Aomaru Jump (February 2004)

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Published February 26, 2004
Incomplete translation
Aomaru Jump Cover

A long interview with Hirohiko Araki discussing Steel Ball Run from the special edition of Aomaru Jump released on February 26, 2004.[1]

Interview

TranslationTranscript

- Your new serialization "SBR (Steel Ball Run)" is highly anticipated, but this isn't JoJo's Bizarre Adventure Part 7, is it?

Araki: Although I would think that people who read JoJo Part 6 would understand, the world reset and entered the next new world, and that's where the setting is now. But the theme of JoJo isn't about writing parallel worlds. It's just the starting point of the tale, and unrelated to the story.

- So that's why you removed JoJo from the title?

Araki: That's correct. However, people who were fans from the beginning are free to consider SBR as JoJo Part 7, and so SBR is a new work existing on the extension of JoJo.

- Is the story of SBR something you had thought up a while ago?

Araki: That's right. I already have a general outline of each story theme planned up to part 9.

- Huh? Are we allowed to leave this in?

Araki: Even though I say Part 9, it doesn't mean it'll be a continuation of SBR. This isn't a saga like Star Wars. The theme and narrative structure will be completely different.


[Translated by MetallicKaiser (JoJo's Bizarre Encyclopedia)]

荒木飛呂彦ロングインタビュー

取材・構成=樹想社(栩野葉子・戸澤好彦)
インタビュー撮影=菊地寬子

SBR(スティール・ボール・ラン)』連載スタートにあたり、時間にして200分以上にも及ぶロングインタビューを敢行。物語のなりたち、各キャラクター、 『JOJO』シリーズとの関連性など、気になる質問を一気にぶつけたッ!!

SBR(スティール・ボール・ラン)』 は 『ジョジョ』の延長線上の新作!!

――待望の新連載『SBR(スティール・ボール・ラン)』ですが、これは『ジョジョの奇妙な冒険』第7部ではないんですよね?

荒木 『ジョジョ』第6部を読んでいた人ならわかると思うけど、世界が一周しちゃって次の新しい世界に入って、そこが舞台になってるんです。でも『ジョジョ』のパラレルワールドを描くのがテーマじゃないんですよ。物語の大前提っていうだけで、それはストーリーとは関係がないんです。

――だから、タイトルから『ジョジョ』を外したんですね?

荒木 そうです。ただし、昔からのファンの人が『SBR(スティール・ボール・ラン)』を『ジョジョ』第7部と思ってもらってもいいし、つまり『SBR(スティール・ボール・ラン)』は『ジョジョ』の延長線上にある新作っていうことなんです。

――スタンドは出てくるんですよね?

荒木 それっぽいのは出てくるかな?でも、ある飛び抜けた能力として理論も最初から説明して、新しい視点でやっていくから「またが」という感じにはならないですよ。

――ジャイロの鉄球の能力を見て「あれは波紋では!?」というファンもいるようですが…。

荒木 あー、ちょっと近いかも。その辺の理論も作品の中で説明しますよ、エセ科学が入るかもしれないけど(笑)。

――各キャラクターについてお聞きします。ジャイロのデザインのポイントは?

荒木 1890年頃の衣装ってリアルにやると古くさく見えるかもしれないので、近未来の戦闘服的っていうかSF的な魅力も加えたコスチュームにしてみました。

――ジャイロの笑顔が衝撃的でしたね、金歯(笑)

荒木 アウトローの魅力が出したかったんですよ。「コイツは普通じゃないぞ!!」って一目でわかるように(笑)。だから10年前くらい前だと、ピアスやタトゥーがその役目をもっていたけど、今の時代だとピアスなんか普通になっちゃってるじゃないですか。だから金歯にしたんですよ。それにじつは歯のオシャレに関しては、ジャイロの過去に深く関係してるのがもしれないし…。読者も「どんな過去なのかな」という謎が深まると思ったんでやりました。

――ジャイロの鉄球ですが、これがタイトルの「スティール・ボール」?

荒木 う〜ん、それでもいいのかもしれないけど、ふたつの意味がかかっているんですよね。まぁ、関係はありますね。

――今はまだ言えない、と…。ではもうひとりの主人公、ジョニーのデザインのポイントは?

