初めて来たけど、いいですね。遠藤新[b]が設計した建物だけど、師匠のフランク・ロイド・ライト[c]の雰囲気もあちこちに感じられますし。

椛島 最初に目に入ったのはどういったところでしたか?

荒木 やっぱり構造的な部分ですね、巨大な石の柱が家の構造の中心になっている感じがしてて。この石の柱に木を渡して作るのが基本概念なんだなっていうのがわかります。それって地形とか環境と馴染むためのものであり、頑丈に作るためのものでもあり、単なる装飾ではなくて「理由がちゃんとあるな」というのを感じました。

椛島 石と木で作られた家って、そもそも日本ではなかなか見かけないですよね。

荒木 ないですよね。あと、広さっていう部分も気になって、例えば加地邸でいちばん広い部屋は1階のサロン(居間)なんだけど、そこにしたって「広ければ良いというものではないよ」という考えで作られている気がします。天井もほどよい高さだし、部屋に一緒に居る人とちょうどいい距離感を保てるっていうのかな、そういうのをちゃんと考えて設計されていると思いますね。

椛島 サロンは広い部屋だけど、荒木さんと話しやすい距離だし、広すぎて寂しい感じではない。

荒木 かといって狭くもない。ここの庭だって、面積で言えばそれほど広くないかもしれないけど、スケール感という意味での広がりはすごくある。この加地邸の建築ですごいなと思うのは、そこに住む人のことをよく考えていることなんですよね。例えば壁と床がぶつかるところ、巾木というんですか、普通は直角になるけど、わざわざ直角を埋めて小さなカーブにして柔らかい感じを出していたりする。

サンルームにて。「天井にある小さな段差が、飽きの来ないデザインにしていますね」と椛島氏。

椛島 部屋に入るにも足元に少しの段差をわざわざ付けたり、天井にもアクセントを付けて、それが部屋全体の奥行き感を出しているとともに、段差で窓の外の庭に続く感覚も演出している。他にも、ものすごく細かい部分にまで気配りが行き届いてるので、できれば実際に見てもらいたいですね。写真だけだと、この空間の持つ味わいはなかなか伝わらないでしょう。

荒木 ですね。あと、巨大な石の柱が重要なんですよ。個人の家で「木と石」の組み合わせってあまりないし、石を組み上げて柱にするって日本では見かけないですよね。エジプトとかアステカの神殿風です。

椛島 西洋でも東洋でもない世界ですね。ライトは古代の様々な遺跡からインスピレーションを受けていたというから、弟子の遠藤新もそこは受け継いでいるんでしょうね。こういう柱の考え方ひとつとっても古びていない。ライトの建築は、厳かなんだけど親しみやすくもあり…という矛盾する要素がちゃんと入っていて、そこがライトの天才性でしょう。

玄関で記念撮影。加地邸のある神奈川県葉山町は快適な気候と豊かな自然に恵まれた土地だ。
13:38 「居心地」

荒木 ここには本当に露伴が住んで居そうですよ(笑)。エアコンではない自然の空調もいいですよね。空気が暖かいと天井近くに熱がこもるから、だからここの寝室がそうなんだけど高い場所に窓を付けている。今日もまだ暑いから「加地邸の中も蒸し暑いのかな」って思っていたけど、風通しが良くてそんなことなかった。とにかく居心地がいいし、波動がいいんですよね。

椛島 この加地邸は居れば居るほどストレスがなくなりますね。広すぎる部屋って落ち着かないけど、ここは広さもちょうど良い感じだし…、見た目も大事だけど、そこにいて居心地がいいというのは重要ですね。

実写版でも印象的だった露伴の指体操を、先生自らが再現ッ!貴重なショット。

荒木 建築って、権威を見せつけるためのものもあれば、こういうふうに人生の豊かさや喜びを味わうためのものもありますが、遠藤さん、そしてライトの建築は後者ですね。周囲の自然とか周りの環境とかと調和している、そういうところがすごいと思います。地形はもちろんのこと、景観であったり陽当たりみたいな地の利まで計算に入れて、周囲の自然と建築物がなじむように設計しているんだろうなと思っています。