荒木 元天才ジョッキーって設定だから馬のマークが象徴です。ジョースター家の人なので首に「星のアザ」もあるんじゃないかな?(笑)ジョニーっていう名前もジョナサンがベースです。ただ血統がテーマじゃないんで、そこは誤解してほしくないんですよ。『ジョジョ』キャラクターの誰かの先祖だとかっていうのは単なる暗示で、深い意味はないんです。

予選不可能なレースをひたすら描きたい!!

――今回登場するディオは 『ジョジョ』第1部や第3部のディオと雰囲気が似ていますね。

荒木 そうですね。生い立ちとかも似てます。違う部分は、石仮面(注・つけると吸血鬼に変貌。『ジョジョ』第1部のアイテム)がなかった世界にいるってことかな(笑)。でも今回は最大の敵にはならないと思いますよ。そういう物語じゃないんで。ただジョニーとディオは戦うことになるかもしれない。

――スティールは髪型が奇抜ですね。

荒木 あ、あれは帽子かな?普通の男性にはしたくなかったんですよ。やっぱりプロモーターの怪しさがほしかった(笑)。でも熱い情熱ももっている人で、ロマンチストなんですよ。やっばプロモーターの怪しさがほしかった(笑)。でも熱い情熱ももっている人で、ロマンチストなんですよ。ただレースには莫大な利益も絡んでくるので、そこで苦悩するかもしれないキャラですね。スティールの運命はレースの運命でもあり、「太陽にほえろ!」の石原裕次郎みたいな存在かな。ちなみに僕の初代担当編集からは「スティールを深く描け」と言われました(笑)。

――ポコロコは?

荒木 強敵になっていく予定だけど、読者的には「憎い悪役」にはならないと思いますよ。善と悪の対決じゃないし、レースを描くマンガにはそういう敵もアリってことで。味わい深い人になると思います。

――『SBR(スティール・ボール・ラン)』には帽子をかぶったキャラが多い気がするんですが…。

荒木 基本的にみんなレースの参加者なんで、雨が降った時とかを考えてデザインしたんですよ。雨がザーッて降った時に帽子をかぶっていると、うしろ姿とかがカッコイイし。あと、砂漠地帯はムチャクチャ暑くて日射病になりそうだったからかな(笑)。それに帽子はキャラクターの特徴をつけやすいんですよ、ヘアスタイルと同じで。

――キャラの差別化に役立つ?

荒木 そうそう。『SBR(スティール・ボール・ラン)』って馬に乗ったレースだから、キャラを背後から描くと馬のオシリばかりになって(笑)、誰だかわからなくなるんですよ。馬もデザインを変えたり、いろんなパーツをつけて差別化しているけど、やりすぎると鳳のマンガになっちゃうし(笑)。その辺の兼ね合いは麗しいですね。

――『SBR(スティール・ボール・ラン)』のタイトルは『ジョジョ』 第6部最終回のWJ巻末コメントで発表されましたが、その由来は?

荒木 自動車の大陸横断レースを描いた「キャノンボール」っていう映画があって、そこからもじってつけました。ストーリーは全然違いますけど。

――なるほど、『SBR(スティール・ボール・ラン)』はレースのマンガだということですね。

荒木 そうです。とにかくレースをひたすら描きたい。ただ、そのレースも「主人公が勝つ」っていうのではなく「理が勝つかわからない」っていう感じがいいんですよね。メインのキャラでもリタイアすることがあるだろうし。

――その辺の先の展開は深く考えてはいない?

荒木 何が起こるのかわからないのは僕も同じで。僕自身がレースに参加している感じですね(笑)。

暑すぎて死ぬかと思ったアメリカへの取材旅行!!

――『SBR(スティール・ボール・ラン)』第1話ですが、主人公ではなく、砂男のエピソードから物語が始まるというのが斬新ですね。

荒木 そうですね、少年マンガの定石を少しはずしたかったんですよ。あと、砂男は時代背景を示す役割もあったんで。例えばレースの記者会見の場面から始めちゃったりすると、それが現代なのか過去なのか未来なのか、全くわからないじゃないですか。

――なるほど。砂男はネイティブ・アメリカンで、彼が最初に出ればなんとなく「西部劇の時代」だとわかる…。

荒木 そう!! それと砂男が最初に登増してから主人公のジャイロとジョニ―を出して、その後にパーンと再登場させると「砂男が最大のライバルか!?」っていう読者のストーリーに対する想像が動いたりすると思うんですよね。感情移入もしやすくなるだろうし。

――『SBR(スティール・ボール・ラン)』を描くにあたって、アメリカへ取材旅行に行かれたんですよね?

荒木 「SBR(スティール・ボール・ラン)レース」のスタート地点となるサンディエゴとかグランドキャニオンなどを取材してきました。

――取材の時期はいつ頃?

荒木 昨年の7月かな。この時期の暑さとか雰囲気が知りたかったんで、狙って行きましたね。サンディエゴとか砂漠地帯は湿気がないから、ものすごく暑いのに汗が出なくてグアーッて感じで、つらかったですね。

――一番印象に残っている場所は?

荒木 デスバレーですね。本当に暑さで死ぬなと思った(笑)。

――気温は何度くらいあったんですか?

荒木 何度だろう?でも「暑さでデジカメのデータが飛んじゃうよ」って言われたから45度くらいあったんじゃないのかな?直射日光がヤバイと思ったんで、写真を1枚撮影するたびにササッとデジカメを服の中に避難させてましたよ 〜(笑)。

――取材の時はビデオではなく、写真が多いんですか?

荒木 そうですね、写真です。ビデオだとあとで見直せないんですよ。写真だったら机の上にバーッと広げて、すぐ見られるじゃないですか。

――今回の取材で、写真はどのくらい撮りました?

荒木 9日間で、1000枚くらい撮ってきたかな。僕は、取材だとひとつの場所でも、必ず6枚ぐらい撮るんです。1枚撮影したらその右側と左側、あとはうしろとか空とか。

――つなげると360度のパノラマ写真になると(笑)。

荒木 そういうふうに撮らないと正面がわかっても「右側には何があったっけ?」って気になって「もう1回行かねば」っていう困った事態になるんだよね。

――そのわからない部分は、ウソでごまかしたくないんですね?

荒木 そうですね。僕は、作品にはリアリティが欲しいんですよ。だって、キャラクターは架空の人間ですから、せめて舞台設定は現実の場所がほしいんです。だから、そういう意味もあって、僕にとって 取材は大切ですね。

毎週31ページの連載は想像以上に大変だ!!

――今回の『SBR(スティール・ボール・ラン)』は毎週の連載が31ページという驚異的な形式ですね。

荒木 WJ(ウィークリー・ジャンプ)って基本的に連載枠が1作品19ページなんです。でも、それだと僕の場合、ストーリーの兼ね合いとかでページがどうしても足りないんですよ。で、編集部と相談した結果、1回のページ数を増やしてみようという話になったんです。ただ、肉体的に1週間に31ページも描けるわけではないから充電期間が必要になるんですけどね。

――ページ数が増えるとどうですか?仕事のリズムとか。

荒木 うーん、ちょっとつらいですかね(笑)。リズム的には週刊連載で19ページを描いていくほうが合っているんですよ。19ページくらいなら「あと3日くらいで終わるかな」ってわかるんだけど。「今までより12ページ多いから、あと1日増やせばいい」といった単なる数字の問題ではないですね。

――『SBR(スティール・ボール・ラン)』で描きたいことはなんでしょうか ?

荒木 やはりレース、それから主人公の成長ですね。レースに関しては『ジョジョ』のディオとか吉良みたいな悪の強敵は出ないんじゃないかな。『SBR(スティール・ボール・ラン)』はそういうバトルものとは「ちょっと違うぞ」って思ってますし。だからレースなんですよ、レースなら正義同士でも戦えるし、そこに悪役も絡ませられるし。

――作品全体のテーマは?

荒木 自分の作品の中には常にあるのは「運命」、それがテーマじゃないかな。『SBR(スティール・ボール・ラン)』レースに参加する人は全員、レースに勝つしか行き場がないんですよ。で、マンガを描いていて主人公の 動機とかを突きめていくと「運命は 絶対にある」とわかってくるんですよ。

SBR(スティール・ボール・ラン)』と『ジョジョ』、その違いとは?

――『SBR(スティール・ボール・ラン)』と『ジョジョ』、作品を描く上での違いは、どこですか?

荒木 『SBR(スティール・ボール・ラン)』はストーリーが直線的なんですよ。『ジョジョ』はね、網の目のような感じでやってたんですけど、 『SBR(スティール・ボール・ラン)』はストレートポールですね。

――直線的…ですか?