13:52 「料理 フライドチキン」
キッチンでフライドチキンを作る荒木先生。「食べやすさと作りやすさを考えてチキンは一口サイズにしました」。

荒木 このフライドチキンは、衣は削ったパルメザンチーズを混ぜた小麦粉を使っています。だから、ちょっとイタリア風になっているんですよ。

椛島 このチキンも美味しいですね。最近は週に何回か料理するんですか? 昔はそれほどしていなかったですよね。

荒木 最近は、夕食はほとんど自分で作ってますね。以前はお店のお弁当を買ったりしてたんだけど、新型コロナの感染拡大が始まってからはそれも出来なくなって。それで作り始めた感じです。料理は奥さんに作ってもらうっていう人もいるけど、僕は自分のことは自分でやらないとダメだと思ってるから、自分で作りますね。作るのは面倒だけど、でも料理を作ること自体は好きかもしれないですね(笑)。

椛島 このチキン、薄味で塩加減が絶妙ですね。

荒木 今回のフライドチキンも、油はかなり取ってます。塩や油をいっぱい入れて「美味い」という味覚にしちゃいけないですよ、それって「悪魔の味覚」なんで。

椛島 作っているときも、キッチンペーパーで押さえて油を取ってましたよね。

荒木 塩と油は敵なんですよ、あと糖分も(笑)。

14:08 「地形」
①/加地邸の庭にて。「加地邸」という呼び名は建築を依頼した建て主の名字から来ている。
②/2階の展望室から葉山の街並みを眺める先生。

椛島 地形と言えば、荒木さんは昔から自分が住む場所の地形を気にしていましたよね。漫画家になりたての頃[d]、上京して部屋を借りる時もすごく気にしてた。

荒木 自分的には、住んじゃダメなところもあるんですよ。地形は重要だなと思ってて、ハザードマップは結構チェックしてましたね。

椛島 あと、前の住人の退去した理由も気にしてましたよね。出世して出て行ったのか、あるいは借金で出て行ったのか…とか(笑)。

荒木 そういうこととか風水的なこととか、気にしない人もいると思うんですけど、僕は気になっちゃうんですよね(笑)。それと街全体の雰囲気も大事でしたね、東京にしばらく住むと「この地域は自分に合うな、合わないな」ってのがだんだん判ってくるんですよ。電車に乗ってる人の雰囲気とかで、例えば何かを食べてる人が多いとか、お洒落な人が多いとかなんかも感じたりするし。良い悪いじゃなくて「そういう傾向の人たちが多い地域、環境なんだ」ってのが判るので。

椛島 なるほど。

14:46 「廊下」
①/ギャラリーと呼ばれる、2階のロフト的なスペースで休憩中の先生と椛島氏。
②/加地邸に複数ある寝室のひとつにて。雨模様の葉山を窓から眺める先生。

荒木 そういえば椛島さん、以前に「廊下はいらない」って言ってましたよね(笑)。

椛島 マンションだといらないと思いますよ、だって通るだけなんだから。廊下がなければそれだけ部屋も広く取れるし。最近ね、私は「住む家はそれほど広くなくてもいい」って思い始めるようになりましたね。だって広いと掃除が大変だし(笑)。自分の体はひとつなんだから、一度に居られる部屋もひとつだけ。だから「居心地のいい部屋がひとつふたつあれば幸せ」って感じています。

荒木 廊下は通ることによって別世界に行く、気分を変えるものだと思うから、廊下とか踊り場は必要だと思いますよ。それぞれの部屋の目的も違うし。

椛島 なるほど。部屋の目的の違いっていうのは面白い指摘ですね。

荒木 例えばこの加地邸の庭は、小さなサンルームからも見えるけど、サロンって呼ばれている大きな部屋からも見えて、それぞれ違った印象になっているじゃないですか。それは部屋ごとに違う概念があるから違って見えるってことだし、それを楽しむっていうことだと思いますね。2階のテラスの窓からだと、俯瞰した視点で庭を楽しむ、とか。

椛島 加地邸はつくづく味わい深い建築ですね。

荒木 じつは第8部『ジョジョリオン』の東方邸[e]って、ライトのデザインの雰囲気をイメージしている部分があるんです。庭とリビングが繋がって続いているように見える感じとか、模様の入ったレンガを使ったりとか。ライトの設計思想を意識しつつ、建築雑誌でいろいろな建築物を見て、そこからイメージを拡げて設定したんですよ。

椛島 家の平面図みたいなものは今でも作ってるんですか?