荒木 麗しい?描いている人じゃないとわからないかも(笑)。とにかく『ジョジョ』の第6部とか複雑になりすぎたところもあるので、わかりやすさを大切にしてます。

――『ジョジョ』第1部の頃と比べて、作品に対する姿勢が変わったりした部分はありますか?

荒木 「人間賛歌」っていう大きなテーマは変わっていないけど、キャラク ターの悲しい部分とかも描きたいっていう気持ちが出てきましたね。「善対悪」の図式も昔ほどこだわらないし、そういう意味では少年誌の王道とは、少し違っているのかもしれないけど、でもそれがマンガ家の成長として仕方ないことだったら「特にこだわらなくてもいいのかな」と思いますし。

――『SBR(スティール・ボール・ラン)』の物語は、かなり以前から考えていたものなんですか?

荒木 そうですね。だいたい『ジョジョ』第9部くらいまではテーマを決めているんですよ。

――えっ。それは載せちゃって大丈夫なんですか?

荒木 第9部って言っても「続く」と言うことじゃないんで。『スターウォーズ』みたいなサーガではないんですよ。テーマも物語の形態もまるで違うし。

『変人偏屈列伝』はロマンチックな視点で描く

――3月19日発売予定の『変人偏屈列伝』ですが、これはもともと1冊にまとめるつもりだったんですか?

荒木 いや、全然(笑)。ただ途中から「ページ数がたまるように描いてね」って編集サイドから言われてたんで「単行本になるかなぁ」とは思ってました。

――単行本には、これまでに描かれた全6話が収録されるんですよね?

荒木 そうです。だから内容的にもキャラクターの種類っていうか、同じ傾向の話に偏らないようにしました。「ちょっと女性もほしいな」ってことでウインチェスター夫人を入れてみたりとか、あまりヘビィな感じにならないようなエピソードも入れたりして。

――『変人偏屈列伝』を描こうと思ったきっかけは?

荒木 そもそもは80年代の頃に、変な実話を集めた本とかをたくさん読んでいて「この人は何故こんなことをしたのか?」という動機の部分が気になってたんですよ。それが、その人の本質に関わっているって感覚があって。で、いろいろと調べていくうちに「描きたい」と。スポーツの記録をうち立てた人を描くのとはまた違った勇気が湧いてくるんですよね。

――資料の類はマンガの題材になるから読んでいたんですか?それとも、もともと気になっていて?

荒木 あぁ、好きなんですよ、本屋さんに行くとUFOとかの本と同じ棚に置いてあるようなのが(笑)。

――『変人偏屈列伝』で扱われているような人間像に興味があったわけです ね。

荒木 そういうところはありますね。ウィンチェスター夫人みたいに屋敷を増築し続けている人を、例えば精神科の先生は「これはナントカって病気ですね」って言うんだけど、それじゃロマンもへったくれもない、「それ言ったらお終いだろう」ってのがあって。精神科医の視点とは違う、もっとロマンチックな視点で僕は見てるんですよ。

「買いている」のがヒーローだと思う!

――題材のポイントはあります?

荒木 ありますよ。「一生を通じてやっていた人」に限ってるんですよ。一時期だけ変わった行動に走った人はダメなんですよね、一生モノってのが本物だと思うんで。「買いている」ってのがヒーローなんですよね。あと、生きることの恋しさを背負ってるんで。

――逆に「この人物は題材にできない」っていうポイントはありますか?

荒木 「変人だけど、このマンガには入れられないなあ」って没にする人物も結構いますね。マンガのキャラクターとして地味っていうか、サスペンスにそぐわなかったりして。あとはやはい人間的に許せないことをしてる場合は入れられないです。

――それは例えば犯罪者だったり?

荒木 犯罪でも、作品的に許せるものと許せないものがあるんですよ。人間として大事なものを踏みつけているような人物は、このマンガにはちょっと入らない人たちかなって思うんです。

――『変人偏屈列伝』というタイトルは先生が決めたものですか?

荒木 そうです、「わかりやすいタイトルがいいな」と思って。ただ、このタイトルだと「俺は変人じゃあないぞッ」って取材とかを嫌がる人もいるかなって危情はありましたけど。

――やはり、実在の人物を描くのは神経を使いますか?