荒木 ああ、作りますよ。東方邸もまず入ってすぐに暖炉があって、キッチンの壁はこうなってて…みたいなのを考えながらデザインしていきます。第1部の時もイギリス貴族の館の見取り図が手に入ったので、それを参考にしてジョースター家の間取りを考えてましたね。

15:01 「ハワイ」

椛島 連載準備中に取材旅行でイギリスに行きたかったですよね。そういえばハワイに行ったんですよね、第9部『The JOJOLands』の取材で。建物もたくさん見ましたか?

荒木 見てきました。参考になる建物もあったし面白かったですよ。あとね、一緒に行った人がある建物に入った時に「ここ、幽霊がいますよ」って言い出して(笑)。そこの写真もいっぱい撮ってきたし、僕はそういうのはすぐには信じないけど「ちょっと不吉だな!」って思って漫画ではまだ使ってない(笑)。でもハワイの建物は面白いものが多かったですよ。ラナイ建築[f]っていうらしいんですけど、屋根と柱だけで壁や窓がない広いオープンな部屋があったりして、ご飯もそこで食べるみたいな。そういうその土地なりのものとか、風土とか地形とかを知ることが自分的には重要なんですよ。特に海外が舞台だと。

椛島 今日はね、そういう海外の話も出ると思って建築関係の洋書とか、ふたりで行ったエジプトの写真とかも持ってきたんですよ。エジプトの写真は2枚あるけど、うち1枚はピラミッドの中で撮ったやつですね。

ピラミッド内部の椛島氏。撮影は荒木先生。
エジプト取材旅行中の記念写真。先生は「取材旅行の写真は残ってるけど見返さないなあ。過去にはあまり興味ないんで」と笑う。

荒木 カフラー王のピラミッド[g]の中ですね。これは僕が撮ったやつ?

椛島 そう。荒木さんが撮ったこの写真はさすがに構図が良いですよね。

荒木 いや、中が意外と狭くて壁ギリギリで、こうしか撮れなかった感じだったと思う(笑)。ピラミッド自体は巨大な建造物だけど、大きさの割に通路や玄室は狭かったから「居住空間じゃないよな」って思ったのは覚えてます。行ったのは何年頃かな、1989年くらいですよね。

椛島 写真の上のほうにイタリア人の「ベルツォーニ」[h]って名前が書いてあるけど、これはカフラー王のピラミッドを発掘した人なんですよね。

荒木 イタリア人の探検家ですね。自分の名前を落書きするのはチョットと思うけど(笑)。

15:12 「怪物公園」
荒木先生のお土産の写真集。先生も「怪物公園は、巨大な像が木々や自然と溶け込んでいる感じがいいんですよ」。

椛島 苦労してやっと発掘したのに、中はとっくの昔に盗掘されていて、それでベルツォーニが頭にきて書いたんじゃないかな(笑)。もう1枚の写真もエジプトでの私と荒木さんですね。荒木さんはあまり変わらないけど私はふっくらしてるよね(笑)。それでね、こっちの本は以前、荒木さんに土産でもらったボマルツォの「怪物公園」[i]の写真集です。

荒木 あ、怪物公園は椛島さんが学生時代に行ったときの話を打合せで聞いて、僕も見たくなってひとりでイタリアまで行ったんですよね。当時は「庭園」というものに興味があった時期なので、怪物公園も行ったし、同じ建築家によるヴィラ・デステ[j]の噴水庭園も行ったなぁ。怪物公園は人を飽きさせないための庭園でしたね。例えば毎日、そこで散歩をしたとしても何かしら発見があるような感じがするんですよ。庭の中に宇宙があるというか、ひとつの世界があるというか…。ファンタジーとリアルの境目という感じがする庭園ですね。写真集を見れば判るけど、この公園は建造物が森の中に点在していて、自然と人工物が一体化していますね。