荒木 すごく気を使いますね。編集サイドとも「この表現は大丈夫だろう か?」って打ち合わせはするし。ノンフィクションっていうのはスゴい壁があって、それを乗り越えながら描くのは結構大変ですね。でもその分、「変人偏居列伝」はすごい思い入れっていうか力を入れて描いたんですよ。だけど『ジョジョ』の連載中は、作画までやるのは物理的に不可能だったんで、アシスタントをしてくれていた鬼窪浩久先生に作画をお任せしたんです。

フランスでの原画展はとても面白かった!!

――乙一先生の小説版 『ジョジョ』はどうなっているんでしょう?

荒木 あれね、かなり面白いんだよねー。本格ハイパーミステリーみたいな、そういうレベルの内容ですよ。だから表紙なんかもね、マンガっぽくしないほうがいいと思うし。イラストも、挿絵は僕が描いてもいいけどカパーは違う人のほうがいいんじゃないかとか思ってます。最初に打ち合わせして書かれたバージョンを読んだけど、かなり面白かった。しかもそれから、またアイデアがガンガン出てきたみたいで、どんどん書き足してるらしいよ、情報によると。だからハードカバーの分厚い本になっちゃうかも。で、いつ発売になるかはわからない。乙一さん次第っていうか。これはもう完全に乙一さんの作品で、 乙一版『ジョジョ』だよ。僕も楽しみなんだよねー。

――2003年は、フランスで初の海外個展を開催されましたね。でも、何故「フランス」なんですか?

荒木 フランスだったら、みんな僕のことを知らないだろうと思ったんですよ。純粋に絵を見てもらって「面白い」「つまらない」っていうのが率直にわかるんじゃないかなと思って。

――誰も知らない場所で自分の絵を試して みたかった?

荒木 そう。例えば日本でやっていたら。「『ジョジョ』の荒木飛呂彦原画展」になるし、ジャンプ読者が来てくれるじゃないですか。でも、そういうのじゃないのがいいんですよ、海外は。道を歩いてて「なんだこの絵は!? ちょっと入ってみようか」ってのが見たかったっていうか。休暇のついでにやってみようかな〜ってことで。

――じゃあ場所はフランスじゃなくても良かったんですね。

荒木 そうですね、ただ絵がわかる人がいる場所がいいんですよね。アートの街がいい。

――フランスでの反応はいかがでした?

荒木 「日本人と同じ感覚で絵を見ているなあ」って思いました。「キャラクターの表情がいい」とか「ポーズがいい」とか「ファッションはどうやって考えるんだ?」とか、質問がね、日本と同じなの(笑)。そういうのが面白かったっていうか。もっと違うところを言ってくるかなって思ってたんですけど。

――お客さんの年齢層はどうでした?

荒木 あっ、そこはちょっと違ってた。毛皮とかジュエリーを身につけたお金持ちのご婦人から苦学生まで、老若男女、全部来てくれるんだよね。ただ画廊の人は、タトゥーを入れた若者とかには来てもらいたくないみたいだったけど(笑)。で、おじいちゃんとかが普通に聞いてくるの、「これはなんの絵だ?」って。「日本のマンガの表紙だ」って答えると「日本のコミックはフランスのものとは違うんだな」って言ってくれたり。

――画廊は誰でも自由に入れるスタイルだったんですか?

荒木 そう。入場も無料だし。宣伝もほとんどしなかったんですよ、ポスターを作ったのと雑誌に少し紹介してもらったくらいですね。

――もし次回、また海外で個展を開くとしたらどこがいいですか?

荒木 ニューヨークとかロンドンがいいですね。ただニューヨークはね、手強いらしいですよ。例えばディスプレイ用の絵も大きくないといけないらしくて。フランスの時も1メートルちょっとある大きな絵を描いたんだけど、ニューヨークは2メートルは必要って話だからさー(笑)。大きいとすごく描きにくいんですよ。マンガ原稿の5倍くらいあるから、顔のバランスとかどういう密度で描いたらいいかわかんないの(笑)。

僕にはこういう絵しか描けない

――BEAMS Tで Tシャツのデザインをされましたね (注・現在は販売されていません)。脸柄が『ジョジョ』第5部のジョルノと第6部の徐倫で。

荒木 最初はね、マンガのキャラクターとは違うイラストっていうオーダーだったんです。「マンガのキャラクターTシャツではないもの」を作りたかったらしいんですよ。でも例えばジョルノではなく新しいキャラクターを作って描いても、僕の絵なんだから結局は同じになったと思うんですよ。だったら『ジョジョ』でもいいだろうって。それに誰が描いたか、わからない絵は様だったっていうことはあります。「マンガのキャラクターだろうが現代アートだろうが同じじゃないかな」って思うし、やっぱり「良いか悪いか」ってところで見てほしいから「僕はこういう絵しか描けません」ってことでジョルノと徐倫になったんですよ。

――『ジョジョ』キャラクターは数多くいますが、 何故ジョルノとに?

荒木 ああ、男女共用のTシャツなんで男の子と女の子。ただそれだけなんですよ。

――シンプルですね(笑)。それで、Tシャツのデザインは、紙に描くマンガと何が違いましたか?

荒木 ありましたね。布だから縫い目の事を考えたりとか。あと、上着を着た時でもイラストがエンブレムっぽく見えるようにしたりとか。面白かったですね。

小説『アレックス』シリーズ、挿絵ゆえの難しさとは!?

――「女王陛下のスパイノアレックス」シリーズのカバーイラストや挿絵も担当されていますね。

荒木 集英社の編集さんから「やりませんか?」って声がかかったんですよ。僕は小説の挿絵って描いたことがなかったんで「やってみようかなー」って。最初は1冊だけって話だったんだけど、評判が良かったみたいで次々とシリーズが出ちゃって(笑)。

――主人公・アレックスの後頭部が衝撃でした、髪の毛がユニオンジャックになっているっていうのが(笑)。

荒木 自分なりのアイデアが入る余地を探して入れるんですよ。小説に後頭部の描写がなかったからやりました (笑)。

――挿絵ゆえの難しさはありますか?

荒木 ありますね。例えば小説に「サンドバギーに乗っている」という表現があるじゃないですか。文章だとそれだけなんだけど、絵にするには「サンドバギーのタイヤってどーなってんの?」とか、自分で考えた設定じゃないからわからないところがあるんですよ。そこが大変。小説家ってね、マンガ家と違ってビジュアル面の描写はあまりしないかもしれないですね。「短く髪を刈り込んでいる」って表現の敵キャラが何人も出たりするので、そういう時は「帽子をかぶせたり長髪とかにしたいなー」って思います。

SBR(スティール・ボール・ラン)』は今回から始まる物語!!

――このインタビューが掲載される「青マルジャンプ」は、クセのある新人作家を集めた増刊なんですよ。

荒木 「この人の作品だ」って見ただけでわかるのって、すごく感じがいいと思うんですよ。個性が強い作家さんの作品を読みたいと思うし、本を買いたいと思うんだよね。いくら読みやすくて面白くても、作家性のない作品は個人的にはあまり好きじゃないです。最初のうちは欠点とかあるとは思いますけど、描き続けていくうちに長所になっていきますので、頑張ってそこを押し出してほしいと思いますね。

――それは体験上のアドバイス?

荒木 そういうわけでもないんですけど異色の作家っているじゃないですか。そういう人がもっと増えてほしいですね。『変人個屈列伝』じゃないですけど希望をもって「やり続けてほしい」ですね。絵画の世界でも「上手だけどクセがない絵」というのは結果的には評価されないんですよ。最初は嫌われていても、ゴッホみたいに強烈な個性が あると後になって評価されるし、ピカソみたいに誰が見てもすぐに「ピカソだ」とわかるっていうのは大切だなと。 そういうクセのある作品がいいと思いますよ、僕は。最初から誰かの真似をして売れることだけを考えるってのは良くないんじゃないかと思います、マンガに対する姿勢として。

――それでは最後に、『SBR(スティール・ボール・ラン)』ファンへのメッセージをお願いします。

荒木 古くからの読者には、深読みはしないでほしいって思います。新しい世界に突入しているんだし、純粋に「今回から始まる物語」として読んで欲しい。でもテーマは変わっていなくて「人間讃歌」や「運命の悲しさ」で、『SBR(スティール・ボール・ラン)』でもそこを追求していきたいですね。

(2003年10月22日及び2004年1月21日、荒木先生のご自宅にて収録)


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