椛島 一体感という感覚は大事だと思いますよ。

荒木 建築って、そこが大事ですよね。作ればいいってもんじゃなくて、周囲にちゃんと溶け込んでいないといけない。加えて今は法規制もあるし社会との関係もあるし。

椛島 建築家という職業は大変でしょうね。建築家が「作りたい」と思っても、まずは注文がないと作れないですし。注文主の何千万円、何億円という大金を使って、それで間抜けなものを作ったらとんでもないことになるし(笑)。施主の希望と建築家自身の創造性、そのせめぎあいもあるだろうし。

荒木 自分ひとりで作っちゃう「シュヴァルの理想宮」[k]みたいなケースもあるけど(笑)。郵便配達の人が、奇妙な形の石につまづいたことをきっかけに自分好みの宮殿をコツコツと建てていくっていう。フランスの南部の田舎町にあるんだけど、僕は実際に見に行きましたよ。現地でも話を聞いたりして。「ああいうものを作るのってどういうエネルギーなんだ!?」って思いますね。

椛島 シュヴァルは30年くらいかけて自分だけで作ってるんですよね。自分が作りたいものを作ったんだから建築というよりは作品に近いですね。

荒木 絵とか音楽は自分で好きに作っちゃえばいいけど、建築は村や街など、周りの人も巻き込んじゃうから大変ですね。例えば、落ち着いた場所にいきなり派手な色合いの家を建てちゃうのは良くない感じがするし。それって話は大きくなるけど街自体にも言えることだと思ってて、じつは僕は東京って人と建物と自然が馴染んでいない感じがしてるんですよ。都市計画をもっとしっかり考えたほうがいいんじゃないか、って思うことはあるかな。

15:29 「ケース・スタディ・ハウス」
椛島氏の蔵書の1冊。表紙の建築物が「ケース・スタディ・ハウス#22」で、米国カリフォルニア州の高級住宅街で知られるビバリーヒルズにはど近い丘に建てられている。

椛島 あと、日本人には「古くなったら新しく建て替えればいい」っていう発想があるんですよ。でも例えばパリに行くといまだに100年以上も前の古いアパートが現役で残っていたりする。もちろん不便で、エレベーターがなかったり、あっても昔の建物にそのまま付け足したものだから狭くて使いにくい。でも、その代わりにお金では買えないその建物の味わいや歴史は残るんです。新しさや利便性を求めるだけじゃなくて、古さや不便を楽しむ部分がもっとあってもいいと思いますね。まぁ、そう言いつつ未来的な建物の写真が載ってるこんな洋書も持ってきたんですが(笑)。これは私のオススメの建築で「ケース・スタディ・ハウス」[l]っていう実験的なモデルハウスの22番目の作品なんですよ。

荒木 有名なやつですよね。

椛島 あ、知ってますか?「アーツ&アーキテクチャー」っていう建築雑誌がスポンサーになって進めた実験で、このデザインで1950年代の建物なんですよ、すごいセンスですよね。今はこういうモダンな建物は日本にもたくさんあるけど、私が子供の頃は瓦屋根の時代ですからすごくインパクトがあった。

荒木 この本の表紙もCGかと思うくらいの写真ですよね。

椛島 部屋の中を撮りつつ、外観やロサンゼルスの夜景までも入れた一発撮りですね。

荒木 ここは『刑事コロンボ』[m]の犯人の家としても使われてましたよね。

椛島 さすが、詳しいですね。

荒木 だって子供の頃、こういう家にどれだけ憧れたか(笑)。『サンダーバード』[n]っていう人形劇、あるじゃないですか。あれの劇中に出てくるミッドセンチュリーなイメージのインテリアがすごく良かったんですよ。それと『2001年宇宙の旅』[o]の宇宙船内のインテリアも未来的で良かったですね。

椛島 そういう話だと『ブレードランナー』[p]での近未来のロサンゼルスも。オープニングで工場地帯になっちゃってる世界観がすごい。

荒木 リドリー・スコット[q]監督はやっぱりアートセンスがすごいですよ。

椛島 彼はアートスクール出身ですからね。『ブラック・レイン』[r]っていう映画の舞台になった大阪の街が、これまたかっこ良かった。

荒木 椛島さん、前回『プロメテウス』[s]とか最近の作品はあまり好きじゃないって話してましたよね。

椛島 面白くないわけじゃないんですけどね。

荒木 僕は『プロメテウス』と『エイリアン:コヴェナント』[t]は続けて観ますよ、もう何回も見返したかなあ。『エイリアン』[u]の続編として観るんじゃなくて、1本の映画として観れば、ストーリーもシンプルで判りやすいし面白いですよ。退屈しない映画だし『エイリアン』シリーズの集大成って感じもいいんですよ。

椛島 またしても映画の話になっちゃいましたね。

荒木 まあ、でも実際の打合せもこんな感じでしたよね(笑)。

15:46 「崖崩れ」
JOJO magazine 2023 WINTER Araki x Kabashima10.png

椛島 さっき2階の窓から外をずっと見てたけど、何か気になったんですか?

荒木 近くの山が緑いっぱいだけど建物っぽいものもあるし、でも道がないみたいで「どういう地形でどうやって山の中に行くんだろう?」って思って。すごく気になる…。

椛島 地形はどういう部分が気になるんですか?

荒木 例えばですけど、崖の真下の土地だと「崖が崩れる可能性はあるのか?」とか、そういうことがすごく気になるんですよ。そこの土地を買って家を建てても、崖崩れに遭ったら大変ですから。

椛島 自分が住んだ気になってリアルに想像するのですね。

荒木 崖崩れなどはある程度予測できるから運命じゃなくて理論だと思いますよ。だからリアルに考えるんです。

椛島 なるほどね。荒木さんが気になるっていう山も含めて、あとで近くを散策してみましょうか。

荒木 いいっすね。行きましょう!

椛島 昔も、そんなふうに気になったら一緒に見に行ったりしましたよね。

打合わせ終了
16:12 FINISH

※本企画で使用した食器類は撮影用であり、加地邸の備品ではありません。


Gallery

Notes

  1. ★葉山加地邸
    神奈川県三浦郡葉山町にある宿泊施設。建築物だけでなく家具や調度品までも全て総合的にデザインするというコンセプト「全一」にしたがって設計されている。もともとは個人宅として建てられたもので1928年に竣工。設計者は建築家・遠藤新。2017年には国指定登録有形文化財に指定され、2020年には修復・改築が行われて宿泊施設となった。映画やドラマのロケ地として使われることもあり、ドラマ『岸辺露伴は動かない』では主人公・岸辺露伴の家という設定で使用されている。
  2. ★遠藤新
    建築家で葉山加地邸の設計者。1889年生まれ、1951年没。東京帝国大学建築学科を卒業後、フランク・ロイド・ライトの助手となり帝国ホテルの設計に携わる。ライトの設計思想を忠実に受け継ぐ愛弟子として知られる。
  3. ★フランク・ロイド・ライト
    米国の建築家。1867年生まれ、1959年没。近代建築の巨匠として知られ、日本にも旧帝国ホテルをはじめ多くの建築物を残している。建物の周囲の自然も活かし、環境とも調和することを意識したライト独自の有機的建築(プレイリースタイルとも称される)が特徴。
  4. ★漫画家になりたての頃
    1984年頃のこと。荒木先生は『魔少年ビーティー』連載終了後に上京。最初に住んだのは東京・中野区の新井薬師であった。
  5. ★東方邸
    第8部『ジョジョリオン』の主人公・東方定助たちが暮らす建物。すだれ煉瓦を使ったり、大きさが異なる石を組み合わせている壁面などの設定にライト建築らしさが表れている。
  6. ★ラナイ建築
    ハワイにおける建築様式。建物の外に面した場所を屋根だけで覆った、ベランダのような半戸外のオープンスペースをさす。庭やバルコニーと室内を一体化させるスタイルで、インドアとアウトドアが融合した空間といえる。
  7. ★カフラー王のピラミッド
    古代エジプトの巨石建造物で、ギザ砂漠にある三大ピラミッド(クフ王、カフラー王、メンカウラー王)のひとつ。カフラー王のピラミッドはクフ王のそれに次いで大きく、高さは130メートルを超える。
  8. ★ベルツォーニ
    ジョヴァンニ・バッティスタ・ベルツォーニ。イタリアの探検家。1778年生まれ、1823年没。2メートルを超す巨漢でもともとはサーカスの大道芸人であった。1817年にアブ・シンベル神殿の出入り口を発掘、ヨーロッパ人として初めてカフラー王ピラミッドの玄室に入った。
  9. ★ボマルツォの「怪物公園」
    中央イタリア・ウンブリア州のボマルツォという町にある公園。森の中に奇怪で巨大な石像が点在する奇想天外なもので、ルネッサンスを代表する16世紀の建築家ピッロ・リゴーリオが貴族の依頼で作ったもの。
  10. ★ヴィラ・デステ
    ローマ近郊のティヴォリにある庭園。かつてはイタリアの名家・エステ家の別荘として使われた建物にある庭園で、大小含めて500以上の噴水がある。イタリア一美しい庭園とも言われる。
  11. ★シュヴァルの理想宮
    フランス南東部のドローム県オートリーヴ村に現存する建築物。郵便配達員だったジョゼフ=フェルディナン・シュヴァル(1836年生まれ、1924年没)が、自身が思い描いた理想郷を33年の月日をかけてひとりで作り上げた。古今東西の様々なモチーフや建築様式が混在した、不思議な建物になっている。
  12. ★ケース・スタディ・ハウス
    1940年代後半、第二次世界大戦後の住宅需要を背景に実験的かつ革新的な住宅を当時の著名な建築家らが提案するという実験的住宅プログラム。20以上もの建物が存在し、その多くはロサンゼルスに建てられた。
  13. ★刑事コロンボ
    アメリカで1968年から放映されたテレビドラマ。視聴者に犯人を判らせたうえで、僅かな手がかりからコロンボ警部が完璧と思われた犯行手口を崩していく様を1話完結で描く。トークで話題となった「ケース・スタディ・ハウス#22」は同作の第1話「殺人処方箋」等で使用されている。
  14. ★サンダーバード
    1965年にイギリスでテレビ放送された人形劇による特撮番組。近未来を舞台に、大富豪が設立した私的な秘密組織「国際救助隊」が数々のスーパーメカを駆使して人々を事故や災害から救う姿を描く。
  15. ★2001年宇宙の旅
    1968年公開。監督/スタンリー・キューブリック。SF作家のアーサー・C・クラークの短編小説をもとに、人類が次なる存在・スターチャイルドへと進化していく様を描く叙事詩的SF映画。
  16. ★ブレードランナー
    1982年公開。監督/リドリー・スコット。酸性雨が降る21世紀のロサンゼルスを舞台に、ブレードランナーと呼ばれる特任捜査官のひとりと殺人を犯したレプリカント(人造人間)の戦いを描いたSFアクション映画。
  17. ★リドリー・スコット
    イギリスの映画監督、映画プロデューサー。ロンドンにある世界有数の造形芸術カレッジ「ロイヤル・カレッジ・オブ・アート」の出身。1977年に『デュエリスト/決闘者』で監督デビュー、以降も数々のヒット作を監督する。
  18. ★ブラック・レイン
    1989年公開。監督/リドリー・スコット。日本の大阪を舞台に、日米の刑事が協力してヤクザを追いつめていくサスペンス・アクション映画。主演はマイケル・ダグラス。俳優・松田優作の映画での遺作となった。
  19. ★プロメテウス
    2012年公開。監督/リドリー・スコット。人類の起源を探るため宇宙船プロメテウスが出発。未知の惑星に降り立ったプロメテウスの乗組員たちは、地上で調査を開始するが…。映画『エイリアン』シリーズ第1作の前日譚的な内容。
  20. ★エイリアン:コヴェナント
    2017年公開。監督/リドリー・スコット。『プロメテウス』の続編。シリーズ第1作『エイリアン』へと繋がる内容で、「エイリアン」がどのように誕生したかが解き明かされる。
  21. ★エイリアン
    1979年公開。監督/リドリー・スコット。シリーズ第1作。舞台は22世紀。地球に向かう宇宙貨物船ノストロモ号の内部に侵入した、謎の生命体「エイリアン」と乗員の死闘を描く。

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